エルドと小山羊亭
夜、集まったのは古書店のジャックとお菓子屋のレジーだった。
それに元々いる呑兵衛のマイケルが加わる。
「何だぁ〜、俺の酒が飲めねえってのかぁ〜??」
既に酔っていたマイケルは更に酔う。
「うるさい奴だな」
そんなマイケルを見てレジーは笑った。
それでじじい同士の愚痴が展開された。
女房がどうの子供がどうのという話や税金が高いとかそういった類の話だ。
そう言った話ではエルドはもっぱら聞き役に回る事が常だ。
だからふんふんと愚痴を聞いてやる。
やがてマイケルは最初に酔い潰れ結構呑んでいたレジーもジャックも酔い潰れて寝てしまった。
「寝かせといてやりな」
ジュディが苦笑してエルドに言う。
「まったく爺さんどもは…普段は真面目な癖に集まるとバカになるねぇ」
「まぁ、そうしたものだろ」
「まあね」
ジュディは寝ている爺さん達に毛布を掛けてやる。
「エルド、お客さんだよ」
「ん?」
見るとパメラがカバンを持って奥の部屋で座っていた。
いつの間に来たのかまったく気づかなかった。
「いつからいたんだね?」
「つい先ほどです」
笑顔で答えるパメラ。
しかしどう見ても先程来たという訳ではなさそうだ。
恐らく呑み会が終わるまで待っていたのだろう。
「気づかずにすまなかった」
「いえいえ、とんでもない、あ、先生これです」
「資格の本だな、どれどれ…」
「……」
エルドは本に目を通した。
その間パメラはただじっと黙って座っている。
「これは…」
「はい」
「随分易しく見えるが…」
本の内容は魔法の基礎を中心とした応用の話だが昔に比べて随分と易しくなった感じがする。
「はい、易しくなりました」
「どういう事だね?」
「これが今の協会が教えている内容です」
「なんと…」
「協会では詰め込み教育ではなくのびのびと勉強出来る教育が推奨されています」
「なるほど…しかしこれは…」
「その通りです、今の魔法戦士や賢者と呼ばれている者達は魔法の深い知識と技術は余り有していません、昔に比べてレベルが落ちています」
「なるほど、私ならば大丈夫と言った理由が分かった」
「残念ですがこれが今の協会の在り方です」
パメラは残念そうに言った。
役員とはいえ一役員にしか過ぎないパメラではまだまだ協会を変えるまでには至っていないのだろう。
「今魔法戦士界でも賢者界でも現場のトップに立っているのは先生に教えて頂いた者達です」
「なるほどな…」
魔法使いが廃止されて魔法戦士や賢者のように二つの事が求められる時代、しかしその分1つ辺りの技量は落ちるのは仕方がない事だ。
魔法戦士や賢者はだからこそ昔は馬鹿にされていた職種だった。
「そうか、まぁ…ならば予習してみよう、パメラありがとう」
「いえ。先生のお役に立てて嬉しいです」
ニコニコと笑顔のパメラ。
「え…と、今日はもう遅いから帰りなさい」
「え…あ…そうですね…」
何かがっかりした様子のパメラにエルドは他に何かあるのだろうかと思った。
「気をつけて帰りなさい」
「気をつけて帰りなパメラ」
「はい、失礼致します」
エルドとジュディに見送られて帰るパメラ。
「さて、もう部屋に戻るんだろ?エルド」
「ん、そうだな、みんなを頼む」
寝ているジャック達を見ながらエルドは言った。
「それにしてもまったく相変わらずだね、アンタは…」
「ん?、何がだ?」
「何でもないよ、さっさと部屋に戻んなじじぃ」
「おいおい、口が悪いな」
「昔からだよ」
ジュディはカラカラと笑うと奥のキッチンに消えていった。
何とか続けられる…か?と思いながらも簡単に屈するのが私という人間である。