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鼓動を繰り返し 失われる時を―必死にすくい取るかのように
生と死の鬩ぎ合いにたゆたう海のように―彼は生きた
ただこの作品を完成させたい―その一心で
ただあの時の出会いを
その時胸に抱いた想いを―守るために
この世界に ただ―残すために
彼は祈りながら 汗を滴らせ
血を吐きながらも 手を動かし続けた
命を燃やすように 今しか見えない暗闇の中で
灯火を松明として 歩み続け
造り上げた作品を最期に路上から姿を消した
しかしこの作品が彼の手から彼女に渡されることはなかった
彼が「凛」と題したそれは
紛れもない彼女の後ろ姿だった