表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

 僕の彼女は負けず嫌いで子供っぽい。


「ただいま!」

 勢いよく開いたドアの音とともに、彼女の溌溂とした声が響いた。

「おかえりー、テンション高いね。どうしたの」

「ゲームしよ! 新しいの買ってきた! ゲームゲーム!」

「おーいいね! やろやろ」

 彼女が買ってきたゲームは格闘ゲームだった。早速ゲーム機にセットする。

「よっしゃボコボコにしたる! 泣いたってやめてやらないからな! 顔中腫れまくって誰だかわからなくなるまでやるからな!」

「野蛮な女だ」

「うるせえ! やるぞ!」


 10分後


「おい! なんでお前そんなつえーんだよ!」

 僕が強いというより、彼女が弱いのだが――。

「いやーなんていうか……」

「なんていうか?」

「センス、ってやつかな」

 ――彼女に勝てることなんてあまりない。存分に調子に乗らせてもらおう。

「は? うざ! 絶対ボコす!」

「かかってきな!」

「ちぐしょう!! もっがい!」


1時間後


「勝てねえええ!」

「ハンデでも付けようか?」

 僕はドヤ顔で彼女を煽る。

「いるわけねーだろ! 今のうちに調子乗ってろよ! もっがい!」


 2時間後


「まだやる?」

「もっがい!」

 

 5時間後


「あの、そろそろ寝ないと……」

 あれから五時間、彼女は大分強くなった。けれど、同じだけやれば僕だって上手くなっていく。差はあまり縮まらず、常に僕が勝ち続けていた。

「うるせえ! もっがい!」

 彼女はこうなってからが、長い。勝つまで絶対にやめようとしないし、かといって、手を抜くのもハンデも絶対にNGなのだ。

「明日やろ! 続き! な!?」

「ダメ! お前に負けっぱなしで寝るなんて耐えられない!」

「負けず嫌いだなこの野郎!」

「お前にだけだ馬鹿野郎!」

「えっ」

「お前とは対等でありたいんだ!」 

「そうなのか」

「うん」

「でもゲームぐらいいいんじゃ……」

「うるせえ! 遊びだって全力でやるから楽しいんだ! だから私は全力でお前をボコす! もっがい!」

「わかったよ」


 8時間後


「よっしゃああああああああああああああああああああ!!」

 コントローラーを持ったまま彼女は立ち上がる。

「ついに勝っだあああああああああああああああああああ!!」

 既に早朝となり、鳥の鳴き声が聞こえる中、彼女は勝利の雄たけびをあげた。

「おめでとう! クソがッ!」

 悔しがりながら賛辞を贈ると、彼女は満足したのか「寝るううううううううううう!」と呻き、ベッドに後ろ向きで倒れこんだ。

「切り替えはえーなおい!」

 そうツッコんでみるが、彼女からの反応はない。代わりに、静かな寝息が聞こえてきた。

「もう寝たのかよ……。すげーな」

 呟きながらも彼女に掛け布団をかけてやり、ふと、時計を見てみる。午前6時。後1時間ほどで仕事に行かなければならない時間帯だ。ゲームをやり続けた気怠い頭で仕事に行くと考えると憂鬱だったが、休むわけにもいかない。

 風呂にでも入って支度をすることにした。

 そうして通勤の準備を終え、まさに家を出ようかというとき、目が覚めたのか彼女の声がする。

「あれ、どこいくの?」

「仕事だよ」

「え? 今日仕事あったの」

「うん」

「マジか……言ってくれればよかったのに! ゲーム付き合わせちゃってごめんね……」

「いいよ、僕も楽しかったし!」

「そっか」

「うん」

「洗濯してご飯作ってお風呂沸かして待ってるから、気を付けて行って来いよ!」

「おう!」

「頑張って!」

「おうよ!」

 彼女の激励で、憂鬱だった気持ちが吹き飛んだ。そうだ。僕は頑張らなければいけないのだ。彼女の、ためにも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ