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渡洋爆撃






「クロエ、お前歳は幾つだ?」


ベトラ市街をくろがね四起に乗りながら走る秋山は隣の助手席に座っているクロエに、ふとそんなことを訊ねた。



「366歳だけど、それがどうかしたの?」

「おいおい・・・・・本当なのか?」


冗談かと思い、秋山はそう訊き返すも、クロエは真面目そうな顔をしていたので、秋山は確信する。



「エルフ族は亜人の中でもとても寿命が長いと言われているらしいわ。まぁ私はあんまり気にしたことはないけど・・・。」

「俺より年上じゃねーかよ・・・・驚いたなぁ・・・・・。」

「アンタは何歳なの?」

「32歳。」

「人間にしては普通ね、エルフだと30歳はまだ子供だけど。」

「ホントかよ・・・・そいつはたまげたなぁ・・・。」


秋山はそう答えると、懐から煙草を一本取り出すとそれを銜えて一服した。



「アキヤマ、それ一本くれる?」

「え?また吸うのか?」

「なんとなく吸ってみたくなった。」


煙草を一本受け取ったクロエは秋山からライターを借りて火をつけると、またそれを吹かした。



「どうだ?美味いか?」

「ゴホ・・・・まだよくわかんない・・・・でもなんか気分が晴れるわ・・・。」

「そうか。そりゃーよかった。」

「うーん・・・・ヘンな臭い!」


リリィーは煙草の煙には少し苦手なようだった。

その頃、司令部ではミーナとシルヴィア、そして山下大将との会談が進められていた。


一連の話を聞き、山下大将は彼女たちの国の状況を理解した。



「なるほど・・・・・女王陛下は城に幽閉されていると・・・・。」

「はい、私たちは陛下から密命を受け、ここに参上した次第であります・・・・。」

「なるほど。お話は分かりました。我々としても目的は敵の殲滅であり、地下資源の確保が最重要の目的ですからな・・・・。」

「では!?」

「我々としては依存はありません。こちらとしてもあなた方に協力を要請したく思います。」

「あ、ありがとうございます!!」


ミーナはそう言い、山下大将と握手を交わした。



「これからは貴國と我が國は同盟関係ですな。」


こうしてパルミリアと日本の間に非公式ではあるが同盟が結ばれた。

そして、この同盟成立の翌日。この同盟を確たるものとするために日本軍は次なる作戦を開始する。


その作戦とは、オスロニア軍が居座っているパルミリア本土への空襲。事実上の戦略爆撃である。


昭和十六年十二月二十一日。陸軍の要請を受け、海軍航空隊司令部に出撃の命が下る。まだ夜も明けぬ頃、マロン島基地の滑走路からは腹下に60kg爆弾12個を抱いた九六式陸上攻撃機、約36機が、今なお神國日本を脅かさんとするオスロニア帝国に対し、空より膺懲(ようちょう)の鉄槌を下さんと出撃した。目指すはパルミリアの首都カリザ。爆撃目標はカリザ市外の敵軍事施設及びオスロニア軍によって占領後に作られた帝国軍将校の邸宅が立ち並ぶ街である。


海を越え、パルミリア本土へと進入を果した我が海鷲の大編隊は、敵竜騎兵と遭遇することなく朝7時39分頃には目標上空に到達した。



その頃、カリザの街はまだ眠りの中にあり、朝早くから仕事をしている者は少なく、兵士たちもまだ夢の中にいた。




銀翼を連ね大編隊も鮮やかに、我が海鷲の群れは巨弾を抱いてカリザ上空に達する。



「進路そのままー。そのままー。」

「ヨーソロー。」


今なお、敵からの反撃の様子は見られず、我が海鷲の大編隊は白雲の隙間からその姿を現すと、愈々遂に爆撃を開始するのである。



「いいか、間違っても城壁の向こう側には落とすなよ?目標は外側の街だ!」

「はッ!」

「投下よーい」

「ヨーソロー」

「投下ッ!」


各機から次々と切り離され、吸い込まれるように地上に投下されてゆく幾つもの爆弾。

投下から12秒後、眼下にピカピカと閃光が輝く。その巨弾は稲妻の如く地上に降注いだ。



突然の空襲にガリザの街は蜂の巣をつついたような騒ぎになり、早朝のカリザの街は大混乱に陥った。



さらに攻撃の手は緩まず、マロン島基地から続けて離陸した第二次攻撃隊の新鋭、一式陸上攻撃機約20機の編隊が銀翼を連ね堂々飛来。都市の反対側から上空に侵入し、敵に反撃の隙を与えず主要軍事施設に対し爆撃を敢行。一斉に巨弾を投下した。



「敵だ!!敵の空中艦隊だ!!」

「逃げろォー!!退避だ!!」

「市街地に逃げろ!!」


滑空音と共に地上へと降注ぐ巨弾の雨に、オスロニア軍の兵士たちは恐怖した。空を見上げると、何十機もの航空機の編隊が発動機の音轟々と雲間から姿を現した。



「一体何事だ!?」

「なんだあれは!?」


初めて見るその異様な光景に、誰もが恐怖を感じた。街の外にあるオスロニア軍の街のほうから立ち上る黒煙を目の当たりにし、カリザ市民たちは驚いた様子だった。



その頃、マリヴ城総司令部も蜂の巣を突いたような騒ぎになっており、地上からは慌てて竜騎兵が迎え撃とうと飛び立った。

城の離れの塔に幽閉されていた王女セルシアは騒ぎに気がつき、部屋の窓から外を見てみると、街の外のほうからまるで火山の噴火の如く、爆発音と閃光と煙が街の外の方から窺えた。



「一体何が起こっているの!?」


更に聞きなれない航空機のエンジン音に、窓越しに空を見上げると、今まで見たことも無いものが幾つも城の上空を通過していくのが窺え、セルシアは驚いた。



「あれは一体・・・!?」


そして攻撃機が飛び去った後には一面、焦土と化した敵軍の街だけが残っていた。敵軍の作った街はすべてが破壊され、新しく建てたばかりの石造りの敵兵舎、並びに武器庫などの軍事施設も全てが跡形も無く消え去り、それらは瓦礫の山と化していた。さらに火災も発生し、オスロニア軍の街は全てその機能を失ったのである。


後に残ったのは瓦礫と爆撃によるクレーターの穴、そして敵兵の死体の山であった。



「降伏すべきです!これ以上戦っても無駄に犠牲を出すだけです!」

「まだ彼らと戦うというのですか!?」

「ならぬ!!降伏などありえん!!私は皇帝陛下からこの地を治めるように仰せ付かった・・・。敵が何度来ようと受けて立つ!残った魔道師を集めよ・・・・直ちに反撃する!」


帝国のパルミリア方面軍の将軍は決して降伏は認めず、徹底抗戦の意思を貫いた。


日本軍によるパルミリア本土の敵拠点に対する渡洋爆撃行の後、再び街の上空に日の丸の描かれた翼を広げ、三機の荒鷲が飛来するのだ。その荒鷲というのは、霧矢飛行場から離陸した陸軍航空隊の二式複座戦闘機(屠龍)であった。


再び飛来した日本軍機に、帝国軍将兵は皆混乱し、慌てて地面に伏せたり物影に隠れたりした。



「来たぞ!!また鉄の翼竜だ!!」

「隠れろーッ!!」


だが、屠龍が来たのは攻撃が目的ではなかった。その三機の荒鷲は、カリザ上空に進入を果すと、焦土と化した城壁外側の敵の街を越えて市街地に侵入し、パルミリア国民に向けた宣伝ビラを低空からばら撒くのである・・・。



「何だ!?」

「何か紙みたいなものが・・・・」


街中にばら撒かれたビラに市民たちは何事かと不思議そうに家の外に飛び出して落ちてきたビラを拾い上げる。幼い子供たちは空から振ってくるビラを見て楽しそうにはしゃいでいた。


そのビラには以前のベトラ攻略戦において使われたのと同じように、日本語の下に異世界語の訳を載せて、パルミリア国民に対する日本側の意思が綴られている。



「・・・・パルミリア国民、及び、カリザ市民の皆さんへ。我々は平和を愛する自由の使者。我々はあなた方パルミリア国民に対する攻撃の意思はありません。我々は貴国の勇敢な戦士より要請を受け、ここに参上した次第であります。パルミリア国民、並びに市民の皆さん。野蛮な侵略者共(オスロニア帝国)から名誉と栄光、そして自由を取り戻すため、我々は共に戦う覚悟であります。今こそ祖国のために、共に立ち上がりましょう。」


それは計画的なプロパガンダであった。

宣伝ビラは市街地のみならず、オスロニア軍に対し降伏を求めるビラと共に、マリヴ城全体にもばら撒かれた。



「拾うなー!敵のビラを拾うなー!」


三機の戦闘機がエンジンの音を轟かせながら城の上空を通過していくと、その後に宣伝ビラが降注いだ。

ベトラでの一件から将校は兵士たちや城下の市民たちにビラを拾って読むことを禁止するが、既に大勢の市民がビラを手に取っていた。


そして城の塔に幽閉されていた王女セルシアも、窓から風に乗って部屋に入ってきたそのビラの一枚を拾ってそれを読み、驚愕する。



「まさか・・・・ミーナ!?」


王女は慌てて窓のそばに駆け寄ると、街のほうの空を見上げ、飛び去っていく三機の日本軍機を見上げながら王女はまだ確かではないが、微かな希望を感じだ。



「ミーナ・・・・どうか頼みます!」


そう言うと王女は静かに祈りを捧げた。










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