第7話「斉藤愛香」
「なつき......!」
「なつねぇ!」
斉藤愛香と名乗った少女の顔は、俺の妹の奈月に瓜二つだった。
「なつねぇ、やっと会えた......」
「ちょっと、いきなり何!?」
萌花が愛香に抱きついた。目には涙が浮かんでいる。
「会いたかった......無事でよかったよなつねぇ」
「だから、私は愛香!なつねえだかって人じゃないの!!」
「え?」
「ああ、よく見ろよ萌花。確かに顔は瓜二つだけど、奈月よりこの子の方が髪色が少し暗いだろ」
「あ、言われてみれば......」
奈月の髪色は赤みがかった茶髪だが、愛香の髪色はもう少し暗めの茶髪だ。
顔だけではなく、髪型も同じポニーテールだったので、萌花が間違えるのも無理はない。
実際、俺も最初は奈月かと思った。
「ごめんなさい......急に抱きついたりして」
初対面の人に迷惑をかけてしまったことを自覚した萌花は、素直に謝った。
萌花がしょぼくれてる姿を見るのは珍しい。
「別にいいけどさ。私って、あなた達の知り合いにそんなに似てるの?」
「ああ、似てるなんてもんじゃないよ」
「へえ......てことは、やっぱり颯達も日本人よね?」
「そうだよ。『も』ってことは、愛香も?」
「ええ、そうよ」
もとより名前を聞いた時点でそうだとは思っていたが、よもやこの世界で本当に日本人に会えるとは。
「聞きたいことはいっぱいあるだろうけど、お昼ご飯食べながらにしましょ。ご馳走するわ」
思えば食堂も賑やかになってきた。もうすぐお昼どきか。
♢♢♢
「はーい!みんな席に着いて〜」
リーヴァさん筆頭に、孤児院の職員が孤児達を食堂の席に座らせる。
孤児だけで30人くらいはいそうだ。
それに職員をよく見ると、欧米だけではなく、アフリカや韓国出身と思しき人物もちらほらいた。
「もか、海外旅行に来た気分」
「本当は海外どころじゃなく異世界だけどな......」
俺と萌花は一番端っこの席に座った。対面には、リーヴァさんと愛香が座る。
ちなみに昼食は日本の家庭で食べられるようなカレーだ。
「もしかして、俺たちが日本人だからそれに気つかってカレーにしてくれたのか?」
「まさか。カレーはこの孤児院の人気メニューよ」
「そうよ〜。愛香ちゃんが教えてくれたの」
「もかもカレー大好き。あいか、グッジョブ」
「そうなのね。よかったわ」
萌花が親指を愛香に向けて立てる。
愛香が奈月に似ているからなのか、心なしか萌花の愛香に対する距離感が近い気がする。
「それじゃあ、いただきましょうか。今日の担当は愛香ちゃんよね。よろしく」
「わかったわ」
愛香が立ち上がり、胸に右手を当てた。
「アルフレム王と、すべての食材に感謝を!」
食堂中に響き渡るほどの声量で放った。
それを聞いた他のみんなも、胸に右手を当てる。
俺と萌花も空気を察し、見よう見まねで胸に右手を当てた。
『アルフレム王と、すべての食材に感謝を!』
そう言った途端、みんなが一斉に食べ始めた。
「なるほど、今のがこの国流の食べる前のあいさつですか」
「そうよ〜。この国で暮らせているのは、アルフレム王のおかげっていう考えが根底にあるの。まあ孤児院にいる人たちは実際にそうなのだけどね。なかなか仰々しいけど、毎日やってれば慣れるわ」
リーヴァさん曰く、孤児院の食べ物は王国の支給品がほとんどだから、特にこのあいさつを欠かしてはならないのだという。殊勝な心がけだ。
「そうね。私もだいぶこのあいさつに慣れたけど、やっぱり日本人といえばあれよね。折角なら、一緒にやりましょ」
「ああ、そうだな」
「......やる」
萌花と愛香は両手を合わせる。俺は右手だけでポーズを取る。
「「「いただきます」」」
散々言い慣れたあいさつ。
愛香と目が会う。どうやら満足気な表情だ。
やはり日本人に会うと嬉しいのだろうか。
「いろいろと聞かれる前に、まずは私から聞いておきたいことがあるの」
愛香がカレーを口に運びながら切り出した。
少しだけ空気がピリついたのを感じた。
「あなた達は、西暦何年の日本から来たの?」
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