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第5話 旅立ち(1)

 ルードヴィヒが生まれて15年が経った。


 実はその間に、アウクトブルグの町は"皇都"から"公都"へと格落ちしていた。


 ルードヴィヒが受けた神からの使命とは、皇太子を皇帝に戴冠(たいかん)させることではなく、奪われた帝位を回復することだったのである。


 これでは、ルードヴィヒが"大それたこと"と驚嘆したのも、無理のないことだった。

 事の起こりは15年前……。


 多くの魔王、邪神の(たぐい)が、世界のそこかしこに突然に姿を(あら)わした。

 それはエウロパ地方も、そしてその中にある神聖ルマリア帝国も例外ではなかった。


 だが、幸いなことに帝国には、"剣の勇者"と呼ばれる勇者がいた。

 "勇者"は、魔王などに対して特別な攻撃効果のあるスキルを有するジョブである。


 そして、勇者には、この上もなく頼もしい味方がいた。

 いうまでもなく、剣聖グンターとその妻で幻の大賢者であるマリア・テレーゼである。


 グンターは、家督こそ息子に譲ったものの、剣の技量は円熟したものがあり、勇者にも負けるものではなかった。


 勇者とグンター夫妻は、帝国各地に転戦し、魔王らを討伐していく……。


 しかし、魔王らの出現により帝国内が混乱する間隙(かんげき)をついて、帝国北部、ドイチェの地の最西端に位置するロートリンゲン大公国に属するブラバント公国が突如隣国に攻め込んだ。

 もともとロートリンゲン大公国は、大公が任命されていないうえ、皇都から遠く、皇帝の威光が十分に及んでいない地であった。これは隣接するフラント王国東部も同様であり、同様に王の威光が行き届かずに諸侯が乱立していた。


 結果、帝国の内外を巻き込み、諸侯が乱立して覇を競っているプチ戦国時代のような土地柄ではあった。


 周りの予想を裏切り、ブラバント公国は破竹の進撃を続け、その支配領域を広げていく。


 皇帝フリードリヒⅠ世と対立していたルマリア教皇イノケンティウスⅢ世は、そこに目をつけた。

 ブラバント公国は資金力も大きくなく、一時的に武力をもって勢力を拡大しているに過ぎない。


 イノケンティウスⅢ世は、ブラバント公を支援し、帝位につけることで、傀儡(かいらい)の皇帝とすることを狙ったのだ。


 神聖ルマリア帝国の皇帝は、選帝侯という有力諸侯が選挙によりルマリア王を選定し、これにルマリア教皇が戴冠することで皇帝として即位する(なら)わしとなっていた。


 教皇がブラバント公支持に回ったことで、それまで日和見(ひよりみ)を決め込んでいた選帝侯のうちの相当数がブラバント公支持に回り、これを受けてブラバント公は選帝侯会議を強引に開催する。

 反対派の選帝侯が欠席する中、開催された選帝侯会議ではブラバント公がルマリア王に選ばれた。


 帝国の歴史の中では、同様の事態は何度か生じており、これを対立王という。


 これに対し、皇帝フリードリヒⅠ世は自国のシュワーベン大公国の軍を主力とする皇帝軍カイザーリッシェ・アルメーを差し向けたが、戦線は膠着(こうちゃく)した。


 一方、勇者とグンター夫妻は魔王らの討伐を順調に進め、シュワーベン大公国西部にある奥深い森・山地である黒の森(シュバルツバルト)に割拠する魔王らしき者のみが残った。


 魔王らしき者は、その正体も、正確な本拠地も悟らせぬ狡猾(こうかつ)さを持っていた。

 そして、その勢力を黒の森(シュバルツバルト)周辺に広げていたのである。


 魔王らしき者にとっては、皇帝が誰になろうが知ったことではない。その攻撃対象は皇帝・ブラバント公両軍のみならず、隣国のフラント王国にまで及んでいた。


 勇者とグンター夫妻は、(つい)ぞ魔王らしき者の正体をつかめず、そのまま討伐は休眠状態に(おちい)った。


 この皇帝・ブラバント公・魔王らしき者の三すくみの混乱の中で、イノケンティウスⅢ世は強引にブラバント公を戴冠してしまう。

 フリードリヒⅠ世とこれを支持する諸侯は、これに猛烈に抗議したが、形式上は帝位が移ったことになってしまった。


 膠着状態のまま数年が過ぎ、フリードリヒⅠ世は失意の中で死去した。

 その後を継いだフリードリヒⅡ世は、一大公に過ぎないことになってしまったのである。


 だが、シュワーベン大公を継いだ息子のフリードリヒⅡ世は帝位を(あきら)めておらず、新皇帝との間の戦闘は散発的に継続していた。


 形式上は帝都が移ったからといって、社会経済情勢は突然に変化するものではない。

 公都となってしまったアウクトブルグの町は、全盛期ほどではないにしても、引き続き活況を保っていた。


 貴族の子供たちが通う学校も閉鎖されるようなことはなく、シュワーベン大公支持派の貴族たちが引き続き通っていた。


 シオンの町が属するツェルター伯国は、どちらを積極的に支持する訳でもなく、不気味な沈黙を保っていた。

 これは傭兵業の総元締めとしては、いかにもありそうな態度である。この国が積極的に動くときは戦況がそれなりに見えたときということになろう。

お読みいただきありがとうございます。


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[一言] なるほど、確かに大変そうだ
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