3話
迷宮【ドラゴンハート】。
20層で構成される迷宮。名の通り迷宮のボスは、真紅竜。その竜が放つブレスは、全てを焼き尽くすと言われており未だ討伐されていないため、この迷宮は、最も難易度の高いSランクがついている。
しかし、その迷宮で採集できる野草や鉱石、モンスター素材など利用価値が高く迷宮を訪れる冒険者は、多い。
それに伴って命を落とす冒険者も多い。
アルス達は、順調に迷宮三層まで来ていた。
「あのーアルスさん。質問あるのですが宜しいですか?」
「リンさん。どうぞ」
「お一人でいつも迷宮探索やっているんですか?」
「・・・はい。そうですねぇ。」
「何年程、お一人でやっているのですか?」
「んー。チームが解散されてからなのでかれこれ、五年ですねぇ」
「そうなのですねぇ。怖くはないのです?」
「・・・慣れましたねぇ」
「そーなのですねぇ」
「皆!索敵!リザードマン、2。戦闘準備!」
「了解」「わかった!」
先頭を歩くリズがリザードマンを二体確認して戦闘開始を指示する。
リザードマン。人型のトカゲで鉄を弾く頑丈な鱗。強靭な爪。そして武器を扱うことができる知性を持ったモンスターである。その脅威度は、B。
先制攻撃を放ったのはロックだった。
ロックが放つ矢は、こちらに気づいていないリザードマンの額に二体とも命中する。
しかし、その頑丈な鱗に弾かれる。その攻撃に気づいたリザードマン達は、アルス達に向かっていく。アルスはリザードマンに向かい討とうと一歩踏み込む。
アルスの進路に若干被ったリズは盾を構えてる。アルスは、リズを避けてリザードマンに向かう。一体のリザードマンは、アルスに進路を変えた。
「行くよ!【レアスキル】騎士の挑発発動」
リザードマン達はリズの放つスキルによって攻撃対象をリズに変えた。アルスは、攻撃対象がリズに変わったことにびっくりした様子で一瞬足を止めた。
「・・・はぁ。【コモンスキル】魔力付与発動」
リズに攻撃対象を変えたその僅かな隙を付きアルスは、二体のリザードマン首を背後から切り落とす。
その場に倒れるリザードマン達は、悲鳴を上げることなく 爆裂すると共に灰になる。
その一瞬の戦闘にアルスの実力がわかったリズ達は喜ぶ。
アルスは無言でリズを見つめる。
(チーム戦。やりづらい。・・・ソロの方がいい)
アルス達は探索しながら依頼にある素材を集めていく。
戦闘も行われるが全て3分もかからず終了していくがアルスは、戦闘が行われる度にストレスが溜まっていく。
10階層を護るモンスター。
リザードマン達の王。キングリザードマン。通常のリザードマンよりも2倍近くもある大きさ。その攻撃力は、リザードマンの3倍あり、身体能力も上がっている。上位種だ。その脅威度、A。
キングリザードマンがいるフロアに到達したアルス達。
リズがキングリザードマンの注意を引く。
「僕を見ろ!【レアスキル】騎士の挑発発動」
アルスは背後に回るが攻撃を仕掛けない。
キングリザードマンは、大剣を振り上げリズに振り下ろす。リズは、その攻撃を盾受けて左側にに流す。
その瞬間。ロックから放たれた矢はキングリザードマンの右目に刺さる。
痛みで暴れるキングリザードマン。
不規則な動きで攻撃ができないアルスは漆黒の剣と何かを観察する。
リンは魔術の詠唱を戦闘同時に開始した。
「皆。準備完了!いつでも撃てるです!」
「了解!全員!回避行動!」
「了解」
「・・・了解」
キングリザードマンは皆が離れた。
リンの足元にある魔法陣は輝きを増す。
「行くのです!【レアスキル】疾風魔術発動です『テンペスト・アロー』」
りんから放たれる暴風の矢は、キングリザードマンに命中すると竜巻を発生させる。
しかし、キングリザードマンが全力で大剣を振ると竜巻を消滅させた。
驚く漆黒の剣。アルスは、ため息をつき剣を鞘に納めて目を閉じて呼吸を整える。
「【コモンスキル】身体能力強化発動!」
青い炎を纏ったアルスは、キングリザードマンに向かう。それに気づいたキングリザードマンは、アルスに斬りかかる。
大剣の風圧で砂煙が上がると共にキングリザードマンは宙を舞う。キングリザードマンがいた場所には、拳を天に上げたアルスが立っていた。
その姿を見たのは一瞬だった。
アルスは、宙にいるキングリザードマンの頭上にすでにおり拳を振り下ろす。
キングリザードマンは地面に強く叩きつけられた。アルスの追撃が入る。
いつの間に抜けれていた剣は、青い炎が纏っていた。
その剣は天から描かれた稲妻のような軌跡がキングリザードマンの首を斬り落とすように描かれる。
アルスはゆっくりと剣を鞘に納める。
キングリザードマンは、灰となり素材を落として消えた。
圧倒的までの実力差に唖然する漆黒の剣。
アルスは、素材を拾うとゆっくりと先へと向かい始める。
「あれがSランクの実力です?」
「俺たちに合わせて今まで手加減していたのでしょう。」
「全く動きが見えなかった。」
「えー。早すぎましたねえ。」
「・・・アルスさん先に行っちゃてる。追いかけないと」
漆黒の剣は、アルスの後を慌てて追い始める。
彼らの見つめる影。
「あれがアルス。確かに強い。しかもワタシに気づいていた。恐ろしい。しかし奴をここで仕留めれば・・・計画はスムーズに進むだろう」
影は、スッと消えた。
アルス達は探索をしつつ依頼をこなして行く。
数時間後。
ようやく、最下層に着いた。
アルスは何かに気づいた。
「君達は、ここまでだ。」
アルスが放ったその一言は、リズを激怒させた。
「ここまで来たんだ!!最後まで付き合うよ!」
「無理だ。諦めろ」
「無理じゃない!」
「君たちの実力じゃああの扉の先にいる竜は倒せない」
「僕たちが死ぬとでも言うの!」
「・・・その通りだ。無駄死にする。」
「無駄死って僕たちは死なない!」
リズはアルスを殴ろうと動くとロックが止める。リンは泣きそうな表情でアルスを見つめる。
「まぁまぁ二人とも落ち着いて」
「・・・ここから先は助けられない」
「それはどう言うことですか?」
「嫌な予感がするんだよ」
「根拠はないと」
「いや、どちらにせよ真紅竜に君達は勝てない。」
沈黙する漆黒の剣を置いてアルスはボス部屋の巨大な扉を開くと凄い量のどす黒い霧が扉の隙間から漏れ出す。
部屋の中央には、霧の発生源と思われる赤黒い竜が虚な目でアルス達を見ている。その視線には、強烈な殺意が込められている。
その殺意に圧倒され腰を抜かすロックとリン。辛うじて立っているリズ。
その光景を見てため息をつくアルスは、スタスタと竜へと向かって行く。
リズは深呼吸をし自分の両頬を叩いて喝を入れる。
「ロック、リン。いつまでひよってるの。行くよ」
「・・・はい。」
「わ、わかったです。」
奮起して二人は立ち上がり漆黒の剣は、アルスを追いかける。
竜は狂った咆哮をあげる。大気は振動し大地は揺れる。
アルスは、静かに剣を抜く。
竜はゆっくり口を開けて火球を作り出す。アルスはニヤリと笑い剣に魔力付与を行うとアルスに向かって竜は、巨大な火球を撃ち出す。
アルスを守らんとリズはアルスの前に飛び出て盾を構える。咄嗟にアルスは、一歩下がり魔力障壁をリズの前に貼る。
撃ち出された火球はアルスの魔力障壁に衝突すると爆発する。
リンは膝から崩れロックは二人の所へと走っていく。
「リズ!アルスさん!!」
爆煙から腰を抜かしたリズを左手で支えるアルスの姿が見えてくる。ロック達は胸を撫で下ろす。
アルスは、リズの支えをやめて地面に突き刺した剣を抜き竜へと走り出す。
「・・・いくか。【コモンスキル】身体能力強化発動!」
速度を上げて竜から打ち出される火球を避けて行く。剣に魔力付与しならが空中に魔力障壁を貼ってそれを踏み台して竜に斬りかかる。
しかし、剣に魔力付与した魔力が竜に吸収される。それに気づいたアルスは、急いで下がる。
竜は、その隙を逃さずアルスを真下に叩き落とす。アルスは、地面スレスレに魔力障壁を貼る。
魔力障壁がクッションになりアルスは、怪我をせず済んだアルスは竜を睨みつける。
「・・・魔力喰いやがった。」
竜は、巨大な火球を作り出していた。それを見てアルスは竜から逃げる。
ロックは、深呼吸して弓を構え竜に狙いを定め矢を射る。
竜の左眼に直撃するも竜は、その痛みを感じていないのか悲鳴も上げず火球を放つ。
アルスは、漆黒の剣から離れた位置まで逃げていた。
アルスは、再び剣に魔力付与してその火球を斬り裂く。
火球は、アルスの背後で爆発する。
リンは詠唱を始めた。
ロックは、リンを守るように前に立ち竜に矢を撃ち続ける。リズはゆっくりと立ち上がり盾を構える。
「僕を見ろ!【レアスキル】騎士の挑発発動」
しかし竜は、見向きもせずアルスに火球を撃ち続けている。
「え?嘘。効かない?」
アルスは、火球の弾幕を掻い潜り竜の足に一撃を入れるが剣に付与していた魔力が吸われ攻撃は鱗によって阻まれる。
(魔力を込めた攻撃は効かずスキルも効かない。そして、硬い鱗によって物理効きにくい。さぁ。どう攻略しようか。物理でぶん殴り続ける?・・・いや剣が折れるな。)
後方で凄まじい魔力を感じたアルスは振り返るとリンから緑色に輝く光の柱が出来ていた。
「出し惜しみ無しで行くです!チャージ完了までロック!リズ!注意を引くです!」
「了解」
「リン。無理しないでねぇ」
さすがの竜もリンの存在を無視できず標的をリンへと変え火球を放とうと口を開いた。
漆黒の剣は、隊列を組み。リンから竜の攻撃を外そうとしていた。
竜が火球を放つ瞬間。下から顎に強烈な一撃を喰らい火球を噛み砕くような形となり竜の口内で爆発する。
竜の口から煙が上がりその場に倒れ込む。
「リン!今がチャンス!」
「わかったのです!全力全開です!【レアスキル】疾風魔術発動です『テンペスト・アロー』」
緑に光る柱は、竜と同じサイズぐらいの暴風の矢が形成されて竜目掛けて放つとリンはその場に座り込んだ。
しかし、竜は、口を大きく開けて暴風の矢を吸い込んだ。
「あり得ないです。・・・最大出力の一撃なんですよ。それを喰らったのです」
「僕たちじゃ。敵わない。」
「リズ!アルスさんに撤退を伝えてここから逃げましょう!」
「そうねぇ!・・・そうしましょう」
アルスは、懐からナイフを取り出し詠唱を始めて竜の頭の上に乗った。竜はアルスを振り落とそうと暴れる。しかしアルスは平然と詠唱を続けている。
するとナイフが白く発光をする。
「ちっとばかし。これは痛いかもねぇ!」
アルスは、ナイフを竜に突き刺す。悲鳴を上げた竜は天井にアルスごと頭をぶつける。だがすでにアルスは竜の頭から離れ宙を舞う竜の目の前に魔力障壁を足場にして立っていた。
竜はその時確信した。この者は、私を狩れる者だと。
竜はアルスを喰らおうと噛みつくが手応えがない。
アルスはロックが潰した左眼側に避けて竜の頬を全力で殴った。
竜は地面に倒れ込むがすぐに起き上がりアルスに接近戦を持ち込む。
アルスは、平然と竜の攻撃をいなしてはカウンターを決めて行くが決定打にはならない。
化け物同士の戦いが始まる。
漆黒の剣は、唖然として見ているしかなかった。ここで戦いに参加すればアルスの邪魔になると考え誰一人、その場から動けずにいた。
「なんなのです?あの竜と対等以上に戦ってるです。・・・あれがSランクの冒険者の実力なのですか」
「そう見たいだねぇ。僕たちは、足手纏いだ。」
リズは悔しいのか手から血が出るほど拳を強く握る。ロックは、アルスを凝視すると笑った。びっくりした他の二人。
「ど、どうしたのロック。ついに頭が・・・」
「俺、頭。可笑しくなってないからねぇ。ほら、あの人。楽しそうに戦ってる。」
ロックは、アルスに指を指す。
アルスは嬉しそうに戦っていた。その異様な光景を目撃したロックは、その場に座り、アルスの戦いを観戦する。
「え?」
リズとリンもアルスの表情を見ようと目を凝らすが漆黒の剣に被害が出ないように遠くで戦っているためにアルスの表現までは見ることはできなかった。
「ロックは相変わらず。目がいいねぇ」
「俺の自慢出来る唯一無二の能力ですから!」
「狩人なら同然です」
「・・・リン。いいだろ自慢したって」
漆黒の剣は、危険な場所にいるというのに安心しきっていた。
「イヤー。いつ見てもアルス君の戦い方は、素晴らしいですねぇ」
背後から聞き覚えのないその声に振り向く漆黒の剣。そこには、フードを深く被った不気味な男性が拍手して立っていた。
漆黒の剣は、戦闘態勢に入った瞬間。リズの盾を貫通する影の槍。リズは、慌てて盾を離し距離を取る。
「・・・この程度の攻撃に反応出来ない。実に弱い。アルス君の仲間ではないみたいですねぇ。・・・今ここで皆様を殺してもアルス君は怒りませんねぇ。さてどうしましょうか」
漆黒の剣は得体の知れない男性から距離を取りつつ警戒を強めた。
男性は何かを思いついたらしく手を叩く。
「そーしましょう。皆様を実験材料にすればいいのです。」
不気味にニヤリと笑う男性から放たれる尋常ならざる殺気に怯えるロックとリン。
リズだけは彼から目を逸らさない。
続く。