処刑場
白昼、荒野。
開発の行き届いたこの町では珍しい何もない場所で、処刑は執り行われた。
真新しい護送車が近くに止まり、中から憲兵複数名に囲まれながら囚人・ロイドが厳重に護送されてくる。
「あー。いいよいいよ、適当で」
先に着いていたダビーが「どうせ逃げきれないから」と緊張感なく手を揺らして、手早く両手を自由にさせて仲間を追っ払う。
ロイドは手錠の感触がまだ残っている手首を擦りながら辺りを見回し呟いた。
「辺鄙な場所だな」
処刑直前とは思えない肝の座りっぷり。
今までのやつらとは違う反応にダビーは一笑。
「処刑の度に工事だのなんだのってしてると書類が増えてめんどくせーからな。何年か前からずっと同じ処刑跡地を使いまわしてんだよ」
「そうか……。ここで、何度も……」
話を聞きながら足の裏の違和感に見下ろせば、転がっていた建材の燃えカスのような物を踏んづけていた。更に付近の地面を観察すると土が乾燥していて雑草の一本すら生えていないのが気になる。
ここは住宅街の端の一区画。元は処刑場ではなかったはずだ。
本来なら人の営みが、憩いがあったはずなのに。
それが今となっては丸ごと圧し潰されたかのように跡形もない。周囲の民家も巻き添えを恐れてか寂れ、もう長く人の手が入っていないように見える。
燃やし尽くされたんだ、処刑という名目で。
命も、生活も。
彼に何もかも。
「ふざけやがって……」
「あん?」
景色を観察していた所、ロイドはかなり遠巻きに住民が物陰から見物しているのに気付いた。すっかり見飽きたのか、とばっちりを避けるためか、人数はそれほど多くはないようだ。皆一様に悲観的な面持ちで見守っているように感じる。
その中に先日ロイドがレストランで会った老夫婦の姿も見つけた。目が合うと申し訳なさそうに俯かれた。
まるで町そのものが諦めの空気一色だ。
そんな中で、極々一部、不思議と盛り上がっている奇特な少女が一人。
「そんなやつ早くぶっ飛ばしちゃいなさいよ!」
アンはスポーツ観戦でもしてるのかという気安さで罵声を飛ばしていた。
「クク……久々の女の悲鳴か……頼むからあっけなく死んでくれるなよ」
「そーよそーよ! じっくりいたぶってやんなさい!」
「……何だ? あのガキ」
小賢しくも応援相手の名前を伏せ、ダビーに同調しているように見せかけていた。きっと折角のゆっくりした時間や観光が潰されて鬱憤が溜まっているのだろう。
「今日は珍しい奴がいるなあ」
「それより、いいのか? 手錠したままじゃなくて」
「ア?」
「てっきり俺を拘束したままなぶり殺しにするつもりかと思ってたけど」
「おいおい、それじゃあつまんねえだろ? 絶望にひれ伏した雑魚の目の前にほんのちょびっと希望を垂らして遊ぶのが楽しいっていうのに」
人殺しなりのポリシーなのだろうか。
「分かんねえ」
「分かってねーなー」
そう二人して首を振りながら溜息を吐いた。
「先に言っておくが、簡単に諦めんなよ。足掻け。心臓が止まるまで地べたを這って俺に懇願しろ。もちろん好きに逃げ回っていいし、町の外に逃げたっていい。逃がすつもりはねーけど。なんならその辺のやつを人質にしたっていいぜ。諸共焼かれてもいいならな」
「……役人の癖に町民を巻き込むのか?」
「自己責任ってやつだよ。新時代の役人にふさわしい柔軟さだろ?」
「巻き込まれた人が死んだらどうする」
「いいじゃねえか。名誉ある死で」
「町民を殺せば役人だって等しく罪に問われるはずだ」
「そこはまあ。逃走幇助の罪を免除してやるから『おあいこ』ってことで」
「なにがおあいこだ、殺人狂が……」
ロイドは忌々しそうに空を睨みながら袖で額の汗をぬぐう。
単に真っ昼間だから、晴天だから、というだけではないだろう。彼女の柔肌を焼き、景色を蜃気楼で歪ませるほどの温度は恐らく今年一番の暑さ。
太陽まであいつの味方をしてるのか、と思わず舌打ちが出てしまう鬱陶しさである。正反対に妙に涼し気な表情で立ってる奴がロイドには憎らしく思えてきた。
「おい、まだなのか?」
「アア? 待ちきれねえってか? ……まあいいぜ。ぼちぼち始めるか」
いつも評価してくださってる方、本当にありがとうございます。




