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第47話 幼少期のダリウス(2)

 この世界では教育水準が低く、下位貴族などは文盲も珍しくなかったが、フェオドラは高度な読み書きや計算のみならず、理科や社会などの学問にも精通した教養ある人物だった。庶民にしては極めて珍しいことだった。


 彼女は、近所のヒーマン男爵家でメイドの仕事をしていたが、当主のイェルマインの仕事の補佐もできる異例な存在として重宝されていた。


 フェオドラは、その持てる教養を子供たちに授けるべく教育を施した。


 ダリウスは頭脳明晰で、3歳のときに字を覚えさせるために絵本を与えると、ほとんど教えていないのにあっという間に自分でマスターしてしまった。

 これにはフェオドラも舌を巻いたが、次々と本を買って与えても同じ調子だった。


「お母さん。次はこの本が欲しいな」

「わかったわ。今度図書館で借りてくるわね。それはそうと、この間借りた本でわからないところはなかったの?」


「別にないよ」

「そう。ならいいわ」


 フェオドラはダリウスが欲しがる本を惜しみなく与えた。

 歳相応の学力はあると思うのだが、だからといって、立ち止まって周りの子供が追い付くのを待つなど愚の骨頂だ。


 我が子の才能がどこまでのものなのか、限界を見極めてみたい。

 そのための労力は惜しまなかった。



 フェオドラは、光魔法の才能も持っていた。

 簡単な治癒魔法は使えたので、これをダリウスに伝授する。


「じゃあ。お母さんがやってみるから見ていてね」

「うん。わかった」


我は求め訴えたり(エロイムエッサイム)光の精霊よスピリトゥス・ルーチス。その大いなる慈悲をもって、かの傷を癒したまえ。世々限りなき光の精霊王(レキセルーチス)光の精霊スピリトゥス・ルーチスの統合の(もと)、フェオドラがこれを乞い願う。治癒(ヒール)!」


 フェオドラの手から柔らかい温かみのある光が生じ、練習のためにつけた傷がみるみる塞がっていった。


「わあ。凄いね。お母さん」

 ダリウスは、子供らしく素直な感嘆の声を上げた。


「あなたもやってみて」

「うん」


 ダリウスは、練習のため左手の甲にひっかき傷をつけると、真剣な顔つきで詠唱する。


我は求め訴えたり(エロイムエッサイム)光の精霊よスピリトゥス・ルーチス。その大いなる慈悲をもって、かの傷を癒したまえ。世々限りなき光の精霊王(レキセルーチス)光の精霊スピリトゥス・ルーチスの統合の(もと)、ダリウスがこれを乞い願う。治癒(ヒール)!」


 すると柔らかい温かみのある光が生じ、練習のためにつけた傷がみるみる塞がっていった。


「やったっ。できたよ。お母さん」

「一度でできるなんて、凄いわ。ダリウス」


 フェオドラがダリウスの頭を撫でてやると、ダリウスは自慢顔で微笑むのだった。


 不思議なことに、ダリウスは、魔法を一度使って見せるだけで習得できていた。

 自分は何度も練習してやっと習得したというのに……。


 その謎は、ある時唐突に解けた。


「お母さんの魔力は綺麗だよね」

「ええっ! ダリウスは魔力が見えるの?」


「うん。お母さんの魔力はキラキラしていて綺麗なんだよ」


 フェオドラは絶句した。

 そのような話は聞いたことがない。これは迂闊(うかつ)に他人に漏らすべきではないと考えた。


 一方で納得もした。

 初見で魔法ができてしまうのは、魔力の流れを看破できるということなのだろう。


「ダリウス。魔力というのは、普通は人には見えないものなのよ。だから、このことはダリウスとお母さんだけの秘密ね」

「へえ。そうなんだ……わかったよ」


 ダリウスは、そのことを聞いて検証してみることにした。

 興味を持ったことについて深く考察しないと気が済まないのはダリウスの性分だった。


 実際に、自分で魔法を発動してみて、魔力の流れをじっくりと観察する。

 すると、確かに"見える"というよりは"感じる"と言った方が近いように思えた。あえて言うならば第三の目で"()える"とでも表現すべきだろうか……。


 "見える"と"視える"が区別できたことは、ダリウスの将来において、大いに役立つことになる。

お読みいただきありがとうございます。


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