2話
アルスの目の前立ち塞がるロック。
「僕たち《漆黒の剣》もその依頼に同行してもいいかなぁ?」
「え?」
「その依頼。高難易度だよねぇ?」
「あー。そうだが?。」
「なら1人でその依頼量をやるのはやめといた方がいい」
アルスは、ロックが自分の事を案じて提案している事を感じるとともに自分の事を知らない冒険者と確信したからため息を溢した。彼のため息に反応してロックは気を引き締める。
アルスは、周りを見渡してこう言った。
「・・・ここではなんだし。隣の喫茶店で話そうか」
「そ、そうだね」
二人はギルドを後にして喫茶店に向かった。
喫茶店に入ると猫耳の可愛らしいウェイトレスが来た。
「あ、アルスにゃ!久しぶりにゃ!」
「キャンさん。久しぶりですねぇ。」
「死んだかと思ってたにゃ。」
「え?酷くない?」
「そんなことにゃいにゃ。一カ月来ない方が悪いにゃん」
「二人は仲がいいのかい?」
ロックは、キャンとアルスを見てそう言った。アルスとキャンは、互いの顔を見て笑った。
「「ないない」」
息の合う二人を見てロックは不思議そうに見る。
「キャンさんとは、同じ孤児院で育ったってだけの腐れ縁ですよ。仲は悪いですよ」
「そうにゃ。アルスの言う通りにゃん。それこいつ。ティアの事が好きだしにゃん」
「おい。」
「周知の事実にゃん」
「・・・」
アルスはキャンの左肩を軽く小突くと倍の威力になって右頬を殴られた。右頬を抑えるアルス。それを見てキャンは、ひとしきり笑うとロックを見て指を指す。
「こいつ。誰にゃん?」
「・・・名前聞いてなかった。」
「アルス・・・バカなのにゃ?」
「・・・興味すらなかった」
「酷くないかい?」
「アルスは他人に興味ないにゃん。・・・お前ら。いい加減席に座るにゃ。邪魔にゃ!」
「いや、席に案内しろよ」
「さぁて仕事するにゃ。・・・こっちにゃ。ついて来るにゃ」
キャンは、奥の小部屋に二人を連れて行き、メニューをロックに渡した。
「アルスはいつものでいいかにゃ?」
「あー。それで頼む」
「オレは、紅茶とパンケーキで」
「了解にゃ」
沈黙が続く。
気まずそうにするロックを無視して依頼ファイルを読むアルス。
「あの〜。オレは、Aランクチーム。漆黒の剣、所属で副リーダーを勤めてるロックだ。」
「・・・Sランク冒険者。アルスだ!」
「依頼に同行する話をしてもいいかなぁ?」
「・・・どれについて来るの?」
「え?どれ?」
「今回受けた依頼は、700件ぐらいあるけど」
「700!?」
「うん。」
「それを一人で?」
「・・・そうだけどそれが?」
驚いた顔をするロック。アルスは、気にも止めず依頼ファイルを読んでいく。
そこへキャンが注文した物を持ってきた。
場の空気が悪いを壊すかのように各自に注文した物を置いていく。
「パンケーキと紅茶にゃん。こっちがアルスのにゃん」
「ちょっと待ってそれ一人で食べるの?」
ロックはアルスが注文した物を見て驚いた。
なぜならアルスの前には、5号のホールケーキが三つとジョッキに注がれたコーヒーがあるからだ。
「これがアルスのいつもにゃ。」
「そそ。このケーキ。美味いんだよ」
「それにしたって量多くないかい?」
「普通だろ?」
「何言ってるにゃ?異常にゃ」
「え?そうなの?普通だと思ってたわ」
「・・・アルスさんは、甘党なのかい?」
「いや?何でも食うけど?」
「ツッコんだら負けにゃんよ」
「そーみたいだねぇ」
「二人して何だよその目は。てか。キャンは仕事戻れよ」
「・・・わかったにゃ。何か、あったら呼ぶにゃんよ」
キャンが居なくなりアルスは依頼ファイルをロックに渡す。ロックは、依頼ファイルを読んでいく。
アルスはホールケーキを食い始めて五分も経たないうちに一つ食べ終わる。
(これを一人でやろうとしているのか。この依頼全てがAからSランク相当。とても一人でできる量じゃない。・・・え?ホールケーキ。一つ無くなってる。・・・この人全てが異常だ。そして、この依頼ファイル。全てトワラの街付近の迷宮関係の依頼になっている。このクレド支部のギルドは、彼を余程評価しているみたいだ。)
ロックがそんな事を考えているうちにすでにホールケーキは、最後の一つとなっていた。
アルスはふぅーと息を吐きながらコーヒーを飲み最後のホールケーキを食べ尽くす。
「ロックさんは、その依頼量を見ても付いてきますか?」
「・・・ついてきいます」
「そーじゃー勝手についてきてください。・・・これだけは言っておきます。俺の邪魔だけはしないでください。それではまた。明日の朝、駅まで」
「待って・・・もう行っててしまった」
伝票を取りアルスは席を立ち会計を済まして店を去る。
ロックは、暫く考え事をして気付かない。自分の分も会計されてたことに。
「彼はかなり強い。・・・どうしたらチームに加盟してくれるだろうか。まずは好感度上げだなぁー!」
会計された事を知りさらにアルスへの好感度が上がったロックは、仲間達がいる宿へと向かっていた。
そして、早朝。
駅は、まだ静けさが漂っている。
そこにやる気に満ちた三人の冒険者らしい影があった。
「ねぇー。ロック。そのSランカー来るの?」
「来ると思う。」
「・・・私達。もー一時間待ってるだけど?」
その影の一人はロック。
もう一つの影は、スラッと長い体型に美しく長い黒髪、凛とした顔立ちでスレンダー。その体型には、似つかわしくない。黒い盾を背よった女騎士。
女騎士の隣。小柄で童顔な青髪ショートヘアの女の子が椅子に座って寝ている。
「・・・時間聞くの忘れました。」
「ねぇ。ロック。そういう大事な事はちゃんと聞きなさい。副リーダーよねぇ?」
「はい。リズのおっしゃる通りです。」
ロックにリズと呼ばれる女騎士は、ロックに説教していた。ロックは小さく丸くなる。
「全く。」
「すいません。」
そこへアルスがやってきた。
「ホントにいるし。」
「アルスさん!」
「この人がアルス。・・・」
「ロックさん・・・・この人たちがキミの仲間?」
「はい!こっちの騎士がリズ。そこで寝ているのがリン。」
「漆黒の剣のリーダーを勤めています。リズです。よろしく。アルスさん。」
リズはアルスに握手を求める。それにアルスは答え握手する。
「ソロで活動している。アルスだ。よろしく。」
「よろしく!」
「そろそろ。魔導列車。来ますんで行きましょうか。」
リンを起こす。あわあわとするリン。アルスはクスッと笑う。
「え?・・・この人は誰です?」
「・・・アルスです。よろしく」
「え?はい?リンですよろしくです?!」
リンはまだ寝ぼけている。
アルスたちは、駅に向かいトワラ行きの魔導列車に乗車した。
アルスは外を眺めている。
気まずい空気が漂う。
「どーするです?何かすごい気まずいです。・・・ロックが何か面白い話するです」
「そ、そうだね。」
ロックとリンは小声で会話をする。しかし、その会話はアルスにも聞こえていたがアルスはチラッと見て外を見る。
「・・・無理しなくていいぞ。俺は、ゆっくりしてるから」
「あ、はい」
アルスに一周されたロックは、落ち込む。リズは依頼ファイルを見ていた。
「アルスさん。質問あるですがいいですか?」
「あーいいぞ。」
「今回の依頼全て、トワラ付近にある迷宮内で完結する依頼となっています。その中の迷宮の完全攻略とありますが・・・これは迷宮主の討伐の他に迷宮コアの破壊も含まれていると考えていいのですか?」
「・・・そー通りだ。迷宮コアを一番最後に壊す。・・・だけど君たちは、コアの破壊をしなくていい。・・・というかしないでくれ。」
「それはどういうことですか?」
「・・・あれは君たちには荷が重いからだよ。各国を旅するAランクチーム、漆黒の剣さん。・・・言っている意味はまぁ行けばわかるさぁ。」
「・・・僕たちは、弱くはありません。」
「弱いとは言ってないさぁ。・・・荷が重いと言ったんだ。」
リズとアルスの間に火花が散る。二人の殺意でリンとロックは、怯えていた。
そこへ駅員さんがお弁当を売りにやってきた。アルスは目を輝かせて十人分の駅弁を買い、三つを漆黒の剣に渡し残りを爆速で食べていった。それを見て唖然とする漆黒の剣たち。
そして、トワラの駅に着いて、早速トワラ支部の冒険者ギルドに赴く。
そこで今回の目的である迷宮≪ドラゴンハート≫の入る許可と迷宮完全攻略の許可書を得て、迷宮へと足を運んだ。
森を抜けると黒い瘴気に満ちた洞窟が見えてくる。
入り口には、衛兵が立っている。
彼らに冒険者ライセンスと許可書を見せて迷宮に挑む。
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迷宮の奥。
真っ赤の龍は、怪しい男から黒い水晶を喰らう。水晶を飲み込んだ龍は苦しみ出す。
それを見て怪しい男は笑う。
「これで。また。アルス君と戦える。キャハハハハ。今度は、殺してあげるからねぇ。アルス君?。キミの死顔を拝めると思うと楽しみだよ。」
男の後ろに黒い影が現れると男は虚な目で影を見つめる。
「・・・時間だ。行くぞ。No.8。」
「No.6。待ってよ。アルス君がここに来るだよ。こいつと戦わしよ。」
「・・・ダメだ。ボスがお待ちだ。」
「嫌だねえ。アルス君は僕の宿敵だ。」
No.8は背中に背よっている大鎌を構える。No.6はその姿を鬼へと変貌され太刀を影から作り出し構える。
殺気に満ちたその場を壊すように龍が咆哮をあげその姿を綺麗な赤い色から邪悪な赤黒い色へと全身を変える。
二人のやる気が削がれ武器をしまう。
No.8は、龍に近づき喜びを見せる。
「出来ました!。これが僕の最高拙作。深淵の邪竜!!こいつがアルス君を殺す!」
「果たしてうまく行くのか?。・・・アイツはボスも認めた英雄候補だぞ」
「・・・アルス君は、コモンスキル使いだ。でもこいつはスキル無効を持っている。いかにアルス君だとは、言え苦戦して死ぬだろ」
「・・・苦戦はするのねぇ」
「うん。こいつもアルス君を殺すのには苦戦はするだろねぇアルス君の強さはスキルじゃない。圧倒的な所有魔力量。これが彼の強さの秘訣して弱点。」
「そこまでわかっていてあの時、奴らを殺せなかった?」
「・・・それはわからない。あの時はアルス君だけ能力がわからなかった」
「鑑定士のお前ですらわからなかったのか。・・・能力がないと言うのはあり得るか?」
「いやそれはない。その世界の生きる者は皆、一つの能力を持って産まれてくる。そして能力にはレアリティが存在する。下からコモン、レア、レジェンド、ファンタジー。・・・僕の能力【鑑定士】レアリティ、レジェンド。同レアリティ以下なら鑑定することが出来る。つまりその能力を持って鑑定出来なかったと言うことは彼の能力のレアリティはファンタジーってことになる」
「ボスと同格な存在か。」
「でも不思議何だよ。彼の使うスキルは全てレアリティコモン。誰でも会得可能なスキルだ。」
「どういうことだ。」
「能力のレアリティは、スキルのレアリティにも影響が出る。能力がコモンでレアスキルは会得することは出来ない。・・・まぁ、逆なら出来るけど」
「・・・そのアルスが気になるな。」
「興味沸いてきた?」
「アルスが闘ってるのを見たら帰るぞ」
「え?・・・いいの?」
「あ。だが手は出すな。・・・No.8。これは命令だ。わかったな。」
「ムッー。・・・わかったよ。じゃーこいつをもっと強くしようねぇ。能力をもう一つ追加したらどうなるんだろ。・・・強くなるかなぁ。それとも自壊するなぁ。どうだろ。・・・これ食べて」
No.8はマジックバックから黒い水晶を取り出して邪竜に食べさせる。その光景を見てNo.6は呆れている。
苦しむ邪竜を無邪気な笑顔で狂ったように見るNo.8。
「これだからこの狂人は、嫌なんだよ。・・・人族で実験はするなよ」
「No.6。何言ってるの?もーやってるよ。・・・人体実験ならねぇ。失敗して廃人になったけどねぇ、」
「おいおい。禁忌じゃねえかよ」
「だから?何?ボスは共感してくれたよ。これはいい実験だと言ってくれて人族を持ってきてくれたんだ。まだ大量にあるから実験し放題なんだよ。こいつがうまく行けば人族は、一段階進化する。神に近づくことが出来る。そうすればボスの宿敵も地に落ちる。・・・キャハハハハハハハ」
その高笑いに共鳴するかのように邪竜の悲しい咆哮が鳴り響く。
「ついに成功した!邪竜しただけじゃなくて能力2つ持ちの最強の竜種がここに誕生した。・・・これで確実にアルス君を殺せる。アルス君。早く来い。この世界最強の竜種がキミを待っているぞ」
続く。




