表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/10

#9 観測者との心理戦

 膝を抱えてうずくまる。

 前世の失敗三部作――不登校で布団と結婚、オンラインに逃げ、フリースクールで魂レベルで爆散――の記憶が、石畳の冷たさと混ざって胸を締めつける。


「……ああ、またやっちゃったのかな、私……」


 視界の端に、かすかな黒髪の残像が揺れた。

「……ハンナ?」


 でも、姿ははっきり見えない。

 ハンナは人混みに紛れ、広場の端や屋根の上、建物の陰の奥からこちらをじっと見ている。

 遠く、そして近く。まるで街全体に散らばった情報のように、私の意識にまとわりつく。


 ――膝を抱えてうずくまっている間も、彼女は待っている。


 なんでだろう。普通なら、ここで飛び込んでくるはずじゃないか。

 いや……まさか。心理戦?

 丁寧すぎる……待つのも戦略の一部、ってこと?


 胸の奥に熱が走る。

 前世の私なら、ここで諦めて布団に戻っていた。

 今の私は、違う。立ち上がる――光素を、今の自分を握りしめて。


 私はゆっくり膝を伸ばした。


「……なんであの子、私がこんな風に膝を抱えてうずくまってるところから、じっくり待っててくれるんだろうね」

 苦笑が漏れる。

 心理戦……いや、これは丁寧すぎる。


 指先に光素の感覚が流れ込む。胸の奥で螺旋を描き、自然に体内の流れと繋がる。

 立ち上がった瞬間、街の空気がわずかに揺れる。


「来るなら来なさい……いや、来られないんだろうね、私が完全に立ち上がるまでは」


 ハンナの影は微動だにせず、屋根の上や路地の陰から私の立ち上がるタイミングを測っている。

 心理戦――相手の心を読む駆け引き――が始まる前から、すでに舞台は整っている。


 私は胸の中で光素を感じ、指先で微かに流れを操る。


「さあ、誰が先に心を折るか、試してみようじゃない」


 膝をついていた私が完全に立ち上がる。

 光素が体内で螺旋を描き、手のひらから微かに滲み出る。


「……変身ってほど大げさじゃないけど、私の世界の基準ではこれが“本気モード”ね」


 ハンナは影の奥で動かず、私の動きに合わせて心理を測る。


「面白い。なるほど、待つ理由がわかった。私が動くまで見守るのは――どこまで読めるか、試しているんだね」


 街の空気が少しざわめく。

 膝を抱えていた情けなさも、前世の孤独も、全部笑い飛ばせる。


「ここからは、私のターンだ。光素初期理解者として、心理戦も世界の更新も……全部見せてやる!」


 ――そして、ハンナはここにいる理由も、はっきりしてきた。


 彼女はただの観察者じゃない。

 情報操作のプロで、この街の“秩序の裏側”にアクセスできる存在。

 膝を抱えてうずくまっている私の状態を、街全体の情報のように取り込み、最適な行動を測っている。

 心理戦の相手として――ラスボスではなく、試す存在として、ここにいるのだ。


 私の立ち上がりは、ただの自己復活じゃない。

 戦略を読み、相手の出方を待つ――そんな駆け引きの始まりでもある。



 立ち上がった私の周囲に、空気の微細な震えが広がる。

 膝を抱えていたときよりも、視界が鮮明になった気がした。

 ハンナは、まだ動かない。だが確かに存在する。

 屋根の上、影の中、路地の奥――あらゆる場所から、私の動きを測っている。


「……さて、始めようか、ハンナ」

 声に力を込める。言葉は軽く、だが内心は緊張で震えていた。


 光素が指先から体全体に回る。螺旋を描き、胸の奥で共鳴する感覚――これが私の本気。

 手のひらから微かに滲み出す光素は、私の存在を街に宣告する信号のようだった。


 ハンナの影が、ほんのわずかだけ揺れた。

 ――読まれている。完全に、読まれている。


「ふふ、やっと立ったか」

 ハンナの声は聞こえないのに、影から伝わる“空気”がそう囁いた。

 心理戦……彼女は動かず、私の出方を誘う。

 まるでチェスの駒を見守るように。


 私は目線を泳がせ、肩の角度を変え、息づかいをわざと意識させるように調整する。

 これも全部、相手の心理を誘導するため。


「……なるほど、あの子は私の反応を全部見てるんだ」

 内心で苦笑する。

 膝を抱えていた情けなさを、前世の孤独を、全部笑い飛ばすつもりで。


 光素の流れを胸に集中させ、意識的に微かに漏らす。

 これも心理戦。漏らす光素の量や動きで、相手に“読ませる情報”を操作する――私の小さな反撃。


 ハンナの影がまた微かに動いた。

 たった一歩の距離の変化、それだけで彼女の心理状態が透けて見える。

 ――焦ってる、少しだけ。


「ふふ、面白いわね」

 声に出さなくても、思わず口角が上がる。

 ここで焦ったら負け。心理戦では、冷静であることが武器になる。


 私は軽く構え、胸の光素を螺旋状に練り上げる。

 手のひらから微かに飛び出る光の粒が、私の存在を誇示する。


「……さあ、ハンナ。あなたの心理戦、受けて立つ!」

 胸を張る。立ち上がる自分を信じる。

 膝を抱えていたときよりも、自分が世界の中心にいる感覚――それを楽しむ。


 影の向こうで、ハンナがどんな顔をしているかは見えない。

 でも確かにわかる。

 ――この戦いは、今から始まる。←なに?この打ち切り寸前の漫画みたいな終わり方。。。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ