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11:まさかの同類

「おじゃましまーす…。」

「そこに座ってくれ。」


一体何がどうして、こうなってしまったんだろう…。さっきも同じようなことを思って途方に暮れたけど、シリアス度が天と地ほどの差だ。

額から血を流しながら、初めてのドキドキお部屋訪問なんてする女、きっと私だけだろうな…ハハハ…。


乾いた笑いを漏らしながら、ここに至る経緯を思い出す。

鬼ごっこの末、地面と顔面でこんにちはをした私は、額を怪我した。血が滲む程度のかすり傷だったのだが、それを見たガーウェルさんに有無を言わせず彼のお部屋に連行された。

曰く、宿舎の彼の部屋に救急セットがあるから額の傷の手当てをしてくれるそうで。救護室とかは…と一応意見を言ってみたが、「どれだけかかると思ってる。」と一蹴されてしまった。そんな時間かからないと思うんだけどなぁ…と思いつつも、眉を寄せ、不機嫌そうなガーウェルさんに大人しく従うことにした。

「どうして逃げたのかたっぷり事情を聞かないといけないしな。」という不穏な言葉には聞こえないフリをして。


そういうわけで「ガーウェルさんのお部屋にドキドキ初訪問☆」なわけだが、正直そんな甘いものではない。むしろ「ガーウェルさんのお部屋でドキドキ初尋問☆」の方が正しい。


ガーウェルさんは救急セットを出してくるとかで、奥の部屋に行ってしまった。だから遠慮なく部屋を見させてもらう。すまんな、デリカシーなくて!


部屋はガーウェルさんの匂いで溢れていて、なんだか気恥ずかしい。部屋は整頓されていて、余計な物が一切ない……というか、ベット、クローゼット、イス、テーブル、…本当に必要なものしかなくて生活感が一切ないような。

そこまで考えてハッと思い当たる。

…そっか、2週間後にはここを発つんだもんね、生活感なんてなくて当然だ。今はもうほとんど荷造りが終わったってとこだろうか。


せっかく忘れてたことを思い出してしんみりしていると、ガーウェルさんが戻ってきた。


「ほら、怪我を見せろ。」

「……」


大人しく前髪をあげて額の傷口を見せる。

ずいっと綺麗な顔が近づいてきたかと思うと手早く治療を済ませていく。うわあ…まつげ長っ!!


顔が近いのをいいことに、心ゆくまで観察していると、ガーゼを貼り終え、未だに眉間にシワを寄せたままのガーウェルさんと目があった。


「…襲うぞ。」

「えっ」

「冗談だ。」

「アッ、ハイ。」


焦って声がうわずる。…目が本気(マジ)だったんですけど気のせいですか?

ガーウェルさんは消毒液やガーゼなどをしまうとこちらに向き直った。


「それで、説明してもらおうか。」

「えーっと…、あのですね、その、何から言えばいいか…。」

「団長に何を言われた?」


ピクリと肩が震える。苦笑いしていた顔は強張ってしまって。あの言葉を思い出して、堰き止めていたものが溢れ出しそうになる。


「…ガーウェルさんが、2週間後に、モントの砦に行くと言われました。…事実ですか?」


苦しい、苦しい、胸が苦しい。

否定してほしい、そんなの間違いだと、言って笑い飛ばしてほしい。

ガーウェルさんは真剣な表情を保ったまま告げた。


「…モントの砦に行くのは、事実だ。」


膝の上においた手に雫が数滴落ちる。

拭いても拭いても、はらはらと(こぼ)れ落ちてきてしまう。


「…なら、どうして私に告白したんですか?」

「…サーラ、」

「いなくなってしまうのなら、告白なんてしないで下さい。…こんな苦しい気持ち、知りたくなかった!!」


そう叫んだ瞬間、ガタンと音がして。

気づくと私はガーウェルさんにきつく抱きしめられていた。


「すまない、サーラ。」

「…いなくなってしまうガーウェルさんなんて、嫌いです。大嫌いです。」


嫌いと口は拒むのに、私の腕は彼の背中を縋るように抱きしめ返していた。


「…サーラ、よく聞け。」

「何ですか、別れの挨拶ですか。」

「違う。」


ガーウェルさんはフッと笑うと私の耳に口を近づけた。息がかかって少しくすぐったい。


「確かに俺はモントの砦に行くが、一生戻ってこれないわけじゃない。」

「……どういうことですか。」

「滞在期間は半年くらいだろうな。詳しい内容は言えないが、大した任務じゃない。」

「なっ、」


多分私は数秒ポカーンとしていたと思う。その顔を見てガーウェルさんは苦笑する。

な、な、そんな、それって、それって!


「そんな、そんな、それじゃあ今生の別れみたいに悲しんでた私がまるで馬鹿みたいじゃないですか!!」

「まあその、…それは、悪かった。」


歯切れ悪くガーウェルさんが謝る。

それならそうと早く言ってよ!!いや何も告げずに自分の中で片付けようとした私も悪いけどさ!!

はあ…さっきまでの自分を思うと本当に馬鹿みたいだ。


「…というか、そもそも団長さんが紛らわしい言い方するから…。」


ブツブツ文句を言う私に、ガーウェルさんも困ったような顔をする。


「あの人は、団長としては優秀な人なんだが、少し変な趣味があってな…これまで何人も餌食になっているんだ。」

「変な趣味?」

「ああ、なんでもわざと男女の仲をかき乱して、それを観察するのが趣味だとかなんとか…。」


なんちゅー迷惑な趣味!!ていうかそれって私の恋愛観察とほぼ同じ部類じゃん!カップルを温かく見守らないで敢えて当て馬や喧嘩のきっかけになる恋愛観察者(ウォッチャー)(闇落ちver.)じゃん!

人の良さそうな顔して、何という…。私はまた長いため息をついた。



次で最終話です。もう少しお付き合い下さい。

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