第一話 幻の小説家
ここから話が始まります
十と書いてつなしと読みます
第1話 幻の小説家
俺は今日は少し早く家を出ることにした
リビングに行くと既に朝食の用意がされていた
「今日は早いのね」
「あぁ、今日本の発売日だからさ。駅前だと7時から空いてるから早く行かないと」
「それで学校には慣れた?」
「いつも通りだよ、特に異常なし。では行ってくる!」
玄関から飛び出してエレベーターに乗り込む
俺の家はマンションでその最上階(7階)に住んでいる
その為エレベーターじゃなければかなりしんどい
自転車に乗り込み、学校から寄り道して駅に向かう
駐輪可能場所に自転車を止めて出来るだけ早く書店に向かう
何故こんなに急いでいるかといえば需要がかなり高いからである
俺が目的としている本は『スター・メモランダム』という、小説である
物語は天文学者を目指している少年とその幼馴染みが繰り広げる恋愛小説的なもの
作者は『名無しの案山子』と言って噂では編集者にしか正体を明かしていない謎の人物である
サイン会も宗教みたいな黒いローブを着て顔を見せたことはなかった
しかし腕は確かで発売当時から話題が出ており、こうして急がないとすぐに売り切れてしまう
そして取り寄せようにもすぐには来ない、早いもの勝ちな本である
今作は4巻目で3巻の終わりで主人公のアメリカ行の話が持ち上がって気になる所で終わった
書店に到着してみると前日から待っていたのか長蛇の列がすでにあった
開店してからもなかなか進まず、時間だけが進んでいく
やっとの事で入って売り場に行くと本当に最後の数本だけだった
本を取ろうとした時、同じタイミングで取る人物がいた
「あっ、おはようございます」
「あぁ~、確か藤ヶ谷って言った人だ」
同じクラスの鈴村さんと佐々森さんだった、本を取っているのは鈴村さん
鈴村さんの持っていない方の手には快晴なのに傘を持っている
「はい、恥ずかしながら」
「藤ヶ谷もこういうの読むんだ」
「まぁ思い入れがあるんで」
「普通に漫画とか見ている印象だったから結構意外」
「そう言うのも読みますけど一番見るのは小説ですね」
「じゃあ買っていいよ、きっと探せばまだあると思うから」
「いいや、いいですよ。この本手に入れるの難しいんですから!」
結構なロスタイムがあった為、時間が押していた
2人はこのまま電車に乗って登校するからゆったりしているが俺は違う
鈴村さんに本を持たせたまま俺は急いで自転車で飛ばした
「よかったね、買えて」
「あぁ、うん。でもいいのかな、藤ヶ谷もこの本読みたがっていたし、さっき言っていた様に手に入りにくいものだから」
「きっとマイナーな場所でも知っているんじゃないの?」
「そうだといいけど」
電車通学だといってもいつまでもゆったりはできない
学校に着くと既に藤ヶ谷は席に着いていた
ただ急いでいたのか息が上がっている
軽くあいさつして隣で読みたかった本を読む
嫌味にも取れる行為だがちらちら見てみるがそんな素振りはなかった
こっちも必死に早く読もうとするが内容が深すぎてそんなにペースは上がらなかった
結局間休みも使って読み続けたが昼休みになっても半分位しか読めていなかった
「今回の内容は結構いいね、睦美が暦の事を待つ話とか良いと思った」
睦美はヒロインで暦が主人公、天野暦と斎藤睦美である
その他にも大勢のキャラが出ていてどの人もいい事を言う
昼休みになった途端に藤ヶ谷は弁当を持って何処かに行ってしまった
あまり人と関わらない人だから一人で弁当の食べるのだろう
私は早弁をしてこの時間で一気に読んでしまおうと考えている
◇
屋上で今日は風もすごく強い、そんな時に誰も上がる人はいなくただ一人
風で靡かないようにか長い後ろ髪を束ねて軽いポニーテールにしている
「もしもし?あぁ分かっているよ」
バンダナに包まれたおにぎりを食べながら藤ヶ谷はある人と電話をしていた
その声の主は藤ヶ谷達よりはか少し年上だがそれほど離れていない位の歳の声だった
『それで君はどうしたいの?』
「まぁこのままがいいんじゃないの?そっちの方が俺にとってはこれでも面白いから」
『君がそうしたいのならいいけど・・・』
「まぁ客観的に楽しんでいるよ。次はいつだっけ?」
『いつでもいいけど、出来るだけ早く来てね』
「なら今日にでも検査してくれ、いつもの場所で」
『やる事が早いね』
電話を切るとカバンの中から大きな茶封筒を取り出す
中には何百枚もの紙と手紙が入っていた
おにぎりを食べ終わると何事もなかったかの様に教室に戻っていく
「帰ってきた、帰ってきたよ鈴」
「あれ?俺何か待たせました?次移動教室でしたっけ?」
「いやね鈴がね―――」
「これ、読みたかったんだよね。貸すよ」
「え?いいんですか?というかこの量を読みきったんですか?」
「頑張っていたよ、でもいつもよりは遅かったけど」
「あぁ、内容が結構難しいですからね。でもありがとうございます、明日には返せると思います」
「いや、急がなくていいよ。ゆっくりね」
お礼を言ってカバンの中に入れる
「お前って話せるんだな、何か人を避ける奴かと思った」
「まぁ少しそんな感じを出していましたけど・・・」
「てっきりオタクの根暗かと思ったぞ」
「吉野くんの想像とは少し違う」
時間を見ると少し表情が変わった
「じゃあ俺はもう行きます、鈴村さん出来るだけ早く返します」
「あれ?鈴ももうそろそろ行かないとじゃないの?」
「あれもうそんな時間?」
今日は午後まで授業があったから全く気にしていなかった
そろそろ、というか既に出ていないとやばい時間である
急いで帰る支度をして校門から出る
出てすぐの時に自転車に乗って移動中の藤ヶ谷が見えた
髪は邪魔なのか後ろで縛っている
走っている音に気がついてか後ろを振り向いて私がいることに気が付くと自転車を止めた
「どうしたんですか?今日も送り迎えですか?」
「あぁ~はぁ、はぁ・・・」
「息が整ったらもう一回質問します」
急いで整えて軽く内容と時間を言うと後ろに乗せてくれた
二人乗りは違反だがバレなければどうってことはない的な事を言って落ちない速さで飛ばした
「何かこうして話してみると印象が結構違うね」
「まぁ吉野くんが言っていた印象なら中身は結構違いますからね」
「っていうかなんで敬語で話しているの?普通に話せないの?」
「少し訳があって自分と相手に壁を作ってしまう癖があるんですよ、だから自然的に敬語で話してしまうんですよ」
「壁ね~」
すると思いっきり背中に鈍痛が走った
その衝撃で少し不安定になった
「ちょっと落ちそうになったじゃないの、安全運転しなさい!」
「いや、鈴村さんがいきなり背中殴ったからでしょ!」
「壁って言うから殴ったんじゃないの」
「壁があったら殴る年頃なんですか!?」
「殴れば、衝撃を与えればそっち側にも伝わるし、もしかしたらその壁も壊れるかもしれないし」
「それで殴ったと(物理的に)」
「少し敬語に苛立っているのも入ってたけど」
あぁ、そういうことね
「それに何よその頭」
「おかしいですか?」
「髪は長いから根暗とかオタクっぽいとか言われているのに学校から出たらそんな髪上げちゃって、学校でもその髪型にす
ればそんなこと言われないのに」
「いや、切ろうと思っているんですが時間がなく」
「いつも帰ったら何しているの」
「殆どがパソコンですかね、たまに外出したり母親や父親の手伝いをしたりとかしてます」
「うわっ、もろ根暗でオタクっぽい」
「そう言われると否定はできないですけどね」
自転車を飛ばしていくと弟のいる保育園についた
「あれ?私ここに来てって言ったっけ?というかよくこの場所が分かったね?犯罪予備軍?」
「なんでって、昨日ここで会ったじゃないですか?」
「会ってないよ」
「いや会いましたって」
藤ヶ谷の指差しの方を見てみると私の持っている傘にいっていた
確かにここで会った人はいる・・・まさか!!
昨日の光景を思い出す
黒い服に黒い傘、そして髪を上げた人
今目の前にいる人も同じ様に髪を上げて同じような顔をしている
「まさか―――」
「つなし、お客さんが来ているわよ。ってあらお友達?」
「ここに預けている雅人くんの姉さんだよ、学校ではクラスも一緒だけど」
「あら、そうなの」
私は今理解に膨大な時間を掛けている
昨日あそこにいたのが同じ奴?
確かにさっきの会話で話し方は一緒
それに初対面なのに名前を知っていた、そして普通に挨拶もしてきた
理解すると自然的に不気味な笑い声が漏れてきた
「鈴村さん?」
「あっ、はははははっ、面白い話ね」
「いや俺何にも話していないんですが?」
「なんで藤ヶ谷はここに居るのよ!!」
「えっ?母親がここの保母さんだから・・・」
「昨日の黒い服って藤ヶ谷だったのね」
「えぇ、いつもの時間に母が帰っていなかったから何か在ったと思って迎えに来た時に・・・」
「なんで話さなかったの!!」
瞬発的に回避するがそれよりも早く胸ぐらを思いっきり掴まれる
「いや、母が名前言ったから正体はバレていると思って」
「名前、藤ヶ谷ってじゅうとかいう名前じゃないの」
「『十』と書いて『つなし』って読むんですよ、俺の名前知らなかったんですね」
「知らないわよ、というか初見で読める奴なんているのか!!」
確かに10人中読める人なんて居ない確率の方が高い
俺も無意識に不気味な笑い声を漏らした
「もう面倒くさいから今からお前をつなしと呼んでやる」
「公開処刑みたいですね」
「他の2人だって『じゅう』とか『プラス』とか言って笑っていたわよ」
「まぁ『完全(笑)』よりかはいいですよ」
どんな人生を歩んで来たんだこの人は・・・・・
『あの~そろそろいいかな?』
「すみません、かっ、杉山さん」
二十代の中間位の人が保母さんというわけじゃないスーツ姿で扉から出てきた
「つなしお兄さんいたんだ」
「まぁそんな感じよ、出来の悪い弟ですみません」
「この人は兄じゃないよ、それに今出来の悪いっていたからもうコレは渡さないよ」
カバンから茶封筒を出すとすぐに反応した
「早まるなよ、それがなんなのか理解しての行動を取れよ」
「爆弾みたいに言わないでくださいよ」
「それが何?」
気付かれない内に茶封筒を取り出すと一気に2人の表情が変わった
「鈴村さん、馬鹿なこと考えないでね。ゆっくりとこっちに近づいてね」
「それを揺らさず動かさず、俺に渡してね」
「これが何よ、少し重い封筒じゃないの?」
封筒が開きかかっていたので開けて中身を見てみる
何百枚もの紙がただ入っておりズラっと文字が書かれている
その始めを見てみた
それから直ぐに下から封筒を取られて転がっていった
「確保!!」
イエ~イと言ってハイタッチを決める
そして茶封筒を相手に渡した
「それって小説?」
「あっ、見たんだ。見ちゃったんだ」
「まぁこれで俺もおしまいですね」
「小説ってそんなに恥ずかしいものなの?というかなんでそれをその人に渡しているの?」
「いやっ、それは・・・」
ネクタイをいじりながら青ざめた顔で目線をそらしている
「もういいんじゃないの、空気薄男」
「なんですかそのニックネーム」
「ペンネームの翻訳?」
「つなしそんなペンネームなの?」
「いや違いますからね」
「内容ももしかして暗い?まさか官能!?」
「違いますよ」
「なら見せられるわよね、見せられない理由があるのなら一筆書いてもわうわよ」
「反省文ですか?」
杉山さんも空気を読んだのか封筒を返してきた
しかしこれを見せるわけには行かない!!
つなしは『逃げる』を選択した
しかしその早さよりも速く鈴村さんの手が迫っていた
「待ちなさい、その中身をぶちまけなさい」
「無理だって、これ見せたら絶対怒りますって」
「見てみないと分からないでしょ、今なら4分の3だけで済むから」
「25%OFFしかなってないじゃないですか!!」
結局お互いに消耗して勝負は鈴村さんの勝ちとなった
「見せてもいいですけど、絶対に怒らないでくださいよ」
「何?私が書かれているとか?しかも悪人で」
「そういう訳じゃないですけど」
渡された封筒の中身を出す
さっきはゆっくり見てられなかったのでゆっくり目を通す
そして何であんな事を言っていたのか理解する
タイトル名『スター・メモランダム 5巻用』
「これ、つなしが書いているの?」
「えっ、あぁ、まぁね」
「はっきりしなさい!!」
「怒ってる?やっぱり怒っている!そりゃそうだよね、今朝書店で会って譲ったからなにか申し訳なさを感じて貸すために
一気に読んで貸してあげたというのに真実は実は俺が作者だったなんで知ったから、『お前話し知っているだろ!何普通に
単行本買ってんだよ、読みたい奴なら多くいるからそいつらに譲れよ』って思っているんだよね、そりゃね――――」
そんな話を滅茶苦茶早口説明して暴走状態に陥っている
そんな光景を見て何か申し訳なさを感じている
「いやそういうことじゃなく、本当につなしが書いているの?」
「か、書いていますよ・・・」
「じゃあこれは、4巻の続き」
それを知ればこっちのモノ、一気に読み出す
隣で見ていて気がついたがこの人は読むと周りが見えなくなる、俺は雅人君を含めた残っている園児の遊び相手をした
読み終わる頃には5時を回っていた
「どうですか?感想は?」
「普通の事を言えば、次回作は買わないね」
「ですよね」
「利益が一つ減ったな」
「それは出版社の問題でしょう」
「それにしても驚いたわ、今でも信じられないけど内容的にはちゃんと続きだし」
まぁ俺が書いているものの続きだし、いきなり変わる訳はない
「かっ、杉山さんは俺の担当者。そして俺の怒りの矛先である」
「いや、お前の才能を拾い上げた恩人だろ?」
「ソウデスネ、アリガトウゴザイマス」
「心が籠ってねぇな」
「なら込めましょうか、殺意と共に」
握り拳を見せるとすぐに引いた
「『名無しの案山子』意味は名前もなければ存在も曖昧なモノ、そろそろ改名したらどうだ?」
「いやです、そもそももう改名したじゃないですか!!」
「あのままだったらそのままパニックだったし、変えさせたのは俺だし」
言い合いに成りそうな所を上手く静止させる
「いまいち内容がつかめないんですが?」
「いやな、つなし君を見つけるのは難しかったんだ」
「見つけて欲しくはなかったな」
「見つける原因を作ったのは君だけど?」
「あぁ、今となったら後悔しているよ」
「もう2年前か、突如小説投稿サイトにアップされた小説があったんだ」
「2年前、それは私も知っています、確かYHB(You to Heart Beat)ですよね」
その小説はわずか一ヶ月で約12万5千人の人の目に触れた伝説の小説。
だがその作者は見つからず伝説のままその小説は幕を閉じ、2年経った今でもその伝説は濃く残っている
「そしてその小説を書いた奴は杉山という奴の必死の捜索により見つかり、今こうして『スター・メモランダム』という小
説を書かされているっていうオチです」
「・・・ということは」
「YHBの作者も俺です、それを隠すために全く違う人物のふりをしているんです」
「ほら、何かもっとないの?もう驚きの頂点超えちゃったから反応はできないけど・・・」
ビックリしすぎて表情が固まっている・・・そして掴まれている肩の圧力が凄まじい
「つなしは学校ではあんな根暗でオタクで、フィギュア見て『萌え』とが言ってそうな性格なのに」
「何か追加されてる!!」
「そうなのつなし?最近部屋掃除してないから見てないけど?」
「違うから、母さん」
「何でそんな有名人なの!はぁ~神様は残酷ね、才能がこんなに優劣するなんて」
今にも泣き出しそうにその場に座り込んだ
「いや、きっと鈴村さんにも才能はあるよ」
「言い切れる!!」
「た、たぶん・・・」
目が滅茶苦茶怖くて前を向けない
「いや、そんなすごい才能なんて私にはない。私は普通に生きて普通に死ぬのよ」
「いきなりとんでもない事が起こって人生が変わるかもしれないですよ?」
「何?つなしは悪魔と契約してその才能をもらったの?」
冗談で言ったが反論してこない
「何そうなの?」
「いや、それに近いのか遠いのか分からないけどそんな感じな事はあった」
「うわっ、絶対長生きしないじゃん」
「今を生きますから」
そんな感じを得て俺と鈴村さんの距離は結構縮まった気がする
「うわっ、こんな事しているから夕御飯の時間になっちゃっているじゃん」
「俺の性ですか!?」
「よし、じゃあ今日はつなしのおごりで外食だ」
「なんで俺が!!」
「儲けているだろ、しかも今作の印税多分俺の年収を超えるぞ!!」
「地味に嫌味入れてきた!!しかも貰っているのって月8じゃないですか」
「100万超えると不安になるって言って決めたのお前じゃないか!!」
その他の収益は出版社の口座の一つにかなり額が溜まっている
「もういいですよそれで、何食べたいですか?」
「中華街行こうぜ!!」
「貴方メンバーに入ってない、次!!」
「フランス料理」
「却下、じゃあもう雅人君何食べたい」
「お子様ランチ」
「もっとなかなか食べないものを言っていいよ、このお兄ちゃんお金持ちらしいから」
という工程を通過して5人は回転寿司屋に行ってきた、結局決めたのは鈴村さんだった
食べ終わると杉山さんに封筒を渡して帰ってもらう
暗いし小さい子連れだったから安全な所まで送っていった
帰ってきてからも自分が作った作品の評価を見るなどやることはいっぱいあった
そして眠りについてまた学校に行く事となる
今日からは色々と壁が無くなっているので反応が困ってしまう
『スター・メモランダム』は実際に有り、投稿して賞を取った経験がありますだが現在友人(アニメ・ゲーム関係者)にオリジナルを貸したままでまだ帰ってきていません
(゜´Д`゜)゜
あっ、関係者といってもまだ大学生なのでそんなに凄い事じゃないです