1話
黒いフードを深く被った青年は、冒険者、アルス。
アルスは単独で高難易度の迷宮に挑み。そして最下層まで到着した。
アルスの目の前には、様々な模様が彫られた巨大な鉄製の扉。アルスは扉を眺めてため息を溢す。
「はぁーようやく、ボス部屋か。」
巨体な扉を開ける。
暗い部屋へに足を踏み入れた瞬間。
青い火のついた松明が一斉につき暗い部屋全体を照らす。
部屋の中央に魔物が大斧を持って挑戦者達を待っていた。
その見た目は、狼の頭をし体は人。全身は狼のような毛に覆われている奇怪な生物。
その魔物の種族名はワーウルフ。
強靭な爪と牙を持ち圧倒的な素早さを持った魔物として知られている。
魔物には脅威度がある。下からF、E、D、C、B、A、Sの順に危険な魔物となる。
ワーウルフの脅威度は、最も高いSランクとされている。
「アイツが討伐されないからこの依頼が残ったのか。・・・んー。ワーウルフにしては、弱そうに見えるだけど。まぁいいか。とりあえずやることには変わりないんだからやりますか」
アルスは腰に帯刀している純白の剣を抜く。
「【コモンスキル】身体能力強化発動!」
アルスの足元に青白く発光する魔方陣が現れるとアルスの身体に青い炎が纏う。
アルスは猛スピードでワーウルフに向かっていく。
ワーウルフはアルスに気付き雄叫びを上げる。
アルスは怯む事なくさらにスピード上げてワーウルフの腕を斬り斬りかかる。
しかし、薄皮しか斬れていない。
「・・・。硬いな。・・・はぁー面倒だし【コモンスキル】魔力付与発動」
アルスの足元に青白く発光する魔方陣が再び現れると剣に青い炎が纏う。
その隙を狙ったワーウルフは、アルスに大斧を振り下ろす。
「【コモンスキル】魔力障壁発動」
アルスはワーウルフの大斧に手をかざす。
手元に青い魔方陣が現れた。その魔法陣が盾となり大斧を防ぐ。止められてムキになったワーウルフは、何度も大斧で青い魔方陣を斬り続ける。
「・・・火力もいまいち。・・・何で他の冒険者はこいつに苦戦していたんだ?」
ワーウルフは攻撃をやめて一瞬にアルスの目の前から消えたと思ったらアルスの背後に現れ大斧で薙ぎ払う。
その攻撃をまともに受けてしまってアルスは吹き飛ばれ柱に衝突する。
柱は、その衝撃で崩れ瓦礫の下敷になってしまった。
瓦礫からアルスは這い出てる。
アルスの背中に大きな傷がついていた。
「・・・はぁー油断したなぁ。反応遅れた。さてと【コモンスキル】治癒発動。・・・はぁ。やるか」
アルスの傷が青い炎包むとその傷は、一瞬で消えていく。
ワーウルフは、アルスに追い討ちをしようと突撃していく。アルスは青い炎が纏った剣でワーウルフの左腕を斬り落とした。
悲鳴を上げるワーウルフ。
アルスはゆっくりと近づく。
ワーウルフはその時に自分の死を確信してアルスから逃げようとアルスに背中を向けた瞬間。
アルスは姿を消しワーウルフの進行方向にすでに立っていた。
「・・・行き過ぎた」
アルスは剣を鞘に収めた。
その瞬間。
ワーウルフの首が落ちた。
その場にワーウルフは、倒れ大量の血を流した。
バンっと破裂音と共にワーウルフは大量の灰と紫色の宝石になった。
「これで依頼全部終わりだなぁ。やっと家に帰れる。ふぅー。」
腰にぶら下げている革製の巾着からは、到底出てくるはずない分厚いファイルを取り出す。
その巾着は、マジックバックと呼ばれる魔道具。その見た目に反して内部は四次元空間となっているため、生き物以外なら何でも入る優れもので冒険者の必需品となっている。
「えと。ワーウルフの討伐は、どれだ。」
アルスが調べているファイルには、途轍もない量の依頼書がファイリングされていた。
ドロップした宝石を回収したアルスは、依頼書と見比べて間違いがないか確認する。
問題なく依頼を達成したことを確認したアルスは、部屋の奥の扉へと向かっていき、ボス部屋をあとにした。
☆
大都市クレドにある冒険者ギルド。
お昼過ぎ。
アルスは冒険者ギルドに依頼達成の報告に来ていたが依頼受付窓口は、冒険者たちでごった返していた。
受付嬢たちは、まるで戦場にいるかのように忙しなく働いていた。
「おいおい早くしろよ」とか罵声が聞こえてくる。
アルスは、ため息をつきながらも最後尾に並ぶ。
「次の方。どうぞ。」
「やっとか。俺か番かよ。このAランクチーム≪漆黒の剣≫のジカル様が来てるのによ!。何時間待たせる気だよ全くよ」
鉄製の鎧を見せびらかすように大きく見せながら大声で窓口に近づく大柄な男性。使い込まれたウォーハンマーを背中でキラリと輝く。
ジカルを見た冒険者たちがコソコソと会話を始めた。
「おい。アイツは!・・・誰だ!」
「おい、知らないのかよ。漆黒の剣の・・・なんだけ?」
「お前も知らないのかよ」
「知ってはいるけど・・・アイツ影薄いだよ。通り名なんて覚えられるわけねぇだろ。大した活躍してねぇんだからよ」
「態度はデカいのになぁ」
「なぁー」
その会話を聞こえていたのかジカルは、マジックバックから依頼書を取り出し机に叩きつける。その顔は、頬が赤くなっていた。
「この依頼。終わったから報酬よこせ!」
プラチナブロンドの綺麗なストレートロングでサファイアのような綺麗な青い瞳。整った顔立ちには、何処か幼さを残した美少女。受付嬢のティアは、怒りを抑えているのがわかるほど表情を歪めていた。
「確認しますねぇ。・・・冒険者ライセンスをご提示ください。」
「しなくてもわかるだろ?」
冒険者ライセンス。冒険者の身分を証明するためのカードのことだ。しかも世界共通で使える大変便利なカードとなっている。
そして、依頼を受ける際や依頼の達成など報告で提示する義務となっているが冒険者たちは、面倒くさがって冒険者ライセンスを提示しない人が多い。
「規則ですのでご提示ください」
「俺の事を知らないのか?」
「偽物という可能性もありますのでご提示ください」
「いやいや、俺は本物だぞ!」
「ご提示ください。」
「・・・忘れた」
「冒険者ライセンスがないのであればおかえりください」
「別なったっていいだろ!」
ジカルは、怒りにまかして台パンする。
ティアは、ニコッと笑いスーッと真剣な表情を浮かべてため息をつく。
「目に余る言動が多くすぎるので冒険者ランク。降格処分とさせて貰いますねぇ」
「テメェ!!ふざけてるのか!!俺様を誰だと思ってやがる!!」
「冒険者ライセンスも提示されたない方は、一体、何処のどなたなんですか?」
「何度も言わすな!!おれは・・・。」
「ジカル。そこまでだ。」
黒い軽装鎧をした高身長のイケメンがジカルを制止される。申し訳なさそうな表情を浮かべるイケメンはティアに冒険者ライセンスを提示した。
「僕たちの仲間がすまなかった」
「ありがとうございます。お預かりします確認します・・・確認できました。ロック様。ライセンスをお返しします。・・・報酬は、銀行振込でよろしいでしょうか?」
「それで構わない。」
「それでは、こちらにサインをお願いします。」
「わかった。」
書類を書き終えティアに渡し不満そうなジカルを連れてテーブルのある席に座らした。
ジカルは、まだ怒っていた。それを見てため息を溢すロック。
「ジカル。少しは、反省しろ。」
「ライセンス忘れたぐらいで報酬を寄越さない方が悪い!」
「お前なぁ。・・・これで何度目だ。・・・いい加減、行動を改めろ。それが出来ないならチームから出てってもらうぞ」
ジカルは、強くテーブルを叩きて立ち上がる。臆する事なくロックはジカルを睨みつける。
「ふざけるな!!俺が居なきゃ!何も出来ない!ザコチームのくせに!」
「・・・反省できないみたいだなぁ。・・・ジカル。抜けてくれ。リーダーからも許可はもらっている。」
「あ!わかったよ抜けてやる!後悔するがいい!ザコチームが!」
チームから脱退を命じられたジカルは、周囲に暴言を振り撒きながらギルドを後にする。
大きめなため息を溢してたロックは、心を落ち着かせ周囲を見渡しながら次のチームメンバーを探していた。ふとアルスが目に入る。
アルスは後ろに並んだ人たちを自分の順番を譲っている珍しい光景を目の当たりにした。
不思議に思ったロックは、彼を監視することに決めた。
そして、アルスの番になった瞬間。受付嬢たちは、慌てた様子で依頼書がファイリングされたかなり分厚いファイルを用意し始める。
周囲の冒険者たちもざわつき始める。
「おい。あれ孤高の治癒士、アルスじゃねぇ?」
「本当だ。一カ月ぶりだなぁ。」
「あれだろ。また、高難易度の依頼やらされてたんだろ?」
「じゃー今日は祭りか!」
「そーだなぁ。高難易度祭りじゃ!!」
アルスは、ティアの前に行くと二メートルぐらいに積み上げられた分厚いファイルがティアのサイドにすでに置かれていた。
アルスは、やりたく無さそうな雰囲気を出すもティアに声をかける。
「ティアさん。依頼達成の報告にきました。まずは、これライセンスねぇ」
「ご提示ありがとうございます。・・・確認できました。アルくん。ライセンス返すねぇ。」
「あと、このファイルねぇ。素材証明書と依頼主のサイン、迷宮制覇証明書も一緒にまとめてあるから確認よろしく。」
「いつもまとめてくれてありがと。だいぶ助かるよ。すぐ確認するから待ってねえ」
「うん。わかった」
ティアは、アルスから受け取ったファイルを確認し始める。600枚ある書類を5分で確認し終えた。
確認にし終えるとバンっとファイルを閉じる。呼吸を整えてニコッと笑みを浮かべる。
「すべて問題ありません。いつも通り。報酬は銀行振込でいい?」
「銀行振込でお願い」
「ん。わかったよ。これにサインよろしく」
「了解」
「それでアルくん。・・・依頼受けていくよねぇ?」
「今日はこのまま帰るよ」
「依頼受けていくよねぇ?」
「帰る」
「依頼受けて?」
ティアは、上目遣いで甘えるがアルスはため息を溢しティアに書類を渡し帰ろうと振り返った瞬間。背後には数人の受付嬢たちがアルスの行手を阻むように囲っていた。
「依頼受けてくれるよねぇ?」
「何?脅し?」
「・・・何のことかぁ?」
「いや、脅しだよねぇ?これ?」
「わかったよ。依頼受けてくれたらデートしてあげる」
「そーいうのいいんで。」
「「・・・」」
場が一瞬にして凍りつく。見つめ合う二人は、視線で火花が飛び散っている。
お互いにニコッと笑った瞬間。
「受けてくれてもいいじゃない!!」
「はぁあ!ふざけんなよ!俺一カ月も家帰ってねぇんだぞ!いい加減家で休ませろ」
「それはご苦労様です!アルくんにやって貰わないとS級依頼溜まっていく一方なの!少しでいいから受けてよ!」
「俺ばっかじゃなくて他の奴らにも言えよ!!」
「それが無理だから言ってるんじゃない!」
「じゃーSランク連れて来いよ!」
「この国にSランク冒険者は、アルくんだけなの!」
ティアは、涙目になり悪いと思ったのかアルスは、一歩下がりため息をついた。
「・・・わかったよ。受けるよ。」
ティアは、小声で「勝ったぜ。やっぱりアルくんはチョロい」と言ったがアルスには聞こえていない。
アルスは積み上げられたファイルをタイトルを確認してちょうど中間にある一冊のファイルを取り出す。積み上げられたファイルは倒れることはなかった。
そのファイルをティアに渡す。
ティアは、そのファイルを不備がないか確認してファイルをアルスに返した。
「・・・今回はデート。すっぽかすなよ。」
「・・・この間は、風邪引いたんだから仕方ないじゃない」
「あ、あとこれ。みんなで食べて」
アルスは何かを思い出してマジックバックから箱を取り出してティアに渡した。その箱のラベルには、フルカワのカステラ詰め合わせセットと書かれていた。
受付嬢たちはティアに集まり覗くと喜んだ。
後ろにいた受付嬢の一人がアルスの手を握った。
「アルスさん。いいんですか?!」
「せっかく地方に行ったし美味しいもの食べたいじゃん」
「アルスさん。ありがとうございます」
「フィア。まだ、仕事中よ」
「はーい。でも高級お菓子ありがとうございます!アルスさんは、いい夫になりますねぇ」
「フィア!」
「はいはい。取りません〜よ」
「フィア!仕事に戻りなさい」
フィアは、一通りティアを茶化すと自分の仕事に戻っていた。他の人たちも仕事に戻っていく。
「全く。・・・さっきの依頼。受理したからねぇ。」
「じゃ。明日から行ってくるから」
「ん。了解。戻ってきたらデートだからねぇ」
「ティアさんこそ忘れないでねぇ」
「・・・無事に帰ってきてねえ」
「おう。じゃー、行ってくる」
アルスは受付をあとにして帰そうとするとロックがアルスの行手を阻んだ。
「そこの君ちょっと待った!」
アルスは周りを見渡して自分以外いないことを確認し自分に問いかけていると確信した。
「・・・何か用ですか?」
「僕たち《漆黒の剣》もその依頼に同行してもいいかなぁ?」
「え?」
続く。