微風
クレルモン・フェランの空港に巨大な軍用輸送機A400Mが降り立つ、後部ハッチからカスタマイズされた真っ黒のハマーH2が2台ゆっくりと出てきた。
前方の車にで迎えに来ていたミリアンが乗り込むと、後部座席は対面式になっておりリシェールとミッシェルが乗っていた。三人は再開を祝してまずはシャンパンをあけシャンパングラスに注いだ。
きめ細やかな泡が、グラスのそこから漂いながら登ってゆく。
グラスを合わせると、澄んだ音が車内に響く。黄金色の液体が、口の中ではじけ喉を刺激する、フルーティな口当たりと気のみの香りが鼻に抜ける。あまりの美味しさに、ミリアンは一気に飲み干してしまった。
「リシェール御機嫌はどう?」
ミリアンが尋ねる。
「もう最高よ。」
そう言って彼女は親指を立てて突き出す。
「まぁ、何とか80点台にはなったかな、この短期間でよくここまで成長してくれたわ。」
少し辛口ながらミッシェルが褒める。
「それは先生が良かったですからね。」
リシェールが茶化す。
「そろそろ本題に入る?」
ミリアンが切り出す。他の二人が頷いた。
「サユキから連絡があったわ、決行日は2日後の午前中、正しい時間は分からない。ショウは一人でサヴァラン社に潜入するそうよ。」
「そう、でもどうやって潜入するつもりかしら?機密研究をしている機関が存在するんだからそうは簡単には入ることができないと思うのだけど。それに、そのサユキという女性は何者なの?」
ミッシェルが眉間に皺を寄せてリシェールに言った。
「そこが私にも良く分からないのよね、日本からモデルとしてやって来たはずなのに急に行方を眩まして、ところどころで出没してショウを導いてゆく。一体何だか分からないのよね。」
「政府関係者かしら。」とミリアン。
「イブはその可能性は極めて低いと言っているわ。」とミッシェル。
「でも、あの人どこまで信用できるのかわからないのよね。」とリシェール。
「とりあえず私たちには時間がない、準備期間はもうあす一日だけのようなもの、相当覚悟しなけれはならないようね。」とミリアン。
「でも、私たちはどうやってサヴァランの敷地内に侵入するの?」
とリシェールが不安そうに言う。
ミリアンは、ニッコリと笑って言った。
「それについては、もう考えがあるわ。準備も今日中には出来ると思う。残る不安要素はサヴァラン側の警戒態勢がどの程度のものなのかがつかめていない点ね。」
「その辺りは不本意ながらイブの情報に頼らずにはいられないわね。」
とミッシェルが苦虫を噛み潰したような表情で言った。
「いくら周到に準備をしてみてもかなり危険なことになると思う。大丈夫リシェール?」
ミリアンが心配そうに言った。
「大丈夫よ、私はミッシェルとお父さんの娘なんだから。」
真剣な眼差しがミリアンを見つめている。
「よくよく考えると、サラブレットよねぇ。」
ミリアンが感嘆する。
「そんな良いものじゃないけどね。」
ミッシェルが言う。
「どうにかショウを助けたい。」
リシェールが心から叫ぶ。
三人は頭を突き合わせ、黙って頷いた。