第二話 -10
「朱伽さん、お体の方はもう大丈夫なんですか!?」
陽芽が朱伽に駆け寄る。
「…………ひ……め……」
そうつぶやく朱伽は、虚ろな目をしていた。
ふらふらと祠に近づいていく朱伽。
「大丈夫ですっ!ここはうちにまかせてくださいっ!」
朱伽は神器を出現させると、
「だから朱伽さんは帰ってゆっくり休んで…………え?」
陽芽が近くにいることなど気にしていないかのように、祠に向けて思いっきり振るった。
神器が五行の防護を易々と切り裂き、祠が砕け散る。
勢いのついた神器は、惰性で陽芽へと襲いかかり…………
「っ!!」
金属音とともに神器は弾かれ、陽芽の目の前には五行の剣を構えた双が立っていた。
「…………てめぇ、どういうつもりだ?」
双が朱伽を睨みつける。
「……………………」
無言の朱伽。
そのうつろだった目に光が戻り、
「…………あれ……?」
状況が飲み込めないといった表情で、へなへなと座り込んだ。監禁の疲弊からまだ回復していないのだ。
「あたし……なんで…………?…………ここは……?」
「朱伽さんっ!」
陽芽が駆け寄り、肩を支える。
「どけ。祠を破壊したってことはそいつも敵ってことだ。ここで始末する」
双が剣を振り上げる。
「ダメですっ!」
しかし、陽芽が朱伽から離れることはなかった。
「さっきまでとは朱伽さんの様子が違います。きっと敵に操られたりとかしたんです」
「楽観的すぎる。どかないならそのまま一緒に斬るぞ」
「……………………」
動かない陽芽。
剣が降り下ろされ、
「…………っ!!」
しかし、それは陽芽の目の前で止まった。
「…………ちっ、強情なやつだ……誰に似たんだか…………早く離れるぞ」
双は朱伽を担ぎ上げ、陽芽の腰に手を回すと、吹いている風から五行の力を吸収。
「え……きゃあぁぁ――」
次の瞬間、陽芽が発した悲鳴の残響を残し、三人の姿は遥か彼方へ…………
直後、季里湖から巨大な水柱が上がった。
空気の変化に、巧達だけではなくサラやりんねの動きも止まる。
「……え……なに…………?」
巧の疑問に答えることなく、なずなが膝から崩れ落ち、がっくりとうなだれる。
その様子を見て、全員が今起きたことを把握した。
「まさか…………」
「そう!そのまさかだよっ!」
サラが嬉々として声をあげる。
「オロチが復活したっ!さあ、会いに行こうか!」
ドーム状に展開されていた風の刃が霧散し、サラ、りんね、そして静春がその場から去る。
「なずな……」
巧がなずなに寄り添う。
「なんということじゃ…………復活を許してしまうとは…………」
うなだれたまま一人でつぶやくなずな。
おそらくオロチのものだろう――うっすらとだが、すべてを震えあがらせるような咆哮が遠くから聞こえた。