プロローグ
目の前に立ちはだかる3つ目を持つ巨大な棍棒を振り回したモンスター。
そこに対峙する4人組。
俺達は今、S級モンスター討伐クエストにやってきていた
「S級モンスターがこんなに強いとは思わなかったにゃー!!」
「当たり前だろ! S級なんだから!」
俺は呆れた顔をしながらそいつに返答する。
拳をフリフリと振り回すそいつ、もとい格闘士の<もこもこ にくうま>の未クリアクエスト消化の為にギルドメンバーで招集をかけた4人でパーティを組み挑んでいた。
「そんな事言ったってけんじろ達が野良で先にどんどん進めちゃうからいけないんだにゃー」
もこもこは両手をフリフリと振り回しながら俺に言い返してきた。
「二人とも喧嘩してる場合じゃないのよ! そうこう言ってるうちにリオ君のHPもどんどん減っていくし、私のMPも底をつくわ!」
冷静にクレリックの<睦月 ショコラ>が俺達二人の仲裁に入りつつヒーリング魔法を連打していた。
冷静に仲裁はしてくるが実際表情は曇り冷や汗が頬を伝っていた。
「そうだぞ、ケン! お前も口動かしながら魔法の1つや2つぶち込め!」
巨大な棍棒にガスガス殴られまくりながらそう言い放って来たのは聖騎士の<リオナール スラッシュバイト>だった。
ガスガス殴られまくりながらもクールな表情を保つイケメンな奴を見て、俺は心の底で顔もガスガス殴られて歪んでしまえばいいのに……そんな事を思いながら魔法の連打を始めた。
その時だった。
『エクストリームゲージが溜まりました。』
システムアナウンスが突如流れた。
システムアナウンス。
そう呼ばれる突如どこからともなく流れてくるそれは便利な色々な通知を教えてくれる声。
日常的に便利に流れてくるそれは必要な人に必要なだけ流れ聞こえる。
一体この声はいつもどこから聞こえてくるのだろう。
考えながらも攻撃の手は止めず連打を繰り出していた。
「今だ! もこもこ! ケン! 俺のオールキャンセルに合わせてextと極限魔法を同時に放て! 1分しかもたないぞ!」
リオナールが俺達に指示を出してきた。
次の瞬間、リオナールがオールキャンセルを使用した。
『リオナール スラッシュバイトのオールキャンセルが発動しました。』
オールキャンセルは全ての攻撃を反射し無効化する代わりに1分しかもたない聖騎士専用のスキル。
リキャストも長くここぞという時に使ういわばとっておきというやつである。
俺はモコモコと目で合図すると同時に構えに入った。
『もこもこ にくうまのエクストリームデストロイが発動準備に入りました。』
『賢二郎 上杉がオーバーデスハイリミテンダーの詠唱を開始しました。』
エクストリームデストロイ(略称ext)と極限魔法は共に発動まで15秒。
同時着弾すれば一気に敵のHPを削ることが出来る。
オールキャンセルの効果時間は1分、十分間に合う時間だろう。
だが人的ミスというのはこういう時におきるものだ。
一瞬の油断が勝敗を分かつ場合もある。
『ギガンテスコマーノの薙ぎ払いが発動しました。』
「しまっ……!」
ブォンと鳴り響き放たれたモンスターのスキルを避け損ねたリオナールは10mほどノックバックを食らってしまった。
オールキャンセルはノックバックに弱い。
S級モンスターともなるとそこら辺の対策はしっかりされている。
「キャンセルだ! 止めろー!」
そうはいっても既に発動寸前のもは止めることは出来ない。
荷馬車も急には止まれないのだ。
『もこもこ にくうまのエクストリームデストロイは射程範囲外の為使えません。』
『賢二郎 上杉のオーバーデスハイリミテンダーが発動!ギガンテスコマーノに56011のダメージ!!』
失敗だった。
HPの残ったモンスターは踵を返し俺に猛然と走り寄ってくる。
もちろん魔術師の俺は紙装甲、瞬殺だ。
リオナールも必死にヘイトを取り返そうと様々なスキルを多用するがこれだけの大ダメージで取ったヘイトを簡単に取り返すのは至難の業だった。
ゴリゴリと減らされる俺のHP。
しかしモリモリと回復する俺のHP。
「けんじろう君は死なせない!! 誰も死なせないんだから!」
睦月が必死の形相で大ヒーリング魔法を連打していた。
「バカ! 睦月それじゃお前が落ちる!!」
リオナールがそういった瞬間、モンスターの巨大な棍棒は痛々しい音と共に睦月の命を奪っていった。
ヒーラーのいないパーティがどうなるかはお察しの通りだろう。
敢え無く俺達のパーティは壊滅。
すごすごと生息範囲に戻っていくS級モンスター。
「あーあ、全滅だにゃー」
呑気にそういうもこもこを他所に他3人は重苦しい空気に包まれていた。
「一旦リターンポイントに戻って出直そう……」
「またここに後で集まるかー」
「ごめんね、みんな……」
「どんまいにゃー」
それぞれが言葉を交わし、瀕死状態になってしまった時、1日に1回戻れるその場所<リターンポイント>へそれぞれが戻る事にした。
メンバーがそれぞれ天から注ぐ光に包まれ消えていく。
俺もそれを見届け一旦戻る事にした。
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目を開けた瞬間俺は今まで見たこともない土地に立っていた。
「どこ……ここ?」
何の悪戯かわからないが、俺はどうやら異世界に飛ばされてしまったらしい。