表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/19

第一話 -8

『火』の祠の近くで周囲を警戒していた朱伽は、一人の男が近づいてきていることに気がついた。


「よう、朱伽」


「あれ?静春!どうしたの、こんなとこで?」


現れたのは最宮静春。青龍として巧に協力している仲間だ。


「パトロールだよ。そしたら偶然見知った顔を見かけたからさ」


「こんな遠くまで見回るんだ。ご苦労様で~す」


朱伽がふざけて敬礼する。


「まあ仕事だからな。あ、飲むか?」


静春が差し出したのはペットボトルの炭酸飲料。一口飲んだのか、少し減っている。


「冷えてる?」


「さっき買ったばかりだし、冷えてるよ」


「飲む飲む!眠気覚ましにもなるしね」


朱伽は静春からペットボトルを受け取ると、ごくごくと飲んだ。


「ぷはぁ~!あ、ところでこんなとこでパトロールさぼってていいの?」


「ああ、別にいいんだ……」


静春が何か気まずそうに目線をそらす。


「それ、嘘だから」


「え……?」


直後、朱伽がひざから崩れ落ちた。


「あ……れ…………?」


「大丈夫、ただの睡眠薬だから」


「しず……は………………」


「本当にごめん、朱伽――」


朱伽の意識はそこで途切れた。



巧が『火』の祠へと到着した。


「はぁ……はぁ……」


五行でかなり強化したとはいえ、全力で長距離走ると息が切れる。

が、へばっている余裕はない。目の前の祠はすでに破壊された後なのだ。


「……朱伽さんは……?」


姿が見当たらない。

どこかで戦っているのか、連れ去られたのか……


「まだ壊されてからそんなに時間は経ってない……ならまだ近くにいるはず」


精神統一。気持ちを落ち着かせる。


「『朱伽さんのところへ』」


言霊(ことだま)

スサノオである巧だけが使える特別な力。現実を歪め、不可能を可能にすることもできる。朱伽の居場所まで移動するくらい何てことはない。


言葉を発した直後、巧の身体は勝手にある方向へと飛んだ。



「…………」


静春が歩を進める。


「……やっときたか」


「おかえり」


進んだ先には二人の姿があった。オロチを名乗った少女と、サラ。


「……誰、それ?」


サラが指差したのは、静春の肩に担がれている少女。朱伽だ。


「そのままあの場所に寝かしておくわけにもいかないから……何か犯罪に巻き込まれるかもしれないし……」


「寝かすとか……さっさと殺した方が楽なのに」


「ふざけんなっ!そんなつもりはないっ!」


不敵に笑うサラと、彼女を睨む静春。


「まぁまぁ。利害が一致した者同士、せめて目的達成までは仲良くやろうよ。ね?」


間に割って入ったのは、オロチを名乗った少女。それをきっかけに、サラが静春から目線をそらす。

それと巧が姿を現したのは同時だった。


「なっ……!」

「ちっ……」


驚く静春と、巧を睨む少女。

サラは余裕を見せるかのように表情を崩さない。


高速で飛んできた巧は砂ぼこりを上げながら着地し、周囲を確認。


さっき会った女性サラと見知らぬ少女。そして――


「朱伽さ…………静春君っ!?」


「…………」


静春は気まずそうに顔をそらす。


「朱伽さんは?あの女の子にやられたの?だとしたら、あの子相当強い――」


静春に話しかける巧。

返事のかわりに、サラの笑い声が響いた。


「いやぁ、おめでたいね~。仲間が裏切るとかまったく考えていない」


「え?」


「さっきいった協力者……彼もその一人よ」


「……っ!?…………嘘……だよね?」


驚愕の顔で静春を見る巧。サラはそれを見ながらにやついている。


「……さっさと行くぞ」


「静春君っ!!」


静春は一度も巧を見ることなく、オロチを名乗った少女が発生させた黒い霧の中へと消えていった。




「……なあ」


「ん?」


静春が少女に話しかける。


「何回も聞くけど……オロチを復活させることが、本当におまえを助けることになるんだな?」


「うん、そうだよ。……ごめんね。本来なら封印する立場なのに、あたしのせいで……」


「……いや、別にいい。おれにとってはこっちの方が大切だ」


「ありがとう、静春」


少女が静春に抱きつく。


「ちょっ……な、なんだよ突然!」


「あれ?顔赤いぞ?もしかして、異性として意識しちゃった?」


「ば、馬鹿なこと言ってんじゃねーよ!」


静春が真剣なまなざしで少女を見つめる。


「あいつらを敵にまわすことになっても、絶対におまえを助けてみせる」


「ありがと……感謝してもしきれないよ」


「みずくさいこと言うなよ。おれ達――」


静春は少女に腕をまわし、抱きしめた。


「双子の姉弟なんだから。なぁ、りんね」


静春の肩に顔をうずめる少女――りんね。その口角が上がっているのを見た者は誰もいなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ