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第五課「フクオカ奪還戦争」

 フクオカはルタオ人の手に落ち、官庁は破壊され金目の物はことごとく略奪された。

 混乱に乗じたルタオ軍の一部はヒロシマ地方にまでなだれこんで、同盟領全体が統制を失って行く。

 いまだ戦火が及んでいないウミゾイ、ナガトに各都市の首脳が集まり、これからの道について相談。

 ルタオ側についている都市が少なくないために、ルタオ側に降伏するか、キューシューを放棄してヒロシマ地方に拠点を置くべきではないかという主張があったほどである。それ以外にも都市同士の利害の対立もあり、意見はなかなか一致しない。

 その中で、シモノセキ市、民会の重鎮であったタツタ・コーヘイという男が、

「一体、いつまで保身のため醜い口げんかにひたるのか!」

 と、喧々諤々たる人々を一喝して黙らせた。

 彼が静まった雰囲気の中で始まった演説は実に有名である。

「親愛なる市民諸君、あらゆる人間は結局死を迎えるではないか。いかに長く生きようと、いかなる功績を成し遂げようと、絶対に死の運命を避けることはできない。

 だが、死があるからこそ救いがある。どんな暴君であろうと死ぬし、どんな過酷な痛みにさらされようとそれは死によって終わる。死こそ、我々の味方だ。我々は抵抗しなければならない。だが痛みを恐れる。だがその必要はない。死がその痛みを取り払ってくれる。

 なら我々は存分抵抗しようではないか。痛みをなぜ恐れるのだ。未来の子孫に向けて英名を残す方が、生き恥を一万年にもさらすより恐ろしいというのか」

 恐らく誇張はあるであろうが、彼の演説はしばしば後世の史書にどれも似た形で引用されている。

 場の空気は一変し、ルタオ人を倒すことで総意が一致した。ただちに軍が組織され、約五千人が敵への反乱のためこれに参加。

 タツタは義勇兵として五百人を別に集め、斬りこみのためキューシューに舞い戻る。

 カラツ市の軍がフクオカ市を占領し、シャオファンは北沿岸に兵を展開していた所に、タツタは寡兵を率いて背後から攻撃をしかけた。

 最初こそ動揺したルタオ軍であったけど、相手より戦争に手慣れしていたためか、これを包囲して殲滅し、この戦いでタツタ自身も戦死した。ルタオ側では「敵はこれほどの弱い兵力しか持たないのか」と笑い合った。

 しかしこれが都市同盟軍の策謀。わざと劣勢に見せかけることで、相手の虚をつこうと。

 陣地においても若者を塹壕に隠し、女や老人の姿を目立たせることで実際以上に追い込まれているように演出したのである。

 これらの作戦を立て実行に移した軍師の名はミヤタ・カイであり、のちにその才能を買われ同盟全体の議長に就任する男であるが、この時はまだ才能の真贋を見極められていなかった。

 ミヤタはシャオファンに使者を送り、現在都市同盟は内紛のまっただなか、とても敵に立ち向かうだけの気力は残されておらず、自滅するのも間近であろうと告げさせる。シャオファンは大喜びで、すぐにでも自らヒロシマ地方へ侵入する算段。

 ミヤタはすぐにでも形成を逆転させたかったが、キューシューにおける内部工作に余念がなく、ついに年があけて2265年二月、タブセの地で決戦。

 この時、都市同盟側ではずっと温存していた戦力を一気に放出し、兵力はほぼ互角となった。装備ではルタオが上だったものの、元々指導者層のルタオ人と主な構成員を占めるキューシュー人との関係に齟齬が生じていたこともあり、決してまとまりが強固だったわけではない。

 都市同盟の払った犠牲は決して小さくはなかったが、抵抗の末ついにルタオ軍を撤退させた。

 この戦勝の報告が各地に伝わると、アマクサが突然他のルタオ人の奇襲を受けた。ミヤタは実はルタオ人にも様々な根回しをしており、決して一枚岩ではないルタオ人のまとまりにくさびを打つことで、彼らに内部分裂を造りだしたのである。

 シャオファンは結局戦場を脱出したものの、シャオレンがすでに都市同盟軍によってアマクサへと護送されており、中には入ることができなかったため、ナガサキに逃れたが数年後さらに大陸へ亡命した。

 タブセの戦いから一か月後、都市同盟の最高会議においてルタオ側に組した都市への懲罰が決定された。カラツ市の成人男性は皆殺しにされ女子供は奴隷として売り飛ばされたほか、カラツに組した都市の指導者も軒並みフクオカやシモノセキからの政治家によってすげかえられた。一説によれば、この時に初めて都市の一体感が創出され『同盟』が成立したという。

 都市同盟はルタオ人との交渉によってナガサキを手に入れ、2272年この地にあらたな都市が建った。もっともルタオ人にとってこの敗北はさした被害ではなく、そのまま征服の手をオーイタ方面に転じていく。

 ルタオは南にも支配圏を広げており、2286年にはアマミ島を制圧している。アマミ島はその後ルタオにとって人材の貴重な供給源となっていく。

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