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EP4:チュートリアル

「やぁ! リュラだよ! ようこそ、自然と現代文明が融合した極限の箱庭、マップ『シャングリラ』へ!」

ホログラムのリュラが、空中で一回転して恭しく挨拶をした。


「また、あんたか。今度は何を教えにきやがった?」

シンが呆れた様子でリュラを睨む。


「まぁまぁ、そう邪険にしないでくれよ。サバイバルに欠かせない『ステータス画面』についてレクチャーしに来たんだから!」

リュラが一瞬だけ大げさに肩を落とすが、すぐに不気味なほど陽気な表情に戻る。


「ステータス画面?」

マリアが首を傾げる。


「そう! 百聞は一見にしかず。まずは、頭の中で『ステータス表示』と強くイメージしてみて!」


「こうか?」


「こうかしら?」


「えーっと…こんな感じか?」

三人が思い思いに意識を集中させる。


「ブゥゥン」

すると、電子音と共に、彼らの眼前に半透明のウィンドウが展開された。


「おぉ! 随分とハイテクじゃないか。俺の元同僚が作ったクソつまんねぇパワーポイントより万倍も見やすいな!」

ウゴが大げさに感心した声を上げる。


「……随分と情報量が多いな。目がチカチカしやがる」

一方で、シンは忌々しげに顔をしかめていた。


「なんとなく意味はわかるけれど……解説してくれる?」

マリアがリュラを促す。


「もちろん! そのための案内人だからね。まずは中央の全体マップ。君たちの現在地は赤い点で表示されているよ」


「随分と広いんだな」


「そうとも! 総面積は約500万平方メートル。日本なら東京ドーム約107個分。アメリカならセントラルパークの約1.5倍だと思ってくれ!」


「最高だな。三人でバスケットにサンドイッチでも詰めてピクニックにでも行くか?」

ウゴが軽口を叩く。


「……広すぎるわね。このフィールドに、何チームが投下されているの?」

マリアが鋭い声で核心を突く。


「いい質問だねぇ! 君たち以外に49チーム…つまり、合計150人の精鋭たちが参加しているよ!」


「なるほどな。要するに、残り147人をぶっ潰せばいいわけだ」

シンが静かな声で呟いた。


「そしてUIの説明に戻るけど、右上にあるのがアビリティとムーブメントのチャージ状況。今は誰も使っていないから、100%と表記されているはずだよ。左上は水分と空腹のゲージ。水分がゼロになると体力が徐々に減り、空腹がゼロになると…アビリティとムーブメントのチャージ速度が半分に落ちるから要注意だ!」


「…ということは」

マリアは検証のため、『サンダースネア』を空に向かって放った。

アビリティの使用と共にアイコンが0%になり、即座に1%からカウントアップが始まる。


「そういうことさ! チャージが完了していないと能力は発動できない。使い所は慎重にね!」


「…マップの下にあるスロットは、所持品リストか」

シンがマップ下に表示されているスロットを見つめる。

ショットガン、ハンドガン、予備弾薬、そしてサバイバルナイフのアイコンが並んでいた。


「そうそう! ちなみにアイテムに触れることで、破棄や使用も可能だよ。今、試しに『ただの石ころ』をスロットに追加したから、タッチして捨ててみて!」


「こうかしら?」

マリアが石のアイコンに触れると、『捨てる』の文字が浮かぶ。


「こいつを押せばいいんだな。ポチッとな」

ウゴが躊躇なく実行すると、カランと乾いた音を立てて足元に石ころが転がった。


「なるほどな。これでアイテムの受け渡しができるってわけか」

シンが戦術的な利点を即座に理解する。


「その通り! 捨てたアイテムは味方はもちろん、敵も拾える。つまりマップにドロップしている物資と同じ扱いになるんだ」


「敵より先に奪えばいい話。簡単ね」

マリアは納得したように頷く。


「ちなみに、物資の入手はドロップ品だけじゃないよ! プレイヤーを倒すと『デスボックス』になる。それを漁れば相手の装備やアイテムは君たちのものだ! それと、マップ上のNPCモンスターを撃破することでもアイテムドロップを狙えるよ」

そう告げると、リュラが指をパチンと鳴らす。


「ギャァ!!」

虚空から物質化するように、小さな恐竜と鋼鉄製のデスボックスが現れた。


「うおっ!? 本物の恐竜か!…けど、小さいな。俺が昔飼っていたトイプードル並みのサイズだぞ?」

ウゴは驚きつつも、その矮小な姿に安堵の笑みを漏らす。


「これはデモンストレーション用だから、今は攻撃してこないよ。でも本番では容赦なく牙を剥くから気をつけてね!」


「ふん…敵を倒せば倒すほど、こちらの喉を潤せるってわけか」

シンは冷たく呟くと、ハンドガンを小型恐竜の眉間に向けた。

そして…


「パーン!」

一瞬の躊躇もなく、引き金を引いた。


「ギャッ!」

恐竜の額に穴が開き、絶命すると同時にその死体は粒子となって霧散した。

後には、ハンドガンの弾薬が入った箱が転がっているだけだった。


「あぁ…タロウが死んじゃった」

リュラがわざとらしくがっくりと肩を落とす。


「ペットならリードでもつけておけ。野良犬は殺処分されるのが世の常だ」

シンは弾薬を拾い上げ、静かに吐き捨てた。


「そして、これがデスボックスね…」

マリアがボックスに触れると、ホログラムのアイテムリストが展開される。


「そう! 中から欲しいアイテムを選択してみて。今回はハンドガンの弾と注射器を入れておいたよ」


「……こう?」

マリアが弾薬に触れ、『入手』を選択する。


「そう。これで君のスロットへ自動で転送されるよ」


「…」

ボタンを押すと、マリアのアイテムスロットに弾薬が転送された。


「ええ、使い勝手は良さそうね。初心者でも安心だわ」


「あー、リュラさん。一つだけ確認させてもいいかな?」

ウゴが冷や汗を拭いながら手を挙げる。


「はいはーい! なんでも聞いて!」


「このデスボックスってのは、プレイヤーの『残骸』なんだろ? ゲームで死んだプレイヤーはどうなるんだ? …まさかとは思うが、そのまま死ぬ…なんてことはないよな?」

ウゴが、最も恐れていた問いを口にした。


「いい質問だね! ちょうど話そうと思っていたところだよ」


「…」

三人の視線が、リュラに集中する。


「このゲームで死ぬこと。それは、現実世界の君たちも死ぬということさ」

リュラは、ひまわりが咲くような満面の笑みで、残酷な事実を突きつけた。


「…おい。ふざけたことを言うな。ちゃんと説明しろ」

シンの声が、地を這うような低音に変わる。


「君たちの肉体には今、特殊なカプセルに収納されている。これは君たちの脳とダイレクトリンクして、このゲームの世界にダイブしているんだ。だから、ゲーム内の痛みやダメージは直接、現実世界の肉体…すなわち脳に反映されるんだ。だから、HPがゼロになったら脳は『死』を認識して、そのまま死んじゃうんだ!」


「あぁ、ちくしょう。一番最悪のハズレクジを引き当てちまった…!」

ウゴは頭を抱え、ガタガタと膝を震わせる。


「でも安心して! 各プレイヤーは1枚だけ『リバースカード』を所持している。誰か一人が死んでも、残り二人が生きていれば、マップ各所の『リバースビーコン』で仲間を蘇生できるんだ!」

リュラの背後に、円筒形の培養ポットのようなホログラムが浮かび上がる。


「なるほど…つまり、ここにいるペテン師を見捨てても、そのカードさえあれば生き返らせることができるんだな?」

シンがウゴを指さしながら、底寒い声で確認する。


「おいおい! 見捨てる前提で話すなよ!」


「まぁ、結論から言えばその通り! ただしカードは使い切り。死んだ仲間や敵のデスボックスからも回収はできない。保険はあるけど、命は大切にね!」


「大体分かったわ。丁寧な説明、感謝するわ」

マリアは感情を押し殺した声でぶっきらぼうに告げた。


「では、僕からの説明は以上! 皆の幸運を祈っているよ!」

リュラは手を振りながら、粒子となって夜風に溶けるように消えていった。


「あぁ…説明は以上…か。恐ろしくせっかちなピエロだぜ、全く」

ウゴが呆然と立ち尽くす。


「あなたの無益なジョークを聞いているよりは、有意義な時間だったわ」

マリアはそう吐き捨てると、屋上の出口へと踵を返した。


「…同感だ」

シンもまた、静かな足取りで後に続く。


「おい! そりゃあないぜ! 俺はハイスクール時代は弁論大会で州大会まで勝ち残ったんだ! 本当だぞ!」

ウゴは情けない声を上げながら、慌てて二人の背中を追いかけた。


こうして、三人の命を賭けた、壮絶なバトルロワイヤルが静かに幕を開けた。

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