開幕③ (雪藤)
2人が揉み合いになっている所を加藤が素早く間に入って止めた。
「待て待て! こんなところで言い争っている場合じゃないだろう!」
「あ? じゃあどうしろってんだ!! 出口もないのに」
「出口がないからこそ考えるんだ。なぜ我々がこんなところに閉じ込められているのかを。ひょっとしたらなにか脱出への糸口が見つかるかもしれない!!」
脱出への糸口―――その場にいる全員にその単語が胸に刺さった。
「まぁまぁ君たち、まずは冷静になって」
加藤が揉み合いになっていた幣原と若槻を落ち着かせた。
「まずはもう一度自己紹介しようじゃないか」
「ハァ? アンタ何言ってんだ? もうしただろ」
幣原が喰いつく。まだキレ気味だ。
「我々は運命共同体だ。もう少し相手のことを分かったほうがいい。それに何か共通点も見つかるかもしれない。」
「共通点?」
「我々を同じ部屋に閉じ込めたのには何か理由があるかもしれない。もし共通点が分かればここがどこなのかも分かるかもしれないだろ?」
幣原は確かに出口がない以上それしかやることがないと悟ったのか何も言わなかった。
「じゃあまず私からいこう。名前は加藤浩一で歳は46、ニチゼン商事の課長だ。趣味は―――」
この部屋にいる人間の中で唯一まともに会話したのは加藤だけだ。
見た目が良い印象だっただけに職業もまともなものだ。
まだほとんどの人が話をしていない人ばっかりなので、加藤の提案には賛成ということもある。
「おいおい、時間がないわけじゃねぇがそろそろおひらきにしろよオッサン。長すぎたら誰も聞いちゃくれねぇぜ」
藪が長い加藤の自己紹介を遮る。
「うっうむ、そうだな。すまん」
「じゃあ次はオレな。名前は藪。フリーターだ」
大学に行ってないという事はやはり遊び人か。
藪は短い自己紹介の後、次はアンタだよという視線を横の人に向ける。
「黒住麟。桜TVのディレクターよ」
ディレクター・・・・・・美人の上に頭もいいのか。
女子高生には憧れの存在だ。
彼女の隣はまだ一言も喋ってるとこを見ていない男性だ。
30代くらいだろうか。
その人がゆっくり口を開く。
「高橋だ。よろしく」
職業は言わなかった。なんでだろう。
横の男性がタイミングを見計らって自己紹介を始めた。
「新渡戸章造。保険会社の副社長や」
髪の毛がすっかり後退している関西弁の男性。丸々太っていてワイシャツが張り裂けそうだ。年齢は50代後半か。
高橋が職業を言わなかったのに対しこちらは大きく声を張り上げ、職業を自慢げに言った。
そう言えば、この人はさっきのいい争いを面倒臭そうな目で見ていた。
物事を他人に押し付けそうなタイプだから当然といえば当然だろう。
「・・・・・・幣原大知。小塚印刷の専務」
職業のところだけは声を張り上げている。
よほどいまのポストに気に入ってるのだろう。
しかし幣原の歳で専務はかなりのエリートなんじゃないだろうか。
きっと盗られた物もよっぽど重要なものだったに違いない。
「・・・・・・若槻。よろしく」
私と同い年っぽそうなのに高校には通ってなさそうだ。
やっぱり夜遊び好きの不良少女なのかもしれない。
「次はアンタよ」
「え?」
若槻は私の横にいるのだから当然次は私だ。
「えっと・・・・・・雪藤詩歌です! 高校2年です!!」
声を張り上げたつもりだがみんなにはどう聞こえてるだろうか。
「えっと・・・・・・次は私・・・・・・ですよね? 龍造寺玲です。高校1年です」
見た目通りというか彼女はおどおどした性格だ。
クラスメイトにひとりはいるおとなしいタイプの。
「若王子匠。高校3年」
茶髪のパーマで中性的な顔立ちの少年だ。
名前通り見た目はフランスとかの貴公子みたいな感じだ。
きっと学校ではモテているに違いない。
若王子でぴったし10人目だ。
しかし改めて考えるとこの部屋には広さの割に人がたくさん閉じ込められている。
数えてみると全員で14人もいるのだ。
一体私たちを閉じ込めた奴は何を考えているんだろうか。