変わった町
「……変わった町ね」
「……こら」
「だって……」
「まあ……言いたい事は……うん……」
アンにしては珍しく反応に困り、ロイドも思わず口を噤む。
町はとにかく静かで閑散としていた。
日はまだ高く、そこは門から続く大通りなのに。それこそ深夜の郊外の方がまだ闇に紛れた誰かしらがいるだろうというくらいには人気がない。
脇道から別の通行人が現れても、二人を見るなりぎょっと避けるように道を変えては逃げ帰る。
「失礼しちゃうわね」
「き……きっと外から来たよそ者に警戒してるんだよ」
自分達が気付いていないだけで何か起きているのか、と思って通りを警備している制服を着た憲兵を見るが、特に異常はないらしく置物のように微動だにしない。
観光がてらしばらく歩いて分かったのは、町の住人よりも憲兵の方がよく見かけるという事だ。
何かしら事件でも起きてない限りはここまで警戒してないはずだが、
「あの~……何かあったんですか?」
「『何か』というのは?」
目が合った強面の憲兵は胸を張ったまま堅苦しい口調で答える。
「例えば怪しい人がいるとか」
「いいえ」
「事件が起きる前触れがあったとか」
「特に、別段、何も」
「……本当に?」
「はい」
口が堅いのか、単に職務に集中しているからか、ロイドの遠回しな質問では何も情報は得られなかった。しょうがないわね、と苛立ったアンが憲兵に近づいた。
「ねえ、憲兵さん。あたし達、この町は初めてで、ここがどんな町か知らないの。ここはいつもこんな感じなのかしら?」
上品ながらもアンはあどけない笑顔で話しかける。無邪気さを装えば多少は口も緩くなろうという魂胆らしい。いいぞ、とロイドは密かにガッツポーズ。
憲兵は子供相手だからか、姿勢は崩さないが柔和な笑みを返す。
「はい。いつも通りです」
「でもこんなに憲兵さんが道に立ってるわよ?」
「いつも通りですね」
「例えばこれから町のえらい人がやってくるから、しっかり警備してるとか?」
「いいえ。いつも通りです。そんな予定は聞いてませんね」
「実は私達の観光のために町の住人には通行止めしてるとか?」
「そのような事も何も。これがいつも通りですよ」
「本当に……何もないのに、こんな感じなの……?」
「はい。いつも通り、異常ありません」
「そ、そう……いつも通りなのね。お疲れ様……」
きっとこれがこの町の『いつも通り』なんだろう。
頑なに『いつも通り』だと主張する憲兵に流石のアンも諦めた。喋らせる自信があったのか思いの外ショックを受けているアンにロイドはフォロー。
「えーっと……例えば、上司が厳しくて余計な事が言えないとか……」
「…………そうね。きっとそうなんだわ」
「とりあえず……宿でも探そうか」
「……そうしましょ」
それから二人は再び別の憲兵に道を尋ね、手頃な価格のホテルにチェックイン。荷物を預けて近所のレストランに入った。
「いらっしゃい。お好きな席へどうぞ」
平日だからか店内は空いていて、客はロイド達の他には静かに食事を楽しんでいる老夫婦が一組いるだけだった。適当なテーブル席に腰かけると体格のいい店主らしき男が水とメニューを持って出迎えてくる。
「ご注文は?」
「ええっと──」
「牛フィレステーキ」
「はあっ!?」
ロイドがメニューから顔を上げると、アンはメニューの後ろから探した方が確実に早い豪華な料理を指差していた。書かれている数字も他の倍と強気な値段設定をしている。
「ほお。お嬢ちゃん、お目が高いね」
「ふふん。まあね」
「あんたはどうする?」
「俺は、ええっと……」
慌ててロイドはサイドメニューを斜め読み。
「この……ポテトを……」
「おや? それだけでいいのかい?」
「いやぁ……なんといいますか……」
怪訝な顔の店主から目を逸らすロイド。
無論彼女も分かっていた。メインディッシュじゃないのは百も承知なのだが、
「ちゃんと食べないといざという時に動けないわよ」
「一番高いのを注文するからだろ! お金には限りがあるのに!」
「ははは、なるほど。食べ盛りのお子さんを持つと大変だね、お母さん」
「は……ははは……」
「もっと稼がなきゃね、おかーさん」
「ソウダネ、マイドーター」
店主が奥へ引っ込んだ後に財布の中を確認しながらロイドは呟くのだった。
「またどこかで仕事見つけないとな……」
いつも評価してくださってる方、本当にありがとうございます。




