開幕② (雪藤)
「畜生ッ!」
急に誰かが叫んだ。
全員がその声がした方を向く。
縞のスーツに縞のネクタイ。
髪はオールバックの30代くらいの男性だ。
多分仕事帰りにつかまったんだろう。
名前はたしか幣原だったと思う。
「どうしたのよ、急に叫んだりして」
「目が覚めたら知らないところだなんてこんな話があるかッ!?」
幣原がすぐに返答する。
「へぇ~アンタ酔っ払ったことねぇのか?」
馬鹿にしたような口調が響いた。
髪は茶髪でパーマがかかっている20代前半くらいの男性。
名前はたしか藪。
顔は結構なイケメンだ。
でも繁華街とかでナンパばっかしてそうなイメージが強い。
俗に言うチャラ男か。
「俺はバカじゃないし酔っ払ったこともあるがこれは違う! ・・・・・・これは誘拐だ!!」
分かりきったことだ、と私は思った。
まわりを見てみたらみんなそんな顔をしている。
そんな雰囲気を気にせず幣原は続けた。
「お前ら鉄仮面の男を知っているか? ヤツは34年間見知らぬ部屋に閉じ込められたんだ!!」
34年間・・・・・・まだ大人にもなっていない私の胸にこの単語が刺さった。
まわりのみんなも同じだろう。
隣にいる加藤が脂汗をかいていた。
「34年? ありがたいねぇ、そんな長い期間飯にも寝床にも苦しまないってんなら大歓迎だぜこっちは」
「お前ッオレを馬鹿にしてんのか!?」
幣原が藪に殴りかかろうと拳を握った。
「まぁまぁ落ち着けって、アンタが怒ってる理由も分かるよ。それだろ?」
私は藪が指をさした方を見た。
黒のケースだ。開いていて中身は空っぽだ。
私が目を覚めた時からすでにあの状態だったので、誰のものか知らなかった。
というよりもともとこの部屋にあるものかと思っていた。
幣原のものだったのか。
「なーんのことかと思いきや、そんなのみーんな一緒よ」
栗色のポニーテールの女性がそう言う。
名前は若槻。
白色のすごく短いシャツを着ていて、肩が剥き出しだ。
背が低くてかわいいという印象が大きい。
歳は私と同じくらいのように見える。
でも服装や言動からして夜遊びが好きそうだ。
「私だって腕時計も財布もケータイもとられ「「黙れ!!」」
若槻の声を幣原の声が遮った。
その声が部屋に響き渡っている。
「このケースに入っていたのはお前がとられたモノなんかよりずっと貴重なものなんだ!!」
貴重なもの・・・・・・。
私もポケットに家の鍵とティッシュ以外何も入っていない。
この人にとっての貴重なものって・・・・・・。
―――会社の資料とかか?
「じゃあ何が入ってたのよ?」
「お前に話す筋合いはない」
「自己中な男ォ~みーんな持ち物とられてるっていってんじゃん。それをグダグダと・・・・・・」
「ハッお前はそうかもしれない! その身なりからして身体売ってんのか? 股しか開けないような女の持ちモンに価値もくそもねぇだろうよ!!」
「何!? もぅいっぺんいってみな!!」
「黙れ! クソ女!!」
2人が揉み合いになっている所を加藤さんが素早く間に入って止めた。
それを見て斉藤がニヤニヤ笑っている。きっと喧嘩好きなんだろう。