*この作品は書き直し
ゴクリー…と唾を飲むのも無理はない。
この召喚が失敗するということは我が国が滅びるということだ。
別に物語のように魔王が復活したり魔物が大量発生した訳ではない。
我が国-セシュバルは元は大国だった。
それが40年前の国内の反乱から徐々に戦の炎は広がっていき、最終的には他国までもが領地を目当てに攻め入るようになった。
しかし、それを食い止め、反乱軍であった民達と国軍の仲介役となり、更には愚王と呼ばれた王を摘発した英雄が現れた。
民たちは大いにその英雄に期待した。
しかし長い戦で疲れ果てた英雄は病に倒れ療養をする事に。
そこで白羽の矢を立てられたのは愚王の息子であり反乱軍第一指揮官であった王太子。
彼の人柄は兵士達は勿論のこと民にも広がっており特に問題なく王代理兼魔法騎士団団長の座に収まることとなった。
これには前王の側近たちが否と唱えたが彼の人柄、民が納得している事に加え、彼自身が英雄には勝てないという事で一応理解を得る事となった。
そこからだ。彼の地獄が始まったのは。
王としての責務、団長としての下のものの育成、指揮、他国との貿易という名の交渉、民たちの不平不満を減らすために自身の足での城下、はたまた遠い田舎町まで視察と言い出したらきりのない程の仕事量。
彼は頑張った。
死にものぐるいで働いた。
苦手だった書類整理も今では片手間にやってのけるほど上達した。
-だが、そろそろ限界だった。
「…これで無理なら俺は馬車馬の車輪の様に働き続けて捨てられるんだろうな……」
馬車馬なら休みはある。が、
馬車馬の車輪ならばどうだ。
ある程度の整備はあるだろうが、ガタが来たらそのままポイ、だろう。
恐らく病死とされ新たに王代理が立てられる事だろう。
それはマズイ。
とてもマズイ。
そうなってしまうと絶対にバレてしまう。
せっかく悲劇の英雄として作り上げた英雄が「ちょっと世界見てくる!」と飛び出して行ったっきり帰って来ない事が。
そうなったらまた反乱がおき、乱世の時代を迎えるのだろう。
ふと手が震えていることに気づいた。
さっきのぼやきは弱音を吐かない為だったのかと苦笑する。
「成功してくれよ…!『開門』!!」
一瞬で体が重くなる。
魔法陣を用いた最高難易度魔法を使った後にくる疲労だろう。
傾きそうになる体に鞭を打って踏ん張る。
強い光を放っていた魔法陣はゆっくりとその光を弱めていく。
ぼんやりと見える黒髪に胸を撫で下ろした。
この世界に黒髪は英雄しか居ない。
あぁ、これでやっと休める…
気を失う前に英雄に文句でも言おうと1歩魔法陣へと近付く。
「…ここは……え、誘拐…?」
「……………は、?」
軽かった足取りが重くなる。
英雄は男だ。共に風呂に入ったことも怪我を治療した事もあるのだから間違える事はない
だが、聞こえた声は女のもの。
-あぁ…俺は失敗したのか……
明るく光っている魔法陣さへ暗く感じた。
きっと遠くない未来に自分は過労死してしまうのだろう。だが、国王代理として魔法陣に間違えられた憐れな少女を親元に返さなければいけない。
例えそれが未知の大陸だったとしても尽力せねばなるまい。
…それよりも、その、何ていうか
「…俺がレイを間違えるなんてな…」
5年会っていないが10年近く一緒にいた相手を間違えるなど…確実にあの2人に笑われる
「あー、その、突然君をこんな所に呼び出してしまってすまない。それで、だな…呼び出しておいてなんだが…人違いをした、らしい…」
「はぁ…人違い、ですか」
あぁ…こんな小さな少女を呼んでしまったのか…良心が…俺の良心がズキズキと痛む…!
未だ状況が掴めていないであろう少女は俺の肩ほどしか背丈がなく、華奢だ。
気の強そうであり、理性的な目が印象深い。
髪は肩に付くくらいで切りそろえられており艶やかだ。
その色はどちらも黒。完全なる漆黒。
染めているわけではないのならそれが彼女が憐れなことに魔法陣に間違われた理由だろう。
「あの…私は誘拐されたのでしょうか?」
その言葉の裏に「人違いで?」という事務的な確認があるような気がした。
え、なんでこの子こんなに淡々としてるんだ?普通は、もっとこう…慌てたりするんじゃないのか?
「あ、あぁ…現状そうなるな……本当にすまない」
改めて頭を下げる。
「あの…少し質問してもいいでしょうか?」
「俺に答えられる範囲ならいくらでも」
この少女は健気にも自分の置かれた現状を理解しようとしているようだ。
その大きな目を逸らさずに俺の一挙手一投足をも見逃すまいとしている。
「ここは、日本でしょうか?失礼ながらこの建物はだいぶボロボロになってますし冷暖房がついているようにもみえないのにここまで暖かいと日本だとしたら沖縄でしょうか?いえ、夏にしては涼しい方ですし…本島のどこかでしょうか?」
日本?レイがよく言っていたあの故郷の事か?ならばマズイ。あいつは一生かけてでも帰ることができない所だと言っていた。
あぁ…俺はあいつの故郷から少女を誘拐したのか…?
「すまないがここは君が言っている日本という国ではないんだ。ここはセイシュバルト王国。略してセシュバル。君の言う日本という国と俺の友が言う日本が同じなら…一生かけても辿り着く事ができないくらい、遠い…」
「一生かけてでも、ですか?いや、飛行機とか船がありますし…そんな大袈裟な……あぁ、家族に連絡を取りたいので電話をお借りすることはできますか?」
「ひこうき?でんわ?そのひこうきってのは分からないが電話とは魔電話の事だろう?それなら城にしか無いから…君は日本国の要人の御息女だったのか?」
「え?いえ、一般的な家庭の出です」
「「………」」
何故だろう…彼女と言葉を交わしているのにこの、会話が成立していない感じは
レイもよく突拍子も無いことを言うことが多かったがあれはレイだけでなく日本国民全員なのだろうか?
彼女も何か思うところがあるのか思案顔になりながら黙り込んでしまった。
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【リンside】
どうも皆さん。
誰に話しかけてるとかツッコミは無しでお願いしますね?
僕だって混乱しているんですから。
だって異世界に召喚されたんですよ!?
しかも!間違いで!!
異世界…まぁ別に良いですけど…
いや、良くはないんですけど…
うん、やっぱりよくはありません!
だって人違いですよ!?
人違い!!
いや、まぁそれは小説とかであったのでまぁ百歩譲っていいとしましょう
ただ、
本当に召喚するはずだった人は男の人だったんです、えぇ、はい。
僕は男ではありません。
髪は短く、制服はズボン、一人称は僕、言葉遣いは敬語で誤魔化して男装してても立派な(?)女です。
…なんで男装してるか、ですか?
…………。
いろいろ、あるんですよ、人生には…
んん"っ話を戻しましょうか。
僕を召喚したのはすぐそこの隅で蹲っている黒いローブを頭の先からつま先までしっかり被った男の人。たしか、シュラさん。
彼は最初に間違い召喚された事に気づき状況を話した後謝罪をしました。
そこからは僕の質問タイムです。
ここはどこなのか
日本に帰れるのか
貴方は誰か
召喚しようとしていた人について
なとなど…
質問していくうちに段々とシュラさんは凹んでいき、僕は思考の波に飲まれていった。
…だって、多分、異世界ですよ?
なにかのドッキリ企画とかじゃなかったら異世界召喚ですよ!?
…これは、帰れない、でしょうねぇ
シュラさん曰くここにも僕の同郷の人が一人、いるそうです。が、
その人はずっと自分の故郷はとてもとてーも遠く一生かかっても帰れないとよく言っていたそうです。
まぁ…遠くですよね、そもそも世界が違いますし。
とまぁ現状はこんな感じですね。
うーん、帰れないならこの世界で生きていくしかありませんよね。
地球への未練も特にはありませんし。
よし、僕はこの世界で生きてやります!
…さしあたっては間違いで呼ばれた僕はこの後どうなるのでしょうか…?
ありがとうございました(´∇`)