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名将との対談





「この国を救ってください!!」


ミーナがそう訴えると、シルヴィアが言う。



「ミーナさんッ!今はそれどころじゃないでしょう!?みなさん聞いてくださいッ!もうすぐこっちに帝国軍が向かってきますッ!早く逃げましょう!!」

「何の話だ?」

「帝国軍の兵団がこっちに向かってきてるんです!」


その直後、緒方大尉は戦車のハッチから双眼鏡越しに向こう側から敵集団を確認し、秋山たちに知らせた。



「おい中尉!来るぞ!」

「来たか・・・・話は後だ!クロエすまんが!この二人を拘束しろ!手荒に扱うな。」

「わかったわ。」

「あッ!ちょっと!何をするんですか!?無礼ですよ!!」


二人の女騎士、ミーナとシルヴィアはクロエに取り押さえられ、戦車の後ろで拘束された。そして秋山は伍長が九六式軽機関銃を伏せて構えている草陰に移動し、そこで敵が近づいてくるのを待機した。



「射撃用意!」


小銃を構え、秋山小隊は草陰からじっとその時を待つ。戦車兵の緒方大尉は車内に引っ込むとハッチを閉めて搭乗員に指示を出す。



「目標、前方敵集団。攻撃用意!」


砲塔が少し動き、砲撃手は戦車砲の狙いを定め、引き金に手をかける。

そして九四式軽装甲車も機銃砲塔を動かし、敵集団に狙いを定めた。



騎馬隊が射程圏内に入った瞬間、ハッチを開けて顔を出した緒方大尉は撃ち方初めの号令を発した。



「撃ち方初めぇーッ!!」


待っていたかとばかりに茂みに潜んでいた秋山小隊は発砲を開始。九四式軽装甲車の機銃も火を吹き、緒方大尉もキューポラの上から車載機銃を発砲した。


突如始まった奇襲に、敵は大混乱に陥り、正面にいた騎馬隊や兵たちは飛び繰る弾丸の雨を受けてバタバタと倒れていく。



「敵の攻撃だッ!!引け引けーッ!!」


しかし、さらに攻撃はこれだけには留まらず、緒方大尉は砲撃開始の指示を出す。



「砲撃開始!撃てぇッ!!」


指示と共に八九式の57ミリ戦車砲が火を吹く。放たれた九〇式榴弾は後退する敵兵団の頭上で炸裂し、この砲撃により敵兵三名が即死し、衝撃で近くにいた騎士も吹っ飛んだ。



「撃ちてし止まむ!撃って撃って撃ちまくれ!!」


伍長も茂みから九六式軽機関銃を発砲し、弾倉が空になると隣に控えていた上等兵が予備の弾倉を装填するという感じて発砲を続けた。



一瞬にして敵兵を倒していくその戦いぶりを目の当たりにしたミーナとシルヴィアの女騎士二人は、ただただ開いた口が塞がらず、けたたましく鳴り響く銃撃音と戦車砲の砲撃音に時より耳をふさいだ。



「なんと・・・・」

「これが異界の(いくさ)・・・・。」


二人は思わずそう呟く。そして同じようにダークエルフたちも日本兵たちの戦いぶりを目の当たりにして同じようなリアクションをしている様子であった。


その直後、リリィーが更に敵の気配を感じ、秋山に知らせた。



「アキヤマ!また敵が来る!!」

「何ィ!?今度は何処からだ?」

「森の向こう!これは・・・・・・弓矢!!弓兵よ!!」


刹那、空の向こうから矢が降注ぎ、何本も地面に突き刺さった。緒方大尉はとっさにハッチを閉じて車内に引っ込み、外にいた小隊は木の下に退避した。しかしエルフ三名と歩兵二名が肩や足の膝に矢を受けて負傷する。



「退避ーッ!!」


秋山はすぐに退避指示を出すが、長老のエルフは間に合わず胸に矢を受けてしまった。



「長老!!」


それを見た仲間のエルフたちは慌てて駆け寄り、矢の雨が降る中を二人がかかりで長老を抱えて森の陰に引きずり込んだ。



「衛生兵!!衛生兵は何処だ!?」


帝国軍の弓兵隊が森の向こうから空に向かって矢を放ち、日本軍に攻撃を加えていたのだ。



「弓構えーッ!放てぇーッ!!」


弓兵隊将校の号令と同時に弓兵隊が一斉に矢を放つ。そして再び彼らの頭上に矢が降注いだ。

秋山小隊は木の下に退避して矢の攻撃をやり過ごす。一方、このままでは埒が明かないと感じた緒方大尉は無線機で近くの戦車に連絡を取り次ぎ、支援要請を打診した。



そしてこの打診要請を受け、霧矢(キリア)の陸軍航空隊の飛行場滑走路からは対地支援の為、陸軍飛行第一連隊の九九式襲撃機が一機、50kg爆弾を四個抱いて離陸し、増援の戦車部隊が到着しない内に一番乗りで現場上空に飛来する。



「来たぞ!援軍だ!!」


発動機の音に気がつき、将兵たちは空を見上げた。異界の青空の上を悠々と日の丸の描かれた翼を広げながら彼らの上空を旋回する。緒方大尉は戦車の上から日章旗を振って地上から居場所を知らせ、パイロットは緒方大尉の姿を確認すると、手を振って応え、森のほうを見下ろして弓兵隊の姿を探す。



「見つけた!」


遂にパイロットは敵弓兵部隊の姿を眼下に観止め、その上を旋回しながら様子を窺う。



「鉄の翼竜!?」

「弓兵!!撃ち落せ!!」


すぐさま弓兵隊は自分たちの上空を飛ぶ九九式襲撃機に向けて矢を放つ。しかし翼竜とはまるで違う航空機ならではの運動性能には矢が効く筈もなく、襲撃機は高度とスピードで攻撃を交わしてみせる。



攻撃が止むと、再び高度を下げて襲撃機は旋回しながら弓兵隊に迫り、攻撃態勢に入った。



「今度はこっちの番だ!!」


遂に襲撃機は反撃を開始。急降下しながら迫り、先ず抱えていた50kg爆弾を全弾投下。弓兵隊めがけて叩きつけた。



「食らえぇ!!」


地面に当たり、爆発とともに土と煙が舞う。


直撃弾により弓兵30名ほどが吹っ飛び、地面はえぐられて彼らはとたんに大混乱に陥った。

しかし、それでも尚、弓兵隊は諦める様子を見せず、襲撃機に向かって矢を放ち続ける。


今なお戦意を失わない弓兵隊に有無を言わさず襲撃機は旋回して12.7mm機関砲の機銃掃射を浴びせた。

二門の機関砲は曳光弾を撃ち飛ばし、弓兵は次々と機銃弾を受けて無力化されてゆく。



「ぎゃあああ!!助けてくれえーッ!!」

「化け物だ!!逃げろォーッ!!」


機銃弾を受け、腕や足をもがれた弓兵が血を流して倒れる姿が見え、襲撃機はさらに逃走を図ろうとする弓兵を見つけると、再び旋回して襲い掛かる。



「逃がすかッ!!」


逃走する弓兵に再び機銃掃射が襲う。あっという間に弓兵隊の大半は壊滅し、残った数人の弓兵は弓を放り捨てて森の方へと逃げ込んだ。


弓兵隊の殲滅を確認した後、襲撃機は緒方、秋山小隊と交戦中の敵部隊を殲滅すべくそちらの支援に向かい、低空から迫った。



「弓兵の攻撃が止んだぞ!!」

「見ろ!味方だ!!」


その直後、緒方大尉の乗る戦車のすぐ上を低空で九九式襲撃機が通り過ぎ、残存する敵兵力に対しこれにもまた猛烈なる機銃掃射を浴びせ、それらを掃討。劃して敵の野望は打ち砕かれたのであった。




その弾丸の雨はまるで姿の見えぬ騎兵隊の足跡のように敵に迫り、あっというまに残敵の脅威は消え去った。

やることを済ませた襲撃機はそのまま飛び去り、基地へと帰等していった。後に残ったのは機銃弾の大量の空薬莢と敵兵の死体の山であった。



発動機の轟音を轟かせながら飛び去っていく友軍機に、緒方秋山たち皇軍将兵は万歳と叫んで見送る。

そして、彼らのその戦いぶりを一部始終見ていたエルフたち、そして何より、護衛騎士であるミーナとシルヴィアはただただ圧倒されていた。



「凄い・・・・」


ミーナは思わずそう呟く。シルヴィアは言葉を失い、口は半分開いたまま固まっている。

味方になればこれほど頼もしく心強い後ろ盾はないと考えると同時に、彼女らはもし彼らがオスロニアと同様に祖国パルミリアに仇を成す敵になると考えた瞬間、二人は今まで味わったことのない恐怖に襲われるのである。



「み・・・ミーナさん・・・」


同じことを考えたシルヴィアは不安の表情でミーナを見つめる。そしてミーナもまったく同じ顔をしていた。



「シルヴィア・・・・私はもしかしたら、とても恐ろしいものに近づいてしまったのかもしれませれん・・・・。」


ミーナはそう言い、彼ら(日本軍)の未知なる力に震えていた。

それからすぐに増援の戦車部隊が駆けつけ、負傷兵はその場で応急処置による手当てを受けた。


さらに彼らは味方将兵のみならず、負傷したエルフたちにも治療を施した。



それからミーナとシルヴィアの二人の女騎士は、後から駆けつけた支援部隊の九四式六輪自動貨車(トラック)の荷台にエルフたちや負傷兵と一緒に載せられると、そのまま秋山らと共にエルマン基地へと連行されていった。


日本軍の基地へと連れて行かれる途中、ずっとミーナとシルヴィアの二人は心臓を悪魔に摑まれたような心境でずっと下を向いたまま荷台に座らされ、一言も発することなく沈黙していた。



エルマン連隊本部に到着した彼女らはトラックから下ろされ、秋山は憲兵隊将校に案内されながらミーナとシルヴィアを連れて連隊長の部屋へと赴く。無論、通訳としてリリィーも同伴した。



部屋の前に着くと、彼女らは憲兵に腰に提げている剣を預けるように言われ、憲兵に各々剣を預ける。



「失礼します。」

「入れ。」


中から許可が下り、秋山と彼女らは部屋へと通される。

部屋に入ると、そこには向かい合わせにソファーが設置されていてそこに軍服姿の一人の男が紅茶を入れて飲んでいた。



「来たか、話は聞いている。まぁ座りたまえ。」

「はッ」


秋山はそう言うと、三人をソファーに座らせる。

軍服姿のその男は人数分のカップに紅茶を入れると、それを彼らの前に差し出した。



「まずは飲みなさい。遠慮はいらん。」


2人はお互いに顔を合わせ、それからカップに手を伸ばすと、ミーナとシルヴィアの二人は緊張した様子で出された紅茶を一口飲んだ。


その瞬間、彼女たちは今まで飲んだことのないその味に驚く。



「これは・・・・なんと美味な!!」

「これはなんと!こんなに美味いお茶は今まで飲んだことがないわ!」

「喜んでもらえたようで良かった。秋山中尉も飲みたまえ。」

「はッ!連隊長殿!では、いただきます。」


秋山は緊張した様子で紅茶を飲み干す。



「紹介が遅れたが、私は大日本帝國陸軍、歩兵第一連隊指揮官の金田忠雄(かねだただお)中佐だ。」

「私はパルミリア王国軍近衛騎士団。護衛騎士のミーナ・クロウと申します。」

「同じく王国軍近衛騎士団、護衛騎士のシルヴィア・ペリウスです。」


自己紹介を済ませ、ミーナとシルヴィアの二人はリリィーの通訳魔法を通じて金田中佐に事情を話した。



「なるほど・・・・とりあえず事情はわかった。ただ私一人の判断ではすぐには難しいことだが、目的は我々としても同じでありますから、問題はないでしょう。」

「真でございますか!?」

「ええ、ですが貴女方にも協力していただきたい。」

「わッわかりました・・・。」


ミーナはそう答え、金田中佐と握手を交わす。


まだ二人は日本軍に対する警戒心が残っていたものの、ミーナはここまで来たからには後には引けないと考え、日本軍への情報提供などの協力を確約するのである。



連隊長との対談の後、二人はクロエたちと共に基地内の別のところに通され、そこで憲兵に事情聴取を受け、秋山も同伴して取調べを受けた。


取調べは穏やかな雰囲気で、聴取を取る憲兵も彼女らに対しては恫喝したり声を荒らげたりすることはせず、三人はここへ来た目的を話して聴取は終った。


その後日、ミーナとシルヴィア、そしてクロエとリリィーは秋山の運転する九五式小型乗用車(くろがね四起)に乗って、一路、辺寅(ベトラ)へと向かった。彼女らは初めて乗ったその自動車に驚いていた。



「昨日乗ったのより小さいけど・・・・馬も無しでどうやって動かしているの!?」

「こっちの世界には自動車走ってねーのか?」

「ジドウシャ?ジドウシャという乗り物なのですかこれは?」

「私たちの国では見たこともありませんよ・・・・こんな馬よりも速く走る乗り物は!!」

「そうか、俺たちの世界では何処でも走ってるぞ。」

「なんとッ!?」


話を聞き二人はとても驚く。


やがて一行の乗った車はベトラに到着した。ベトラの街は現在日本軍の占領下にあるものの街の様子はいつもどおりであり、街中には他にも友軍の軍用車輌の姿も窺えた。

だが、二人が驚いたのは他にもあった。それは彼女たちが乗った自動車が市民とすれ違うたびに、市民たちが歓迎した様子で声をかけたり手を振ったりするのだ。



「ここの街の人たち・・・・彼ら(日本兵)を歓迎してる・・・?」

「ミーナさん、なにかこの街は様子が違うようですが・・・どういうことでしょう?」


日本兵に対して警戒心を抱いてるのかと思いきや、この街の人々は彼らに対してとても歓迎ムードで出迎えてくれることに二人は驚いていた。


やがて秋山らの乗った自動車は街の中心部にある陸軍総司令部に到着すると、司令部の入り口前では一人の軍服姿の男が秋山らを待っていた。



「お待ちしておりました。お二方はどうぞコチラへ。」


ミーナとシルヴィアの二人は自動車を降り、将校は二人を司令部の中へと案内する。

秋山とクロエ、そしてリリィーの三名は車に乗ったまま入り口で待機した。



司令部内に案内され、中の廊下を日本軍将校の後ろを付いて歩くミーナとシルヴィアの二人は中を見回す。



「ここはつい最近までオスロニア軍が司令部として使っていましたが、現在は我々の司令部が置かれているのです。」


将校は二人にそう説明する。このとき、将校は異界語を話していた。

妖精なしで会話が出来ていることに気がついたシルヴィアはどういうことかと訊ねると、将校は答えた。



「異界語は多少心得ていますので、私が通訳を務めますのでご安心ください。」

「は、はぁ・・・・。」

「さ、こちらの部屋です。」


部屋に通されると、そこには一人の男が待っていた。



「遠路はるばる、よく来てくれました。お話を伺いましょう。」


男はそう答え、彼女たちを歓迎する。

その男とは、誰あろう帝國陸軍最高司令官である山下奉文陸軍大将その人であった。







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