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第4話 『』

「何そんなところにボーと突っ立ってんのよ、危ないじゃない」


「え,ああ,すみません」


 馭者台からの甲高い怒号に思わず路肩へと後退る。


 暗さゆえ色彩の無い無蓋の荷馬車には,それを牽く1頭の葦毛の輓馬,

 そして,それよりも白い肌を覗かせる小柄な馭者だけが乗っていた。

 咄嗟に向けたガラケーの明かりのせいか,その大きな目には未だ若干の涙を浮かべていた。


「それに、魔法炎をいきなり人に向けるなんて。あなた常識がないの!? 気をつけなさい」


「す,すみまs……」


--言葉が通じる!


 やはりここは日本だったのか!


 しかし,こんな場所は見たことがない。

 馬車なんて,湯布院じゃないだろうし。

 とにかく,ようやく人と会えたのだ。

 このチャンスを逃してはならない!


「あの,すみません!

 ここは……,ここは何処なんでしょう?」


 再び動き出そうとする馬車の傍らから,俺は訪ねた。


「どこって……、ナモール街道よ」


 2,3歩歩いた馬を止め,こちらを向いた彼女はまるで外国人に道を尋ねられたときのように,淡白な声で語った。


 って,どこだ,それ。

 セントレア空港みたいに,気取って外国風の名前を道路につけました,て感じか。 

 あるいは羽合(ハワイ)町みたいに読みがたまたまそういう風だとか。えっと,奈喪雨流?


 聞き方が間違っていた。

 そりゃ現在地を聞かれたら普通,通りだとか橋だとか,そういうものの名前を答えるよな。靖国通りだとかさ。

 そして,普通はどっか遠くの都道府県の通りの名前なんて聞いても,地図でも持ってない限りどこかわかるものか!


「えっと,ここは何県でしょう……。東京じゃ……ないよね?」


「そうね……。ここはちょうど行政区画の境目だから、どこにも属してないはずだわ。つまり公地上ね」


 まるで不審者に接するかのように,妙に余所余所しい態度で答える。

 そりゃそうだ。山中とかジャングルの中とかならともかく,突然路上でここは何県かと聞かれたらビビる。

 いや,観光に来た外人とかならありえるのかな?


 っていうか,公地って何だ!

 いつの間に日本ではどこの都道府県にも属さない場所ができたんだ。

 富士山の山頂か何かか。


 ……。


「じゃあ,最寄りの町ってどっちかな。この道沿いでいいのかな?」


「そうね。ここからだと、こっちのが近いかしらね」


 そう言って彼女は馬車の進行方向を指差した。


「そうか,ありがt 「ここからだと歩いて5時間くらいかしらね。狼も出るし」」


 5時間!? 狼!?

 そういう彼女の腰には,サーベルの柄のようなものがローブの隙間から顔を出していた。


 腹も減っている。

 このままじゃあ,路上で野垂れ死ぬことは確実だ。


 眼前に垂らされたカンダタの糸が,

 よく見たら簡単に千切れそうな位ほつれている様な,

 微かな希望が絶望に変わるその落差に俺は何も言葉を発せないでいた。


「……じゃあ、私行くから」


「待ってくれ!」


 なるべく面倒に関わらまいと,今にも走り出そうと車輪を10°ほど回転させたところで,俺は再び馬車を呼び止めた。


「乗せてってくれ。帰るんだろう? 町に」


「……はぁ?」



 見ず知らずの土地に,出てこない太陽。

 銀髪の少女との2人きりの旅が始まった--。


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