ローガン魔法館
朝食を終えてエルドは街に出た。
パメラとケシャも一緒に。
「先生、ご案内致します」
「ん…んん…」
パメラがエルドの右腕に手を回し腕を組む。
それを見てケシャが声を出した。
「なーにしれっと先生と腕組んでんのよ」
ケシャの言葉にパメラは目を細めてエルドに聞いた。
「別に構いませんよね?、先生」
「ん…まぁ…」
エルドとしてはそれよりも街の風景が懐かしくてそっちの方に気が向いていた。
「ほら、先生もそう仰っているわよ?、ケシャ」
「く…」
悔しそうな顔のケシャと勝ち誇った顔のパメラ。
「なら私も」
そう言って反対方向の左腕に手を回すケシャ。
「おいおい…」
流石に左右から腕を組まれるとエルドは動きがし辛くなる。
「え・・・ダメですか?、先生?」
「いや…流石に動きづらいな…」
「ほら、ケシャ、先生が動き辛いって」
「は?、パメラ、アンタが離せばいいじゃないの?」
「最初に先生の許可を貰ったのは私ですよ?」
「く…」
2人のやり取りを見てエルドは思い出した。
昔もこんなだったと。
それであーだこーだとパメラとケシャのやり取りを見ながら色々と街を見て回るエルド。
「そう言えばローガン魔法館はどうなったのかな?」
エルドの問いにパメラは少し悲しそうに答えた。
「今はもうやっておりません」
「何と?、畳んだのか」
「はい、魔法職が無くなった時に思い切って畳まれました」
「そうか、残念だな」
ローガン魔法館とは魔法使いローガンが運営していた魔法使いの道場だ。
ローガンはエルドの師であり、かつてエルドは魔法使いになるために魔法館の門を叩いた。
そして厳しい修行の中で他の弟子達と共に魔法を習得した。
エルドの子供の頃は今と違って魔法を教えてくれる学校など殆ど存在していなかった。
当時は師弟制度が普通で学びたい事は師の元で厳しい修行を行って学んでいくのが当たり前だった。
師のローガンも厳しい人でその修行も過酷で弟子達も多くが脱落していった。
「8年前ですね」
「時代の流れかな」
「師弟制度が無くなっていくのは残念です」
「いや、それで良いのかも知れん」
師弟制度の悪しき事は師の理不尽さも弟子は耐えなければならないという事。
幸いエルドの師ローガンはマトモな人だったので真っ当にただ厳しい人だったが、他の魔法使いの師とかはねじ曲がった性格者もいてかなり弟子に大して理不尽な罵声を浴びせ無茶な修行を行っていたと聞いた。
「レジーは元気にしているといいが」
「レジーさんはお菓子屋をやっておられます」
「なに?…お菓子屋??」
「はい、甘くて美味しいクッキー屋さんです」
「なんと…」
レジーはエルドの弟弟子にあたる。
師のローガンが亡くなったあと魔法館の運営を継いだ者で10年前に会ったっきりだが今は菓子屋をやっているとは…。
エルドは時代がどんどん変わっていっているのを本当に実感した。
絵師も作家もそのうちAIに全て取って代わられるかも知れない未来もまた時代の流れなのである。