第一話 -3
「ところで」
うまく話を切り替えたのは、双。
「おまえより先に女が一人きたんだが……そいつがオロチだな?」
「はい。あの琥珀色の瞳と赤い髪がオロチに取り憑かれた人の特徴なのですが、それを説明するまえに気付くなんて……さすが双さんです!」
「…………」
さすがにこのタイミングで「数ヶ月前まで自分がそうでした」とは言えない。
「彼女の名前はサラ・シラキ。私の双子の姉です。双さんがオロチと相討ちになったとき、オロチは死ぬ間際に偶然居合わせた姉に取り憑き、生き長らえたのです」
それを話すソージュの顔には、悔しさが浮かんでいた。
「それからはオロチとなった姉を追いかけ、やっと追い詰めたのですが、戦闘中に突然空間が歪んで……」
「なるほど。それでこちらの世界にきたというわけじゃな?」
「はい」
「ふむ……」
何かを考えるなずな。
「……よし!巧、双、わしらも協力しよう!」
「え?」
「あ?」
「相手がオロチとなれば黙っているわけにはいかん。まだ新しいアマテラスが決まっておらんが、スサノオが三人もいれば十分じゃろ!」
「おい、勝手に――」
「よし巧!かなめ!他のやつらにも声をかけに行くぞ!」
双を無視し、巧とかなめの腕を引っ張るなずな。
久しぶりに他の仲間達にも会えるのが楽しみなのだろう。目が輝き、テンションが高い。
「おい聞けっ!オレは勝手に次行くからな!」
巧とかなめを外に連れ出し、なずながドアを閉めようというときに双が叫んだ。
「双…………おぬしにおいていかれたら……わしは…………」
さっきまでとは別人のようにテンションががた落ちだ。
「でも、仕方ないことよな…………わしが勝手に行くんじゃから…………さよなら…………」
涙を浮かべ、それでも必死に微笑みながら…………静かにドアが閉められる。
「……まぁたとえ先に行ったとしても、ツクヨミの力でおぬしなぞすぐに見つけられるがのぅ」
つぶやき、にやりと笑う。
なずなのその言葉を聞いた者は誰もいない。
一方、家の中では……
「ちょっと言いすぎなんじゃない?」
「ひどいよ!」
「ライバルが減るとはいえ、これはちょっと納得いかない」
「僭越ながら、私も今のはちょっと……」
「双さん、今のはダメです」
「もう少しなずなさんの気持ちも考えて……」
双が集中砲火を浴びていた。
「ぐっ……待ってりゃいいんだろうが!もともと置いていく気はねぇよ!」
こういうときの女性の団結力はすごい。
「ところで、おまえも一緒に行ってきたらどうだ?」
双がソージュに話しかけた。
「いや、でもできれば双さんのおそばに……」
「一時的とはいえ、これから一緒に戦うんだ。顔を合わせておいた方がいいだろう」
「ん……それもそうですね。では、いってきます!」
元気に飛び出していくソージュ。
双が一息つく。
「ふう……」
正直、挨拶とかどうでもよかった。ただ、この場にソージュがいることでまた口論が始まるのを避けたかっただけ。
「これで少しは静かに……」
「ねぇねぇクシナダ……あ、今は瑞穂か。どこまで進んだの?」
そう聞いたのはナミクーチカ。
その話題に女性陣がくいつく。
「え?何がですか?」
「スサノオの男の子との関係に決まってるでしょ」
「え?……いやっ、別に……!」
「……これは進んでいませんね」
「えっ!何でっ!?キスはっ!?キスくらいしたんでしょうねっ!?」
「…………ぃゃ……」
「ちょっとぉ~……」
「まぁまぁみんな落ち着いて。ほら、同居人いるし。かなめとその妹だっけ?」
「はい、なつめちゃんですね」
「その二人が邪魔できない時間をわたしが計算してあげるわ」
「別にいいですからっ!」
「そんなことしなくても簡単よ。全員ですればいいじゃない」
「……え?」
「おおう、さすがエロ魔神ナミクーチカ……」
「ほめられてる気がしないんだけど……」
「もともとほめてはいないと思いますが……」
「ま、いいわ。瑞穂いらっしゃい。寝室はどこ?」
「え?寝室に何の用事ですか?」
「あなたが他二人より優位に立てるように実践で教えてあげる」
「いらないですっ!こんな明るいうちから何言ってるんですか!」
「双、三十分くらいしたらきてよ」
「呼んでどうするんですかっ!」
「え?どうするもなにも、エッ――」
「言わなくていいですっ!」
「それは聞き捨てなりませんね」
「さらっと抜けがけはよくないよ」
「ならハクシラとテマリアもくる?……ねぇ双、ちゃんと聞こえてる?寝てないよね?待ってるからね。ほら、行くよ」
「行きませんってば!!」
「……うるせぇなぁ………………ティネ、顔真っ赤だが大丈夫か?」
「……ダメかも…………」