表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風の中で  作者: 正和
20/43

そよ風

  春のそよ風が心地よく鳥たちの会話も賑やかになり、待ちゆく人々の心まで華やいだ気持ちにさせてくれる。緑の多い街、パリだからこそあり得る光景であった。

 そんな日いつも通りに父のレストランに向かう。

 その日はなぜかすでに父親であるクルベールが来ていた。いつもなら買い出しに行っている時間帯であるはずである。

「どうしたの今日は?」

 そう言いながらマフラーを取るリシェール。

「まぁ、まだ時間があるんだ、ちょっと座ろう」

 そう言って、客席に二人は向かい合って座った。客のいない店内は殺風景としていてどこか寂しい感じがする。

 いざ娘とこうして向かい合うと、クルベールは何と言って切り出したらいいか分からず困っていた。

「なんなのわざわざ、お父さん」

 不信そうな目で見る。

「うーん、なんだ、最近はどうなんだ?」

「何?それ・・・」

「いや、もう立ち直ったのかと心配で・・・」

「もう子供じゃないのよ、お父さん!!」

 いらだった口調でそう言うリシェール。

「まぁまぁ、落ち着けリシェール、その、なんだ、ここ最近忙しかったし色々あってゆっくりとしていないだろ。つまり、そのこれは、俺からのプレゼントだ」

 そう言って、封筒をリシェールの目の前に差し出す。

 リシェールが封筒の中を見ると飛行機のチケットが入っていた。

「なに?これ??」

「ん、気分転換に旅行にでも行って来い」

「何勝手に決めてんのよ、いつ私がそんなことしたいって言ったのよ」

 明らかにリシェールは怒っている。

 クルベールは俯いたまま聞いているが明らかに目がスゥーッと細くなった。

 そんなクルベールの様子に気づかず、リシェールはまだ一人でブツブツと言っている。

「誰に・・・」

 クルベールがつぶやくように言う。

「えっ??」

 とクルベールを見るリシェール。しまった・・と思った時にはもう遅い。

「誰に言っているんだ」

 鋭い目つきでリシェールを睨み付ける。

 久々に父を怒らせてしまった。

 サーーと血の気が引いてゆくリシェール。(やっばぁーい)

 本気で怒ったときのクルベールは半端じゃなく恐ろしい。

「おい、くそ娘!いつからそんなに偉くなったんだ」

 怒鳴るわけではないが、腹の底から絞り出すようなドスの効いた声で言われるとリシェールは身が縮こまってしまう。幼い頃から父を怒らせてしまうと言いつも後悔していた。いつも怒らない父が怒るとき必ず自分が間違っていたのだ。

 今日も例外ではない。

「えっと・・・お父さん!?」

「あーっ?」

「ありがとう、気が変ったわ、ありがたく行かせてもらうわね」

 と引きつった笑顔でリシェールは言った。

「最初っからそう言ってろ」

「ありがとう」

 そう言って、クルベールのほっぺにキスをして立ち去っていく。

 残されたクルベールは一人照れていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ