第二話 -5
鉄の扉を開け、中に入る。
殺風景な小さい部屋。隅にある安っぽいベッドと小さなテーブルしかない。
そのベッドに横たわっているのは、朱伽。
両腕が鎖に繋がれているため、多少は動けるがベッドから降りることはできない。
「ご飯、持ってきたぞ」
「…………」
声をかけるが、反応はない。
朱伽をここに連れてきて以来、彼女は何も口にしていない。もともと細かった身体がさらに細くなった気がする。
朱伽の口にパンを近づける。
彼女の腹がそれに反応してかわいい音を立てるが、
「…………」
彼女は口を開けない。
……ダメだ。これ以上食べなかったら命にかかわる……
「……どうしても食べないっていうなら…………!」
ベッドに上がり、彼女に馬乗りになる。
頭を押さえつけ、鼻をつまむ。呼吸のために口を開けたところへ、
「食えっ!食えよっ!」
無理やりパンを押し込んだ。
「んんっ!んむっ……んぐっ…………!!」
暴れる朱伽。
まだこれだけの力を残してたのかと感心する。
次に牛乳を注ぎこむ。
パンも飲み込めていない状態だ。当然ながらすべてが彼女の顔や肩、胸元を濡らしながらベッドへ吸い込まれていく。
「ぶはっ……!げほっ!げほっ…………っはぁ……はぁ…………」
パンを吐き出す朱伽。相当苦しかったんだろう。涙目になっている。
「…………なんで食わねえんだよ……」
「…………」
朱伽は答えない。
ふと、朱伽の胸元に目をやる。
さっき暴れたからか、自分が馬乗りになっているせいもあるのか、バスタオルが外れている。
「…………っ!」
はだけた胸。
濡れた身体。
荒い息。
潤んだ瞳。
今まで必死に保ってきた理性は限界だ。
「…………食べ物を無駄にするような子は――」
バスタオルを乱暴に剥ぎ取る。
朱伽の裸。きれいだ。
朱伽は驚いたような顔をしている。
ズボンを脱ぎ始めると、その表情は怯えへと変わっていく。
ああ、ごめん朱伽。朱伽は怖いんだろうけど…………ものすごく興奮する。
「――お仕置きだ」
泣き叫ぶ朱伽に覆い被さ――
「って、何考えてんだおれはっ!!」
朱伽を監禁している部屋の前で、静春は一人叫んでいた。
悶々とした考えを振りはらい、ノックをして部屋に入る。
「朱伽、ご飯持ってきたぞ」
「…………」
返事はない。
朱伽がまったく食事を取っていないのは静春の妄想ではなく、現実だった。
「頼むから食ってくれよ……」
食べやすくパンを千切ってやってもダメ、朱伽の好きなものを持ってきてもダメ、毒味として先に静春が食べて見せてもダメだった。今回も一口も食べないだろう。
ふと、シーツに目をやる。
「…………取り替えるよ」
これも朱伽の抵抗なのだろうか。それとも敵に世話される方がもらしてしまうより屈辱だと考えているのだろうか。りんねやサラにも下の世話をさせないでいた。
取り替えるといっても、汚れたシーツを取り除くだけ。汚れることはわかっているから、ベッド下半分だけ事前に何枚もシーツと水分を吸収するシートを重ねてあるのだ。
「…………」
静春がシーツをどうこうやっていても、朱伽の反応はない。
はじめは「見るなっ!」などと叫んだり恥ずかしさに泣いたりしていたものの、今では無表情のままそっぽを向いているだけ。
この状況に慣れてしまったわけではない。
疲弊。
朱伽の体力も精神も、すでに限界がきていた。
「…………」
……このままじゃ本当にやばい…………こうなったら無理やりにでもパンを…………
シーツを替え終わった静春がベッドに上がり、朱伽に馬乗りに――
「がっ……んぎゃっ!!」
なろうとしたとき、後頭部に衝撃が走り、目の前の壁に顔面から突っ込んだ。
「…………あたしに……さわんないで…………」
朱伽が蹴ったのだ。
元気じゃねぇか……さすが朱伽…………
朱伽の弱々しい声を聞きながら、そんなことを思う静春。
崩れるようにベッドに膝をつき、
「…………っ!ちょっと静――」
そのままベッドに正座する形で壁から顔を離す。
「いってぇ~」
鼻を確認。…………鼻血は出ていないようだ。
「むぐぐっ!むぐっ!」
何か声が聞こえ、目線を下にやる。
そこには、両腕を足で押さえつけられ、口元には股間を押しつけられている朱伽がいた。
それをしているのは…………もちろん静春である。
「…………えっ!?」
馬乗りになるため朱伽をまたいだときに襲ってきた、後頭部への衝撃。
壁に突っ込み、崩れ落ちるように座った先には…………そう、朱伽がいたのだ。
「むぐっ…………んんーっ!んむーっ!」
抗議をしているのだろうか。朱伽が何かを叫んでいる。
「あっ、ちょっ……朱伽ストップ……っ!」
その振動が、吐息の熱が、ズボン越しに伝わってきて…………
「……………………」
「…………っ!」
互いに赤面。
「ごめんっ、すぐにどくからっ!」
後ろに下がる静春。
ズボンの金具がどこかに引っかかっていたのか――そのとき、朱伽のバスタオルがはだけ、胸があらわになった。
「なっ…………やっ……!」
朱伽が身をよじるが、両腕の自由が奪われている状態では顔を背けるのが精一杯だった。
朱伽の身体から目が離せない静春。
「お願い…………やめて…………」
「朱伽…………」
普段は見せないしおらしい態度が、静春をさらにドキドキさせる。
「………………」
静春はゆっくりと朱伽へ手を伸ばし、
「…………っ!」
朱伽は強くまぶたを閉じた。