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風の中で  作者: 正和
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旋風

 時はすぐそこまで迫っていた。この一連の出来事が最終章に向かい終焉を迎えようとしている。だがそれがいつ、どのような形で迎えられるのか誰にも分からない。

 ミリアンは何とか情報を得ようとクレルモン・フェランの街を走り回ったのだがショウの存在を感じることさえできなかった。

 数日前のイゴール邸の襲撃以来ショウの姿は消えてしまった。

 プリスカ一族は残り少ないカードを切って見事に失敗してしまった、もう後がない。

 そしてサヴァラン側もイゴールの正体がショウにばれてしまい取り逃がしてしまっている。

 しかし、それはフェイクで実はショウはすでに捕まり洗脳されてしまっているのではないか?と疑ってみたが、サヴァラン側の狼狽ぶりは隠しようがないほどである。そして、このタイミングで重鎮であるイゴールが姿を消してしまったのだ、慌てふためいていることであろう。

 では、ショウははどこへ姿を消してしまったのか?当てもなくさまようミリアン、いつしか彼女の運転するフェラーリ・イタリアーノは街から外れて田園地帯の田舎道をかっとんでいた。

 そんな場所に真っ赤なフェラーリは不釣り合いだが、それ以上に不釣り合いな黒塗りのリムジンが道端に止まり、その傍らに純白のワンピース姿の日本人女性とその執事らしき老人が立っている。

 車が故障したのか?と思い、スピードを落としてゆっくりと近づいていく。

 ミリアンの視線がその日本人女性の視線が絡み合う。直感した。彼女は自分の事を待っていたのだという事が。

 ゆっくりと車を止め、サユキの正面に立った。

「もしかして、あなたサユキさん?」

 サユキはにっこりとほほ笑んで頷く。

「あなたは、ミリアンさんですね。」

 黙って頷いた。

「ショウは今私と一緒にいます、安心してください。そして、彼は近いうちにサヴァラン社の隠された闇、ノアールの心臓部分に向かう事と思います。それはまだいつの事なのか言えませんが、その時が来たら間違いなくリシェールに連絡を入れます。私ができるのはここまで、あとはあなたたちの力が必要なんです。彼は、たくさんの人に助けられ勇気づけられてひたすらに前に突き進んでいます。すべてが終わった時、彼は感謝の心と尊敬の念を持って新しい世界へと旅立つのです。」

 サユキの遠くを見つめる瞳がミリアンを捕える。にっこりと最高に魅力的な笑顔を見せる。

 ミリアンもつられて笑った。

 なぜか彼女にショウが何処にいるのか問い詰めることなど詰めの先ほども考えることができなかった。通常の精神状態であればありえないことである。

 気が付くと何もない道端で一人佇んでいた。






 リシェーはミッシェルにつきっきりで射撃訓練を受けていた。あの日以来彼女の技術進歩は目覚ましいものである。しかしながら、あの日の事はやり過ぎだとリシェールからミッシェルはお叱りを受けていた。嫌われることも覚悟していたのだが、杞憂に終わりホッとしている。

 普通に射撃するのであれば、ほぼ百発百中で的を射ぬくことができるほどに成長したが、ミッシェルはもう1ランクも2ランクも上の技術を望んでいた。そして、その望みは間違いなく叶えることができると確信している。なぜなら、リシェールはミッシェルの血を引く実の娘なのだから。

「いい、よく見ておくのよ」

 ミッシェルは、そう言うと肩を中心に円を描きながら手首で銃を捻るようにして無造作に立て続けに引き金を引く。

 放たれた銃弾は様々な角度から弧を描いて的の中心にきれいに吸い込まれていく。

 的の前方3メートルのところに幅2メートル高さ3メートルの鉄の壁が的を隠していたのだが、その鉄板に掠ることもなく銃弾は弧を描いて的を得たのだ。

 リシェールの瞳が輝いている。今までの暗く落ち込んだリシェールとは全くの別人であった。

 あの日以来リシェールの心の中から焦りは消えてしまった。すべての運命を受け止めることを覚悟したのだ。

 そして、ショウの傍にサユキがいる事が何より彼女を安心させた。

 サユキの正体は不明ではあるが、少なくともリシェールはサユキの事を知っている、なんかもうそれだけで良かったのである。

 あとは、サユキからの連絡を待つだけである。しかし、彼女の言う私たちの力が必要だという言葉に戸惑いがある。その言葉の意味とは?、私がショウに何をしてあげられるのか?

 そのことが頭から離れることはなかった。

 母からもらったベレッタのフルメイクにマガジンを叩き込んでいると、何やら騒がしくなってきた。

 ミッシェルの腹心であるコアールがやって来る。

「なにやらお嬢様に会いたいという男がやって来まして。」

「どうしてここに彼女がいることがわかったの?」

「全く分かりませんが、その男政府筋の者らしいです。」

 ミッシェルは少し考え込んで言った。

「周辺の警戒をレベル5に、すぐにここから退避できるように10分で準備して、合図は私から出す。」

 そこで、ミッシェルはリシェールの方に振り向いて言った。

「聞いてのとおり、あなたにお客さんみたい。一緒に来てくれる。」

 リシェールは初弾をチャンパーに初弾を送り込むと無造作にホルスターに銃を放り込んで、ミッシェルについていく。

 彼女たちを待っていたのは、リシェールがもしかしたらと思っていたイブであった。人懐こいのか、胡散臭いのかよく分からない笑顔でキョロキョロとあたりを眺めている。

 馬鹿なふりをしていざという時のため脱出口を物色していたのだ。

 彼を囲むように、サブマシンガンで武装した屈強な男たちにも意を返さないようにニコニコしている。

 リシェールを発見したイブが、手を振りながら男たちを押し分けてやって来る。

「やぁ、ひさしぶりだねリシェール!!」

 男たちがあわてて、イブを取り押さえようとするのをミッシェルが止めた。

「元気そうだね。」

 そう言って彼女の右手の甲にキスをする。そして、ミッシェルの右手にも・・・と思ったところが、彼女の右手は銃を握りしっかりとイブの蟀谷にポイントされている。

「つれないなぁー、20年ぶりの再会だというのに・・・・ファイヤー・ウィッチ、相変わらずクールだ。」

 そう言って、両手を挙げた。

「あなたも相変わらずとんでもないタイミングで姿を現すのね、で 何の用なの?」

「俺もこの件に絡ませてもらおうと思って恥を捨ててここに来た。」

「ふん、あなたに恥だとかプライドがあったとか、初めて知ったわ。」

「ちょっと待ってくれよ、あの時はお互いに傭兵としてあの場所にいたんじゃないか、命がけで戦う傭兵なんているわけないだろう。」

「確かにそうだわ、でもいつまでたっても何度一緒に戦場にいようとあなたを仲間だと思ったことはない」

 きっぱりと言い切った。

「ずいぶん嫌われていたんだな、俺って・・・ちょっとショックだわ。」

 泣きそうな顔をしている、が何処か胡散臭い。

「で、何の用なの。あなた今政府筋で仕事してんじゃないの?」

「政府としてもノアールの活動が目に余るようになってきた。このままではこのフランスがテロ支援国家の汚名を着せられかねない。まぁ、それ以上に個人的にノアールには因縁がある。私の権限の範疇以内であれば支援しよう。勿論、国家のバックアップだ。ある程度の事は目を瞑る。」

「要するに、すべてを闇に・・・・というわけね。」

「そう受け取ってもらって結構だ。こっちもいろいろと大変でね。」

「アルジェリアのことね」

「まぁ、そんなところかな」

 笑顔が曇る。

「あなたの何を信用すればいいのかしら?」

「そう言われると辛いなぁ、今までの事もあるし、とりあえず今回は気分を一新して取り組みます。ということで手を組んでもらうしかないなぁー。」

 ミッシェルはフゥーッとため息をつくと、

「もういいわ、とりあえずあなたの持っている情報全部はいてもらうわよ。」

「おおー怖い、迫力は変わらないねぇー。」

 そう言って、リシェールに向かって胡散臭い笑顔を見せる。


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