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開戰、ニイタカヤマノボレ






「長官、そろそろ時間です。」

「うむ。通信参謀!各艦に伝えィ!」

「はッ!」


第一戦隊の聯合艦隊旗艦、長門より、開戦命令の暗号電文「ニイタカヤマノボレ一二〇八」が打電された。




「~皇國ノ興廃此ノ一戰ニ在リ、各員一層奮闘努力セヨ~」



「~総飛行機発動~総飛行機発動~」


同時刻。Z旗翻る空母より、出撃の命を受け艦載機が次々と飛び立っていく。

そして第一航空艦隊旗艦、空母赤城の飛行甲板からも、一機の零戦が今まさに飛び立とうとしていた。

出撃前、彼らは杯を酌み交わして決戦への最後の仕度を整える。



「~発艦始め~発艦始め~」


整備兵に敬礼を済ませると、彼らはコックピットに乗り込み座席のベルトを締め、首から提げた御守りを胸の中にしまい、まだ夜も明けぬ暗がりの異界の空へと飛び立った。









軍歌、海行かばの放送の後、ラジオからは開戦を知らせる臨時ニュースが流された。




「~臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます。~」


「~大本営陸海軍部、十二月八日午前六時発表。~」


「~帝国陸海軍は、本八日未明。異界本地において、敵異界軍と戦闘状態に入れり。~」


「~帝国陸海軍は、本八日未明。異界本地において、敵異界軍と戦闘状態に入れり。~」













そこは中世ヨーロッパを思わせるような異世界。ドラゴンや騎士、そして魔法が存在するその世界であった。パルミリア王国はその世界に存在する平和な王国であったがある日、大陸に存在する大国オスロニアが帝国主義の名の下に突如としてパルミリアに侵攻し、王国軍は抵抗したものの、異世界最強の兵力、軍事力を誇ったオスロニア帝国軍に敗れ、軍は敗走。パルミリアはオスロニアに掌握され、国土は占領された。


やがてオスロニア帝国は更に植民地を増やすため、異界に新天地を求め、魔道師を集めて禁断の魔法により、時空に異界へと穴を開けさせた。




オスロニアは古代ローマ帝国のような兵力を有しており、オスロニア軍の軍隊は異世界では連戦連勝を誇っていた。兵士たちの指揮も高く、今回の異世界出兵も簡単に落とせると思っていた。



しかし・・・・・・。







「どういうことだ!?先方の部隊が全滅だと!?」


オスロニア帝国軍司令官、ゴード将軍はその知らせに驚く。異界出兵した帝国軍の精鋭の騎士部隊が事実上全滅したのだ。

この事態に帝国軍司令部は騒然となった。それから数日後、更に追い討ちをかける事態が発生する。



「閣下ッ!閣下ッ!」

「何事だ?」


慌てた様子で帝国軍の伝令兵がゴード将軍の下へと駆け込んできた。



「デザリアがッ!デザリアの軍港が敵の奇襲を受けて炎上しておりますッ!!」

「なッなんだと!?」


伝令兵の知らせを聞き、ゴード将軍は驚愕する。

時系列は10時間前にさかのぼる。始めに異変に気がついたのはデザリアの沖合いで漁をしていた小船の漁師であった。



「ん?なんだありゃ・・・・?」


早朝、7時。水平線の彼方から何かが飛んでくるのを目撃した。それは複数あり、コチラのほうに近づいてきているようだった。



「てッ鉄の翼竜!?」


漁師は驚いて持っていた縄を思わず手放す。

その直後、小船のすぐ上をそれは通過していった。



それは第一航空艦隊の空母赤城、加賀、蒼龍より発艦せる第一波攻撃隊の九七式艦攻と、九九式艦爆、護衛戦闘機隊の零戦21型の編隊であった。攻撃機の編隊は低空でデザリア湾に迫ると、各機に指揮官機より全機攻撃態勢に入れの指示が下る。



「~全機、突撃セヨ~」


指揮官機より発せられたる無線に、各機は敵異界軍の艦艇が停泊している軍港へと進入を開始。

デザリアの軍港には帆船のような巨大な表面を鉄板で覆った敵海軍の艦艇が二十隻あまり停泊しているのが窺え、マストの上にはドラゴンが描かれた異界の帝国の旗がはためいていた。



「機長!攻撃目標を確認!」

「ヨーソロー、魚雷投下用意!」


停泊中の敵艦艇に向けて九七式艦攻の艦攻隊は魚雷を一斉に投下し、魚雷は敵戦艦の側面に三本も命中し、大きな水柱を上げた。



「命中!」


さらに後続する各機攻撃機群は停泊中の敵艦艇に対し魚雷を撃ち込み、帆船の軍艦は木っ端微塵に爆散し、またある艦艇は雷撃により浸水して燃え上がり、大破着底した。

燃え上がる湾内。更に鉄槌を加えんと九九式艦爆の爆撃隊は、高高度より急降下爆撃の体制に入り、直下から敵鋼鉄帆船艦艇に向けて腹下に抱えた250キロ爆弾を親の仇とばかりに次々と叩きつけた。


爆弾は次々と停泊中の敵艦艇の甲板をぶち抜き、激しい爆発と共に確実にそれらを葬っていった。



「うわぁッ!!」

「逃げろォ!!」


軍港湾内には水柱が上がり、攻撃を受けて燃え上がる艦艇が黒煙を上げている。

波止場では敵水兵たちや甲冑姿の兵たちは逃げ惑いパニック状態に陥った。もはや指揮も機能しておらず、責任者である敵将は突然の事態に兵をほったらかしにしてその場から逃げ出していた。


更に空襲は港周辺の敵の軍事施設にも行われ、第一波攻撃隊に続き、第二波攻撃隊の250キロ爆弾を搭載した九七式艦攻の爆撃隊による水平爆撃に加え、九九式艦爆の陸用爆弾による急降下爆撃によりそれらの施設は跡形もなく破壊しつくされた。


逃げる敵兵はボウガンや槍などで反撃するものの、敵うはずもなく、護衛戦闘機隊の零戦21型による機銃掃射の前に次々と倒れていった。瞬く間に朝のデザリア軍港は炎と煙に包まれ、軍港は完全に壊滅した。



「第一遊撃隊指揮官機ヨリ入電!トラ・トラ・トラ!ワレ奇襲ニ成功セリ!」



デザリア湾奇襲攻撃の翌日、パルミリア領内の平原に彼らは今まで見たことも無い異世界の軍隊と遭遇する。

これが異世界本地において日本軍と異世界人の初めての邂逅であった。



「なんだあれは?木甲車か?派手な模様をしているな・・・」

「何か旗のようなものを掲げています・・・・・白地に赤い丸?」

「向こうの兵士を見ろ!奴らはほぼ身軽だぞ!武器といっても長い杖の先に短剣を付けてるだけだ」

「あんな連中に先方部隊はやられたのか?」


帝国軍の兵士たちは初めて目にする異世界の軍勢に皆、鼻で笑い小ばかにした様子だった。彼らには自分たちの持っている弓や盾、剣に比べて相手の持つ武器が劣っているように見えたのだった。


平原に防衛線を張るする帝国軍の守備隊はすぐに攻撃を開始した。しかし、彼らはすぐに異世界へ出撃した先方部隊が全滅した理由を知ることとなった。






「信じられん・・・・・それで敵の数はどのくらいだ?」

「確認したところ、およそ2万。こちらの半分だと思われます。」

「たった2万の兵にやられたというのか!?ありえんぞ!まさか・・・・・異界の兵士たちは全てが魔道の使い手なのか!?そうでなければこんなことはありえない!!」

「将軍閣下、恐れながら・・・その可能性は十分高いと思われます。事実、先日のアロークの丘の戦いでは敵は離れたところから魔術のような力で遠くにいた仲間の兵を一瞬で・・・・デザリアでは敵は見たこともない鉄で出来た翼竜で我が国の軍艦を一瞬のうちに・・・・軍港は鉄の雨が降り注ぎ、敵部隊に掌握されてしまいました・・・。」

「信じられん・・・・なんてことだ・・・・」


ゴード将軍はまたしても言葉を失う。



「将軍閣下・・・。」

「どうやら異界の敵は我々の想像以上に手ごわい相手かもしれんな・・・・。」

「将軍閣下、どうします・・・・?」

「決まっておる、ウォーグス!直ちに兵を集めよ!準備が整い次第、兵をエルマンに送り敵の拠点に攻め入り、本部を奪還する!」

「はッ!」



ゴード将軍は指示を下し、増援の兵約4万人をエルマンへと送り込んだ。しかし・・・・。




「全滅・・・・だと!?」

「はい・・・・。」

「4万もの我が精鋭の騎士団が・・・・全滅・・・・。」


知らせを受け、ゴードはまたしても言葉を失った。送り込んだ兵は歴戦の騎士であり、向かうところ敵なしの精鋭部隊であった。それらが一人残らず全滅したという事実が信じられなかったのだ。




時系列は4時間前にさかのぼる。


時刻は日本時間、深夜0時。パルミリア王国の大陸から突き出た半島、レリーヴ半島沿岸に海軍の護衛に守られながら陸軍の精鋭部隊が上陸を開始。これに続き、海軍特別陸戦隊も上陸を開始した。





「中尉殿、そろそろ出発の時刻です。」

「もうそんな時間か?他の部隊は?」

「先に出発しています。我々も急ぎましょう。」


車長は無線で各車に前進開始の指示を出し、八九式中戦車四両、九五式軽戦車二両、重機関銃等の武器を積んだ兵員輸送車三台を引き連れた小規模の偵察部隊は少数の歩兵部隊を連れてレリーヴの森の中を進む。目指す先は敵異界軍の拠点であるエルマン基地である。



出発してから一時間後、彼らは遂に異界の地にて敵と遭遇した。



「伍長、見えるか?」


伍長は銃剣を装着した三八式歩兵銃を構え、茂みからそっと闇夜に目を凝らし、わずかに見える松明の明りを確認する。



「テントのようなものが30ほど確認できます。敵の数はこの位置からは正確には確認できません。」

「よし、可能な限り前進する。全員弾込め!」


中尉の指示に全員が小銃に弾を装填し、準備を整えた。中尉は軍刀を鞘から抜くと、片手には十四年式拳銃を持って前進の合図を出す。



「よし、前進開始!静かに進め!」


夜襲は極めて速やかに行われた。甲冑姿の敵異界兵の背後に音もなく忍び寄ると、口を押さえ、抵抗できぬ間に銃剣や軍刀で咽を斬って敵兵を次々と無力化させ、明りの灯っているテントの中に押し入り、これを制圧せしめた。



「てッ敵襲!敵襲~!」


その声に仲間の異界人の兵士たちは目を覚まして飛び起きると、槍や剣、ボウガンなどの武器を取ると日本軍に対して交戦した。しかし、結果は火を見るよりも明らかであった。


叫びながら剣を構えて突撃してくる敵の騎士の背中を、三八式歩兵銃から放たれた6.5mm弾が貫く。弾丸は甲冑をいともたやすく貫通し、さらにもう二発もの小銃の弾を胸に受け、騎士は無残にもその場に崩れ去った。

それでも騎士たちは剣や縦を持って日本兵に突撃する。しかし歩兵が持っていた九六式軽機関銃と百式短機関銃の掃射によりたちまち敵兵力は無力化された。


生き残った敵兵は遭遇した日本軍の圧倒的な力に戦意を喪失し、武器を捨てて向かいの森のほうへと逃げていく。



「中尉殿、敵が逃げていきます!」

「追撃する!あの方角は敵の本拠地のエルマンだ。おそらく増援を呼びに行くつもりだろう。」


敵のキャンプ地を征圧した本隊はさらに敗走して逃げていく敵を追うように進撃を開始し、やがて前進部隊は敵の第一防衛線であるアロークの丘へと達したのである。



そこで彼らは敵の主力と対峙し、日本時間午前六時、交戦状態に突入した。

早朝の丘は砲声や機関銃の銃声が轟き、戦車砲や迫撃砲の攻撃に加え、機関銃による掃射などにより敵異界軍は苦戦を強いられた。


敵異界軍はドラゴンを投入して空からの投石攻撃を加えるも、上陸部隊支援のために出撃した零戦21型等の第一航空艦隊の海軍機によってドラゴンは一匹残らず撃墜され、敵異界軍は制空権をも失った。



戦車が進むすぐ上空を低空で海軍の零戦がエンジンの音轟々とかすめてゆき、攻めてくる敵異界軍を機銃掃射で見方上陸部隊を援護する。



「なんだあれは!?」

「撤退だッ!逃げろ!!」

「上だ!空から来る!!」


敵異界軍の騎士の頭上に、一機の零戦が迫る。兵士は盾でガードするも、零戦の7.7mm機銃が火を吹くと同時に大きな穴が幾つも開き、騎士は即死した。

それでも異界軍は果敢に戦いを挑むも、圧倒的な力の差に敵うはずもなく、彼らは早々に戦意を失い、武器を放り投げて逃げていく。



「~大本営陸海軍部発表。本九日早朝、異界本地、レリィーヴ半島ニ上陸セル我陸海軍精鋭部隊ハ、午前6時20分。アロークの丘ニテ敵異界軍ト交戦状態ニ突入シ、勇猛果敢ナル戦イノ末、敵ハ遁走。上陸セル前進部隊ハ敵主力部隊ノ本拠地エルマンヲ目指シ怒涛ノ進撃ヲ開始!~」


戦況の様子は逐一、臨時ニュースとしてラジオで報道された。


そして前進部隊はアロークの丘を越え、エルマンへと進攻した。エルマン基地は第一航空艦隊の艦載機による奇襲攻撃を受け、瞬く間に壊滅。進攻した上陸部隊は残敵を掃討、これらを制圧せしめたのである。



制圧されたエルマンの基地には日章旗が翻り、上陸部隊将兵は皆、万歳と歓呼の声を上げた。







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