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暗中模索

いい案が思い付かない内に数日が経過してしまった。

リオナールにも携帯電話を用意してもらって連絡は直ぐ出来る様にはした。

だが、リオナールからもそれらしい連絡も無い状態であった。

奴も恐らくいい案が浮かんでおらず、いい情報も入って来ていないのだろう。

ただ無駄に学校に通い、やきもきだけする日々が続いていた。


そんなある日、コウタがいい本を見つけた!と言って来た。

放課後に見せると言われ、それならとリオナールと連絡を取り、梅園寺邸でその本を読んでみる事となった。


その本は、電気街巡りがライフワークのコウタがとある古本屋で見つけた小説だった。

その小説は異世界転移を題材にした、まさに今の俺達の様な状況だという。

コウタ曰く、ここ最近は異世界転生物や異世界転移物が流行っているのだそうだ。

少し前は魔法少女物だったといらない情報まで付け加えて教えてくれた。


その本に元の世界に戻る方法が書かれている訳ではないのだろうが、参考にはなるだろうという事だった。

その本の主人公は異能を持ったままこの世界に転移して来ていた。

何故かは分からないが異能がそのままそっくりこの世界でも使えるという事だ。

ここまではある程度は俺達と近い物がある。

だが、その内容は一切を使えるという所に若干の違いがあった。

こちらの世界へ来た時に確認はしてみたが、どういった理由かは分からないが魔法の威力が弱い。

もちろん戦闘などはこの世界において行っていないので全部を確認したわけではない。

リオナールにも確認をしてみたが、どうみても雑魚キャラのナイフで切り傷を負ったと言う。

若干の制限が掛かっている状態には間違いない様だ。


暫く読み進めると、その小説の中の少年は<リバイブゾーン>と言う、俺達の世界で言うリターンポイントと似た様な場所を何処にでも設定出切る様であった。

そのリバイブゾーンは瀕死になってしまった時は勿論の事、リバイブ魔法を使う事でいつでもその場所へワープ出切る仕様の様だ。

少年は自在にリバイブゾーンを設定し、自宅に帰る時に使ったり、よく行く場所に設定して移動を楽にする事に使っていた。

俺達のリターンポイントは設定出切る場所が決まっている。

リターンポイントに設定出切る所は精霊の加護により守られており、その象徴となる<リターンシンボル>が置かれている。

要するにそのリターンシンボルへポイント登録すると言う事になる。

そしてリバイブゾーンとの決定的な違いは、瀕死となった時任意でリターンポイントへ戻る事が出切るだけ、と言う事である。

何故任意なのかと言われると、蘇生魔法でその場で復活するか戻るか、という選択が出来なくなるからだと言う。

勿論、瞬時に肉体が消滅する様な即死や、直せない病気・老衰等で死亡した場合、蘇生は出来ず大地の気の流れの一部と返るという。


これらを踏まえて考えると、何故かはわからないが瀕死状態でリターンポイントへ戻ったら深草の公園へ飛んだ。

リオナールの場合は、やはり同じく下野の駅前にある大きな公園であった。

公園という共通点はあるが、そこにリターンシンボルはない。

リターンポイントは小説内でいうリバイブゾーンの様に好きな場所に設定は出来ないのだ。

故に、公園にリターンポイントが設定されていないと思われる。

また、リターンポイントに戻るには瀕死となり戻る選択をする必要がある。

今はヒーラーもこの場に居ない為、蘇生という選択を選べないという事もあるが……


俺の考察をリオナールとコウタに聞いて貰い3人で熟考した。

その結果、瀕死状態になったらリターンポイントに戻れるかもしれないという案が浮上し、試してみようという事になった。

即死してしまった場合、大地の気の流れへと返される恐れもあったが、十分に注意して瀕死まで持って行く事になる。

瀕死に至れず大ダメージで止まってしまった場合はリオナールの回復魔法の連打で傷を癒し丁度いい瀕死具合を探す方法である。

俺はドMではないので相当な苦痛を繰り返す作業となるが、元の世界へ戻る為と思い目を瞑る事にした。


さて、そうは決まったものの方法をどうするかである。

リオナールの聖剣エターナルブレードで叩き切られたらきっと即死だ。

この世界では人に危害を与える事は犯罪となるらしい。

車に轢かれる、電車に轢かれるとなると多数の人に迷惑を掛ける事になるだろう。

別世界からやって来た俺がこの世界の人々に迷惑を掛ける訳にはいかない。


あーでもない、こーでもないとリオナールと俺が考えを巡らせていると、コウタが徐に立ち上がり少し出掛けて来ると言い出した。

近隣の古本屋で資料をまた探してくると言う。

流石コウタだ、頼りになる男だ。


30分後、コウタは1冊の本を抱えて戻って来た。

懐には<自殺マニュアル>と記載された古めかしい本を持っていた。

なんという恐ろしい題材の本であろうか……

この世界には自ら命を絶つ者がいるという。

命を粗末にしてはいけない!と、これからそういった行動をしようとしている俺が言うのもなんだが本当にそう思う。

冒険者と言うのは無駄な殺生を避けるべきなのだ。

必要な素材を得る為に野生動物やモンスターを狩る場合はある。

それも人が生きる為に必要な行動である。

暇だから狩るか、なんて考えの者は忌み嫌われる。

そういう物である。

ましてや自ら命を絶つ事など愚の骨頂だ。

そう思い生きて来た俺が、自殺マニュアルを参考にして瀕死状態を作ろうという事に少々滅入っていた。

必要悪ではあるものの、あまり好ましい事でない事は確かである。

そんな想いを巡らせていると、コウタとリオナールが本を熟読し方法を選定していた。


「練炭はだめだ。気付いたら気持ち良く死ねているだろう」

「首吊りもだめだなー。一線を越えたら死んでそうだ」

「ダメージ量に手を加えられそうな物がいいな」

「そうなると焼死、溺死、転落死辺りかー……」


傍で聞いていると何とも物騒な話である。

それを試すのが俺であり、俺の意見を組み込まれていない所に恐怖を感じる。

着々と俺を殺す寸前まで追い込む方法が2人の話し合いによって決まっていくのだ。


「溺死はやはり止めよう」

「なんでだー?」

「首吊りと一緒だ。ある一線がどこまでか分からない。気付いたら死んでしまっている可能性はある」

「それもそうだな……てことは焼死か転落死か」

「そうなるな。ではまず焼死から試してみよう」


手段が決まってしまった様だ……

まずは焼死からと言う事で、燃えてもいい様な服装に着替えさせられた。

周りに影響が出ない様に、人目に付かず広い敷地と言う事で梅園寺邸の庭で行われる事ととなった。


冒険者である為、俺も数度はモンスターの使う火魔法や火属性ブレスによって丸焦げ寸前まではなった事がある。

だがその際も手際よく回復され、装備がボロボロになった程度で瀕死に至る事は無かった。

今日は瞬時に回復出切る程の回復魔法は飛んで来ず、丸焦げ寸前即死手前の裁量はコウタの手に握られたバケツの水で制御されるのだ。

とてつもなく不安だ。

そして用意される火は、自らの手で火魔法を出しガソリンを染み込ませた自らの服へと着火させるのだ。

とんでもなく恐ろしい行為である。

コウタを信じていない訳ではないが、「失敗しました! エヘッ♪」じゃ済まないのだ。


そしてとうとう準備が全て整ってしまった。

時間が刻一刻と過ぎて行く中、俺は天を仰ぎ目を閉じると心を落ち着かせる様に深呼吸を1つした。

日は傾き始め、少し気温の下がった状態で頬に受ける風はひんやりとして心地よかった。


「よし、行くぞ!」

「おう!」

「失敗した時の回復は任せろ」


リオナールの言葉に少々の不安を抱きつつ、意を決して詠唱を始めた。

消し炭になってしまっては困るので、初級火魔術の火弾を自分に向けて放った。

自分に魔法を放つのは初めての事ではあるが上手く腹部目掛けて着弾させる事が出来た。

着弾した炎は、思いっ切りガソリンを吸い込んだ衣類を勢いよく燃やした。

威力を落としたはずの魔法はガソリンの威力によってゴウゴウと燃え上がっていった。


「ぐぁあああちちちちっ! やべぇぇえええ! 死ぬ! 消してはやくぅううう!!」

「上杉!! 我慢だ! ぐったりするまで耐えろー!」

「無理だ! 熱過ぎる! 消してくれぇぇええ! コウタァアアア!」

「うるさいぞ、ケン。静かに燃えてろ」


程無くして俺は意識を失った。

結局意識を失うまで水は掛けて貰えなかった。


目が覚めるとそこは見慣れない豪華なベッドの上だった。

布団もふかふか、肌触りは最高、窓も大きく暖かい日差しを部屋へと差し入れていた。

どう見ても梅園寺邸の一室の豪華なベッドだった。


失敗した様だ……

失敗はした様だが傷一つなかった。

リオナールの回復魔法で全快したのだろう。

服は燃え尽きてしまった様で、別の服に着替えさせられていた。

しばらくぼーっと窓の外を眺め雲の流れを見詰めていると、ドアをノックする音が聞こえて来るや否やリオナールとコウタが入って来た。


「よう、やっと目が覚めたか丸一日眠り続けてたぞ」

「すまない、上杉。水を掛けるのが早すぎたかもな……」

「いや……あれは流石に耐え切れん。初級火魔術だった筈が勢いよく燃えて中級クラスになっていたぞ」

「ケンは非ダメージに弱すぎるんだ。俺の日頃のありがたみがわかったか」

「ふん。タンク様にはかなわねーよ」


確かにあんな程度じゃないダメージを毎回最前線で喰らっているタンクは屈強とはいえ疲弊は相当だろう。

死に目に遭ってもヒーラーの回復でケロっとしている奴らは流石と言わざるを得ない。

そんなドMなリオナールから悪魔族の様なお達しを頂戴した。


「さ、目が覚めた様なら今日もやるぞ。今度は転落死だ」

「さ、流石に早くないか?」

「何を言っているんだ。傷も俺の回復魔法で全くないだろう?」

「体の傷はないが心の傷が深いんだよ!」

「そんなもこもこの腐った様な発言は男らしくないぞ」

「何とでも言え! 俺は今日はやらん!」

「じゃあ明日だな。場所を今日は選定しておこう」

「悪魔め!」


そんなに早く元の世界に帰りたいのか。

それとも俺の命など消耗品の如く使い捨てか。

リオナールにどうやって仕返しをしてやろうか思案していると、またドアをノックする音が響いた。

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