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―第一章― 心に彫った思い出の刻 1


刃が木を削り取る

大地を抉る風のように


木の屑がぱらぱらと床に降り注ぐ

やがてそれは輪郭を表していく



――外には月

三日月は消え入りそうに光っていた



彫刻家は手を休めることはない

一心不乱に手を動かし続ける


手は傷だらけというのに

止めようともしない


止まればそこで時が終わってしまうかのように


夜の静寂の中に

刃と木の摩擦の音が響く



―音が…止まった―


刃が床に堕ちる


―胸を押さえて―

―眼を堅く瞑って―

―息が荒れる―


息を整えて…もう一度…


咳き込んで押さえた手には

――赤い染み


残された時は

もう少ない……


手を見つめて―彼は呟いた


――頼む……


刃をもう一度手にして

再び木を削る音が

火の粉散らす音のように

床に屑となって降り注いだ


木は景色を描き出し

とある後ろ姿を現そうとしていた


ふらつく体を必死に支えて

残された灯火を絶やすことなく

彼は木を削り続ける


その瞳に宿る光は

命の輝きを削ってもなお

生きようとする灯火のようだった


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