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僕の彼女は無邪気だ。
「お! バッタだ! おい! バッタだぞ!」
「うん、バッタだな」
「あれはトノサマだ! 間違いない! よし! 捕まえるぞ!」
「いや……僕はいいよ。虫嫌いだし」
「なんだお前! 情けないやつだな。トノサマだぞ!? もっとはしゃげよ!」
「そんなんではしゃげる歳じゃねーわ!」
「つまんないな! もういい! 私一人で取ってくる!」
そう言って彼女が走り出して早10分。
「おい! ついに捕まえたぞ!」
満面の笑みで彼女は報告してくる。そんな彼女はとてつもなくかわいいのだが、手に持っているバッタは気持ち悪い。
「おめでとう! じゃあ、帰ろっか」
そう言って背を向けると、後方から「えいっ」と彼女の声。
直後、背中に不快な感触。
「ひえっ!」
こいつまさか! 背中にバッタ入れやがった!?
「待って! 取って! お願い! 取って! 取って!?」
服をはためかして落とそうとするが、バッタは服にしがみついているのか落ちてはくれない。触るのも嫌なので必死で彼女に助けを求めるが、彼女はゲラゲラと笑うばかりだ。
「反省したか?」
「何を!?」
「私が嬉しいのに! お前ちっとも喜ばないじゃないか!」
「だって嬉しくないもん!?」
「お前の幸せは私の幸せだ。だから私の幸せもお前の幸せだろ!」
「わ、わかった! その通りだ! 僕が悪かった! 反省してる! だから取って!」
「わかったならいいんだ」
そんなこんなで結局バッタを取ってくれた彼女だが、その後こんなことを口走った。
「ねえ、今ので気づいたんだけどさ」
「……うん」
「私、お前のビビってる顔見るの好きみたい!」
そんな歪んだ愛情はごめんだった。




