第七課「オーイタ征服」
フクオカ奪還戦争でルタオ人は大した損害を受けていなかった。都市同盟が想像より強固な結束力を持っていることは分かったが、ルタオ人の勢力はそのまま拡大を続け、キューシュー東部を抵抗もなく制圧する。
二十三世紀初めにおいてすでにルタオ人の支配権は都市同盟以外の全キューシューに及んでいた。しかし、ルタオ人が統治する範囲はいまだキューシュー人の方が多く暮らしており、言語的・文化的に「ルタオ化」がしていくのは少なくとも二十三世紀の終結を待たねばならないというのが学会の定説である。その頃にはキューシューが一つの場所であるという意識が失われて久しかった。
2270年、ルタオ人はオーイタを占領する。まだ都市同盟の版図にも組み入れられておらず、土着のキューシュー人が都市同盟の支配にも入らず小勢力で割拠していたこの地域はキューシューの中でも比較的未開の地であった。
オーイタの街を陥したのはアマクサ出身のリ・チャンシウという男。若い頃は無頼の徒を率いて博打にうちこみ、社会の規律にそむいていたが、ルタオ人同士の勢力争いで頭角を表し、三十歳にはすでに大きな傭兵団の隊長を務めあげるまでになっていた。
チャンシウは都市同盟での争いにおいても兵力をしばしば投入していたが、ついに自分が一国の主になりたいという志を抱き、オーイタ一帯へ侵攻した。
ルタオ人の東漸運動をいち早く察したのはシコクのイマバリ市である。ルタオ人がもしシコク近くにまで攻め寄せることがあればヒロシマ人と共謀して挟撃されるかもしれないという恐怖があった。
イマバリ市はフクオカ市に協力を打診した。フクオカ市はヒロシマやシコク以外での植民事業にあまり熱心でなかったが、オーイタ人がルタオ人と組んで都市同盟に反抗するのも厄介と感じ、2274年、オーイタ征服案を民会で議決した。
チャンシウはキューシュー人がいち早く察知すると、戦時措置として支配下の集落から現地のオーイタ人を追放する。ルタオ人の眼にはオーイタ人も都市同盟人も同じに見えたのだ。
一方フクオカ市から司令官として選ばれたのはフカミ・ナオミチ。フクオカ奪還戦争でルタオ人と戦った経験のある彼はルタオ人の戦術を知悉している、と目されていた。
クニサキ半島の前哨戦では手痛い打撃を受けるが、その後はゲリラ戦法を駆使して優勢にルタオ人を打ち破っていき、最終的にチャンシウに休戦を受け入れさせる。
チャンシウはオーイタが取り返せないと悟ると、オースミ半島へ新たな野望を求め出かけて行った。
フカミはしかしフクオカに帰還することはなく、オーイタに居座る。のみならず、ルタオ人がオーイタに住むことを許し、ほぼ独立都市の体制を創り上げていく。
初期のオーイタ市はまだ都市同盟の秩序中に位置付けられていた。しかし、2289年にフカミが亡くなると、その子のマサカネがその遺言により位を継ぐ。そのため他の都市同盟からは『王』呼ばわりされることに。しかしマサカネ自身も父と似て有能な人物であり、チャンシウがオーヨド川を越えてやって来た時も服属させたルタオ人の力を借りて撃退している。
オーイタ市はその後シコクの西沿岸に出兵する。オーイタが都市同盟から分離していく発端としてシコク征服は認識されるわけであるが、都市同士のいさかいとして最初は処理され、この時はまだ大きな問題とは受け取られなかった。