第一話 -7
双は今、一人の少女と対峙していた。
ヘソ出しのTシャツにホットパンツ。白いカチューシャ。身長やスタイル、顔からして、成人女性とは考えにくい。
「子どもは帰って寝る時間だぞ」
「…………」
「……そう睨むな。ジョークだ。あとをつけてきてたことは気づいていた。何者だ、おまえ?」
「……オロチ」
「……はぁ…………」
双がため息をつく。
『オロチ詐欺』という言葉は聞いたことがあった。
オロチを名乗り、暴虐の限りをつくす。名乗られた方は「まさか」と思いながらも、殺されるよりはましだと抵抗せず、警察に言ってもどうしようもないと通報すらしないことが多い。
が、それは実際にオロチを見たことがないからこそ通じるのだ。オロチ本人だった双がその詐欺にひっかかることはない。
「ああ、そうかい。んじゃガキはさっさと帰って寝ろ」
少女が五行を放つ。
巨大な氷柱が飛び、それを陽動とするかのように草木が双の足に絡みついて自由を奪う。
「……っ!?」
双はさらに飛んできた炎の球を最小限の動きで避け、地面から突き出てきた土の槍を手で受け止めた。
さらさらと砂へ戻る槍。
「……っ!」
少女が『金』の五行で身体を強化。拳を握り、双へと飛びかかる。
双はその拳を受け止めると同時に気を吸収。奪った『金』の五行で身体強化し、少女の顔めがけて容赦なく拳を振るう。
少女はそれをギリギリで避け、距離を取った。
「てめぇは……」
双が少女を見る。
木火土金水すべての五行を使ってきた少女。
その髪は赤くない。瞳もオロチを宿した者のそれではない。
しかし、放ってきた五行にはオロチと同じ禍々しい力が混じっていた。
「オリジナルが力を失った今、この世界はあたしが統べる」
少女の腕に禍々しい気が集まる。
それは、五つの五行どれにも当てはまらない邪悪な気。
「やべぇ!」
双はとっさに足に絡みついた草木から五行を吸収。その『木』の気と少女から奪った『土』の気で盾を作るのと破壊が襲ってきたのは同時だった。
「………………」
風が砂煙をさらっていくなか、少女の姿はすでに消えていた。