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それはある人の涙

ある人の微笑み


愛しい人と一緒に見た夕陽

共に歩いた月夜道


美しくも儚いそれは

目覚める時には淡く溶けるように…

記憶という掌から零れ落ちるように…

消えていってしまう…


それは残像のような

遠い思い出のような


――夢…


その残像は彼の心に訴えかける

夜空に願う星のように


誰にも聞こえることのない

祈りのように


その声なき声は彼に彫刻刀を握らせる


―忘れたくない―

―失いたくない―

―無かったことになんて…できない――と…


温もりを忘れないように

そこにあったかけがえのない何かを心に残しておくために


できあがった作品に彼は首を垂れる

祈りのように 許しのように


どうか―あなたの手に届きますように――と…


それらの作品は時を経て

必ず彼のような人々の手に渡る運命にあるらしい


出会うべくして出会った人たちは口にする……


「娘にそっくりだ」

「あの人は元気にしているのだろうか」

「そういえばあの子はこんな表情をしていたっけ……」


――そんな時だった

足を止めた女性がいた

とある像を見つめていた


それは子犬だった

くるりと丸い瞳をして舌を出して

笑っているかのようだった


「似てる…」

彼女はそっと呟いて―思わず―触れる

その撫でる手は生きているものを慈しむようだった


はっとして――彼女は手を放して 彼に謝る

彼は微笑んで――ゆっくりと首を振る


―夢の中で……

彼は子犬の夢を思い出す


差し出した手とその笑い声

それは――あなただったか…


彼女は訥々と語り始める


犬を飼っていたことを

この像とそっくりな―犬を

亡くした悲しみが残り続けていることを

そして―想わず手にとってしまったということを


語りながら―彼女は犬を撫で続けていた

失われた時を―取り戻すかのように

まるでずっと大事にしていた―宝物のように


ふと―彼女は子犬を抱きしめて

そのまま―動かなくなった

項垂れ 眼を瞑り

それはまるで―黙祷のようだった


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