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アニソニック!  作者: 第Ⅳ工房
第二期 高校一年生編
10/28

三曲目 結成! ウィーアー! アニソニック(前編)

 そして次の日。四月第二週の月曜日。

 いよいよ軽音楽部としての活動初日が始まった。まずは先輩に挨拶しなければならないので、今日楽器を触る、という事は無いかもしれない。それでもギター、持って来ちゃったけど。


「シン」

「うん、行きますか」


 相棒のギター、レッドソニックを肩にかけ、夜霧さんを伴って、いざ部室に行かんとする――前に、後ろを振り向く。

 僕の後ろは、彼女の席だ。振り返ると、野に咲く花の如く可憐な彼女が、今だ迷っているような表情で僕を見やっていた。


「…………今日だけ騙されてあげる。それで諦めて」

「ありがとう。それだけでも嬉しいよ」


 本心からそう言うけど、彼女は、ふん、とそっぽを向いてしまう。よし、まずは取っ掛かりだけでも作れたようで何よりだ。


「夜霧さん、先に紹介するね。こっちは西園寺さん。ドラムをやってもらおうと思ってる」

「まだ一緒にやるなんて言ってない……」

「そうか。クラスメイトでもあるし、よろしく頼む。ところで、君の好きなアニメは?」

「あなたも人の話聞いて。…………【ハガレン】」

「あぁ~! いい!」

「合格だ。共に行こう」


 永遠の名作だよねぇ、【ハガレン】。思わず唸っちゃうね。

 夜霧さんもその答えに満足したのか、西園寺さんの手を取りしっかり握手していた。うんうん、みんな仲良し! バンドで最も大切な事の一つだ。


「夜霧さんも彼に騙されてあげてるの?」

「騙す? 何がだ?」

「えっ……本気……? リア充まっしぐらのルックスなのに……?」


 僕と同じく本気でアニソンやる気の夜霧さんに、西園寺さんが呆れたように呟く。たまにはこういう人がいてもいいでしょ。リア充族の空気持ってるのにオタクな人がいても。


 こうして何とか集結した僕達三人は、アニメ談義をしながら部室の一つである、多目的教室に移動した。防音壁のあるここは、軽音楽部が持つ練習場所の一つらしい。足を踏み入れると、中は柊スタジオの一室の倍ほど広く、風の通りも良い空間があった。

 そして、中には大勢の一年生と、軽音部の先輩が数名いた。


「こんなに入部希望者いたのか……!」


 その多さに思わず呟いてしまう。軽音楽って敷居高いイメージあるし(実際ちょっとだけ高いし)、やった事ない人は入りづらそうと思っていたのだけど……。何でこんなにいるんだ? まるで冬コミを思い出させるような混み様だ。これ全部一年生か、すごいな。


「いや、話は簡単そうだぞ。見ろ、一年生は、そのほとんどが女子生徒だ」


 夜霧さんに言われ、もう一度よく見渡してみる。……確かに、一年生はその六割ほどが女子生徒だった。つまり? どういう事だってばよ?


「……部長目当て」


 西園寺さんが思い至ったようにそう答え、夜霧さんも頷いていた。……なるほど。確かにイケメンだったもんね、部長。それじゃあ、この一年生女子はほとんどが彼女立候補か。


「でも、あぁいう人ってもう彼女いるんじゃないかな……」

「彼女がいるいないは些細な問題だよ、シン。いれば奪えばいいし、いなければ掻っ攫えばいいんだから」

「えぇ……」


 夜霧さんの言い草に思わず身震いをしてしまった。何、今時女子って猛禽類か何かなの? ここは肉食獣蠢くサバンナだったのか。


「心配するな。争い合った結果、全員共倒れして笑い話になるまでがテンプレだ。安心しろ、シンは私が守ってやるとも」

「何の漫画の話をしてるの……」


 夜霧さんはとても頼もしい笑顔で言うと、側で西園寺さんがちょっと引いた様子でツッコミを入れていた。よかった、西園寺さんは肉食獣じゃないみたいだね。夜霧さんはライオンか何かなのかとちょっと心配になってきたけど……。


 さて、肉食女子の人込みを越えて行くと、途中で見慣れた姿を見つけた。CLEARWAVEの三人だ。


「よう。……面子、集めたのか」

「どうにかね」


 先に来ていた隼人君たちが僕たちに気が付き、声をかけてきた。僕も彼らの側に寄る。やっぱり隼人君の側は安心するね。


「やらしいね真一君。メンバーみんな女子なんて」

「僕がそんな目的でバンドやってたら、今頃君の親友にはなってないでしょ……」


 くすくすと意地悪な笑みを浮かべる秋人君に肩を落としてツッコむ。その返事に彼は「確かに」と笑い、次に奏ちゃんに視線を向けた。


「でも……そういう目的の人もいるんだよねぇ」


 侮蔑の意を含めた、仄暗い声音で彼はそう言った。僕も彼の視線の先を追う。そこには、いつも通り……以上に不機嫌な奏ちゃんの姿があった。


「一緒にバンドやろうぜ、同じ一年生同士さ!」

「だから、さっきからお断りだって言ってんでしょ。あたしもうメンバー決めてるから」

「え~いいじゃん、俺らとやろうよ」


 ほう、ナンパですか。大したものですね。相手はあの奏ちゃんだぜ?

 どうやら、彼女は同じ一年生の男子にしつこく勧誘されているみたいだった。あの、そこのリア充感たっぷりな何某君。それ以上彼女を刺激しないで欲しいんだな。不機嫌になった彼女、いったい誰が処理すると思ってるんですかね……。

 あ、彼女と目が合った。オイオイオイ。


「シン! ……って、何その二人! あんたホントに抜けんの!?」

「ぐえ! 挨拶代わりに胸倉掴むのやめようよぉ! アニソンしたいんだからしょうがないじゃん!」


 僕を見つけた奏ちゃんはずかずかと床を鳴らしながらこちらに向かってきた。続けて隣の夜霧さんと西園寺さんを睨みつけると、問答無用とばかりに僕の胸倉をつかみ気道を締め上げる! 流れるような身のこなし、僕じゃ見逃しちゃうね。


「何それ! この恩知らず! 誰があんたを育ててやったと思ってんの!」

「隼人君だけど……」

「ギターは半分あたしが教えたようなもんでしょうが!」

「そ、そうだけど、いひゃいよ奏ちゃん……」


 頬をぐにーんと両側に引っ張られてお仕置きされてしまう。痛い、ていうか顔近いよなんか奏ちゃんのいい匂いするよドキドキするよ!


「……彼女?」

「「違う!」」


 西園寺さんが呆れたように言うので、思わず奏ちゃんと同時にツッコんでしまった。わぁ、僕達息ぴったりだね。どこか悲しいけど……。


「んだよ、あいつは……」


 奏ちゃんを勧誘していた何某君からも恨めしい視線をもらう。え? 僕悪いの?


「全員注目ゥ!」


 その時、僕達一年生に向けた号令が聞こえたので、声のした方に首を向ける。教室の大きなホワイトボードの前に、一人の中年の男の先生がいた。彼が発した言葉のようだ。


「猿みたいに騒いでいいのは小学生まで! いつまでも騒いでると出て行かせるぞ!」


 突然の脅迫に一年生は思わず黙りこくった。それに満足したその先生は、一つ咳払いしてから、僕達を見やる。


「結構、指示を聞けない生意気なクソガキがいなくて何よりだわね。ようこそ、軽音楽部へ。わたくしは顧問の木本、んで、こっちが部長の桐生だ」


 その木本先生の隣には、入学式で華麗な演奏を披露した部長がいた。……入学式よりも近い距離で見ると、やはりというか、彼の纏っているオーラが眩しくて目を細めてしまった。


「桐生、始めなさい」

「はい。えっと、じゃあ、これから軽音部のガイダンスを始めるよ。改めて自己紹介を。俺は部長の桐生海斗、よろしく」


 彼の挨拶に僕達も「よろしくお願いします」と返す。……入学式で、とってもすごい演奏をしてくれた、軽音楽部のトップ。それが桐生海斗部長。……こうして近くで見ると分かる。何と言うか、白馬にでも乗っていそうな正統派イケメンだ。眩しい、超眩しい。陽キャの中でも最高ランクの香りがする。


「ごめん木本ちゃん! めっちゃ遅れた!」


 先輩の言葉を待って静かになっていたその時、多目的教室の扉をピシャンと張り飛ばすように開いて、躍り出るように一人の女子生徒が現れた。一年生ぼくたちの視線が一斉に彼女に向けられる。


「遅れたじゃないよ、帆波ちゃん。もうアウト」

「ほんとごめん! 冬休みの宿題忘れたらめっちゃ説教くらっちゃってさー」

「藍那、お前な……」


 木本先生と桐生部長の呆れ顔に、にゃははー、と全く悪びれてなさそうな笑顔でその来訪者は答えていた。……ちょっと待って欲しい。あの人、見た事あるんだけど。しかもつい昨日。やばい、頭痛くなってきた。


「まぁいいよ。これから自己紹介だから、藍那も大人しくしてて」

「かしこまっ! あ、でも待って! えっーと、真一君、いるー?」


 しかもなんと、彼女は先輩の司会を無視して、名指しで僕の事を探し始めた。……うわぁもう、なんか、ほんと、なんでそう陰キャ即死攻撃ばかり放てるんだあの人……。


「シン?」

「一?」

「君?」


 ……当然、夜霧さんと奏ちゃんと西園寺さんからなんか痛々しい視線をもらってしまう。即死な上に追加攻撃までついて来るとか贅沢な技だね。死体蹴りは止めた方がいいと思うよ。だが訓練されたオタクをなめてもらっては困る。今こそオタクのパッシブスキル【気配遮断】を発動する時。中学時代に鍛え上げた僕の気配遮断スキルは今やAランク! 夜闇に潜――。


「あーー! いたー! こらー! 何でまた無視すんの! こんな可愛い先輩が呼んであげてるのに!」


 ……………………昨日も聞いたようなセリフを言いながら僕を見つけた彼女は、ニヤリと得物を見つけた猫のようにしゅたっと近くに寄ってきた。駄目みたいですね……。


「よく来た! ふふ、どう? 驚いた? 驚いた?」

「………………はい。まぁ、びっくりはしました」


 あまりにもキラキラした瞳で見つめてくるので、僕も観念して彼女と向き合った。……これからもこの人の相手しなきゃいけないのか……マジでか、かっちゃん……。

 僕の返事に彼女は納得いったのか、にゅふふ、と得意気な表情になって胸を張る。……夜霧さんほどではないけど、平均以上はあるな……。いや、何見てるんだ僕。


「よしよし。ふふ、君の驚く顔が楽しみで昨日は眠れなかったよ。三秒ぐらい」

「快眠ですね。あの、部長がさっきからすごくやりづらそうな顔をしてるのでそろそろ……」


 そう、さっきから部長が諦めたような表情でこちらを見つめている。……先輩も彼女の相手さんざんやってきたんだろうなぁ。なんか、部長との共通点が見つけられてちょっとだけ嬉しくなった。


「そだね。ぶちょー、勝手に続けてー!」

「いや、お前もこっちに……。……まぁ、いいや。それじゃあ藍那、自己紹介」

「ほーい」


 そして彼女は、今だ僕の前から離れず、一つ咳払いして背筋を伸ばす。


「えーと、二年の帆波ほなみ藍那あいなっていいます! 二年生バンド【S高ガールズ】のバンドリーダーでぇ、副部長やってまーす! 何か分かんない事あったら、何でも聞いてちょ! その時はうちのメンバーが教えてくれると思うから!」

「自分は教えないんですか……」

「にゃはは、ツッコミありがとう真一君。でもうちは教えませーん。だってボーカルだから、ギターとか質問されても分かんないのだ!」


 ちょっと気恥ずかしそうな笑顔を湛えた、その堂々たる開き直りっぷりに、思わず一年生ぼくたちも笑ってしまった。不思議な魅力のある人だ。女子が部長に夢中なら、男子は帆波先輩にぞっこんになってしまうだろう。


「いい……」


 ……その証拠に、某君が熱っぽい視線を帆波先輩に向けていた。……さっき奏ちゃんにコナかけてたのにもう目移り?

 やれやれと肩を落としていると、奏ちゃんがすっと僕の側に寄って、僕のネクタイを引っ張って顔を近づけた。ぐっ……だから何でいつもそう僕にだけ乱暴なんだよ……。


「ちょっと、帆波先輩とはどういう関係?」

「特に無いよ、ホントに。きっと僕をからかって遊んでるだけさ」

「嘘言ってんじゃないっての。あんな綺麗な人が初対面であんたみたいなキモ男にすり寄る訳無いでしょうが」

「よくも友達をそこまでこき下ろせるね。僕じゃなかったら絶交ものだよ」

「うっさい。いいから本当の事白状しなさい」


 何でそこまで気にするかなぁ、もう。ひそひそ話は良いけど、奏ちゃんの顔が近くて心臓が破裂しそうなほどドキドキする僕の身にもなって欲しい。そう近くにいられたら僕の身が持たないよ。奏ちゃん、なんか最近また綺麗になってる気がするし……。


「確かに、今が初対面じゃないけど、でも本当に何も無いよ。奏ちゃんに嘘ついた事無いでしょ、僕。そこまで疑われると、ちょっと本気で悲しいんだけど」

「……分かった。それで納得してあげる。でも、あんまり鼻の下伸ばしてんじゃないわよ、キモいから」

「伸ばしてないでしょ……」


 帆波先輩みたいなタイプはもう僕と生きてる世界が違うからね。僕は陰キャらしく先輩とは清く正しい後輩として付き合いますとも。



「ふぅ……、ほんと、藍那に付き合ってたら時間がいくらあっても足りないよ。それじゃあ、まずは一年生、前で自己紹介をして欲しい。もう入部届提出してもらった人を呼ぶから、呼ばれたら前に出て挨拶をしてくれ。バンド組んでたら、その人たちも一緒にね」


 ようやっと進み始めた部長の指示に従って、僕ら一年生は名前を呼ばれると前に出て、順番に挨拶をし始める。


「火野悠馬っす! 隣のこいつらとバンド組んでます! バンドやってる理由は……モテたいからです!」


 さっき奏ちゃんに声をかけていた何某君が、友達三人を連れて自己紹介を始めた。あまりに率直な理由に場が笑いに包まれる。僕もカッコよくなりたいからバンド始めたんだし、彼にちょっと親近感を覚えた。何だ、火野君っていい人じゃん!


 そして全体の半分ほどが自己紹介をし終えたところで、ようやく彼の名前が呼ばれた。


「柊隼人君」


 僕のヒーロー。CLEARWAVEの三人が前に出る。やっぱり、並んで見ると壮観だ。最強感がすごい。貫禄が先輩たちに負けてない。


「一年。柊隼人、ドラム」

「同じく、神室奏。ギターボーカル」

「水城秋人、ベースです」

「この三人でユニット組んでます。名前はCLEARWAVE。ロックはガチでやります。以後、俺達は他のユニットに入らないし、脱退もしない。俺達完成してますんで」


 それはどちらかと言えば、先輩たちに自己紹介してるような態度だった。ドン、と構えるその三人は、やっぱり僕の知る、世界で一番カッコいいロックバンドの姿に違いかった。


「海軍大将か何か?」


 その威圧感たるや、僕達一年生をビビらせるには十分すぎるものだった。西園寺さんなんか呆れた顔でぼやいていた。ワンピース、いいよね。確かに隼人君の後ろに「ドン!」って文字が見えるようだよ。


 CLEARWAVEの自己紹介が終わり、最後に残ったのは僕たちのみとなる。さぁ、僕達もブチかまそう。オオトリだしね。


「海藤君」

「はい!」


 部長に呼ばれ、二人と共に前に出る。


「一年A組、海藤真一です」

「同じくA組、夜霧冬華」

「右に同じ。西園寺雛実」


 イキりオタク、天才美少女オタク、リアリストオタクの超融合ユニット。名前はまだ無い。だが、これがカオスで無い筈が無い。では、ブチかますとしようか! まずは一点目ェ!


「僕達も三人でユニット組んでます。そして、僕らもガチでやります。――アニソンを」

「は?」


 デジャヴ感を感じる反応を桐生部長から頂いた。他の一年生も唖然としている。CLEARWAVE以外。


「ぷっ」


 そして帆波先輩は噴き出していた。……部長に倣って、彼女はスルーする。そして二点目ェ!


「僕らは全員アニメオタク。だから、僕達はアニソン専門のコピーバンドやります。アニソンで僕達は――学校一ロックなバンドになります」


 そして、CLEARWAVEの皆に向けて視線を向ける。確かに君たちはカッコいい。だけど、アニソンのカッコよさも負けていない。それを隼人君たちにも存分に味わってもらう。


「これは困ったねぇ。一番敵にしたくない人が宣戦布告してきたよ」

「信じらんないあの馬鹿……。あたしたちに喧嘩売るなんて……!」

「――――面白れぇ、滾ってきたぜ。もう一回泣かしてやる」


 そんな恐ろしい返事が彼らから返ってきた。彼らの敵となる事、これだって僕の成長出来る道である気がする。敵と言っても、友情で繋がれている好敵手だけどね。


「よろしく」


 こうして、僕達の自己紹介が終わる。CLEARWAVEの隣に戻ると、隼人君からばし、と背中を叩かれた。楽しそうな表情と共に。僕も思わず笑ってしまう。


「ぐるるる……」


 ……何か言いたそうな顔をしている奏ちゃんは後で相手しよう。


「いい幕開けだ、シン。私も、どのみち潰さねばならない相手がいるからな」


 そこで夜霧さんは僕の腕に抱き着き、奏ちゃんに見せつけるように僕の向きを変えた。瞬間、奏ちゃんの方も殺意のような怒りを吹き出し、唸り声をあげて夜霧さんを睨み返していた。えっと、その、夜霧さん当たってるって言うか柔らかいっていうかいい匂いっていうか、ほんと、そういうの僕死んじゃうからやめて……。


「会長、お久しぶりです!」


 ――と、そこで、僕らの空間に割って入る声が。先ほど奏ちゃんに声かけていた火野君だ。すごく親し気な様子で、今度は夜霧さんに声をかけてきた。え? 会長?


「……あぁ。久しぶりだな。だが、私はもう生徒会長では無いよ」

「そうっすね。だけど、やっぱ会長は会長っすよ。G中出身的に」


 G中出身、彼はそう言った。それは夜霧さんの通っていた学校でもある。……えっと。推察するに、二人は同じ中学校だったのかな。


「はぁ、今度は夜霧さんの彼s――」


 いきなり漂い始めたリア充のにおいに、西園寺さんが真っ先に反応しようとしたその時、言い終わらないうちに夜霧さんが人差し指で彼女の口を閉じさせた。――物凄い速度で。今縮地でも使ったのかって速度だった。


「誤解を招く発言は慎め。そして二度と口走るな。特にシンの前では。分かったか」

「――――えぇ。早とちりして、ごめんなさい」


 ともすれば殺意すら見えそうな夜霧さんの目と声音に、夜霧さんは顔を引きつらせて頷いていた。……えっと、どういう意味?


「気にするな。今のは忘れろ」

「……まぁ、夜霧さんがそう言うなら。生徒会長だったんだね。すごい似合いそう」

「まぁ……な。そこそこの仕事はしたつもりだ」


 夜霧生徒会長……うわ、想像しただけでも強そう。ラノベ世界並みのすごい権力持ってそう。


「でも会長、何やってんすか。そんなのとバンドやるって。また頼まれて仕方なくだろうけどさ。ほんと真面目っつーか、優しいっすよねぇ、中学ん時から」

「それは違うぞ、火野元テニス部長。私が彼に頼んだのだ、一緒にバンドさせてくれと」


 そうだろう? と夜霧さんが視線を向けてくるので、僕も頷いて答える。すると、火野君はとても驚いたように目を大きくし、しかし徐々に納得いかないように眉間にしわを寄せ始めた。


「いやいや、冗談だろ会長。そいつ、アニソンやるっつったんだぞ? 会長までオタクに見えちまうぞ、それ」

「私はオタクだ。君が私をどう思っていたのか知らないが、これが事実さ」


 おそらく、史上最もかっこいいオタクカミングアウトを見た気がする。腕組みして、凛とすました表情からの「オタクですが何か?」の言葉。これはもう「あっ、はい」として言いようが無い。


「さて、まだ何かあるのか?」

「……そりゃ、あるっしょ。おい、海藤、とか言ったっけ?」

「……そうだけど」


 火野君、何で僕にそんなガンつけてるんですか? なんかこっちも気分悪いんだけど。……ていうか、さっきから彼は何なのだ。ただ夜霧さんに挨拶しに来たとは思えないな。

 それに、何か、言葉に出来ない腹立たしさを感じる。さっき覚えた親近感はどうやら勘違いだったようだ。「俺は夜霧さん分かってますよ」感たっぷりの彼の顔を見ると、とても腹が立つ。


「お前、オタクなんだろ? なら軽音楽部なんて来てんじゃねぇよ。大人しく帰宅部やってろ」


 それは、明らかに喧嘩売ってきている目だった。どうやら、僕は早速戦わなければならないらしい。ふん、正体現したな。


「断る。君にそんな事言われる筋合いも、その権利も無い。君こそ、喧嘩しに来たのなら帰ってくれないか?」


 しっかりと睨み返して言うと、それに彼も怒りのボルテージを上げ、ついに僕の胸倉を掴みかかってきた。――手、出したのそっちが先だからね。


「調子乗るなよオタクが。ここはお前みたいな奴が来る場所じゃねぇんだよ。何がガチでやるだ? あ? 弾けもしないギター持ってよ、きしょいんだよ……!」

「――!」


 燃え盛るような声とは逆に、その場の空気はひどく凍り付いた。

 ……僕の視界には見えている。「やっぱりか」と暗く諦観したような表情になってしまった夜霧さんと、オタクを蔑む目に怯えている西園寺さんの顔が。


 ……駄目だ。それは認められない。ふざけるなお前。僕の友達に何をしてくれている。


「……私、やっぱり帰る……!」


 火野君の一喝に酷く怯えてしまった様子の西園寺さんが顔を伏せて後ろを向く。隣にいる夜霧さんも萎縮して小さくなってしまっている。

 ――安い喧嘩だけど、ただでは済まさない。僕の友達を傷つけたケジメは取ってもらう。


「西園寺さん、ちょっと待って。帰るにはまだ早いよ」


 火野君の腕を掴み、近づくで僕の胸倉から離させる。そんな理不尽に文句つけられたら黙っていられない。僕が相手になってやる。


「言いたい事は分かった。要は、僕が夜霧さんとバンド組んでるのが気に入らないんだろう? だったらかかって来い、ロックで! キモいオタクよりもギター上手いって証明してみせろ。話はそれからだ」


 よろしい、ならば戦争だ。安い喧嘩だけど買うよ。ライブ勝負といこうじゃないか。


「さぁ盛り上がって参りましたァ! ぶちょー!!」

「茶化すな藍那。……全く、今年の一年生は血の気が早いな。だが面白そうだ。その勝負、認めよう。どちらのギターが上手いか、俺が審判しようじゃないか」


 ふとそこで、僕達のごたごたを静観していた帆波先輩と桐生部長が割って入ってきた。それはありがたい、部長ならきっと公平に審判してくれる。僕は彼に頷き返す。


「待ってください部長! 俺はただこんな奴が軽音楽部にいんのは許せないだけで……」

「俺はそう思わない。軽音楽部に入部資格なんて無いからな。火野君、俺としては正直、今のやりとりは君が我儘を言っているようにしか見えなかったよ。だけど、君がモテたいという気持ちをただ否定する気も無い。だから勝負で白黒つければいい」


 勝負なんて馬鹿馬鹿しい、と叫ぶ火野君に、部長は淡々と言葉を返し、さらに部屋にあるカレンダーの前に立って、それを十月のページまでめくった。


「十月十日と十一日。今年のうちの文化祭の日だ。そこで軽音楽部は体育館のステージを使ってライブを行う。そこでは、どのバンドが一番良かったかの人気投票を行う。それがうちの部の伝統だ」


 部長の言葉に思わず息を飲むほど驚いてしまう。それって、まさしく対バンっていうか、ハコのライブみたいな感じで戦うって事じゃないか。僕だけでなく、側にいた隼人君も少し驚きに目を丸くしていた。こんなに堂々とライブ勝負する高校、今まで聞いた事無い。


「知ってるかどうか分かんないけどさ、軽音部うちはけっこうガチよ?」


 帆波先輩も続けて口を開く。さっきまでの鮮やかな態度とは一転、僕達を図るような、凄味を感じる態度で睨みを利かす。


「去年の新入生は全員で四十二人。今年もそんぐらいいんでしょ? 始めはよかったよー? 今のみんなみたいに、誰とバンド組もー、とかぁ、どの曲コピーしようかなー、とかぁ、桐生先輩と付き合いたいー、とか、やる気に満ち溢れてて」

 

 わざとらしい、芝居かかった身振り手振りを交えて、帆波先輩は何事かを語り出した。……彼女の雰囲気がそうさせるのか、その語りは喜劇のように明るい。

 ……が、そんな向日葵のような雰囲気から、急に彼女は真面目な顔になって、僕達を見渡した。


「……でも、一年後はこの様さ。今の軽音部はぶちょーのクワトロ・ハーツとうちのS高ガールズしかバンドいないんだよね。どういう意味か分かる? それ以外の部員は、バンド組めなくて幽霊部員してるか、退部して別の部入り直してるって事」


 ――カリスマ。彼女に昨日言われた言葉をふと思い出した。帆波先輩は確かにふざけたところはあるけれど、急にこういう表情をするから困る。「黙って聞け」と、態度がそう告げている。


「新入生でまともに活動してるのはあたしたちだけ。生き残ったのは四十二分の四。約十%。本当マジにバンドしたいって思ってた人だけ」


 高校生の、初めての部活。

 これに希望を抱き明るい高校生活を思い浮かべていた人は多いだろう。事実、今、軽音部に集った一年生ぼくたちはそういう期待を抱いてここにいるんだから。

 だが、帆波先輩はその期待に水を差すどころか全力で猛吹雪を叩きつけて来た。良くも悪くも、本当にこの人は空気を読まない。


「うちの軽音部はそういうトコだからぁ、ロックは二の次って考えてる子とかぁ」


 そう言いながら、帆波先輩は大勢の女子を見た。次に、


「ロックで喧嘩も出来ない腰抜け君とかはぁ」


 火野君や、その他の男子を見て、


「……早いうちに、別の部で頑張った方が、いいかもね☆」

「なんで最後まで真面目に言えないんですか……」


 今までの圧力を霧散させるかのように、お茶目にきゃるん、と言ってシメた。僕は先輩の隣にいたので、思わずツッコんでしまった。いや、そこまでいったら最後まで先輩モードで言って下さいよ。


「にゃははー、だって、うち真面目な感じとか苦手だしさー」


 先輩は恥ずかしさを誤魔化すようにぺしぺし、と僕の肩を叩いて言った。

 ……しかし事実、今の言葉は、西園寺先輩目当てできた人には抜群に効いただろう。さっきまでキャピってた一年生女子たちの表情が凍っている。


「……やっとまともな軽音部に入れたぜ」


 ……逆に、隼人君なんかはウッキウキな表情になってるけど。


「……今、藍那が言ってくれた事は全て正しい」


 そこでやっと部長が、真面目なトーンで口を開いた。


「俺も藍那も、ロックは全力でやる。自分たちが一番楽しい、一番カッコいいって証明したくて、遅くまで練習に励んでいる。そうじゃない奴は、悪いけど仲良く出来ない。それほどに、うちはロックへの情熱を重視しているんだ。だから、俺はライブ勝負って奴は推奨してる。海藤君、俺の部に向いてるよ。さっきの売り文句、凄く良かった」


 部長がお茶目にウインクしながら僕に言うので、思わず笑ってしまった。すごい、聞いただけでワクワクしてくる。あとウインクする彼がイケメンすぎてときめく。うぅ、オタクなのに認めてくれるとか良い人だ……。しかもハンサムだし……なんかさっきからドキドキが止まらないし……。


「という訳だ、火野君。海藤君はギターで君に勝てると言っている訳だが、君はどうかな」

「……もちろん、俺がオタクなんかに負ける筈ないっすよ」

「それじゃあ決まりだ。二人共、メンバーは初心者だったね。なら、俺の仲間をサポートにつけよう。ベースと、ドラムだ」


 そこで前に出たのは、部長の補佐をしていた三年生の先輩二人。二人がベースとドラムをしてくれるのかな。どちらも上手そうだ。


「待って下さい部長。シンにはそれ不要っす」


 と、そこで声と共に僕の肩に手が置かれた。この声は、隼人君!


「こいつにはあたしたちが付きます。別にいいですよね?」

「友達馬鹿にされて黙ってられませんから」


 奏ちゃんと秋人君も! え、でも、いいの!?


「もちろんいいさ。CLEARWAVEの実力も見せてもらおう。ではドラムセットを準備しよう。少し待っててくれ」


 部長の一声で、こうして突発的ライブ勝負が始まる事となった。緊張はある。だけど負けない。オタクでもロックになれる。僕はそう信じてる。


「夜霧さん、西園寺さん、まずは僕の音を聞いて欲しい。僕のロックが信じられなかったら、バンドの話は聞かなかった事にしてくれて構わないから」

「シン……」

「……分かった」


 神妙な表情をして見つめてくる二人に、僕はにしし、と笑顔で頷きを返す。大丈夫だ。二人は僕が守る。ロックは自由。誰にも否定される事は無いって僕がここで証明する!

 さぁ始めよう。火野君、君がモテたいと思うように、僕にも譲れない思いがある。それを君は身勝手にも否定したんだ。なら、戦うしかない。全力で。懺悔の用意は出来ているか。


簡単登場人物紹介コーナー

・西園寺雛実

シンのクラスメイトにして、彼の後ろの席にいる幸薄い系少女。かなり無口。ドラムが上手い。現在シンに口説かれている。


・桐生海斗

三年生の先輩。軽音楽部の部長にして、バンド【クワトロ・ハーツ】のリーダー。ギターボーカル。トップクラスの容姿と歌唱力を持つイケメン。


・帆波藍那

二年生の先輩。軽音部の副部長。天真爛漫を形にしたような美少女。シンを気に入ってちょっかい出すが、ちょっとうざい。

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