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その8


 西園寺邸に到着した清子は、大谷が運転する車を降りると、正門から30メートル位のところにある玄関口で、保と話している男性に目をやった。

「大谷、あれ、有川外務大臣だわ」

「まさかの登場ですね」


「いらっしゃいませ。どうしましたか?」

 玄関から門まで出てきた紗由が、二人の目の前に現れ、ニコニコ顔で聞く。

「紗由ちゃん! こんにちは」うれしそうに駆け寄る史緒。

「こんにちは、史緒ちゃん」

「紗由ちゃん、ごきげんよう」清子も微笑む。「ねえ、紗由ちゃん…恭介くんの送り迎えって、有川大臣がしていらっしゃるの?」

「有川のおじさまは、ひみつかいぎがだいすきなんです。きょうもきっと、けんがくです」

「けっこうミーハーなんですね」笑う大谷。「あ。それでは私はここで」


「うんてんしゅさんのかっこうも、おにあいですね」

「よろしければ、今度ドライブにお連れしますよ」

「じゃあ、こんど、しずおかまでおねがいしますね」

「静岡?」

「紗由ちゃんのフィアンセがおすまいなの」史緒が説明する。

「ああ、そうですか。わかりました。お供させていただきます。…では、清子さま、史緒さま、また後ほどお迎えに上がりますので」


「ひみつかいぎに来ないんですか?」不思議そうな紗由。

「この場で社長にお会いするのは…ちょっと困りますので」

「わかりました。おつかれさまでした」

 頭を下げる紗由に、大谷も丁寧に頭を下げる。

「史緒ちゃん、いこう!」

「はい!」

 スキップしながら玄関に向かう二人の後を歩きながら、清子は大谷を振り返った。

「帰りはハイヤーにするわ。少し休んでちょうだい」清子は少しうつむく。「もう、いいのよ、大谷。大丈夫だから」

「清子さま…」

 清子は背筋を伸ばし、小走りに前に進んだ。


  *  *  *


 京都から戻った進と、一緒に出てきた重治に会うために、東京駅まで出迎えに来ていた躍太郎は、改札へ入ろうと歩いてきた四辻絢子の姿を見つけ、声をかけた。

「おや、絢子先生じゃないですか」

「まあ、西園寺さん。ご無沙汰いたしております」笑顔で丁寧に頭を下げる絢子。

「ご出張ですか? 相変わらずお忙しくていらっしゃいますねえ」絢子が抱える大きな黒いバッグを見つめる躍太郎。

「貧乏暇なしですわ」


「そうだ。昨日の誕生日パーティーで、奏子ちゃんの手紙はいかがでしたか?」

「手紙?」

「ええ。華織が少しお手伝いをしてたんですよ。奏子ちゃんが、上手に読めるように練習に付き合ってくれと言ってきたらしくて。おばあさま代理を務めたと自慢気でしたよ、華織も」

 躍太郎の言葉に絢子の顔色が変わった。

「…実は、昨日は急用で家に戻れなかったんです」

「では、まだ手紙は?」

「手元にはございません。昼前にいったん帰宅はしましたが、5分程度で出て来ましたし、奏子は留守のようでした」


「そうですか。また近いうちにお戻りになれるといいですね。奏子ちゃんは本当にいいお嬢さんだ。おばあさま思いで」

「はい…」少し顔が曇る絢子。

「お急ぎのところ、お引止めしまして。どうぞお気をつけて」

「はい。奥様にもよろしくお伝えくださいませ。失礼いたします」

 躍太郎に一礼すると、足早に改札をくぐった絢子は、鞄をぎゅっと抱きしめた。

“…私は何ということを…奏子…ごめんなさい、ごめんなさい…。どうしたらいいんだろう…どうしたら…”


  *  *  *


 華織のマンションには、風馬夫妻と翼が集まっていた。多治見総研関連のコピーを精査するためだ。これまで、3人で集まれる日程がうまく調整できていなかったため、資料はそれぞれの手にはあらかじめ渡っており、今日はその精査結果を持ち寄る形になっていた。


「でも、こうやって似た力の持ち主が同じことを精査してみると、それぞれの特徴もはっきりしてくるね」風馬が翼にジュースを差し出す。

「面白い実験だなあ」ニッコリ笑う翼。

「それでも3人の意見は一致したということよね」

 澪がヨーグルトムースとコーヒーを運んできた。


「後からハッキングした3つのファイルは明らかなフェイク」翼が風馬を見上げる。

「そうだね。進兄さんも言ってた。簡単につながりすぎたって」

「つまり、3つのファイルのほうを重要と思わせたいってことよね」

「大人って、情報量の多いほうが重要な情報だと思ってしまうからなあ」翼がムースを口に入れた。「うわあ、おいしい、これ。奏子にも食べさせてあげたい」

「奏子ちゃんは今頃、探偵事務所の会議かしら?」

「はい。でも…夕べからちょっと元気がなくて…」


「どうかしたの?」

「夕べ、おばあちゃまの誕生日パーティーのはずだったのに、急な仕事で帰って来なくて。

 奏子はおばあちゃまに渡す手紙を一生懸命書いてたのに…。プレゼントにって、ママと一緒に化粧ポーチも頑張って作ってたのに」悲しそうにうつむく翼。

「まあ…。奏子ちゃん、がっかりねえ」

「母さんが言ってたな。絢子小母さんの代理で、手紙読みの練習を奏子ちゃんと一緒にしたって」

「それでなくても、おばあちゃまは忙しくて、一ヶ月に一度くらいしか戻ってこないから…」

「なるべく早いうちに、パーティーができるといいわね」

「はい。…あ、ごめんなさい。ファイルの話だったのに」

「いいの、いいの。そんなふうに気を遣わないで。ムースはたくさん作ってあるから、奏子ちゃんたちにお土産にしましょうね」

「ありがとう!」


「じゃあ、話を戻すけど、最初に偶然拾ってしまったファイルのほうが、情報としては信憑性が高い。この点は3人とも意見が一致だね?」

 風馬の問いに、澪と翼が大きく頷く。

「問題は、ここからだ」腕組みする風馬。「翼くんは以前会った事のある人たちの顔が浮かび、澪は最初のファイルをリークした人間の姿が見え…」

「風馬さんは、別のファイルのプリントが見えた」澪が後を続ける。

「澪が見た男、特徴は?」

「普通のサラリーマン。歳は40前後かしら。社章に“T”の文字があったけど、これはきっと多治見総研の“T”よね。あと、時計は手がかりになるかしら…白い文字盤に、黒い小さな文字盤が3つ…」


「澪ちゃん。イメージ、送って」

 翼が澪の手を取り、目をつむった。

「これ、アンティークだよ。ロレックスのデイトナ、6263」

「詳しいのね、翼くん」

「おじいちゃまのコレクションの中にもあったよ。おじいちゃま、ロレックスの時計好きだったから。他にも、サブマリーナとかミルガウスとか、たくさんあるよ」

「へえ…ロレックスのアンティークか。高そうだね」

「300万円以上すると思う」

「40前後だと課長クラスってところよね。ちょっと不似合いな感じもするわ、300万のアンティークを普段使いだなんて」


「そういうのを持っている人間は限られるだろうから、探すとき、かなりのヒントになる。ありがとう、翼くん」

「どういたしまして」ニッコリ笑う翼。

「じゃあ、次は風馬さんが見た別のファイルのプリントね」

「うん。これは、けっこう詳細に見えた。これが、その内容。再現してみた」

 風馬が二人にコピーを渡す。

「僕のイニシャルもある…」翼が風馬を見上げる。

「そう。これまでのファイルになかった、翼くん、翔太くん、龍のイニシャルもある」


「他にもあるわね…“TM”は竹田美智香ちゃんかしら。“OA”は…?」

「多分、織田綾乃ちゃんだと思う。奏子が年少さんだった頃は、紗由ちゃんちにも、よく来てたはず。もうずいぶん会ってないけど」

「どうして会ってないの?」

「転校しちゃったから。ただ…」

「ただ?」

「龍くんが奏子にプロポーズした、すぐ後だったから、まりりんは、失恋のショックで転校しちゃったんじゃないかって言ってた」


「あるかもしれないな、それ」

「ええっ?」澪が笑う。

「周ちゃんから聞いたことがあるよ。織田さんち、真面目に龍を狙ってたみたいでさ。織田先生から保叔父さんに働きかけもあったみたいだよ」

 織田先生というのは、以前、保の事務所の税理士をしていた綾乃の祖父のことだ。

「でも、龍くんが奏子ちゃんにプロポーズしたと言っても、結婚なんてまだ先の話でしょう? それですぐ諦めちゃうっていうのも、何か腑に落ちないわね」


「まあ…客観的に見て、奏子ちゃんは相手として申し分ないし、顔を洗って出直しというところじゃないのかな」

「“力”を付ければ、奏子に勝てると思ったのかな…」

「え?」顔を見合す風馬と澪。

「そうよね。このファイルに名前があるってことは、能力者だってことだもの…」

「じゃあ、また時機を見て復活か?」

「ねえ。織田家は、そういう家系なの?」

「違うと思う。おじいちゃまが亡くなった後に、誠さんが僕や奏子の周りの人間を全部精査したことがあって、綾乃ちゃん家は、お金の力で能力者を買って、人を支配しようとする家だから、ちょっと厄介だって言ってた」


「ふうん。兄さん、私にはそんなこと一言も」

「仕事なんだぞ。口が軽い“命”は困るだろ」苦笑する風馬。

「その精査に関しては、おばあちゃまとパパとママと僕しか知らないはずだよ」

「そうか。どうもありがとう、翼くん。今度、誠さんから、その辺りのことを詳しく聞いてみるよ。リストにある子を精査してるかどうか、現在との違いがあるかどうか、再精査してもらったほうがいいかもしれない」

「大地くんの名前がないのも気になるわね」

「大地くんも、まりりんも無くていいよ。名前はないほうがいい」

「翼くん…」風馬は翼の頭を撫でた。


「残ってる問題としては、翼くんの見た男たちね…」

「誰なのか思い出せなくて。おそらく、僕がうんと小さい頃に会っているんだと思うんだけど…」

「翼くん、無理しないで。過去を手繰るのって、けっこう疲れるのよね」

「そうだよ。翼くんはずいぶん頑張ってくれたからね。ちょっと一休みして、気分転換しようか」

 風馬がテレビのスイッチを入れると、ちょうど昼前のワイドショー番組が、京都からの中継をしていた。

 書家の九条清隆が仏像作家とコラボした個展を開くという話題だった。画面には彼が書いた“慈愛”の文字が大きく映し出される。


「あら。九条のおじ様だわ。久しぶり…」

「九条史緒ちゃんのパパだね」

「翼くんは史緒ちゃんとイマジカの会合で会ってるのよね」

「うん。僕、奏子よりお雛様っぽい子、初めて見たから、びっくりしたよ」

「確かにそうね」笑う澪。


「澪ちゃんは九条家と親戚なんでしょう?」

「ええ。一条の父と清隆おじ様の父親が従兄弟同士なの。でも、私が一条家に引き取られてまもなく、父はおじ様と仲たがいしてしまって、九条の先代のお葬式以来、会ってないわ」

「仲たがい?」首をかしげる翼。

「翼くんは会ったことあるかしら、西川未那先生のおじいさま」

「伊勢でこの前、診てもらった。身体がふわーってなって、すごかったよ」少し興奮したように言う翼。

「その西川重治先生はね、一条の神命医になることが決まってたのに、清隆おじ様が裏で手を回して横取りしたのよ。それで絶交」


「先生の調整、本当に気持ちいいからなあ…でも、横取りはダメだよね」

「そうね。まあ、今はもう九条の担当はしていらっしゃらないけど」

「今は花園先生なんでしょう? 前々回伊勢に行った時は、その先生だった」

「へえ。毎回違うのかい?」驚く風馬。

「うん。腕が悪いってわけじゃないんだろうけど、何か花園先生のやり方は好みじゃなかった。その時は奏子も一緒で、怒っちゃったんだ。“おにいちゃまに変なことしないでください!”って。例の“えいっ!”をやりそうになったから、焦っちゃったよ。それでなくても最近力が強いのに」


「医者が攻撃されてどうするのかしら…」澪が眉間にしわを寄せる。

「先代の花園もうそうだけど、あの家はかなり腕が立つって聞いたけどなあ」

「先代ができる人だと大変だよねえ、跡取りは」

 翼が小さく溜息をつくと、風馬は翼の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「僕たちも、気持ちはわかるよなあ。出来すぎた先代を持つ者同士」

「うん。風馬さんと僕は仲間だよね」

 笑いあう風馬と翼を見て、澪の顔にも笑みがこぼれる。


「大地くんともね、そういう話するんだよ」

「大地くんとかい?」

「うん。二人とも、おうちの仕事にあんまり興味がないから、ちょっと困ってるところが似てるんだ」

「そうか。翼くんは医者になるつもりはないんだね」

「おばあちゃまやパパには悪いけど、僕、パイロットになりたいんだ。おじいちゃまも頑張れって言ってくれた。いろんな世界を飛び回って、いろんな考え方を学べって」

「そうか…なれるといいね」


「うん。大地くんはね、会社の経営には興味ないみたい。まりりんが才能あるから助かったって言ってた。どっちかって言うと、大地くんがうちの子だったら、ちょうどよかったのかも」

「そうねえ…彼は医者に向いてるかも」

「それぞれの能力に合わせてシャッフルしたほうがいいかもな」笑う風馬。

「おじいちゃまも、そんなこと言ってたよ。そもそも四辻家は政治家の家系じゃなかったから、大変だったんだって」

「ああ…テレビの九条と同じく書家だったね」

「うん。書道は一応やってるよ、僕も奏子も。でも奏子のほうが上手」ペロッと舌を出す翼に、風馬と澪は思わず笑い出す。


「あ。ねえねえ、見て見て。史緒ちゃんの書も出てるわ!」

 テレビには“美少女天才書家”のテロップと共に、半紙に字を書いている史緒の姿が映っていた。

「うわ、すごいな。ただ飾ってあったら、幼稚園児の作品だなんて誰も思わないよ。しかも…文字のパワーがハンパない。聞いてないけど、彼女も能力者なのか?」

「そうね…すごいわ…これって。でも…彼女は力が出ていないって、昨日、清子さんが言ってらしたのよね?」

「うーん…」画面を見つめる風馬。

「あれ…?」

「どうしたの?」


「史緒ちゃんの横から半紙を持ち上げたおじさん。この人だよ! 僕が見たことのある人…」テレビに近づき画面を凝視する翼。

「九条の関係者か…澪、知ってる?」

「確か執事だったはず」

「じゃあ、昨日かあさんのところに来ていた彼の父親?」

「そういうことだわね」


「イメージ、澪ちゃんに転送するから、記録できるなら、してね」

 翼が澪の手を握り、そっと目を閉じると、その様子を風馬と澪が見守る。

「は、はい」

「うちのリビング…僕は…2歳半ぐらいだ…奏子はまだ生まれていない…その日は…おばあちゃまとパパとママでパーティーに出かけていて…僕はおじいちゃまとお留守番だった…」

「奏人先生と二人…」映像をなぞるように澪が言う。


「彼が尋ねてきた…おじいちゃまに話してる…おじいちゃまは…僕が小さいから居てもいいだろうって言って…僕はおじいちゃまの膝の上…彼は…この子が跡取りですかと聞いた……おじいちゃまは…もう、そういうのはやめようと思うって答えてた」

「やめる…?」

「彼は真っ青になって…話が違うと怒って立ち上がって…僕はびっくりして膝から降りて…おじいちゃまをいじめるなって叫んで…彼は…頭を抱えてうずくまって…」

「頭…」風馬が驚きの目で翼を見つめた。

「乱暴してすまないって、おじいちゃまは謝ってた…彼は箱を取り出して…おじいちゃまに渡した…僕は…おじいちゃまの膝に戻されて…眠くなって…目が覚めたら彼はいなかった…」

 翼は澪から手を離し、目を開けた。


「僕の知ってるのは、これだけ。彼に会ったのはその時だけだ。おじいちゃまとも、彼の話をしたことはない。て言うか、多分おじいちゃまは僕の記憶を封じたんだ…」

「そのようだね」風馬が頷いた。

「翼くん、大丈夫? 疲れたんじゃない。今日はこのくらいにしておきましょう。残りをたぐるのは、風馬さんと私でやるわ」

「風馬さん。僕、奏子みたいに“えいっ!”て出来たんじゃないかな。おじいちゃまは、それも封じたんだ」淡々と言う翼。

「…かもしれないね」


「澪ちゃん。僕、今日はこれで失礼するね。そろそろ奏子を迎えに紗由ちゃん家に行かないといけないし」

「そうね。送っていくわ」

「大丈夫だよ。歩いて5分ちょっとだもん。クールダウンするのにちょうどいいから」

「そ、そう…?」澪はどこか心配そうだ。

「わかったよ、翼くん。今日はどうもありがとう。また来てもらうかもしれないけど、よろしくね」

 風馬は、澪が何か言おうとするのを遮るように翼の前に立ち、肩に手を置くとゆっくり背中をひとなでした。


「ああ、そうそう。最後に一つだけ。奏人先生の石は最近どう?」

「おじいちゃまの石?」

「そう。今は翼くんと一緒に、伊勢と四辻家を行ったり来たりしてるんだよね?」

「僕がテストされてるっていうか、伊勢に採点してもらってて…」

「石に変わった様子はあるかい?」

「うーん…おばあちゃまが時々触ってるようだけど、そうするとちょっと様子が変わるかなあ」


「どんなふうに?」

「うちの石は、僕と奏子にしか懐いてないんだ。他の人が触ると嫌がるの。ママは石を管理してるから、行事がある度に触りはするんだけど、すごく気を遣ってるよ」

「そうか…いや、何かあった時への備えということで、四辻と一条と西園寺の石を再調整しようかと思ってね」

「じゃあ、石の様子は報告するようにするね」

「うん。ありがとう」

 風馬は翼の頭を撫でると、ドアのほうへと促した。


  *  *  *


 翼を見送った後、澪は難しい顔でソファに座り込んだ。

「翼くんが気になるのかい?」

「…かなり力が増してるわ。しかも急激過ぎる」

「まるで封印を解かれたみたいに…かい?」

「風馬さん…」

「沖縄で封印を解かれた保叔父さんみたいだ」

「そうね」

「叔父さんの場合はいい。元々のポテンシャルも高いし、母さんがその都度調整してる」


「でも、翼くんは…もう、奏人先生もいないわけだし…」

「誠さんと母さんでするしかないだろうね。母さんは沖縄以降も翼くんと接する機会が何度かあったはずだ。変化に気づいていないはずはない」

「兄さんも気づいていないはずないわ。私でもわかるレベルよ。それなのに…」

「二人とも何も言っていない。というか、何もしている様子はない」

「つまりそれは…手を出してはいけないということ?」

「だろうね。計画された封印と、計画された解放。その後を見る者がいるということだ。おそらく、そこまでが奏人先生の仕込みなんだよ」


「誰が見るっていうの? それに翼くんのことは、伊勢が毎月診ているのよ。やたらなことをしたら、すぐにつかまるわ」

「伊勢が診ていると言っても、実際に“命”や“弐の位”の状態をチェックしているのは、西側の“命”だったり神命医だったりするわけだから、その人たちより力が上の人間なら、見つからないように翼くんの力を調整できるさ」

「でも、上となると、かなり限られるわ。東側だと、お義母さま、うちの兄さん、村上先生、大徳寺先生。西側なら、九条の“命”、先代の三条の“命”、重治先生あたりかしら」

「あるいは現命宮の3人だな」

「命宮…まさか四辻の?」

 澪が風馬の腕をつかんだ時、リビングのドアが開いた。


「風馬。人使いが荒くて申し訳ないんだけど、これも見てもらえないかしら?」

「母さん!」

「澪ちゃんはいいわ。無理をして体にさわるといけないから」

「…このDVD、四辻の?」

「あら。随分とピリピリモードね。そんなに“開き続ける”ものではなくてよ」

「気をつけるよ。でも、これを見る前に聞きたいことがある」

「お断りします」

「え?」

「そのDVD、欠けている部分があるように思うの。詳細をたどってちょうだい。私は重治先生と合流して紗由のところへ行ってくるわ。今日は有川先生もおいでだし、ご挨拶してこないとね。あなたの話はそれからよ」

 華織は微笑むと、振り返らずにリビングを出て行った。


  *  *  *


 紗由たちの秘密会議会場では、ちょっとしたトラブルが起きていた。奏子がいつになく元気が無く、会議が進まなかったのだ。

 だが、今回の依頼者である史緒のアドバイスにより、奏子は元気を取り戻し、かつその直後、華織が奏子を別室へと呼び出し、秘密会議はいったん中断したような形になっていた。

「はあ。よかった、よかった。奏子ちゃんがげんきになってくれて」真里菜が溜息をついた。

「うん。史緒ちゃんのおかげだね。ありがとう」紗由が史緒の手を取った。

「いえ、そんな」

「てがみをおくるっていうのは、いいアイデアだよね」恭介も賛同する。

「おてがみよんでるところを、とっておくっていう、恭介くんのアイデアもいいしね」

 真里菜に褒められた恭介は嬉しそうだ。

「おねえさまに、いつもおてがみをおくってましたから。きょうとと、とうきょうは、はなれてましたから」


「史緒どののおかげで、げんきになったのはよいのでござるが…」

 充がつぶやくと真里菜が答える。

「華織おばさまのおよびだしは、ちょっとこわいね。おむかえに来た翼くんもよばれたし…」

「それに、ドアのそとにおじいさんいたよね。だれ?」恭介が紗由に尋ねる。


「しげじーだよ!」悠斗が変身ポーズをしながら入ってきた。

「悠斗くん! おそかったじゃないの」

 真里菜が頭を撫でると、悠斗はうれしそうにしがみつく。

「あれ。未那どのは?」キョロキョロする充。

「ママはげんかんまでだよ。おしごとあるから」

「ふうん…」つまらなさ気な充。

「あとでおむかえに来るわよ」真里菜が充をジロリと睨む。「それより、さっきのおじいさん、悠斗くんの知ってるひと?」

「悠斗のママのおじいちゃん」


「まあ。ぼうやは西川せんせいの…おまごさんの、もっと子どもさんですのね」史緒が悠斗に近づく。

「おねえさんは、九条史緒ちゃん?」

 悠斗が尋ねると、史緒はにっこり笑って頭を下げた。

「西川せんせいは、九条のおうちのしゅじ医で、史緒がようちえんにはいるまえ、おせわになりました」

「ふうん。史緒ちゃんちのおいしゃさんだったんだあ」紗由が興味深げに言う。

「悠斗くんち、ママもおいしゃさんだよね」

「恭介どの。ただのおいしゃではござらぬ。“びじんじょい”でござるぞ!…あ、いや、和歌菜どのと、いいしょうぶともうしますか…」


「ほお、西園寺。悠斗くんのママはそんなに美人なのか?」

 保護者組の女性陣の目を気にしつつ、耳打ちする有川。

「かなりね」呆れたように有川に言う保。

「何が“かなり”なんですの、総理?」

 清子が微笑むと、保はしらっと答えた。

「悠斗くんのママの未那さんは、かなり腕のいい医者なんですよ。うちの息子の会社の産業医をしてましてね。それ以外にも、義兄の経営するフィットネスクラブのほうのスポーツドクターもしてもらってるんです」


「まあ…そうなんですの。未那先生…ここにはお見えではないんですのね。ご挨拶したかったですわ。実は私、先生が大学生の頃にお目にかかったことがありまして、お優しくしていただきましたの。それに、とても華やかな方で憧れましたわ」

「九条さんの清楚なお美しさと、いい勝負というところなんでしょうねえ。きっと」

「まあ。有川先生に、そんなふうにおっしゃっていただけるなんて…」慎ましげに微笑む清子。

「九条さん。お気をつけになられたほうがよろしいわ。有川先生、お美しいお嬢さんには目が無いんですのよ。…まあ、実際にどうこうという訳でもないようですけど」

 珍しく真里菜の付き添いで来ていた和歌菜が微笑む。


「ははは。和歌菜さんはね、昔から手厳しいんですよ。言い寄る隙も見せてくれませんでしてね」

「ほらね。こうやって、すべての女性を取り込もうとなさるんですの。私、先生への票は99%女性票だと思ってますわ」

「そのご意見には賛成ですよ、和歌菜さん。有川が羨ましい限りです。女性票は大切ですからね」保が微笑む。「生憎と私は、マスコミのアンケートその他では、女性票が足りないという評価らしい。後援会で働いていただいている和歌菜さんには、ご苦労をおかけして申し訳ないです」

「いえ、そんな…」心なしか頬を赤らめる和歌菜。


「でも、意外ですわ。私、総理の場合、200%女性票かと思っていました」清子が微笑む。

「いやいや、女性に不人気なわけではなくて、予想以上に男性にも人気なんですよ」有川がフォローする。

「有川先生をはじめ、すばらしい内閣を布陣されていらっしゃることも、その一つの要因なんでしょうか。私が男性でも、総理を支持させていただきますわ、やはり」

「九条のお嬢様にそんなふうに言っていただけるなんて、心強い限りですわね、保先生」

「いえ、そんな…恐縮でございます」


「ねえ、清子さん」愛想よく名前で呼ぶ和歌菜。「もう、決まったお相手がいらっしゃるのかしら」

「いえ、まだ…」

「まあ、そうなんですの?」和歌菜が身を乗り出す。「でしたら、一度、私の家にいらっしゃいませんこと? 若い方々の交流を図るサロンのようなことをしていますの。来週の土曜日、ご都合いかがでして?」

「あ…特に都合はございませんが」

「じゃあ、決まり。ご招待させて下さいましね。しばらく東京にいらっしゃるのでしたら、お友達作りによろしいかもしれませんし」

「…ありがとうございます。楽しみにしております」

 清子は内心、自分が久英社のギャルモデルだと知ったら、和歌菜はどんな顔をするのだろうかと思いつつ、丁寧に頭を下げた。


「ねえ、紗由ちゃん。奏子ちゃんが行っちゃったら、ひみつかいぎどうなるの?」

「うーん。ここはしばらく、ようすをみましょう」腕組みする紗由。「おやつをたべて、まつしかないですね」

「もう、おなかいっぱいだよ…」

 恭介がぶつぶつ言うと、紗由はニッコリ笑った。

「じゃあ、これからは、紗由が恭介くんのおやつ、ぜーんぶたべてあげますね」

「ええ…」とたんに涙目になる恭介。


 その時リビングのドアが開き、賢児が真琴を、玲香が聖人を抱きかかえながら入ってきた。

「皆さん、いらっしゃいませ」

「あー! まーくんとまこちゃんだ!!」

 紗由、真里菜、充、恭介の4人は、ドア近くのスプレー式消毒剤が置かれたテーブルに一斉に駆け寄り、せっせと手を消毒する。

 史緒は、何が起きたのだろうかと思いつつも、紗由たちのまねをして手に消毒スプレーを振り掛ける。


 賢児と玲香が有川たちに挨拶をしている間、紗由たちはその傍らで話が終わるのを並んで待っていた。

「有川先生、和歌菜小母さま、いらっしゃいませ」

「賢児、玲香さん。こちら、九条清子さんだよ」

「初めまして」

 賢児が笑顔で頭を下げると、玲香は不思議そうに賢児にささやいた。

「賢児さま。昨日お会いしたばかりです…」

「え?」

 賢児は、微笑む清子の顔をちらりと見ながら、腕の中の真琴を保に渡し、玲香の腕の中の真琴を和歌菜に渡すと、「ちょっとよろしいですか」と言って、少し離れた窓際へ清子を招くと、改めて声をかけた。


「あの…昨日お会いしましたでしょうか?」

「…ええ、まあ」

「昨日も史緒ちゃんの付き添いでいらしてましたよね」玲香が微笑む。

「はい…」

「えーっ!!」

「どうした、賢児!」

 保が叫ぶと、双子にわらわらと集まっていた子どもたちもびっくりして振り返る。

「い、いや、何でもない。すみません」一礼すると改めて清子を見つめる賢児。「…あのう…昨日とはずいぶん感じが違っていらっしゃいますね」

「昨日はモデルの仕事の後でしたので、メイクやヘアスタイルは、そのままでお伺いしてしまいました」


「賢児さま、ほら、久英社の雑誌のモデルさんです。ミニーマウスみたいなヘアーとメイク、雑誌で拝見したことがあります」

「こんなに違うのに、どうしてわかったわけ?」玲香に尋ねる賢児。

「一応、私の手元にはお子さん方の同伴者のお名前もありましたし、先ほどお名前もお聞きしましたから…」

「そうか。“せいこ”さんじゃなくて、“さやこ”さんなんですね」

「はい」

「久英社のモデルさんということは、和歌菜おばさまや、まりりんとも親しいんですか?」

「いいえ。奥様とは初対面です。まりりんちゃんとは何度か会ってますが、このバージョンは初めてなので、まだ気づいていないようです…」


「まりりんが気づかない?」

 賢児は首をかしげると、真里菜を手招きした。

「なあに、賢ちゃん」

「この人の正体教えて」賢児は真里菜の耳元でささやいた。

「んー?」

 不思議そうに賢児を見上げる真里菜に、賢児は彼女の鼻先をちょこんと触る。

「いまねえ、ちょっとおはながつまってるの。…史緒ちゃんのおねえさまでしょう?…おきものは…たかそうですね。べつに、あやしいにおいは…」

 そう言いながらクンクンと清子に近づいた真里菜は、次の瞬間、動きが止まった。

「どうした、まりりん?」

「あ、あれ?」


 傍らのテーブルのティッシュを取って、そっと鼻をかむと、再度、清子に近づく真里菜。

「…! あーっ!!」

「どうしたの、真里菜!」

 和歌菜が叫ぶと、子どもたちもびっくりして振り返る。

「な、何でもない。ごめんなさい」一礼すると改めて清子を見つめる真里菜。「…あのう…きのうとはずいぶんかんじが…」

「昨日はモデルの仕事の後でしたので、メイクやヘアスタイルは、そのままでお伺いしてしまいました」

「ループしてますね」笑う玲香。

「ほんとうに、あの、あたまのわるいMinnieちゃんですか?」

「はい。そうです」品良く微笑む清子。


「うわー。へんそうのめいじんだー…」

「ありがとう」

「でも、どうしてへんそうしてるんですか?」

「悪者に追われないように…なあんてね」

 ふふふと笑う清子を、真里菜はじっと見つめた。

「じゃあ、たんていじむしょで、わるものをやっつけます」

「あ、ありがとう…」

 複雑な表情になる清子を、離れた席から有川が見つめているのに、玲香は気づいたが、何も言わずに清子と真里菜を皆のほうへと促す。


「うちの子どもたちと遊んでください」

 清子が史緒を目で追うと、史緒は紗由たちの少し後ろから、興味深げに双子たちの様子をうかがっていた。

「史緒ちゃんも、ほら! まーくんと、まこちゃんだよ」

「は、はい」

 紗由に促され、聖人のほうへ、そーっと手を伸ばすと、聖人はその手をギュッと握った。

「うわぁ」思わず声を上げる史緒。

「あー」嬉しそうに笑う聖人。

「わあ…かわいい。…すごぉい! あかちゃんなのに、おはなしもできるんですね。こんにちわって言ってます」


「まあ。史緒ちゃんは、まーくんとおしゃべりできるのね。仲良くしてあげてね」

 玲香が微笑むと、史緒は恥ずかしそうに頷く。

「じゃあ、ほら。真琴ともお話してあげてね」賢児が真琴の手を史緒に渡すように差し出した。

「はい!…まこちゃんは…パンがすきなんですね」

「…よくわかるねえ」

 リビングに来る前に、玲香が二人にパンのおかゆを食べさせていて、真琴がかなりご機嫌な様子だったので、賢児は内心驚いていた。

「パンのにおいするもんね」

 真里菜が言うと、賢児はくんくんと鼻を鳴らす。


「うーん。匂い…するかなあ?」

「するよ。きょうは、ちょっとおはなのちょうしよくないから、なにパンかまでは、わかんないけど」

「もう。真里菜ったら、食いしん坊さんねえ」笑う和歌菜。

「ええっ。紗由ちゃんほど…」じゃないと言いかけ、慌てて両手で口をふさぐ真里菜。

「ひ、姫ほどたくさんのしゅるいのパンのにおいは、わからぬでござるよなあ。龍どのににて、姫のきおくりょくは、すごいでござるし」

 充の言葉に、恭介、賢児、保、有川の4人が心の中で一斉に“ナイスフォロー!”と叫んでいた。

「だって紗由は、たべたおやつ、ぜんぶにっきにかいてるし、いくらかかったかも、かいてるし」自慢げに言う紗由。


「見たことあるのか?」有川が保に尋ねる。

「いや…正直、あまり見たくない気もするが…」

 一同は、どれだけの量が記録されているのか、食費がどれだけかかっているのかと、その日記の中身に思いをはせた。


  *  *  *


 華織は、翼と奏子に紅茶とキャンディーを差し出した。

「翼くん、奏子ちゃん、ごめんなさいね。こちらへお呼び立てして」

「いいえ。僕のほうはタイタンルチルのことですよね」

「ええ、そうよ」

「ところで…西川先生のいるところで、話をしてもいいんですか?」華織の耳元でささやく翼。

「かまわなくてよ、翼くん」

「四辻の“弐の位”は、わしを気にしていらっしゃるようですな」

「あ、いえ…」

「いいことですぞ。“命”にとって用心深さは大切な資質ですからな」

「ありがとうございます」


「今日はね、重治先生にもお話を聞いていただきたいと思っているの。心配せずに話をしてちょうだいね」

「わかりました」

「それで昨日の伊勢は、いかがだったのかしら?」

「“命”さまのおっしゃるとおり、昨日は誠さんについてきてもらいました。麻那先生も一緒でした」

「麻那ちゃんも…」ちらりと重治を見る華織。「で、伊勢は何か言っていて?」

「誠さんに関しては、今後も頼めないかということで、伊勢のほうがお願いしてました。うちのパパだと力不足みたいです。僕の状態を詳しく説明できないし。

 あと、九条の“命”さまに会いました。誠さんの親戚みたくて、お話ししてました。その人が、すごく喜んでいました。“君と西園寺が見守ってくれれば四辻も安泰だね”って言って」


「誠さんは何とおっしゃっていて?」

「“あなた方の協力ももちろん必要ですが”と言いました。そうしたら九条の“命”さまは“その点も含めて、先代にお会いできますか”って誠さんに聞きました」

「誠さんのお父様に会いたがっていたわけね」

「誠さんのお父さんは、火曜日に日本に来るそうです。2週間ぐらいいるということでした」

「あら、そうなの?」

「はい。でも、九条の“命”さまは当分伊勢を出られないので、誠さんがお父さんを伊勢に連れて行くみたいです。“いい機会だから、神命医の担当分担を、公正に考え直しましょう”と誠さんが言ってました」

「まあ。ずいぶんとストレートだこと」笑う華織。

「麻那先生を守るためかなあと思いました。麻那先生、何か面倒に巻き込まれそうな気配がしてたし。あ…すみません」

 翼はまずいことを言ったかなと思い、慌てて重治に頭を下げた。

「いやいや、お気になさらず」


「タイタンルチルのほうは、どんな様子かしら」

「まだ伊勢にあります。…僕が伊勢を出た直後に、奏子が、“あの子がお家に帰りたくないって言ってる”と電話してきたので、誠さんと相談して、伊勢に置いてくることにしました」

「手ぶらで帰宅したの?」

「誠さんが、あの子の代わりに伊勢から別のタイタンルチルを借りてくれました」

「その子は今、おうちかしら?」

「はい。誠さんちの石と一緒に、うちの石も調整するんですよね? ママが今日リストを作るって。今までの様子を書いたノートもコピーするって言ってました」

「そう…わかりました。どうもありがとう」


「じゃあ、次は奏子ちゃんね」

「はい」

「元気になりましたか?」

「はい! 史緒ちゃんや恭介くんが、いいことをかんがえてくれました」

「よかったわねえ」

「まりりんがいっぱいなぐさめてくれて、紗由ちゃんがひみつかいぎより、奏子のことをはなしあおうって言ってくれて、充くんは、けんがくの人たちがたいくつしないように、おもしろくないおやじギャグをいっぱい言ってくれました」

「面白くないギャグ…」

 奏子の正直すぎる感想に、うつむき肩を震わせる華織。


「あ…」奏子が自分の失言に気づく。「あの…とってもふんいきのある、おやじギャグでした」

「そう。仲良しで羨ましいわ。…ところで奏子ちゃん。奏子ちゃんは、石とどんなお話をしたのかしら。石はどうしてお家に帰りたがらなかったのかしら」

「…わかりません。でも、“たすけて”って言いました」

「そう…」

「今は伊勢にあるから、“命”さまも探れないんですか?」

「そうねえ」華織が笑う。「今は京都方面の“命”たちが集まる時期だから、私がやたらと手を出すわけにもね…石に近づくのは難しいと思うわ。ここは、元々京都の出である一条家の“命”にお任せすることにするわ」

「僕は持ち主だから大丈夫ですよね。誠さんがお父さんと伊勢に行くときに一緒に行きますから、何をしたらいいか教えてください」

「翼くん…とっても頼りがいがあるわねえ。じゃあ、奏子ちゃんにもなんだけど、お願いしたいことがあるの」

 華織はバッグの中から、一通の封筒を取り出した。


  *  *  *


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