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第50話 小さな狂犬(1)

 アウクトブルグの町の犯罪常習者たちにはヒエラルキーがあった。


 最上位に君臨するのは暴力団的な犯罪集団であるが、これは複数存在し、自らの縄張りを拡張するために血を血で洗う抗争を繰り広げていた。

 その中でも頭一つ抜きん出ていたのが"血の兄弟団"である。


 不良少年たちもまた、徒党を組み、活動していたが、血の兄弟団などの犯罪集団に上納金を払い、お目こぼしを受けながら活動を続けていた。


 ダリウスが住む橋の下は、血の兄弟団の縄張りに含まれていた。

 ある日。

 貧民街の不良少年グループと思われる5人組の少年がダリウスの小屋を訪ねてきた。


 リーダーと目される少年は成人手前の12、3歳くらいだろうか?その彼がふてぶてしい態度で言った。

「てめえが新入りのガキか?」

「ああ」


「俺たちの子分になれよ。稼がせてやるぜ」

「いやだと言ったら?」


「チビのくせに俺たちに逆らおうってのか? 俺たちに勝てるわきゃねえだろ」


 5人はいかにも喧嘩慣れしている風だった。特にリーダーは体格も大きく、勝負にならないだろう。

 ここで暮らしていくためには、従うしかないようだ。


「わかった。仲間に入れてくれ」

「態度がなってねえな。『仲間に入れてください』だろ」


 確かに5歳の自分は一番年下のようだった。

 ここで角を立てても得るものがなさそうだ……。


「わかりました。仲間に入れてください。お願いします」

「それでいいんだよ。なかなか物わかりがいいじゃねえか」

 と言うとリーダーの少年は馴れ馴れしく肩を組んできた。


 何をされるのかとドキリとしたが、ダリウスは、それが表情に現れないようにポーカーフェイスを装う。


「俺はドミニクだ。てめえは?」

「ダリウスだ」


「じゃあ、よろしく頼むぜ。ダリウス」

「ああ」


 ダリウスは、我ながら子供らしくない(しゃべ)り方だと思った。だが、舐められたら奴らに搾取(さくしゅ)されるだけだ。

 ダリウスは、本能的にそれを感じ取っていた。


     挿絵(By みてみん)


 予想どおり、ドミニクたちは犯罪グループだった。

 万引き、スリ、かっぱらい、置き引き、恐喝……etc、子供ができそうな犯罪行為はなんでもやる。


 ダリウスは、覚悟を決めた。

 どの道この少年たちからは逃げられそうもないし、現金はどうしても欲しい。


 現金を得ることを(あきらめ)めても、本当に食べていくだけなら可能ではある。ただ、それは死なないというだけで、着替えもないし、石鹸で体も洗えない。


 事実、教会の炊き出しと物乞いだけで食べ、その他の時間は体力を温存するために寝ているという怠惰の極致にいる者もいることはいる。

 が、そのようであるから、彼らは小便の臭いを凝縮したような強烈な異臭を放っていた。ダリウスは、とてもそれに耐えられそうになかった。


 もはや犯罪に手を染めるしか手はないのだ。


 ダリウスは、早速、グループでの初仕事をやることになった。


 ドミニクが慣れた様子で指示を出す。

「いいか。あそこにいる間抜け面の男のポケットに財布が覗いているだろう。俺たちが奴の注意を引くから、てめえは隙を見て財布を抜き取るんだ。いいな」

「ああ。わかった」


 どうやら一番危険な実行犯は下っ端にやらせるということらしい。おそらく下手をして、警吏に捕まったとしても、蜥蜴(とかげ)の尻尾切りで見捨てられるのだろう。

 損な役回りだが、下っ端の初仕事としては止むを得ない。


 ダリウスは、できるだけ気配を消しながら男に近づいた。

 それを確認したドミニクたちがやらせの喧嘩(けんか)を始めた。


「この役立たずの間抜けが! 俺らのグループから出ていけ!」

「何を! てめえこそリーダーをやるタマじゃねえ!」


 なかなかの迫真の演技だ。今にも殴り合いそうな剣幕で(にら)みあっている。

 野次馬たちも集まってきて、「ボリス 。ドミニクなんかやっちまえ!」などと(はや)し立てている。


 ダリウスが(ねら)っている男も興味を持ったようで、野次馬に入ろうと動き出した。

 その一瞬の隙をついて、ダリウスは財布を抜き取る。


 男は、そのことに気づかずに野次馬の列に入っていく。

 ダリウスは、そのまま気配を消して、その場を立ち去った。

 初仕事は成功である。


 その後、グループで山分けをしたのだが、均等に6分の1とはいかず、他の者の半分程度しかもらえなかった。今はまだ見習いの立場だからと、ここは我慢した。


 その後、グループの中で様々な犯罪に手を染めていったが、ダリウスが一番得意なのはスリだった。気配を消して、相手に悟らせないとか、注意が他へ向いた隙を突くといった技術は剣術や格闘術とも通じるものがあったからだ。


 グループで仕事をすることは、成功率を高めたが、取り分が減るという嫌いがある。

 ダリウスは、十分に経験を積んだと思われたところで、ソロでの活動を始めた。


 危険は大きいが、その分、(もう)けは総取りである。その魅力は大きかった。

お読みいただきありがとうございます。


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