表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風の中で  作者: 正和
5/43

黒南風


ドバー海峡に浮かぶ小さな島、長い間誰一人として近づくことなく誰もが無人島だと思っていた島に、闇の中を一機のヘリコプターが降りたった。

 ヘリコプターが生み出す風に生え茂った草がなびく。その草を踏みつけて地上に降り立った男。真っ黒のスーツに、引き締まった肉体を覆い、きっちりと撫で上げられた黒髪は風になびくこともなく闇の中でもなお黒光りしている。

 引き締まった体はさほど大きなものではない、せいぜい170センチ少しであろう。これは彼の家系によるものであろう、代々大柄な体は暗殺に不向きとされている。そんな一族の中では、彼は大柄な方に属するのだ。

 伝説の族長であるコレットなどは身長160センチほどで、体つきもいたって普通で一見華奢にみえる、だからこそ敵の目を欺くことができたのだろう。

 しかし、その伝説も先日終わりを告げてしまった。コレットが死んでしまったのである。正確には、何者かに殺されたのだ。彼は、長年使いなれた椅子に座ったまま、胸に一本のナイフを突き立てて息を引き取っていた。

 犯人が何者なのか?その一本のナイフのみが手掛かりである。

 犯人の目撃者は一人としていない、なぜならこの城には全く警備とか防犯と呼ばれる装置が存在しない。それどころか、部屋だけではなくどこにも鍵が存在しないのだ。これは、代々プリスカ一族の族長は最強であり、だれからの挑戦も断れないという決まりがあるからである。

 族長は最強であれば誰でもよい。族長になりたければ族長を倒せば良い、これがプリスカ一族で受け継がれる血の掟なのである。

 しかし、一族がこの稼業を始めて以来、こういった形で世代が交代したことはなかった。誰も挑戦しなかったわけではない、だれが挑戦してもダメだったのである。

 それは、血縁ーストレイン、の成す奇跡のようなものである。サラブレットの子はやはりサラブレットなのである。

 その男の名は、アルベルト・プリスカ。若きプリスカ一族の後継者である、いや後継者候補になってしまったのだ。

 予定では、近々コレットは引退し、アルベルトに族長の座を譲るはずであったのだが、コレットの死とともに、コレットの命ともう一つ消えたものがあった。「漆黒のリング」である。

 これは代々族長のみが身に着けることができるものであり、世代交代する時には欠かすことかずできないものである。

 今現在、プリスカ一族の族長は先の族長であるコレットを殺害し、「漆黒のリング」を持って姿を消した者なのである。しかし、族長となるべき人物がなくなってしまった。

 考えられることは一つ、これは他の組織からの挑戦状なのではないかということである。

 結論がそうなった以上アルベルトは容赦しない。

 まずは唯一の証拠の品であるナイフであるが、これはそれほど手のかかることでなかった。

 このナイフは今までに、2度使われていた。どちらの場合も、世界的企業であるサヴァランが関係していた。

 一族の調べでは、サヴァラン社は闇の軍需産業にも触手を伸ばし始めたようで、その計画に邪魔なものを「ノアール」と呼ばれる、サヴァラン社の裏組織によって消しているようである。その組織に属する新手の暗殺者、コードネーム・ヴェントである。

 十中八九、ヴェントがこの件の犯人に間違いないようである。

 しかし、アルベルトには俄かに信じられなかった。それは、あまりにもコレットが強すぎたためである。いまだにコレットが殺されたなど信じられなかった。

 彼の右手には犯行に使われた一本のナイフが握られていた。

 「自由」「平等」「博愛」の3つの言葉が刻まれている。

 それを見て、馬鹿にしている、ときつく握りしめる。フランス国旗になぞらえた言葉である。

 アルベルトが組織全体にヴェントの捜索と殺害の命令を出したと同時に一つの情報がもたらされた。

 敵対する組織である「ノアール」もまたヴェントを血眼になって探しているらしいのだ。

 「ノアール」に対する直接攻撃を一旦差し止めたアルベルトは、ひとり夕暮れの火の光が射す執務室で考え込む。

 夕日はいつものように、大西洋へと沈んでゆく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ