我が家の雛人形たち
我が家に念願の女の子が生まれた。
妻が、女の子を生んでくれたのだ。
今まで我が家には男の子が三人生まれていた。
どんな子供だって大切だし、我が家にとっては宝もの同然だけど、俺も妻も女の子も欲しいなと思っていたところだった。
最初の子供を妊娠したと分かった時は、健康で生まれてきてくれるなら、性別なんてどちらでもいいねと話していたのに。
欲が深くなってくる。
年を取ると、欲がなくなってくるなんて聞いたことがあるのに。
それに俺にはある問題があったから、まだ望みや願いがたくさんあふれてくるとは思わなかった。
子供が大きくなった姿を見たいし、どんな仕事につくのか知りたいし、孫の顔なんてものも見てみたくもなる。
女の子の授業参観はどんな風だろう。
大人になったら、「パパなんて嫌い」とか「一緒に服を洗濯しないで」とか言うようになるんだろうか。
彼氏に娘を渡したくなくなるって聞くけど、本当なんだろうか。
娘の結婚式は涙が止まらなくなるって、仕事場の先輩が言ってたけど、実際はどうだろう。
たくさんの姿を見てみたい。
いろんな成長をこの目で見届けたい。
女の子なんだから、きっと男の子の場合とは違う。
今までとは違う育児経験になるはずだ。
楽しみだな。
俺は病院から帰ってきてすぐ、買い物袋を手にして玄関の扉を叩いた。
出迎えにきてくれた妻が、俺のパンパンにつまった袋を見て「あらまあ」と呆れる。
中からはみ出した、お雛様用の飾りや食べ物を見て笑った。
「最初の女の子だからって気合が入り過ぎよ」
「しょうがないだろ」
俺は、部屋の奥にすでに飾り付けられている雛人形の元へ向かう。
その傍に、今日買ってきたばかりの飾りや雛人形を付け足した。
女の子を妊娠してるってわかってすぐに予約して、何か月も待って購入したものだ。
人気の店の、可愛い商品にした。
少し離れて雛壇を見つめる。
雛人形がいくつも飾られている雛壇が少しおかしく見えて、笑ってしまう。
「あなた、やりすぎじゃない?」
「少し祝いすぎなくらいがちょうど良いさ。子供にかける愛情は、方向性さえ間違えなければ大きければ大きい方が良いんだから」
「それもそうね。でもこれを見たら我が家の男の子達がすねちゃうかも」
「だったら、男の子のお祝いも今年はもっと豪華にしよう」
いつか俺が病気でこの世を去ってしまうとしても、子供が健やかに幸せに生きてくれるのなら、それにまさる幸福なんてない。
生まれてきた女の子にも、我が家で育っている男の子にも。
残りの人生を使って、これからたくさんの愛情をかけていきたい。
雛飾りを見つめて俺は、改めてそう思った。




