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一方その頃

俺の名前はリオナール スラッシュバイト。

聖騎士をしている。

パーティの最前線に立ち、モンスターからの攻撃を一身に受け、身を挺してパーティを守る盾となる職業だ。


俺はタンク職が性に合っていると思う。

特に女を守るのは俺のライフワークでもあり、男の義務だからな。

魔術師のケンが窮地に陥っていたとしても、格闘士のもこもこを率先して守るだろう。

どんな奴でも女は助けるのが俺のポリシーだ。


その日、もこもこの初歩的ミスを皮切りに壊滅へのデスマーチが始まった。

冷静さを欠いた俺のミスも拍車を掛け、パーティは全滅。

リターンポイントへと戻り再戦への準備をする事になった筈だが……

戻った先は見覚えの無い場所だった。

確かその日の為に前日から狩場近くの町<ザナカーム>へと宿を取り、宿の近くのリターンポイントへと登録を変更していた筈だ。

だが、戻った先はザナカームではなく全く違う場所だった。


その場所は、森の中に突然現れた開けた場所の様に周囲に木が生えている状態だった。

戸惑いながらも周囲を警戒しつつ、足元に続く歩道を先へ進む事にした。

暫く進んでも風景に大した変化は無かったが、遠くから男の叫び声と走ってくる1人の少女の姿が見えた。

少女は男2人に追いかけられていた。


「待てや! コラ!」

「ヒッ、た、助けてください!!」


少女は俺の後ろに身を隠し男2人は俺の目の前に立ち並んだ。

1人は背は小さく坊主頭で、黒地に派手な色彩の刺繍がされた上着を着ていた。

もう1人はがたいが良く、髪をキッチリと後ろに流し上下が統一された紫色の服装に黒く塗られた眼鏡を掛けていた。

人は見た目で判断してはいけないが、どう見てもこの少女とこの2人の男は知り合いではなさそうだ。

「助けて」と言っていたからな。

少女であろうと女の助けを断る俺ではない。


「おい、にーちゃん何て格好してんだよ。まぁいい。そこ退けや!」

「痛い目見たくなかったら素直に従った方が身の為だぞ」

「念の為聞くが、この子とお前らは知り合いか?」

「おう、そうだ知り合いだ。だから退けよ!」

「お嬢さん、こう言っていますがこいつらは知り合いですか?」

「ち、違います! 助けて下さい!」

「だそうだ。嘘を付くな」

「そのお嬢ちゃんが嘘付いているんだよ」

「生憎レディが言う言葉は嘘でも信じる性質でね」

「話にならねぇな。力尽くでも取り返せ!」

「ヘイ! 兄貴!」

「お嬢さん、少し下がっていてください」


小柄の男がキラリと光る刃物を懐から取り出した。

それで脅しているつもりなのだろうか。

そんなゴブリン族が持つような小さな刃物ではこの俺に傷1つ付けられやしない。

聖剣エターナルブレードを使えばこんな雑魚は一太刀で纏めて真っ二つだろう。

だが人族を死に追いやる事は聖騎士の騎士道に反する。

少しスマートではないが往なしてカウンターを合わせるか。


小柄の男が動くまで睨み合いが続き、痺れを切らした男が刃物を突き出してきた。

まるで切れが無い。

初心者冒険者がレベル上げで倒す<ウォームフラワー>の種子投げの方が幾分か速い。

避けるまでも無いと思い、そのままカウンターを合わせた。


いつも敵の力量を計り損ねる事の無い俺だが、その時は何故か違った。

避けたはずの突きは腕の装甲の薄い部分を掠め、あまつさえ切り傷を与えた。

そこまで深い切り傷ではなかった為、そのまま押し切りカウンターを浴びせる事は出来た。

小柄の男はその打撃により踏鞴を踏み、そのまま倒れこんで気を失った。


その様子を見たがたいの良い方の男が次に飛び掛って来た。

腕力に自身がある様で、その男の攻撃スタイルは格闘であった。

自分の身体の動きに違和感を覚えていた俺は、念には念をと左手に持ち構えていた聖盾フリゲートによるスキル技<シールドブロウ>をタイミングを見計らい叩き込んだ。

人族にスキル技を使うのは躊躇われる所ではあったが、どうも身体の動きが鈍かった。

通常であればシールドブロウを無防備な人族に使うと、衝撃で複雑骨折は免れない大ダメージとなる。

いくらがたいが良い男とはいえ、布地の服を着ただけの装備という装備もしていない状態であれば、やはり骨折は免れないだろう。

その上、聖盾フリゲートはシールドブロウの威力を15%上昇する効果のある盾である。

そんな好条件の揃った、メインタンクでずっとやってきた俺のシールドブロウが、そのがたいの良い男を吹き飛ばし剰え気を失わせる事すら出来ていなかった。


正直凹んだ。

なんらかの状態で身体が上手く動かせない状態ではあるが、この程度のダメージしか出せないのは初めての事だった。

自分の身体はどうなってしまったのだろうと両手の掌を見つつ愕然としていると、背後から鎧の裾をちょいちょいと引っ張る者がいた。

振り返るとそこには13~14歳程の少女がこちらを心配そうな顔をして見上げていた。

そういえばこの少女を助ける為の今の行動であったか。


「あの……ありがとうございます。それ、大丈夫ですか……?」

「何がだ?」


少女は今にも涙を流してしまいそうな不安げな顔をして俺の腕の切り傷部分を指差していた。

タンク職をやっていると切り傷、擦り傷等は日常茶飯事にある為全く気にも留めていなかった。

いつもならヒーラーの睦月がすぐに回復してくれるので自分で気にする必要もなかったとも言うが。


「ああ、この程度なら大丈夫だ」

「本当に……?」

「ああ、ちょっと見ていろ」


俺は傷口に手を当て初級回復魔法<キュア>を唱えた。

やはりいつもより回復速度は遅かったが、それでもこの程度の傷は直ぐに塞がった。

聖騎士の俺はタンク職ではあるが、ヒーラー程の回復魔法は使えないが初級回復魔法程度であれば使えるのだ。

少女は見る見る塞がっていく傷口を驚嘆した表情をしながら見入っていた。

程なくして塞がった傷口を見た少女は、安堵の表情を浮かべていた。


「お嬢様ーーー!! ご無事でございますかーー!!!」

(くすのき)!」


そんなやり取りをしている所に、遠くから叫び声が聞えてきた。

楠と呼ばれる執事風の格好をした男と、その背後から2名の全身黒ずくめの屈強な男がこちらへ走ってきた。

楠と黒服x2はこちらへ近づくと、周囲の状況を確かめる様にキョロキョロとしながら少女の様子を伺っていた。


「お嬢様、お怪我はありませんか!?」

「ええ、大丈夫よ。そこに倒れている2人に連れ去られそうになったのだけど、隙を見て逃げ出したの。逃げ出した所までは良かったけど、この公園で追い付かれそうになった所をこの方に助けて頂きました」

「左様でございましたか! 私めが少々目を離してしまった事でお嬢様を危ない目に合わせる事となってしまい、この楠……とんだ失態でございます……」

「怪我もなく無事だったのだから自分を責めることはないわ」

「なんとお優しいお言葉……この楠、今後さらに気を引き締め従事させて頂く所存に御座います!」


楠はお嬢様の安否確認が終わると黒服2人に目配せをした。

黒服2人は、そこに転がっていた2人の輩を縛り上げ担ぐと何処かへと連れて行ってしまった。

その様子を見届けると、楠は俺に向き直り頭を下げて来た。


「危ない所を助けて頂き何とお礼を申し上げていい事やら」

「困っている者を助けるのは騎士の務めだ。問題ない」

「……騎士様……でございますか。何はともあれ改めて御礼をさせて頂きたいのですが、お嬢様」

「はい、屋敷に招待して差し上げて」

「かしこまりました。ではささやかでは御座いますがお礼をさせて頂きたく、お屋敷へとご招待させていただきたいのですが」

「お礼なんていい。無事だったなら何よりだ」

「だ、ダメよ! お礼をするから来て頂戴!」


お嬢様は何故か顔を赤らめ俯いた状態で上目に俺をチラチラと見上げていた。

お嬢様と楠に説得され、俺はお嬢様宅へと向かう事となった。


この公園と呼ばれた木々に囲まれた場所から出ると、そこには真っ白で太陽の光を反射する程綺麗に磨かれた、やや長い金属製の物体があった。

それには扉が付いており、楠がその扉を開けると中は部屋の様な空間になっていて、その中へとお嬢様が乗り込んでいった。

俺も促されその扉の中へと入ると、楠の手によって扉は閉められた。

前方には既に乗り込んでいた黒服が座り込んでおり、丸い輪を握っていた。

楠がその隣の椅子へと扉を開けて乗り込み終わると、この四角い白い物体は移動を開始した。


「おい、動いていないか? この物体!」

「え? ええ……車ですもの動きますわよ?」

「車? 車とはなんだ?」

「乗り物……ですか?」


俺の唐突な質問にお嬢様は訝しげな表情をしながら答えてくれた。

当然といった感じで答えられた所を見ると、俺の質問は突拍子もない事なのだろう。


移動の最中、外の景色を眺めていた。

目に入ってくる全ての物が見た事もない物だった。

人族の服装、建物の作り等全てだ。


目に飛び込んでくる情景に呆気に取られている間に、周りとは異彩を放つ外周を木製の塀で囲まれた場所へと到着していた。

その入り口と思われる荘厳な門の前で車が止まると、楠の手によって車の扉が開けられた。

促されるまま車から降りると、車は楠、お嬢様、俺を残して何処かへ去って行った。

楠が大きな扉の端に行き何やら一言発すると、目の前の大きな扉が自動で開いていった。


「どうぞお入り下さい」


お嬢様を先頭にやや遅れて楠が続いて中に入って行った。

楠はその光景を見て呆気に取られていた俺を招き入れ、お嬢様へ続いて進む様に促して来た。


敷地内とは思えない程の広さと、見た事のない植物の生えた場所を抜けると池が広がっていた。

池には魚が泳いでいて、その先へ橋を進み森の様な所を更に抜けると大きなお屋敷が現れた。

お屋敷には、お嬢様の帰りを出迎える使用人達と思われる者が数名お出迎えをしていた。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ただいま。お客様をお連れしたわ。しっかりお持て成ししてちょうだい」

「かしこまりました」


お嬢様に誘導され、使用人の間を通り抜けお屋敷の中へ続いて入った。

お屋敷の中も広く、どれもが古めかしくもありつつも気品に溢れていた。

ある程度お屋敷の奥へと進むと、お嬢様はある一室の扉を開け、中に入って行った。


「この部屋でいいわね。室内ですからその鎧もお脱ぎになられてはいかがですか?」

「ああ、そうさせてもらう」


俺はお嬢様に勧められるがまま、着ていた鎧を脱ぐと部屋の隅へと置いていき、その横へ剣と盾も並べて置いていった。

その後、お嬢様の質問責めが始まったのだった。


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