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08:カップルはハイレベル

「それにしても、まさか例の騎士さんとサーラさんが恋人だったなんて、思いもよりませんでした。」

「恋人だったというか、恋人に“なった”というか…。」


 1週間ほど経ったある日、私とクレアは開店準備をしていた。例の出来事のあと、早速事情を聞いてきたクレアにはこの間ラン…ガーウェルさんに告白されたこと、そして晴れて恋人同士になったことを報告した。


 まさか私が、ローレンツとの恋路を観察していたクレアより先に恋人を作ることになるとは。人生ってわからないものだ。


「それで!昨日のデート、どうだったんですか?」

「で、デート…って言うほどでも無いんだけど…、普通に食事に行っただけよ。」

「それでそれで!?」


 グイッ!とクレアは距離を詰めてきた。その瞳はキラキラと輝いている。な、なんか少し前の心の中の私を見てるみたいで複雑だ。


「えっと、そうね…やっぱり、」

「やっぱり!?」

「…す、好きだなぁ…って、改めて思ったかしら。」

「きゃー!!素敵です!素敵です!サーラさん可愛い!」


 クレアは頰を両手で押さえてはしゃぎ回る。

 は、恥ずかしい…!なんだこのすごい羞恥は…!

 世の中のカップルってみんなこんな気持ちになってるの!?レベル高すぎない!?


「はぁ〜〜いいですねぇ…サーラさんが羨ましい…。」


 はしゃぎ回っていたかと思うと、クレアは頰を押さえたまま大きなため息をついた。私の恋愛センサーがピクリと反応する。


「…ローレンツとは最近どうなってるの?」

「どうもこうも…、どうにもなってないです。前まではお店に行けばローレンツさんが応対してくれてたんですけど、私が告白してから全く会ってくれてなくて…」

「えええ!?こ、告白してたの!?」


 それ大分どうにかなってると思うけど!?

 私の驚きに対し、クレアはキョトンとして首を傾げた。


「あれ?言ってませんでした?」

「ええ!まったく!」


 恋愛観察者(ウォッチャー)としてあるまじき失態だ。ガーウェルさんのことで頭がいっぱいになっている間に、他のカップルの重要な局面を見逃すなんて!!!


「サーラさん?どうしました?」

「いいえ…なんでもないわ…。」


 明らかに落ち込む私をクレアが心配そうに気遣う。

 今日からもっと観察に集中しないと…、とりあえず明日ローレンツの店に行って探りを入れて…。


「──こらこら。」


 これからの観察計画の予定を立てていると真横から声がかかる。この聞き馴染みのある声は、


「あ、オーナー!お久しぶりです!」

「久しぶりだね、クレア。元気にしてたかい?」

「はい!」

「アンタたち、話に花を咲かせるのはいいけど、手元が止まってるよ。」

「はーい!すみませーん!」


 そうクレアは元気よく返事をすると、作業を再開し始めた。さっきの恋に悩む乙女の顔は見る影もない。気にしていないのか、気丈に振る舞っているのか…。

 オーナーもクレアをやれやれといった様子で眺めると、わたしに向き直った。


「珍しいですね、この時間に来るの。」

「サーラ、今日はちょっとアンタに用があってね。奥へ来てくれるかい?」

「はい。」


 言われるがままオーナーな後ろへ着いて行く。一体なんだろう?

 奥の部屋へ着くと、オーナーはおもむろにあるものを取り出した。


「…イーサク酒?」

「これを騎士団に届けてもらいたいんだよ。」


 騎士団という言葉に内心ギクリとする。ガーウェルさんの姿が頭をかすめてしまう。


「この間ベアーリン退治にこれを使っただろう?それがあまりにもよく効いたから、イーサク酒の成分を調べて退治薬を作るんだってさ。」

「確かに…毎度毎度、退治のたびにイーサク酒を調達してる時間があるとは限らないですしね。」


 またイーサク酒を抱えて運ばれるのはごめんだ。

 あの後本当に大変だったんだから。


「向こうが取りに来てくれるって言ってくれたんだけどねぇ、正しい用法を知ってるアンタが届けて、ちゃんとそれを伝える方がいいと思ってね。」

「オーナーの言う通りですね。私、届けてきます。今から行っても?」

「ああ、もちろんだ。恩に着るよ。用意はもうできてるよ。」


 用意がいいオーナーは布とカバンを戸棚から取り出して渡してくれる。それを受け取ると、酒瓶が割れないように厳重に包んでその大きめのカバンに入れた。

 あっという間に届けに行く準備の完了だ。


「それじゃあ、行ってきます。届けに行くこと、クレアに伝えておいてください。」

「ああ、任せな。……それとねぇ、」

「?」


 オーナーは言葉を切ると、ニヤリと口角を上げた。


「アンタに配達を頼んだのはさっき言った理由の他にもう一つあってねぇ。」

「なんですか?」

「分からないのかい?すぐに気づくと思ったんだけどねぇ、なんせ()()()()()に行けるんだから。」

「っ!?」


 カァァと頬が熱を持つのが自分でも分かり、咄嗟に頰を押さえたがもう遅かった。


「な、なんで知って…!」

「さあ、なんでだろうねぇ。誰かさんが大きな声で話してたのかねぇ。」

「…さっきの会話、聞いてたんですね!?どこからですか!?」

「サーラが騎士と恋人になったって話からだったか、クレアがローレンツに告白したって話からだったか…」

「全部じゃないですか!!もう!からかわないでくださいよ!」


 カップルは冷やかすんじゃなくて、暖かく静かに見守るものでしょ!!


 いたたまれなくなって飛び出した部屋からは、「若いってのはいいねぇ!」と快活に笑うオーナーの声が聞こえた。


サーラよりも作者の方がガーウェルさん呼びに慣れてなかったりします。

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