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その4


「和歌菜ちゃん、ごめんなさいね。お忙しいところ、お邪魔してしまって」

 久しぶりに“ちゃん付け”で名前を呼ばれた和歌菜は、少し驚きながらも、昔のように返事をした。

「気になさらないで、お姉ちゃま」

「今日は、ご相談とお願いに上がったの」

「お願いなんて、お姉ちゃまには似合わないわ。さっくり命令してくださって結構よ」楽しそうに和歌菜が笑う。

「…あら、でも昔、私が保ちゃんのお嫁さんになってとお願いしたとき、あなた断ったじゃない」

「いやだわ、お姉ちゃま。根に持っていらっしゃったの?」

「うーん、そうねえ…その理由を、きちんと確認しに来たのかもしれないわね、ある意味では」

 華織の言葉に、和歌菜はしばらく空を見つめた。


「お姉ちゃまのお考えの通りよ。うちの母は“禊”の血を濃く受け継いでいるわ。当時は、“お姉ちゃまのところ”と混じるわけにはいかなかった」

「もしかしたらとは思ってたんだけど…。“こちらのほう”は、その頃、その辺りのことを個別に情報をもらえなかったし、個人的にたどることは禁止されていたものだから…」ため息をつく華織。

「縁談をいただく1年くらい前かしら、両親から強く言われたの」

「保ちゃんのことを慕っていたはずなのに即日断られるなんて、おかしいと思ったのよ。

 …まあ、久英社の主になるには保ちゃんは確かに力不足だったと思うから、そういう意味では断られても仕方なかったかもしれないけど」


「そうね。保お兄ちゃまは、事業家には向かないわ」大声で笑う和歌菜。「中学の頃から、国の政治に関われる人間になりたいって、言っていらしたし、今、国を統べるお立場になられて、私はすごく満足してます」

「そうね…あの時、和歌菜ちゃんがお嫁さんになってくれてたら、西園寺総理は誕生しなかったのかもしれないわね」

「うふふ。私、もしかしたら国民にとって最大級の恩人じゃなくて?」

「そうね…歴史に名を残す女かもしれなくてよ」華織も、うふふと笑う。


「あ、でも、ご心配なさらないでね。私、直哉と一緒になってよかったと思ってるの。

 会社のことを本当によくやってくれてるし、両親にもよくしてくれたわ。瑞樹の面倒もよく見てくれている」

「ええ。それはもちろん承知しているわ。皆さん、お幸せそうですもの」

「女癖には少々難ありだけど、でも、ある意味、人がいいのよね、彼。頼られると放っておけなくて、やっかいなことになっちゃうの」

「お優しいものね、直哉さん」


「それにね、保お兄ちゃまとの縁談があったときに“覘いた”のだけど…あ、ごめんなさい、お姉ちゃまたちには、わかりにくい用語かしら。

 この場合の“覘く”は“薙ぐ”前の調査。時間を越えて一定の場面を垣間見ること。結果次第では、“覘いた”ものを“薙ぐ”ことになります」

「大丈夫よ。今は多少お勉強済みだから。薙ぎ倒すの“薙ぐ”ということね?」

「ええ、そう」再び笑う和歌菜。

「“禊”の方々は、きれいにお掃除するのがお得意なのよね」

「リセットするしか能がないのよ。そのために記憶を消し去るの。

 結果、政治家たちの会合の内容を変えてしまって、総理を交代させたり、一定の視点から邪魔な人間を引退させてしまったり、目に見える部分だけで言えば、かなり怖いわ。人の思い出を奪い取るのよ」


 華織は「じゃあ、四辻先生も?」という言葉を発しそうになって、飲み込んだ。

「じゃあ大地くんのヒーリング力は、病気を消し去る、つまり“薙いで”いるわけで、山階側というより、あなたのお母様の系統だったのかしら。まりりんの力は、“薙ぐ”前の調査能力“覘く”の一種」

「どうなのかしら。私の力は母に比べたら微々たるものだし、正式に認められてもいなかった。夕紀菜たちにはまったく気配がなかったし、孫たちにまで行くものかどうか…」

「小母様がお亡くなりになった後、“禊”の方々とのつながりはあるの?」

「いいえ。子どもたちは私以上に力がなかったし、特に連絡もありません。母も抜けたがっていたから、私以下、力が無かったことを喜んでました」


「そう…。あ、ごめんなさいね。話の腰を折ってしまって。保ちゃんとの縁談が持ち上がった時、覘いてみたのよね」

「ええ。母が覘いてみたんだけど…私は自分では薙げないけど、母と一緒になら“覘く”ことはできたの。可愛くてたおやかな女性の姿が浮かんだわ。お兄ちゃまの隣にいたの」

「麻美ちゃんのことね?」

「この人なら、お兄ちゃまを任せられるって思ったわ。私のお役目はこの二人と、お兄ちゃまの夢を応援することなんだって」


「ありがとう、和歌菜ちゃん。本当に感謝しているわ、あなたには。

 後援会の実務面でも、金銭面でもかなりの援助をしていただいたし、麻美ちゃんにも、とってもよくしてくださったもの」

「お兄ちゃまは、ちょっと胡散臭く思っていらしたかしらって思うんだけど、まあ…いいわよね」華織を見つめて、くすりと微笑む和歌菜。

「そんなこと…。保ちゃんは本当にあなたに感謝していてよ。昔も今も」

 華織が力を込めて言うと、和歌菜は深く深呼吸をした。

「では、西園寺さん。改めてご用件をおうかがいしますわ」


  *  *  *


「遅くなりました」

 哲也と弾が息を切らしながら、進の部屋へやってきた。

「二人ともお疲れ様。出張から戻ったばかりで悪いな。哲也は久我家からもお呼び出しがかかってるんだろ。休む暇がなくてすまない」

「いえ。大丈夫です。でも、びっくりしました。進さんから調べるよう指示があったのが3年近く前ですからね。正直、忘れていたりもしたのですが、まさか、ここで出てくることになろうとは…」

「そうですよね。これまで集めた資料もけっこうな量になります。僕が新聞社にいた頃からですし」

 弾がテーブルの上に鞄から出した資料を積み上げた。

「まあ、出てこないに越したことはなかったんだがな。二人とも、ひとまずお茶でも飲め」カップに紅茶を注ぐ進。


「ああ、すみませ…ん??」

 上着を脱ぎ、哲也がカップを手に取ろうとテーブルを見ると、そこにはソーサーしかなく、横に座った悠斗が、ちゃっかりカップを手にしていた。

「うーん、いいねえ、おいしいねえ。カメンライダーも、これすきだなあ」

「悠斗! おまえのじゃないだろ! ほら、“ごめんなさい”は?」

 元々、強面の進がきつい口調で言うので、悠斗があっという間に泣き出す。

「いや、進さん、いいですから、そんな…」

「…すまない、哲也。そこのカップ使ってくれ。ほら悠斗、向こう行ってろ。パパたちはお仕事なんだからな」

「やだ」


 進は悠斗を肩にヒョイと担ぎ上げ、リビングのほうへ連れて行く。肩の上で暴れる悠斗。

「やだ! やだあ!! ゆうともおしごとするの!!」

「ほら、こっちで遊んでろ。未那、悠斗を見ててくれ」

「あら、どうしたの?」

「哲也に出した紅茶を勝手に飲んだ」

「んもう。悠斗、ダメでしょう、そんなことしちゃ。ちゃんと“ごめんなさい”はしたの?」


「きんいろのかんのはっぱだよ、ママ」未那の膝に乗り、悠斗が言う。

「えーっ!」

 未那は進を鋭い目で見上げた。

「ずるいわ、進ちゃん。金色缶は華織さまからの結婚10周年のプレゼントなのよ。勝手に開けるなんて!」

「たまたまだよ」

「そういう問題じゃないでしょう? 特別な葉っぱなのよ?」

「…わかった、わかった。すまない。おまえには後で入れてやるから、とりあえず悠斗を見てろ」


 悔しそうに見上げる未那から目を逸らすと、進は書斎へ戻っていった。

「うーん、何か悔しいわ」

「うん、ママ。とってもおいしかったよ」

「悠斗、ずるーい!」口を尖らせ、怒りが収まらない様子の未那。

「わかったよ。ママのぶん、もってくるから」

 悠斗はそう言うと、そーっとリビングの扉を開け、ゆっくり進の書斎に近づいて行った。


  *  *  *


「すみませんでした…」

「いや、おまえのせいじゃないから。こちらこそ、悠斗の躾がなってなくて申しわけない」頭を下げる進。

「悠ちゃん、紅茶好きですもんねえ」紅茶をすすりながら言う弾。「うわあ…これは美味しいや」

「確かに美味しいですよ、これ。ありがとうございます。…ちょっと落ち着きました」微笑む哲也。「悠ちゃんの美味しそうな顔も見られて満足です」

「…また見られそうですよ」哲也の耳元で囁く弾。

「ん?」


 哲也が辺りをきょろきょろと見回し、最後に自分が座っているソファーの足元に目をやると、その横にあたる部分、テーブルの下に座って、ちゃっかり先ほどの紅茶を飲んでいる悠斗の姿があった。

「悠斗!」気づいた進が叫ぶ。

「きゃー!」

 悠斗がカップを守りながらテーブルの下を抜け出し、リビングへと走り去った。


「まったくもう…」ため息をつく進。

「ママの分を取りに来たんじゃないですかね」弾が笑った。

「親子して、何やってんだか」

「未那さんと悠斗くんにも参加してもらったらどうですか」哲也が言う。

「そうですよ。僕は悠斗くんの意見も聞いてみたいです。今まで見た夢で関係しそうなものがあるかどうかも確認したいし…」弾も賛成する。

「悠斗の夢は、一応聞き取れた分は記録してあるが、直接確認したほうが早そうだな」

「じゃあ、呼んできますね」

 弾は立ち上がり、リビングへ向かった。


  *  *  *


「ああ、美味しい」

「おかわり!」

「おまえら、ティータイムにお呼びしたわけじゃないんだぞ」

 進が憮然とした様子で言うが、未那も悠斗もニコニコ顔でクッキーを頬張っている。

「クッキー、おいしいねえ。紗由ちゃまの“うんこクッキー”より、やっぱりパパのクッキーがいいなあ」

「…未那。ここは、喜ぶところなのか?」

「もちろんよ。紗由さまより評価が上なんて、すごいわよ」微笑む未那。


「そうだわ。ねえ、悠斗。前から思ってたんだけど、真里菜ちゃんは“アネゴ”、奏子ちゃんは“マドモアゼル”って呼ぶのに、何で紗由さまのことを“姫”って呼ばないの?」

「ぼくのおひめさまはママだけだから」ドヤ顔で言う悠斗。

「いやーん…悠斗ぉ」未那が思い切り悠斗を抱きしめた。

「誰に似たんだろう…」首をかしげる弾。

「たぶん、曾おじいさんだろ」つぶやく哲也。


「だから、パパとわかれてね」

「え?」皆が一斉に悠斗を見つめる。

「ぼくは、まなちゃんとわかれたんだよ。ママもパパとわかれないと」

 きりっとした眼差しで未那を見つめる悠斗。

「おい、悠斗」進が苦笑いしながら、悠斗を抱き寄せた。

「…じゃあ、麻那ちゃんのところに戻っていいわ」あっさり言う未那。

「え?」今度は未那に視線が集まる。

「でも、まなちゃん、およめさんになるし…」悠斗が泣きそうな顔になる。

「ママは絶対にパパと別れないから」

「うー…」


「ああ、悠ちゃん。ほらほら、いい子いい子」哲也が悠斗を抱き上げながら尋ねた。「麻那さん、結婚決まったんですか?」

「まだだけど、決まりそうな勢いかも」

「お相手は、やっぱり一条さんですか?」

「今、二人で京都らしいわ」

「会って5日で婚前旅行ですか。早いですねえ」紅茶をごくりと飲む弾。

「まあ一応、重治先生に麻那ちゃんの神命医就任をお願いしに行くっていうことらしいけどね。」進が補足する。

「“麻那さんを一条家にください”と言っておけば、神命医でも嫁でもOKですよね」

「弾、おまえ、頭いいな」哲也が笑う。「でも…そうなったら、なったで、笑い事じゃなくなってくるかもしれませんけど」


 哲也の言葉に、弾が資料のひとつをめくって進に示した。

「出張先で渉が総研にハッキングしました。3ファイルあります。先週、瑞樹さんたちが持っていた資料の更新版かと思われます」

「ずいぶんガードが甘いな」

「渉の腕が上がってるんですよ」

 弾が自慢げに言うが、進はそれには答えない。

「まず、この3枚は“KT”というファイル、瑞樹さんが持っていたものとかなり重複があります。1枚目の3行目を見てください。」哲也が説明を始めた。

「“IM×”…後ろはブランクだな。誠さんと誰かの子どもという意味か」

「はい、おそらく。九条家の次代当主と思われるイニシャル“KS”も、同様に“×とブランク”の形で入っています」

「九条の清子お嬢様か…。父親とは折り合いが悪く、去年から家には戻っていないようだ。現在は東京で大学4年生。先日、華織さまが居場所を“読まれた”ようだが…」

「所在確認してみますか?」


「そうしてくれ。ところで伊勢の名簿との照合は?」

「済ませてあります。赤い丸が“命”の血筋と思われる人物です。廃嫡家系は赤い三角です。同様に、黄色が“宿”、青が“神命医”の血筋です。ほとんどのイニシャルがどれかに該当しています」

「そしてこちらは、“NE”というファイル分です。」弾が別の紙を出す。

「人数が少ないんだな…。“NT”は…梨本匠か?」進がコピーを見ながら首を傾げる。「だが彼は龍さまと同い年のはずだし、彼自体は“命”の力を持っているわけではないんだがな…」

「龍さまや翼くんは、やはり見当たりません。違った観点からの分類ファイルなのかと」

「こちらにも“KS”があるな…別の人間か?」進は何か引っかかる様子だ。


「それから、一部暗号化されているファイルが一つありました。“SG”というものです。暗号化部分はまだ解読できていません。

 解読できた部分に関しては、伊勢の名簿との重なりはありませんし、西園寺周辺にいる子どもたちに該当するイニシャルもありませんでした」

 弾がさらに3枚の紙を差し出した。


「暗号化か…。より重要な情報ということか。で、3つのファイルが入っていたフォルダ名は?」

「“M”です」

「“M”…。そういうことか」

「どういうことですか?」

「“M”+“KT”、“M”+“SG”、“M”+“NE”で中身を表しているんだろう。“MKT”が“命”だ」

「では、“MSG”は、今回浮上している“禊”ですね。“MNE”というのは…?」

「おそらく、“御贄”だろう」

「“みにえ”ですか?」弾が首をかしげる。

「神への供物のことだよ。ほら、総研と思われる記事のタイトルにもあったろ。“知らぬ間に我が子が謎の贄となる!?”ってやつ」哲也が説明する。


「供え物になる子どもたちという意味ですか?」

「“禊”のように別勢力の能力者を示す単語かもしれないが、供えられた子どもを指すという考え方も成り立つな」

「じゃあ、“NT”が梨本匠だとして、権力者の子どもということで、何かに利用するために使われているのかもしれませんね。総研のプログラムに参加しているとか、していたとかか」弾が腕組みをする。

「匠くんは、龍さまと同じ音楽教室でしたね」

「龍さまに匠くんと接触してもらったらどうですか。友達なんですよね」

「そうだな…」


「ゆうとがいってくるよ!」

「悠ちゃんが?」哲也が悠斗を見つめる。

「あのね、さゆひめがいってた」

「姫?」息子の変わり身の早さに、眉間にシワをよせる未那。

「あさって、しょうたくんがくるの。“りゅうのかい”があるんだよ」

「龍の会?」首をかしげる弾。

「りゅうちゃまと、しょうたくんと、たくみくんのかいだよ。たくみくんは、くびにカッコイイりゅうのマークがあるんだよ。へんしんできるかもしれないね」大きく頷く悠斗。

「それはいいタイミングだな。二人から直接いろいろと確認してもらおう」

「悠ちゃん、有益な情報、サンキュー」

 弾が頭をくしゃくしゃと撫でると、うれしそうに笑う悠斗。


「それから、このリストを見ていただけますか?」

 哲也が鞄から出したのは、20代と思われる女性たちの写真と釣り書だった。全部で20枚ほどある。

「これは?」

「以前、賢児さまと私のところに久我の奥様が持ってきたものです。時期的には、3年前から半年前くらいまでの間です」

「ああ、そういうことか」

「かなり良い家柄のお嬢さんばかりです。あるいは、一代で財を成したかなりの金満家」

「さっきのリストと重なったのか?」

「はい。“KT”ファイルに重なりがあります。“イニシャルプラス×”になっているのが3名。すでに結婚して、お子さんがいる人も。その子どものイニシャルが該当するのが4名です」


「大したヒット率ね。…まさか、久我の奥様がリスト作成に関わっているとでも?」未那が真剣な顔で釣り書をめくる。

「それは多分ないな」

「どうして?」

「身近な人間がそんなことをしていたら、まりりんちゃんが、匂いでかぎつけるさ」

「…それもそうね」


「ただ、逆の見方もできないわけじゃない。あれだけ孫を可愛がってるんだ。大地くんとまりりんちゃんが狙われないように取引したという、うがった考え方も成り立つ」

「当たってほしくない読みだわねえ」

「まあ、可能性は極めて低い。まりりんちゃんの嗅覚から逃れるためには、より高度な力を奥様自身が身につけていないといけない。

 正確には、探偵事務所5人の力を凌ぐ状況でなければ、誰かが気づくだろう。彼らは久我家にかなりの頻度で出入りしている」

「奥様が5人以上の力だったら、華織さまのリサーチに引っかからないはずは無いわね」

「ああ。華織さま以上の能力者が協力者なら話は別だが…」


「でも、そこまで考えなくても、仲人好きの久我夫人に近づいて、見合いのセッティングを依頼しつつ、名家の師弟に関する情報を得るのは、そんなに難しくなさそうですよね。」

 弾が未那の前に置かれたリストをパラパラと見る。

「弾の言うとおり、今でも久我家には縁談を望む関係者が週に一度は訪れているようです。月に一度はお見合いパーティーも開いてると梨緒菜が言ってました。参加者の誰かが関わっているなら簡単でしょう」

「久我夫人に近づいている人間にも注意しておくようにしよう。梨緒菜さんにも伝えておいてくれ」

「承知しました」


「ところで、大地くんとまりりんちゃんのイニシャルは、どのリストにもないんですね」弾が言う。

「まりりんちゃんの能力は、ごく一部の人間しか知らない。だが、大地くんの力は、以前、青蘭のパーティーの時に、具合が悪くなった人への手当てをしたりして、気づかれている可能性がある。純系の“命”の血筋ではないとはいえ、入っていてもおかしくなさそうだがな」

「そうよね。むしろ“SG”の方に入ってても良さそうだわ。久我の先代の奥様が“禊”なんでしょう?」

「“禊”の力は、ヒーリングではないということでしょうか」哲也が言う。

「そうだな。このリストに載っている人間の力の種類を分析する必要があるな」


「ぶんせき?」悠斗が身を乗り出す。

「どうした?」

「つばさくんに、やってもらえばいいよ。マドモアゼルとアネゴが、いっつもじまんしてるよ。つばさくんは、まえのこと、いろいろわかるのがとくいなんだって。“ぶんせきは”だって、アネゴがいってた」

「確かに、この場合は翼くんと風馬さま御夫妻だな」

「悠ちゃん、仕事ができるなあ」弾が頭を撫でた。

「ゆうとは、もう、およめさんいらない。しごとにいきるんだ」キリッと唇を結ぶ悠斗。

「そうだな。ママみたいな女に振り回されるよりは、そのほうがいいだろう」

 淡々と言う進をギロリと睨む未那。


「児童の保護者等、関係者へは、我々のうちの誰かが接触して、その場で個々に調査協力してもらう形を取ろう。リストのコピーは、その都度見せて、その都度回収」

「承知しました。元のデータのほうは渉が暗号化して4つのチップに分けました。今、書類はこれしかありません」

「チップはどこに?」

「専務室の金庫です」

「そうか…。手間をかけてすまないんだが、元のデータにちょっと手を加えて、再度暗号化、分割してもらえないだろうか」

「盗られた時に備えて、何か仕掛けるおつもりですか?」


「まあ、そういうことだ。金庫のデータは破棄して構わない。新しいデータは明日、私が直接、渉に渡す。チップになったら、別の場所に預けてくる」

「どちらに預けるおつもりですか?」

「子どもたちを命がけで守る覚悟が出来ている人間にだ」

「誰かの親御さんにですか? それは少し危険が…」弾がいぶかしがる。

「いや。親ではないが、“命”の家系を命がけで守ろうとしている人間に頼もうと思う」

 進はそう言うと、ゆっくりと紅茶を飲んだ。


  *  *  *


 和歌菜への訪問を終えた華織は、続いて四辻家を訪れていた。

 リビングからパティオを眺めていた華織のところへ、奏子がお茶を運んできた。

「いらっしゃいませ。どうぞ」

「あら、ありがとう、奏子ちゃん…そうそう、昨日の約束は守れているかしら?」

「はい。ひみつですから」奏子がうふふと笑う。

「いい子だわ、奏子ちゃんは」やさしく奏子の頭を撫でる華織。

「あの…奏子、おねがいがあるんですけど…」


「何かしら?」

「おばあちゃまになってくれませんか?」

「おばあちゃまに?」

 奏子の唐突な物言いに、手元のバッグを横に置き、向き直る華織。

「はい。奏子のおばあちゃまになってください」

「…奏子ちゃんには、ご立派でお優しいおばあちゃまがいるじゃないの」

「えーと…。」口ごもり、うつむく奏子。


「大奥様、どうかなさいましたか?」

 ドアの外で奏子と華織の話を聞いていた絢子は、家政婦長の大林の声にハッとして振り返った。

「あ…何でもないの。今、西園寺さんがお見えのようなんだけど、急いでいるものだから、このまま行かせていただくわ。西園寺さんにはナイショにしてちょうだいね」微笑む絢子。

「はい。承知いたしました。大奥様、お仕事がお忙しいのは承知しておりますが、たまにはごゆっくりなさってくださいまし」

「ええ。来週は休みが取れるわ。ちゃんと戻りますから」

 そう言うと、絢子は足早に玄関へと向かった。


  *  *  *


「ありがとうございました!」

 奏子がうれしそうに挨拶しているところへ、響子がやってきた。

「華織おばさま、お待たせして申し訳ありません。…奏子、どうしたの?」

「ママ! あのね、あのね、奏子、“命”さまに、おばあちゃまになっていただいたの」

「おばあちゃまに?」首をかしげる響子。

「おばあちゃま役を任命されたのよ」楽しそうに笑う華織。「絢子さんの誕生日パーティーにあげるお手紙をね、読む練習してたの」

「まあ…そんなことを。おばさま、ありがとうございます」

「とってもステキなお手紙なのよ。絢子さん、きっと喜んでくださるわ」

「そんなこと考えていたなんて…」奏子をギュッと抱きしめる響子。

「来週だったかしら、絢子さんの誕生日」

「はい。家族で出かけることになっています」


「そう。楽しんでいらしてね。…で、今日、おうかがいしたのは、お願いと確認があってのことなの」

「はい。何でしょうか」

「まずは確認からね。…奏人さんがお持ちだったタイタンルチルは、今こちらにおありかしら?」

「タイタンルチル…そちらでしたら、今は伊勢にあります。1ヵ月毎に伊勢と家を往復しています」

「1ヵ月という縛りには何か理由が?」

「翼の精査で月一度、伊勢にうかがっているものですから、義父の石はそれに合わせて行ったり来たりしています」

「なるほどね…先代“命”の石を、ちゃんと“持っていられる”かどうか、翼くんと石たちの状態を確認しているのね」

「はい。ちょうど今日、翼はタイタンルチルを持って伊勢にうかがっております」

「つまり、こちらに戻るのは来月」

「はい。…あの、それが何か?」


「それ以外の石は今?」

「義母が所持しております。正確に言いますと、先代“命”の命日に向け、四辻は現当主が伊勢を始め全国の主な石にまつわる社を四辻家の石と共に回りますので、タイタンルチルが戻り次第、石全体は義母の元にある状態になります。翼が石を持ち伊勢にうかがうまでですね。その繰り返しです」

「わかりました。ところで…今日は疾人さんが付き添っていらっしゃるの?」

「はい、そうです」


「では、来月の精査は誠さんにお供をお願いしていただけるかしら」

「は、はい…でも、どうしてですか?」

「2ヵ月後、“命”がらみで大きな祭祀があるの。その前に、グループ内で“命”の石をシンクロさせるために調整が必要なのよ。こちらはまだ、お済ではないようだったから」

「そうなんですか。知りませんでした。ありがとうございます」

「そうそう、それでお願いのほうなんだけど…奏子ちゃんも一緒に聞いてちょうだいね」

 華織はイマジカと久英社主宰のイベントについて説明を始めた。


  *  *  *


「珍しいな。仕事には極力口を出さないおまえが、イベントをしようと言い出すだなんて。」直哉が不思議そうに和歌菜を見つめる。

「ごめんなさいね。華織さんから打診があったの。西園寺グループも共同スポンサーになるとおっしゃってるわ」

「よほどの事ということか。」一瞬で難しい表情になる直哉。

「よほど…そうね、大地の無事には変えられないから」

「大地の?」

「あなたも多少はお気づきでしょう? 大地だけじゃないわ。真里菜もそう。あの子たちの持っている“力”に」

 直哉は、和歌菜の言葉にさらに難しい顔になると、小さくため息をついた。


「まあ…それなりには調べもしたよ。正確には、おまえと結婚する前に、久我家に関して調べたということだったが。それ以降、いろいろと気を配ってはいたつもりだ」

「そうよね。だから、あなたは驚かなかったんだわ。大地が“癒しの手”を持っていることにも、真里菜が“心を探る鼻”を持っていることにも。

 彼らが目の前で力を使っても動じなかった。私なんて、その度にドキドキしてしまったわ。あなたが妙に思わないかって」

 大地と真里菜が自分たちの目の前で力を使っている様子を思い出して、和歌菜はクスリと笑った。


「いや、驚いたさ。何といっても、一年前、私は大地に命を救われたも同然だからね」

「どういうこと?」今度は和歌菜が不思議そうに直哉を見つめた。

「ひどい頭痛と手足の痺れがあったんだよ。脳卒中の前触れかと思った。うちの父がそうだったからね。その時、中学生だった自分に医学的知識はなく、最善の処置を取れなかったが…」

「そうだったの…」

 正面に座っていた和歌菜は、直哉の隣に行き、やさしく肩をなでる。

「自分もそうなるのかと思った時、大地が書斎に入ってきた。“真里菜が心配しているよ”と言ってね。そして、あの子は私の頭に手を置いた。しばらくすると、頭の痛みも痺れもなくなっていた」


「葛城先生には診ていただいたの?」

「メッセのイベント前々日だったからね。そんな暇はなかったよ。だが、その後も体調が悪くなると、決まって大地が傍に来た」

「あなた。お医者様にはちゃんと診ていただかないと…」和歌菜が不安げに直哉の手を握る。

「ああ。今は週に一度は先生に来てもらっている」

「…それならいいけど。浮気は許しますけど、体を大切にしないのは許しませんから」

 うつむく和歌菜の手を直哉が握り返す。

「ありがとう。でも大丈夫だよ。おまえより先には死なない。最期におまえを泣かすようなことだけはしたくないからね」

「あなた…」


「だが…私を救ってくれている力ゆえに、大地の身に何かが危険でも迫っているのか? 真里菜に関しては、相手の性格や考えを言い当てることが度々あった。賢い子なのだろうと最初は思っていたが、途中から気になっていたんだよ。“そういう匂いがするの”という、あの子の言葉がね」

「ええ。ただの慣用句ではないわ。実際に嗅ぎ取っているの。あの子の感覚では“匂い”としてね。あなたの体調の件も、真里菜が嗅ぎ取って、大地が治癒したのね」

「いわゆる“禊”の、“覘いて”“薙ぐ”という流れか」

「…それはわからないわ。華織さんにも、そう言ったけど。ただ、そうだとしても、明らかにあの子たちは私より圧倒的に力が強い。このまま力が伸びれば…お母様よりも」


「山階の血が入って目覚めたのかもしれないな。通常、“命”の側でも隔世遺伝がデフォルトらしいしな。西園寺本家は能力者を歴代創出している、類稀なる家系のようだが」

「あなた…“命”のことを御存知なの?」驚く和歌菜。

「何年記者をやってたと思ってるんだ」直哉が笑う。

「じゃあ…何年も、いろいろな事を調べていらっしゃったの?」

「惚れた女のことを気にかけていたら、いろんな情報が入ってきたというだけだ。…保先生とのことも気になったしね。おまえたちに縁談が持ち上がっていたという噂も聞いた」

「あなた…」


「逆玉な人間への妬みや嫉みというのは半端じゃない。私たちの仲を壊そうと、それこそいろんな人間がいろんなことを言ってきたさ。

 だが、私には逆にありがたかったよ。ネタを収集する手間がはぶけたからね。あとは久英社のネットワークで情報をさらに集めるだけでいい。

 まあ、多少うさんくさいのも引き込んだりはしたが」

「あなたらしいわ。相手に優越感を与えて、実を持っていくのは自分」和歌菜が腕を組み微笑む。

「そういう部分を見込んで、婿にしてくれたんだろう?」笑う直哉。

「そんな、身も蓋もない言い方なさらないで。それだけで私が結婚すると思って?」

「なら嬉しいよ」


「でも、そういう部分の力も認めているわ。だから今回も、あなたの力を存分に発揮してもらいたいの。イベントはね、関西で開くつもり」

「…京都から、そう遠くない場所ということかい?」

「もしかして…多治見総研の件も調査済みなのかしら」

「済みとまでは言えないが…」

 直哉は机の一番下の引き出しから封筒を取り出し、和歌菜に差し出した。


  *  *  *


 イマジカの社長室では、瑞樹が賢児を訪れて、多治見総研の件を説明していた。

「話はわかったよ、瑞樹。俺と玲香の名前が載っている以上、看過できないしな。イマジカも全面的に協力する」

「ありがとう。多治見のこれまでの動きに関しては、うちの義父もだいぶ調べていたようだ。それと、華織小母様の配下の人たちも独自に調査してる。情報収集に関しては、その2ルートで今後もそれぞれに行う」

「直哉小父さんは、どうして調べてたんだい?」

「お義父さんは、お義母さんとの結婚前、久我についていろんな噂を聞いて調べたということらしいよ。“命”以外にも、そういう特殊能力者の家系や組織があるようだ」

「つまり、久我家も“命”のような家系の一つで、大地とまりりんは山階とのハイブリッドなんだな」


「まあ、そういうことだ。このリストには二人に該当するイニシャルはなかったが…」

 瑞樹は、雄飛から預かっていたリストを見つめた。

「うーん。こういう言い方も何だが、リストはこれだけとは限らないしな。総研が子どもを使った実験や、何かの目的を持った教育をしようとしているなら、ハイブリッドな子は格好の材料のはずだ」

「確かに、龍くんや翼くんらしきイニシャルもないしな。他にリストが存在する可能性は高いと思う」

「要するに、俺たちの周囲にいる子どもたち全員と思っておけばいいってことだ。」賢児が苦笑する。


「で、具体的なイベント案はあるのかい?」

 賢児が聞くと、瑞樹はファイルを取り出し、賢児の前に示した。

「躍太郎小父さんも、うちのお義父さんも仕事が速くてね。しかも二人とも、確実にお金になる仕事とは何かを熟知している」

「“スーパーキッズ育成プログラム”?」

「テレビの特番なんかでも、たまにあるだろ。ある部分に特別優れた能力を持つ子ども。そういう子を育ててきた教育法や、食事、生活環境なんかを、教育学や心理学の専門家と一緒にプログラムを作る、その前段階のシンポジウムだよ」


「なるほどな…でも瑞樹、それだと実際に子どもたちが“力”を人前で示して見せないといけないんじゃないのか」

「さしさわりのないように見せるんだよ。

 例えば、翼くんの過去をたどれる能力は、あくまで驚異的な記憶力という形で示す。

 真里菜の他人の感情を匂いとして嗅ぎ取る力は、嗅覚が人並み優れた子どもというふうにね。

 充くんの場合は他人の気配を感じ取る能力が優れているが、これは聴力がいいということにしておく」

「置き換えにくい子もいるだろ。奏子ちゃんなんか、特にそうだ。“えいっ!”と石に命じたら、悪い奴の頭が割れそうになりますとは言えないだろ」

「奏子ちゃんに関しては、涼ちゃんに協力してもらって、さっき実験してきた。彼女の脳波と宝石の輝度が呼応するんだ。ヨガの達人なんかにもある事例らしい」


「へえ…。だが、四辻兄妹を表に出すというのは、四辻家が許すだろうか。マスコミに妙な取り上げられ方をしたら…」

「賢児。今回は、奏人先生の件と絡めて特別待遇はなしだよ。彼ら自身が巻き込まれる恐れがあるんだ。マスコミが注目するなら、逆に都合が良い。総研はやたらと手出しできなくなる。もちろん、うちの子たちも例外にはしない」

「まさか、大地の力をそのまま示すつもりか?」

「それも、ありだ」

「瑞樹…。夕紀ちゃんは承知してるのか?」

「ああ。子どもたちも含めて、一家全員でよく話し合った結果だ」


 淡々と述べる瑞樹を、賢児がじっと見つめる。

「おまえがそういう言い方をするときは、何を言っても覆らないんだよな」

「大地を心配してくれてありがとう。でも大丈夫。あいつは俺たちが考えているより、ずっと祖父似だよ。計算は怠らない」

「…わかった。龍や紗由、翔太、恭介くんなんかは、どうするんだ?」

「“命”さまによれば、恭介くんの封じる力は、他の子どもたちと協力体制に入ったときに、かなり強力に発揮されるものらしい。

 だから、奏子ちゃんの“えいっ!”と同様、最終兵器だ。まだノーマークの可能性も高いからね。

 今回は、トリリンガルということで、語学力の高い子どもという位置づけにする。英語、ドイツ語の他に、もういくつか、習っておいてもらうかもしれない」


「それって、本当にママたちが喜ぶ“才能”の部分だよな」賢児が笑う。

「ああ。ママたちには一番実用的なプレゼンができそうだよ。

 それから翔太くん。ピカピカは抜きにして、普通に絵の特別上手な子という位置づけにできる。イマジカで何か商品化してくれれば、そこを取り上げやすいだろう」

「商品化というほどじゃないけど、翔太が考えた戦隊もののイラストを元に、うちのアートディレクターが手を入れて、水筒にプリントしたものはあるよ。衣装も作ってもらった」

「ああ、サイオンジャーだろ? 真里菜が以前、イエローになりたいって大騒ぎしてた」

「でもまあ、それだと個人的過ぎるよな。製作中のミコト姫のパッケージデザインにでも参加してもらおう」


「それがいい。それから…龍くんと紗由ちゃんだが、子どもたちの中でも力が突出していてオールマイティだ。何にでも使おうと思えば使える」

「普通ぽく見せるんだったら、龍の場合はバイオリンがいいんじゃないかな。このリストにある“NT”、梨本匠くんだとしたら、ペアを組ませてみればいい」

「ああ、そういう手もあるな」

「何か別に案があったのか?」

「いや、少々あざといかとは思ったんだが…龍くんは、政治のことをかなり勉強していると聞いてる。首相の孫で政治に類稀なる知識を持った小学生なんて、いいと思わないか?」

「うーん。親父が嫌がるだろうなあ」


「まあ、その辺は要検討だ。それから紗由ちゃんは、最近マジックの腕がめきめき上達しているそうじゃないか。一条さんに特訓してもらえば、かなりいけるんじゃないかな」

「いいね。美少女マジシャン。」笑う賢児。

「そうそう…例外はないと言ったが、双子ちゃんたちは今回表には出さない。ただし、“命”さまと通信が必要そうな時には参加してもらいたいんだ」


「わかった。玲香にも、そう伝える。だが、今回のイベント、ひとつ問題があるな」

「何だ?」

「大掛かりなものにしようとすればするほど、スタッフも多くなる。久英社とイマジカから、それぞれ一般人を参加させなければいけない。こちらが意図するようにスタッフ全員が動くかどうか…」

「内容的に、かなり専門的な知見が必要になる場合もある。それを理由に外部スタッフを多く入れるようにしよう。躍太郎おじさんが経営する教育研究機関があるだろ。そこなら、かなり“命”の関係者もいるんじゃないか?」


「なるほどな。“命”さまの配下の者たちで固めるということか。」くすりと笑う賢児。

「まあ、それでもデザイナーやアートディレクターなんかは一般人を入れざるを得ないかもしれないけどな。うちとしては、宣材作りに高橋ディレクターははずせない。はずしたら社内で不審がられるだろうし」

「高橋さんなら子どもたちとも仲がいいし、入ってもらうほうがいいだろう」

「そうだな。だが、メンバー候補者は探偵事務所の5人にチェックさせてから参加させるようにしよう。選定試験ではきっと、まりりんが大活躍だぞ」

「おしゃれを基準に選ばれるのは困るけどな」瑞樹が笑う。


「でも何て言うか、相手の記憶を消すとか、てっとり早い策を入れないのかなあ、伯母さんは。それなら誰を入れても安全なのになあ」

「おまえ…」

“鋭いな”と言い掛けて、瑞樹は言葉を飲み込んだ。

 躍太郎の指示によれば、賢児の言う問題点はすでに考えられていて、“何か”あったら、風馬の力で記憶を操作するところまで話が進んでいたのだが、力の無い人間、現在封じてある人間には全ては話すなとも言われていたからだ。

 親友を半分騙しながら、一緒に仕事を進めなければならないという、微妙な立場に置かれて瑞樹もしんどさはあったが、子どもたちのためには、そんなことも言っていられない。

 敵を欺くにはまず味方から。心の中でそう言い聞かせると、瑞樹は賢児に手を差し出した。

「華織おばさまにも考えがあるんだろう。とにかく、よろしく頼む」


  *  *  *


「先日の件、お受けします」

「おお。それはありがたい。やはり…事を為そうとすると、あなたの持ち物が必要になります」

「ただし、条件があります」

「何でしょう?」

「お渡しするのは一ヵ月後になります。今、私の手元にはありませんので。それから貸し出し期間はその後、一ヶ月。それ以上は無理です」

「…承知しました」

「それから、彼らを絶対に傷つけないこと」

「ええ、それはもちろん心得ております」


「確認ですが…本当に、そうなるのですね?」

「はい、必ずお気持ちに沿う形にしてみせます。とにかく、このままでは、あなたさまも私どもも駄目なのです」

「別の方法はない?」

「ございません」

「…わかりました」

「 “持ち物”は、いったんあちらにお渡しください。これ以上、直接の接触は危険かと。よろしくお願いいたします」

 前髪に一筋白髪を携えた男は、深く頭を下げたまま、ドアが開く音と閉じる音を聞いた。


  *  *  *


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