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アニソニック!  作者: 第Ⅳ工房
第二期 高校一年生編
12/28

四曲目 戦いの狼煙 S高校軽音楽部

 春はあけぼの、なんてもので始まる名文がある。清少納言の枕草子だ。四季のなんと趣深い事か、という情を簡潔に述べた文章だが、まぁ、その、正直、現代において春はそんなゆったりしたものでは無くなってしまっている。やうやう白くなりゆく山際なんて見てる暇なんて無い。


 というのも、僕たちには早速、課題が与えられていた。部活動初日を、最後に部長はこう言って締めくくった。


「今から一週間、一年生にはバンドを組む時間を設けよう。一週間後、バンドを組んだ人だけ、もう一度この多目的教室に集まる事。……まぁ、一週間を過ぎても、バンドが組めたら僕に教えてくれ。軽音部としての活動は、まずそこからだ」

「情熱溢れる子を待ってるゾ☆」


 部長と帆波先輩のそんな言葉で、初日は解散となった。


 そして一週間後、再び多目的教室に訪れた僕達は少し面喰ってしまった。


「これは……」

「……まぁ、そういう事だろうな」


 ひなちゃんと冬華ちゃんが驚きを隠せないのも分かる。何と、一年生は僕達とCLEARWAVEの合計六人しかいなかったのだから。……あの大量にいた女子たちはどうしたのだろう。


「……今年は六人か。去年よりずっと少ないな」

「そりゃあそーでしょ。てか、同学年で真っ先にあの子たちの演奏見せられたら、うちだって心バキバキになるし……」

 

 僕達アニソニックとCLEARWAVEを見て、先に来ていた部長と帆波先輩はそんな事を言ってくれた。今日集まっているのは彼らだけじゃない。そのバンドメンバーの先輩もいる。始めて見る人ばかりだ。


「いや、藍那の脅しのせいもあるだろ」

「んー? うち、そんなビビらせた気無いんだけどなー」


 いや、怖かったです。そんな「あれれー? おかしいぞぉー?」みたいな顔しても駄目です。上級生ってだけで怖いものですよ。それがガチのトーンで喋るんだから背筋も凍るってもの……。


「まぁいいか。ほら、真一君! 先輩への挨拶が無いぞー?」


 さっきまで部長と離していたのに、急に僕を標的を定めるの止めて下さい。陰キャはコミュニケーション取るのに常人の三倍はカロリー使うんですから。


「この前のアレ、かっこよかったですよ、帆波先輩」

「でしょ!? ほらぁ! うち先輩っぽかったでしょ! すげぇいい事言ったでしょう!」


 僕の一言で帆波先輩は上機嫌になって「にゅふふ」と笑う。……ちょろいなー、この人。まぁ、計算してちょろいキャラしてるんだろうけど。だから、しっかり落としておく。


「でも普通に怖かったです。いきなりあれは無いです」

「マジか!? …………マジかぁ」

 

 追加攻撃を加えておくと、思った以上にがっくりと落ち込んでしまった。……少しずつ帆波先輩の対応方法が分かって来た気がするぞ。


「むぅ、そーいう事は黙っておくもんだぞ! 先輩を立てろ、先輩を!」


 まぁ、項垂れたのも一瞬で、すぐに立ち直って、僕に逆ギレ気味にぺしぺしとパンチを繰り出してきた。……絡みはうざいけど、帆波先輩のキャラがそうさせるのか、全然嫌な気分にはならない。陰キャ気質な僕は本来、上級生とかすごく苦手だ。でも、帆波先輩からはそういう苦手意識を感じさせないのは、やっぱり彼女の魅力なんだろうなぁ。


「帆波先輩の事はちゃんと尊敬してますよ。本当です」

「む? そう? にゅふふ、まぁ、とーぜんだよね!」


 言葉とは裏腹に、めっちゃ嬉しそうに頬緩ませないで下さいよ。すごく可愛いので。


「さてと、もう誰も来なさそうだし、始めようか」


 帆波先輩が落ち着いたところで、桐生部長が手を叩いて注目を集めた。


「今日皆に集まってもらったのは他でもない。今日こそが、この年の軽音部の始まりとなるからだ」


 部長は全員を見渡しながら、さらに言葉を続ける。彼の鋭い黒鉄色の瞳を見ると、こちらまで気が引き締まる。


「俺たちクワトロ・ハーツ、藍那たちのS高ガールズ、そして一年生、CLEARWAVEとアニソニック。今年一年、一緒に付き合う仲間だ。初めて会わせる顔もある。紹介をしようか」


 部長の言葉で、改めて、先輩たちの名前を知ることが出来た。

 まずは部長のバンド【クワトロ・ハーツ】。名前の通り、四人組のバンドだ。リーダーはギターボーカルの桐生部長。そして松岡、竹本という、部長の男友達の先輩が二人。それから、梅野という女子一人で構成されるバンドのようだ。全員三年生。


「あ、あと梅は俺の彼女だから、あんまり仲良くされると困るぞ、柊君、海藤君」

「海斗! 何言ってんの!?」


 突然のカミングアウトに梅野先輩は恥ずかしそうに怒るが、それすらも部長は笑って受け止めていた。男らしすぎる…………! 強い(確信)。勝てる気がしない。あれが真のリア充……そこに痺れる、憧れる……! すげぇよ、部長は……。イケメンで、度胸もあって、優しくて、おまけにギターも上手い。やばい、男でも惚れそうな人だ。劣等感半ばない。魔法科高校じゃなくても僕は劣等生だったかぁ……。


「……隼人君と真一君は呼ばれて、何でボクは呼ばれなかったんだろ」

「たまたまだよ! 深く考えちゃ駄目だよ秋人君!」


 ……秋人君が泣きそうな表情をしていたので、思わずひし、と抱きしめてしまった。それ以上はいけない。完璧リア充の部長でも秋人君の性別を間違えていたとか、そんな事実はいらない。知らない方が幸せって事もあると思うんだ。


「次はあたしの番だな!」


 そして、二年生バンド【S高ガールズ】の紹介に移る。

 リーダーはもちろん帆波先輩だ。自分でも言ってたが、ボーカル専らしい。そんな彼女を支えるのが、船橋、潮見、浜風、水無月という、いずれも女子の先輩たち。合計五人のバンドだ。


「あー、うちも頭のネジ一本抜けてる自覚あるけど、特にミナはやべぇから。一年生も助けてあげてね」

「藍那ちゃん! 何でそういう誤解させるような事言うかな!」


 ニヤニヤとこちらを見ながら言う帆波先輩に、仲間の水無月みなづき先輩が大抗議の声を上げる。頭のネジ抜けてるって自覚あったんですね、帆波先輩……。

 その帆波先輩にすら「やべぇ」って言われた水無月先輩を、僕もよく観察してみる。……柔らかなお嬢様めいた感じの雰囲気をもつ女性だ。間違いなく美人の部類。一見、やべぇ要素は見当たらないけれど……強いて言うなら…………。


「誤解じゃないでしょ。ミナほどエロい子絶対いないし」

「きゃあああ! ほんと、藍那ちゃんの言う事は無視していいからね!」


 恥ずかしそうに顔を赤くして、水無月ミナ先輩は一年生ぼくたちに言った。

 …………そう、強いて言えば…………その…………非常に、グラマラスです。肌は白くもっちりしていて、胸もお尻もグラビアアイドルかってほど大きく、足はすらりと長く、天然の色っぽさを纏っている。確かベースってさっき言ってたよな……。あのおっぱいでベースギター担いだら、肩にかけるベルトでπスラ不可避では……いや、もしかしたらベースギターにたわわが乗っかるかもしれな――。


「見すぎ」

「痛い、痛い……」


 不意に奏ちゃんから耳を千切られる勢いで引っ張られてしまう。……危ない危ない。僕とした事が、目先の先輩に魅了されるとは。ビークールだ、僕。思い出せ、オタクは期待してはいけない。僕なんかとまともに付き合ってくれる女の子なんかいる筈が無い……。だって、オタクだから……。


「馬鹿、変態。そんなに大きい方がいいの?」

「僕は僕に付き合ってくれる人なら誰でも好きだよ」


 そう、オタクは友達こそを愛する。こんな僕に付き合ってくれてありがとう、友達でいてくれてありがとう。高嶺の花に目を取られて、身近な人への感謝を忘れちゃいけないね。うん。よし、目が覚めた。


「誰でもいいとか、それもキモいわね……」

「はいはい、今日も僕はキモいよどうせ」


 キモいノルマ達成。全然嬉しくない。でも、エロさに惹かれない男ってのもそれはそれで嫌じゃないかな? ねぇ隼人君。


「……………………デカい」


 さっきから静かな隼人君に目を向けて見ると、何か据わった目で水無月先輩を見ていた。……あれ?


「隼人君、目を覚まして!」

「……はっ! ……あ、あぁ、何だ、シン」


 僕の呼びかけで、隼人君は正気を取り戻したように僕に気が付いた。……今、ちょっとやばくなかった? あれ? 水無月先輩がやばいって、そういう事? 無意識に魅了状態にしちゃうとかそんな感じ?

 

「……隼人君、水無月先輩には気をつけようね」

「……あぁ」


 隼人君と二人、誰にも言えない同盟がここに結ばれた。水無月ミナ先輩のフェロモンには気を付けよう!


 まぁ、そんなあほらしい事もあって、最後に僕達一年生が先輩に向けて自己紹介をした。


「海藤=真一です。バンド歴は一年ぐらいです。主にギターですが、ボーカルとドラムも少しだけできます」

「そして、うちのおもちゃです」

「違います」


 帆波先輩が当然のように付け加えて来たので、こちらも冷静に答えさせてもらった。「むー!」と膨れる彼女が視界に入った。そんな可愛らしく拗ねても駄目です。


「私のおもちゃです」

「それも違います」


 また、当然のように奏ちゃんが口を挟んで来たので、それも否定しておく。どうして勝手に所有権を主張するかな。


「はは、モテモテだな海藤君。だが君には藍那の相手をしてもらおう。何、すぐ慣れるさ」

「はい!?」

「っしゃー! ぶちょーのお墨付きキター!」


 何とここで部長が裏切り、帆波先輩の相手を僕に押し付けて来た! 何でそんないい笑顔なんですか部長! 僕を犠牲にしましたね!


「にゅふふ。これからたっぷり使い倒してあげるからね、真一君♡」

「世界一嬉しくないラブコールですね」


 ……まぁ、何はともあれ、魅力あふれる先輩たちで僕は嬉しい。

 自己紹介が終わると、部長が再び口火を切って、注目を集めた。


「さて、では本題に移ろう」


 瞬間、ぴりっと、場の空気が緊張感を孕んたものに変わった。帆波先輩ですら口を挟まず、楽し気に部長の言葉を待っているだけだ。


「まず一年生に、一から説明しよう。我が軽音部はその名の通り、俗に軽音楽と呼ばれているジャンルを楽しみ、極め、発表する部活だ。そんな俺達が目標とするところは、文化祭にある」


 部長は教室のホワイトボードを叩き、くるっとボードを反転させる。すると、「十月十日 十一日 文化祭ライブ!」と書かれた面が現れた。


「軽音部はもちろん、その日々磨いた腕前を生徒、並びに文化祭に訪れた人たちに披露する。それが文化祭ライブ! そして、そこで軽音部の中でどこが今年最もロックなバンドかを決定する!」

「望むところぉ! マジ今年こそぶっ殺すからな【クワトロ・ハーツ】!」


 部長の宣言に答えるように、帆波先輩はがおー、と吼える。……帆波先輩の八重歯がきらりと光るのが見えて、それこそ肉食動物のようにも見えた。やっぱりここはサバンナだったのか。


「藍那ちゃん? それが先輩に対する態度? 私たち今年卒業なんだから、勝ちを譲るとかしてもいいんじゃない?」

「そんな殊勝な後輩は真一君だけです、梅ちゃん! うちらは大人げ無く勝ちに行きますよ!」


 梅野先輩が困ったように笑うも、帆波先輩は指でピストルを作って、びしっとそれで狙い打つようにクワトロ・ハーツに向けて宣戦布告していた。ロックだ……。ていうか、梅ちゃんって。


 話を戻そう。やはり軽音部と言うからには学校でライブをするようだ。中学校では文化祭とかなかったから、入学式とか本当に限られた時にだけ演奏していた気がする。でも、そこにCLEARWAVEはいなかった。僕自身もあんまり覚えてないような、言っちゃえばしょぼい演奏しかしてなかった。

 でも、ここでは訳が違う。本気でロックやってるCLEARWAVEがいて、そんな彼らよりも実力が同等、もしくは上かもしれない先輩バンドが二組もいる。そんな彼らがライブするんだ。盛り上がらない筈が無い。そんな時間に僕もいられるなんて、今から興奮で胸が高鳴る思いだ。


「すいません、一個質問してもいいっすか? 文化祭で雌雄を決するって、どうやって上か下か決めるんすか?」


 そこで隼人君が軽く右手を上げて、部長に質問を投げかけた。確かに、ハコでライブする時も、客の盛り上がり度に差はあるだろうけど、基本的にどのバンドが上か下かなんて決めない。でも、部長は明確に上下を決める、と言った。なら、どうやって……?


「当然の疑問だな。勿論、お客さんに決めてもらうのさ。文化祭は二日ある。一日目は生徒だけ、二日目は親族や近隣の大人の方もいらっしゃる。だから、彼らに投票してもらう。どのバンドが一番好きだったか、ね」


 部長はそう言うと、制服の内ポケットを探り、一つのシールを取り出した。特別なところも無い、丸くて指先サイズのものだ。


「このシールを、ライブを聞きに来てくれた人に配る。一人一つだ。これを一票として、文化祭当日に掲示する投票ボードに張ってもらう。このシールが一番張られたバンドが勝ち、という訳さ」

「なるほど、あざます」


 部長の明瞭な返答に、隼人君を始め僕らも頷いて理解を示す。よくアニメショップでもやられている方法だ。「今クールの嫁キャラは?」みたいな事が書かれたポードに、アニメヒロインたちの顔があって、そこにべたべたシール貼って投票するアレ。アニメショップだけじゃなく、B級グルメフェスでも、一番美味しかったメニューに貼って下さい、みたいなのもあるね。


「でも、出来の悪いバンドを文化祭に出す訳にはいかない。そんなバンドを出すぐらいなら、俺達がもう一曲演奏させてもらう。学校の評判を下げかねないし、その方がお客さんにとってもいいからね」


 すらりと、部長は恐ろしい事を言ってくれた。つまり、部長に認められないと文化祭では演奏出来ない、という事か。それは、その、辛い。せっかく練習するのだから、やっぱり誰かに聞いてもらわないと悲しいよね……。


「だから、皆に課題を出す。文化祭で歌えるのは、一日二曲までだ。そのうちの一曲を、一学期の終わりまでに完璧にしておく事。それを文化祭出演の条件としよう」

「一学期の終わり……期間は約四か月だね」

「多分、それでも短いかもしれないね」


 秋人君の呟きに、僕も連鎖して呟く。……四か月。そう聞くと長いように思えるけど、この中では学校行事とか、定期テストとかが入り込んでいて、練習時間は思ったよりもずっと少ないだろうね。これは気張っていかないと。


「一学期最後の部活の日に、それの発表会を行う。そこで、俺が出せないと判断したら、悪いけど文化祭は諦めてもらうよ。いいね?」


 文句は言わせない。そんな凄みのある視線を向けられ、僕達は首を縦に振るしか無かった。……本当に頑張らないと。この条件で最も危ないのは言うまでもない。初心者である僕らだ。


「せっかくシンが作ってくれたアニソニックだ。全力を尽くそう」

「うん……!」


 この危機感は二人も感じたのか、冬華ちゃんとひなちゃんが気合の入った表情で僕に言った。うん、その気概があれば十分だ。


「いきなり逆境だけど、燃えるよね。漫画みたいな展開で」


 そう言い返すと、二人はちょっと驚き、すぐにくすくすと笑った。そうそう、気合で硬くなるのはいいけど、笑顔も忘れずにね。





 そんなやり取りがあって、今に至る。

 とある日の放課後、僕たち三人は駅近くのファーストフード店に寄った。


「では、これより第一回・アニソニック選曲会議を始める」


 机に肘を立てて、口元を手の甲で隠すようにしながら言う。気分は碇指令だ。ヤシマ作戦めいたBGMも脳内再生してね。

 文化祭へ向けての戦いはもう始まっている。まず、ここが第一の戦い。無数にある音楽の中から、どれを選択しコピー演奏するかの、選曲の戦いだ。


「二曲だけを選ぶなんて……少し、厳しい……」

「今やアニソンは星の数ほどあるからな……。これは試されるぞ。私たちのオタクレベルが」


 とは言うものの、二人とも言葉とは裏腹に楽しそうな表情をして考え込んでいる。でもポテトは熱いうちに食べようね。僕も一つ、トレイからつまむ。


「二人共、きっと好きなアニソンがいっぱいあるよね。その気持ちは分かるよ。だけど、アニソニックはまだ出来たてのバンドだ。先輩たちや隼人君たちに比べたら子供みたいなものさ。経験も技術も僕達は大きく劣ってる」


 まずは現状確認から始めよう。多分、二人は今、弾きたいアニソンが止めどなく出てきて興奮している状態だ。だって、目がキラキラしているから。その気持ちは痛いほど分かる。分かるんだけど……!


「だから、弾きたい曲じゃなくて、僕達の身の丈に合ったアニソンを選ばないといけないんだ。今年一年は我慢の年だよ。まずはしっかり技術磨いて、それから演奏しよう。下手な演奏でアニソンを穢しちゃいけないよ」


 僕の言葉を聞いて、二人は目が覚めたようにはっとなり、でも、とてもがっかりしたようにしゅんとなった。ごめんね、二人とも。だけど、注意しなきゃいけない事はまだあるんだ。


「それともう一つ。聞かせる相手はあくまでも一般人。ディープなアニソンは控えた方がいいね。ライブはコール&レスポンス。こっちが気持ちよくやってるだけじゃ、ロックとは言えない。お客さんを熱く盛り上げないと」


 そう言うと、なんか、見てて可哀想に思えるほど二人がしおしおと萎れてしまった。本当、気持ちは痛い程分かる。やりたいアニソンがいっぱいあるのに、それが出来ないその悔しさがね。僕も一年前に味わったから。


「なるほど、そうか……。そう、だよな……。【Hacking to the Gate】とかやりたかった……」

「私は【名前のない怪物】とかが良かった……。けど、海藤君の言う事は正しい。諦める……」

「二人共、選曲が最高すぎるね」


 いいよね、【STEINSシュタ;GATE】。あと【PSYCHO-PASS サイコパス】も。どちらも大して期待せずに見始めたけど、めちゃくちゃ面白くて驚いた。うーん……その二つは、僕らでも出来なくも無いけど、今じゃないかもね。


「一般人も知っているアニメ……【ポケモン】や【進撃の巨人】……とか……?」

「【UNISON SQUARE GARDEN】とか【NICO Touches the Walls】とかなら知名度もあるし、アーティスト名から選んでもいいかもしれないな」


 なんて議論を始めながら、とりあえず各々スマホを取り出し、色んな角度から話を詰めていく。


「……【God knows…】は?」

「あぁ、いいな!」


 ひなちゃんの意見に冬華ちゃんが破顔する。僕もハッとなる。【God knows…】、圧倒的知名度を誇る作品【涼宮ハルヒの憂鬱】の劇中歌。一時代を築いた文句なしの神曲。だけど……。


「……【ハルヒ】、もう十年以上前の作品だよ。僕ら世代じゃ、見た事無い人の方が多くないかな……。僕らですら、ほとんど聞かなくなっちゃったし……」


 ディスる気は全くないけれど、曲自体もそこまで熱くて激しいものじゃないし、今時感が薄くて盛り上がりに欠けそうだ。残念ながら、僕のクラスにもハルヒはいなかったね……。でも、目の前の二人がいるから十分幸せだ。


「シンはどういうものが相応しいと思う?」

「うん。こういうのでいいんじゃないかな」


 僕はスマホを二人に見せる。そこには、僕がセレクトしたいくつかのアニソンの名前がある。


「この中ならどれも簡単で、僕達でも完璧に出来ると思うよ」

「なるほどな……。あっ、これは……」

「これがいい……」


 そのセレクトの中には、二人の気に入ったものがあったようで、すっと決まってくれた。よろしい、ならば練習だ。


「文化祭は、この二曲で勝負する。全力でかき鳴らそう!」

「まぁ、初陣でもあるしな。多少メジャーすぎるのは我慢しようか」

「でも、楽しみ……」


 冬華ちゃんもひなちゃんも、さっきまでの落ち込み様が嘘のように元気になっている。

 さてと、決まったのはこの二曲か……。いいだろう、君たちにはアニソニックの初陣を飾ってもらおうか。カースト底辺のオタクが魅せるアニソンロックを見るがいい。それは地べたに落ちるクズでは無く、夜空の星屑のようにきらめく旋律で魅了しよう。


簡単登場人物紹介コーナー

・梅野先輩

三年の女子の先輩。部長のバンド【クワトロ・ハーツ】のキーボードにして桐生部長の彼女。少女漫画の主人公系素朴乙女。三年生は桐生部長と彼女だけ覚えていただければ十分です。他の先輩は喋らないので。


・水無月美奈

二年の女子の先輩。帆波先輩のバンド【S高ガールズ】のベーシスト。魔性の爆乳を持つ天然っ子。愛称はミナ(先輩)。二年生は帆波先輩と彼女だけ覚えていただければ。

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