第一話 -4
巧達がまず向かったのは、見府区にある元藤道場。
「ここも久しぶりじゃのう」
お寺と見間違いそうな古ぼけながらも立派な門をくぐり、道場へと向かう。
稽古中の門下生達。教えているのは、
「よう。久しぶりじゃな、エロ宗」
「あ?……おおっ!なずなじゃねぇか!」
仮子 白宗。筋肉ムキムキの豪快な大男。五行の扱いもうまく、かなりの実力者だ。
「みなさん、そろそろ休憩に……あっ!」
ちょうどそこにこの道場の主、元藤 陽芽も現れた。
道場の主といっても戦えるわけではない。護身術をちょっと習っている程度だ。もともと師範をやっていた祖父が亡くなり、他の家族と連絡がとれず、結果的に陽芽がすべて受け継いだというだけのことである。
なずなが簡単に事情を説明する。
「ソージュ・シラキです。よろしくお願いします」
「おう。俺は仮子白宗だ。よろしくな」
「…………」
「……なんだ?俺に惚れたか?」
「あ、いえ、すみません。私の世界では、あなたはもう亡くなってしまってるので…………」
「おお……」
「もともとはあなたの後に白虎として討伐部隊に入ったんです、私。なので、こうしてお話できてることが何か不思議で」
「そ、そうか」
「あ、うちは元藤陽芽といいます。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。…………ひめ……ちゃん?」
「はい。…………あ、もしかしてうちもそちらでは死んでるとかですか!?」
「あ、いえっ!そうじゃなくて!…………そっくりな人は知ってるんだけど、名前が違ってて…………」
「……?」
「んーん、なんでもないわ。よろしくね」
「あ、今麦茶を準備しますね」
「いや、構わぬ陽芽。あと二ヶ所回らねばならんのだ。いろいろ話したいことはあるがもう行かねば。二人の元気な顔が見れてよかった」
「うちも久しぶりになずなさんに会えてうれしかったです!しばらく柳市に滞在するんですよね?遊びに行きますから連絡ください!」
「俺もなずなの元気な胸が見れてよかったぜ。しばらく滞在か?揉みにいくから連絡くれ」
「エロ宗、おぬしは死ね」
次に訪れたのは、清立区のクロスアーク本部。
「ここは何の施設なんですか?」
ソージュがきょろきょろしながら問う。
「ここはクロスアーク。ちと強引な警察だと思えばよい」
「なるほど~」
ちょうどそこに、犯人を捕まえてきたクロスアーク隊員が通りかかった。
「おらっ!さっさと歩け!」
そう言いながら犯人であろう男の背中を蹴る。
「……あー、これくらいの強引さですか」
それを見てソージュがつぶやいた。
「私の世界では、逆らう犯人はボコボコにして引きずられてました」
「とんでもない世界じゃな……」
「よう、久しぶりだな」
声をかけてきたのは金髪の少年。最宮 静春。
数ヶ月ぶりの再会だが、少し背が伸びたように見える。
「久しぶりじゃのう静春!……朱伽とは進展したのか……?」
「なっ……別にっ……!」
さっそくからかうなずな。
ちなみに、進展はまったくない。
「で、そっちの人は初めて見るんだが」
「うむ。彼女はソージュ。巧とは違う世界のスサノオじゃ」
「……は?」
静春に経緯を説明した。
「なるほどな。ま、協力はするよ。クロスアークの仕事にも繋がることだしな」
「朱伽にも会えるしのぅ、くっふっふ」
「そんなこと言ってないだろっ!」
「あはは……すみませんが、よろしくお願いします」
「あ、ああ。よろしく」
静春とソージュが握手を交わす。
「こちらの世界では君が青龍なんですね」
「……?」
「私の世界では、君の双子のお姉さんが青龍として戦っています」
「りんねがっ!?」
静春の突然の大声に、がやがやしている周囲が一時的に静まりかえり、注目をあびてしまった。
「そっか……世界は違うけど、りんねも頑張ってんのか…………おれも負けてらんねぇ!!」
頬をたたいて気合いを入れ直し、
「おい静春。落ち着い――」
なずなの制止も聞かず、はりきって仕事へと戻っていった。
「…………まあよい。次に行くか」
富士取区の街中を歩く頃には、空が暗くなり始めていた。
五行使い同士が闘うラインファイト。その闘技場があるこの街は昼も賑わっているが、夜はさらに騒がしい。しかし街を一歩出れば閑散としていて、住んでいる者はホームレスやゴロツキばかり。立ち並ぶ家はすべて廃墟で、犯罪がおきてもそのほどんどが闇に葬られてしまう、そんなスラムと化している裏があることも忘れてはならない。
「闘技場かマンションか……」
「朱伽さんの試合はラストに行われることが多いから、今の時間はまだマンションじゃない?」
巧達がそんな話をしていると、
「あら、奇遇ね」
一人の少女に声をかけられた。
「あ、鈴音さん」
黒く長い髪に、黒を基調としたゴスロリの服装。幼さを残す見た目とはうらはらに言動はかなり大人っぽく、ミステリアスな雰囲気だ。巧がついついさん付けで呼んでしまっても仕方のないことだろう。
そこにもう一人のゴスロリ少女が現れた。
「どうしたの、鈴音?何か面白いもの……で…………も…………?」
少女は巧達を見ると同時に固まる。
黒を基調としているが鈴音とはまたちょっと違ったデザインで、スカートがミニのフリル。黒いニーハイソックスをとめているガーターベルトがセクシーさをぐっと引き上げている。
いつものポニーテールではなく髪をおろしているのも、巧達には新鮮だ。
「…………」
無言のまま、そっと鈴音の後ろに縮こまるように隠れる。
「いや、無駄じゃぞ朱伽。鈴音殿の方が小柄じゃし、そもそもばっちり見てしもうたわい」
「う~~……」
彼女の名前は、観和 朱伽。
高校生でありながら、ラインファイト現チャンピオンだ。
「あのねっ!あのねっ!理由があるの!チャンピオンになったらみんなに顔バレちゃって!外歩けなくなっちゃって!で、鈴音に相談したらこうなったの!」
真っ赤な顔であたふたしながら弁明する朱伽。
「ふむ、そうか」
カシャリ。
「何で写メ撮ってんのー!?」
わいわいはしゃいでいる朱伽となずな。
巧は一歩後ろに下がっているソージュに気がついた。
「……どうしたんですか?」
ソージュは明らかに警戒していた。
「あの……この人は……?」
「この人が観和 朱伽さん。僕達の仲間です」
「仲間…………カッシュという名前ではないのですか……?」
「それは朱伽さんのラインファイトでの名前ですね」
「この人も異世界の人?」
話を聞いていたのか、鈴音が巧達に話しかけてきた。
ソージュがまた一歩下がる。
「あら、嫌われたものね」
そう言いながら、鈴音は不敵な笑みを浮かべている。
「あなたも……仲間ですか?」
「そうね。朱伽が仲間ならば私も仲間だと思ってくれてかまわないわ」
「…………」
「その様子だと、あなたの世界の朱伽は目覚めたようね」
「……!」
「だいぶ怖れられているのかしら?」
「……世界から目をつけられるくらいには」
「そう。とりあえず地球上の生き物が死滅してないのは良いことね」
「…………」
会話の内容が、巧とかなめにはさっぱりわからない。
「そんなに警戒しないで。そっちの私が何を考えて何をしているのかはしらないけど、私は今の生活が気に入っているから」
「……それで信用しろっていうのも難しくないですか?」
「そうね。なら、あれでどう?」
鈴音が指差す先。
なずながしゃがみこんで携帯をカシャカシャ鳴らしている横で、朱伽が赤い顔をしながら必死にスカートをおさえていた。
「あの服、私が選んだの。かわいいでしょ?」
「……………………ぷっ」
ソージュが吹き出す。
「……そうですね。お二人とも、私の世界とは別人のようです」
ひとしきり笑ったあと、ソージュは警戒を解いた。
「巧っ!ほれ、見てみぃ」
「ちょっ!なずなやめてよ!」
巧に写メを見せようとするなずなと、それを阻止する朱伽。
「絶対パンツ写ってるでしょ!」
「朱伽よ、わかっておらんなぁ……見えてしまってはダメなのじゃ!あとほんのちょっとで見えるのに見えないギリギリのライン!そのギリギリにしか存在しない、溢れんばかりのロマン!世の殿方はそのロマンに思いを馳せ、想像力を実力以上に働かすことで、世界を動かしているのじゃ!」
「……世界がエロで動いてるみたいなこと言わないでくれる?」
その後朱伽にも協力を仰ぎ、巧達は帰路についた。