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秋山中尉、エルフと出会う。





「ダイニッポン帝国?」

「あぁ、俺は大日本帝國陸軍中尉、秋山宗吉だ。」

「チュウイ?アキヤマ・ソウキチ?珍しい名前ね・・・・ソウって呼んでいい?」

「好きにしろ。」


街道を行軍しながら辺寅を目指す我らが秋山小隊。その後、彼らは打ち解け、お互いに国のことなどを話し合った。



「あなたが兵隊ってことはわかったけど、ダイニッポン帝国なんて聞いたことない国ね・・・・。」

「そりゃそうだろうな、なにせ我々は貴様らの言う異界とやらからやってきたのだからな。」

「向こうの世界ってどういうところなの?」

「どうってことはない。普通の世界さ。ただこのところ我々の世界でも戦争が起こっててきな臭くなってきてるがな。」

「ダイニッポン帝国が?」

「いや、日本が今戦っているのはオスロニアだ。我々の世界にはこちらと同じように複数の國が存在している。その中で争いが起こってるのさ。」

「ふーん・・・・そっちの世界も案外こっちと似てるのね。でも魔法が存在しないっていうのは驚いたわ・・・。」

「龍も鬼も妖精も居ないからな。」

「どうりで私を最初に見たとき貴方たちが驚いていたわけね・・・・。」


「?」


そのとき、彼らの頭上を友軍の戦闘機(九七式戦闘機)がエンジンの音を轟かせながら飛んでいくのが見え、それを見たリリィーは驚く。



「アレは何?」

「友軍の戦闘機だろう。あっちはたしかキリアの飛行場か。」

「あれもあななたちの仲間なの?そのセントウキというのはどういう生き物なの?」

「生き物?あれは生き物じゃなくて飛行機なのだが・・・・」

「ヒコウキ?」

「アレに人間が乗って操作しているんだよ。」


秋山から聞かされるその話に、リリィーは混乱する様子だった。



「リリィー。ところでここから一番近い村か街は何処か知っているか?」

「ここからだとシドの街が近いわ。でもあそこはやめておいたほうがいいわ。」

「何故だ?」


リリィーの言葉に秋山は尋ねる。



「悪い人たちが大勢いる危険なところよ。別名、盗賊の街とも呼ばれているわ。」

「盗賊の街?」


シドの街はパルミリアでは最も治安の悪い街として有名であり、街には殺し屋や賞金首がゴロゴロしているという。うっかり知らない旅人が街に入ったら最後、奴隷市場に流されるか翌日に身包みを剥がされ、死体となって街の外に転がっていることがあるのだ。


話を聞いた秋山たちであったが、そんなことなど気にすることはなく秋山は街へ向かうことを決める。



「ほ、本当に行くの?いくらオーガを倒した人間とはいえ、どうなっても知らないわよ・・・・・?」

「構わんさ。もしもの時はコイツがある。」


秋山はそう言うとホルスターから十四年式拳銃を抜いて見せた。

一応、まだ弾薬はたっぷりあるので補給の心配はないがそれでも用心するに越したことはないので街に入る人数は三人に絞られ、秋山と伍長、そして上等兵の三人が入ることになり、他の兵たちは街の表で待機が命じられる。

そして麻布に軽機と小銃を包むと、鼠色のマントのような布を被り、目立たないように三人は入り口横の狭い通路を通って街の路地へと潜入した。


路地から大通りを眺めると、大勢のさまざまな人種の人々が行きかっている姿が窺える。中にはオークやオーガ、そして路地の側にはウサギの耳のようなものが生えた娼婦と思しき格好の亜人の女が立っているの。



「まずは食糧調達だ。リリィー。この街でどこか食い物が得られそうな場所は知らないか?」

「私もあんまりこの辺には来ないから詳しくは知らないけど・・・・・酒場にはいろいろな人たちがいるからそこなら何かあるんじゃない?」

「酒場か・・・・よし。」


路地裏から目立たないように大通りに出ると、通りの向かい側に酒場があるのを見つけ、三人は店の中へと足を踏み入れた。



「いらっしゃい。」

「・・・・。」


店に入るなり、テーブル席に座って昼間から酒を飲んでいる柄の悪そうな男たちがにらみをきかせている。

なるべく目を合わさないように、三人はバーカウンターの前に来ると、カウンター前の椅子に座る。



「中尉殿、異界語話せるのですか?」

「心配いらん、さっきリリィーに通訳の魔法とやらをかけてもらったから相手の言葉は日本語に聞こえてる。」


秋山は向かう前にリリィーに通訳魔法をかけてもらっていたので話す言葉は異界語に、聞こえる言葉は日本語に変換されるのだ。



「注文は?」


バーテンは秋山に注文を尋ねた。



「そうだな・・・・とりあえず水をくれ。」


秋山がそうバーテンに注文を言うと、注文を聞いた他の客が笑う。



「お客さん、ここは酒場だ。水が欲しけりゃ表の飼葉桶から汲んで飲みな。」

「じゃあ何でもいい、酒をくれ。」


そう頼むと、バーテンはカウンターの下からワインボトルに入った酒を取り出すと、グラスと一緒に秋山の前にそれを置く。



「中尉殿、お金はあるのですか?自分は持ち合わせが五円(現在の価値で五万円)ほどありますが我々の世界のお金はここでは使えません!」

「問題ない。さっき倒した鬼の死体から有り金をチョロまかしたから酒1杯ぐらいなら大丈夫だ。それに部下たちにも土産の一つくらいは持っていってやらんとな。」


秋山はそう伍長に説明すると、グラスに出された酒を1杯口に含んだ。

そして秋山はその酒の味の悪さたるや思わず吐き出しそうになったが、どうにか堪えてそれを飲み込む。



「うぇ・・・・こんな酷い味の酒は今まで飲んだことがねぇ・・・・」

「そ・・・そんなに不味いのですか?」


興味本位で伍長と上等兵の二人もその酒を一口飲んでみると、あまりの不味さに上等兵は思わずその場に戻してしまった。



「げぇぇッ」

「だらしないのぉ」

「おいバーテン、この店は客にこんな不味い酒を出すのか?」


バーテンに秋山はそう文句を言うと、隣のカウンターに座っている男が笑う。



「ヘッヘッヘッヘッヘッヘッヘ・・・・」

「何がおかしい?」

「いや・・・・アンタら、この辺じゃ見かけない顔だな。旅の者か?」

「・・・・あぁ。お前は?」


秋山がそう訊くと、その男は自らを宿屋の主と主張した。



「どうですか?今ならお安くしておきますよ?」


しかし秋山は首を横に振る。



「必要ない。それより酒と食糧が欲しい。最低でも三日分だ。」

「それならいい店を知っておりますよ。」


怪しげな笑みを浮かべながら男は秋山たちに店を紹介しようとした。



「ご案内しますよ、ささ、こちらへ!」

「待ちなさい!!」


「!?」


突如、後ろからそれを遮るように声が響く。

後ろを向くと、色黒の肌で腰に剣を差した銀髪のダークエルフの少女が、コチラを睨むように佇んでいた。

ツリ目の紅い瞳に、肩まで伸ばした銀髪。そして豊満な胸。秋山たちにはまだ歳は十代くらいの少女に見えた。


しかし、秋山は一目で彼女が只者ではないことを察し、静かにマントの中に手を入れると、拳銃を収めたホルスターに手を掛ける。



「なんだクロエ、またてめぇか?毎度毎度俺様の商売の邪魔しやがって!!」


男はダークエルフの少女にそう言う。だが少女はそれに構うことはなく続けた。



「何が商売よ?旅人からお金を騙し取るのがアンタの仕事なの?」


強気に少女はそう出る。彼女の話を聞いた秋山はどういうことかと男に尋ねると、男は彼女の言っていることを否定する。



「あの娘の言うことに耳を傾ける必要はありませんよ。商売敵なもんでいつも客を横取りしようとしてくるんですよ。まったく困ったものです・・・。」

「嘘よ!騙されないで!」


少女は秋山の方を向いて必死にそう訴えた。その様子に伍長と上等兵の二人はどっちを信じればいいの分からず困惑した。しかし秋山の一言で状況は一変する。



「嘘つきの見分け方なら知っている。」

「!?」


その言葉にエルフの少女クロエとその男は秋山の方を向く。



「人は嘘を付くとな、目の下が黒くなるんだよ。」

「中尉殿!それは本当なのでありますか!?」


驚きのあまり、伍長は尋ねる。しかし秋山は冷静に続けた。



「いや、嘘だ。だが、どっちが嘘つきなのかははっきりしたな・・・・。」


秋山はそう答えると、全員の視線は男のほうに向けられる。そう、このとき男は自らの手で自分の目の下を触っていたのだ。

この瞬間、秋山の策にハメられたことに気がつき、男の顔は青ざめる。



「はッ!?し、しまった!!」

「どうやらそのこ娘さんの言ってることは正しかったようだ。さて、宿屋さんとやら。どうする?」


追い詰められた詐欺師の男は本性を現し、胸元に忍ばせていた短剣を引き抜くと、それを秋山のほうに向けて威嚇した。



「このバカがぁ!!人が下手に出てりゃいい気になりやがってぇ!!ぶっ殺してやる!!」

「!!?」


突然の事態に酒場は騒然となり、カウンターにいたバーテンは被害を被るまいとして店の奥へといつのまにか姿を消していた。



「中尉殿!」


秋山はホルスターに収めた拳銃に手を伸ばし、一歩後ろへと後退りする。しかしその時、秋山より早く少女クロエが行動を開始した。


彼女は息もつかせぬ素早さで駆け抜けると、刃物を持つ相手に恐れることなく飛び込んでいき、近くにあった酒瓶と手に取ると、それを男のほうにめがけて投げ飛ばす。



「がはぁ!!!」


投げ飛ばした酒瓶は詐欺師の男の頭に吸い込まれるように当たり、粉々に砕け散った。

男はそのまま気を失ってカウンターの下に崩れるように倒れると、周りにいた詐欺師の仲間たちだろうか、彼らがそれに反応してテーブルから立ち上がり、秋山とクロエたちを取り囲む。



「なんだコイツら?」

「中尉殿!」

「伍長、攻撃に備えろ・・・。」


秋山は小声で伍長と上等兵の二人にそう伝えると、ホルスターから十四年式拳銃を抜き、安全装置のレバーを安から火に倒す。



「おい野朗ども!やっちまえ!!」


ガラの悪そうな一人の男がそう叫ぶと、周りに居た彼らの仲間たちは剣や斧を振りかざして襲い掛かる。

伍長は麻布に包んでいた九六式軽機関銃の引き金に指をかけ、いつでも撃てるようにして秋山の指示を待つ。



「中尉殿!」

「撃て!」


その瞬間、伍長は包んでいた麻布を取り払うと、銃剣を取り付けた九六式軽機関銃を向かってくるチンピラやゴブリンたちに向け、愈々遂にその砲火を開くのである。



「しゃがめ嬢ちゃん!」


伍長はそうさけび、引き金を絞った。その瞬間、軽機が火を吹いた。

とっさにクロエは床に伏せ、伍長は引き金を絞りながら銃を左右に振り、迫ってくる敵を一瞬で返り討ちにしてせしめたのだ。

ある者は盾で攻撃を防ごうとするが、盾は意味を成さず弾は貫通し、無残にも崩れ去る。


けたたましく響く6.5mm弾の炸裂音。はじけ飛ぶ薬莢。マガジン内の弾を撃ちつくす頃には酒場は死体であふれかえり、生き残った者はテーブルの下に隠れて震えていた。


軽機の銃口からはただ静かに白煙が上がり、床には幾つもの空薬莢が散らばっている。


炸裂音が止み、クロエは恐る恐る目を開けると、自分の周りにはさっきまで自分たちを襲おうとしていた男たちが虫の息で血を流して何人も倒れている光景が広がっていて、とても驚いた。



「一体何があったんだ・・・・?」


突然のことで困惑している彼女に、秋山は手を差し伸べる。



「おい、大丈夫か?」

「え・・・・?」

「立てるか?」

「あ・・・うん・・・。」


クロエは秋山の手を握り、立ち上がると、改めて自分の周りに広がっている光景を目の当たりにして目を丸くする。



「嬢ちゃん、名前は?」


秋山がそう尋ねると、彼女は答えた。



「私はクロエ。あんたたち一体何者なの・・・・・?」

「俺たちは日本から来た兵隊だ。」










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