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第47話 幼少期のダリウス(1)

 ダリウス・ユーリエヴナは父ドミトル、母フェオドラ、妹アンネローゼとの4人暮らしである。


 母からは、ユーリエヴナの姓は決して名乗ってはならないと厳しく言われており、普段はダリウスとのみ名乗っている。その理由はわからない。

 ダリウスの父は神聖ルマリア帝国では珍しい銀髪で薄い青色の瞳、端正な顔つきの優男(やさおとこ)だった。Aランクの冒険者で剣術の達人であるが、その容姿は荒くれ者が多い冒険者の中で異彩を放っていた。


 父はダリウスの(あこが)れの(まと)であり、彼は父のような冒険者になることが夢だった。


 そんな父はダリウスを溺愛し、わざわざ幼児用の剣を特注して買って与える始末だった。

 ダリウスは物心がついた3歳のときには、既に父に倣って剣を振っていた。


 今思えば父の剣術は帝国式正統剣術とは違う独特の型の剣術だった。今でもその正体はわからない。


 父が冒険に出かける前の早朝が父との訓練の時間だ。

 まずは、基本の素振りをする。


「ダリウス。力み過ぎだ。必要のない筋肉まで力が入っているぞ。結果、剣撃のスピードが落ちている。7割か8割の力でいいから正しい型で剣を振ることに集中しろ」

「はい。お父さん」


 かけ声とともに剣を振るう。

「はっ! はっ! はっ! はっ!……」


 ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ……という風切り音が、ビュッ ビュッ ビュッ ビュッ……という重そうな音に変化した。


「よし。いいぞ。その調子だ。それを人に言われなくても自分でコントロールできるようにするんだ」

「はいっ!」


 素振りで体が温まった後、打ち合いの稽古をする。


「では、ダリウス。好きに打ち込んできなさい」

「はいっ!」


 ダリウスは今まで習った技の全てを込めて打ち込む。

「はっ! はっ! はっ! はっ!……」


 カキン カキン カキン カキン……。


 ドミトルは、難なくダリウスの攻撃を受け流していく。


「では、こちらからも行くぞ」


 カキン カキン カキン カキン……。


 ダリウスは剣が弾き飛ばされそうになるのを必死に耐えて防御する。


「正面から受けようとするな。最低限の動きで受け流せ」

「はいっ!」


 やがてダリウスの体力が尽きて息が上がってきた。


「よし。ここまでだ。

 では、次に新しい型を教えるからな。ゆっくりやるから良く見ておけよ」


 ドミトルがゆっくりとやってみせるお手本をダリウスは忠実にトレースし、これを覚えていく。


「それでは、今日は、この型の練習をして身に付けるように」

「はい。ありがとうございました。お父さん」


「よし。いい子だ……」


 ドミトルは、そう言いながらダリウスの頭を大きな手でわしゃわしゃと撫でる。少し乱暴な撫で方のように見えるが、ダリウスは、これがいかにも男親っぽくて、好きだった。


 ドミトルが仕事に出かけた後、ダリウスは型の稽古をする。

 今までに習った型の復習と新しい型の訓練だ。


「はっ! はっ! はっ! はっ!……」

ビュッ ビュッ ビュッ ビュッ……。


 特に新しい型は繰り返し練習し、その動きを体に叩き込んでいく。ドミトルに言われたように、正しい型の動きとなるよう気をつけながら納得がいくまで続ける。


 妹のアンネローゼは、その様子を飽きもせず眺めていた。


 稽古を終わり、アンネローゼに訪ねてみる。

「アンネ。こんなのを見ていて楽しいか?」

「ええっ。楽しいよ。だって、お兄ちゃんカッコいいんだもん」


「そうか……」


 真正面から素直にカッコいいなどと言われると、嬉しくもあるが、照れてしまう。素直には嬉しいとは言えないダリウスだった。


 アンネローゼはお兄ちゃん大好きのお兄ちゃんっ子だった。


    挿絵(By みてみん)


 母のフェオドラは、透き通るような白い肌に淡いブロンドの髪で薄い青色の瞳の可憐で(はかな)げな女性だった。控えめで物静か、礼儀正しい。スレンダーな体型でウェストは驚くほど細く、強く抱きしめたら折れそうだった。


 ダリウスは父と同じ銀髪で、顔は母譲りだった。左目の下の泣き黒子(ぼくろ)まで同じだったので、いやでも親子だということを意識させられる。


 この全体的に色素の薄い両親の容姿は、神聖ルマリア帝国のネイティブの人々にはない特徴だった。


「ねえ。お母さん。僕たちはなんで髪や目の色が薄いの?」

「お父さんと私はずっと東の国から来たの。その国では髪や目の色が薄い人たちがたくさんいるのよ」


「そうなんだ……お父さんとお母さんは、どうして帝国に来たの?」

「それは……あなたがもう少し大きくなったら話してあげるわ」

 そう言ったフェオドラの表情は少し寂しげだった。



 ダリウスは、非常に感受性が強く敏感な気質もった人間で、内向的で人見知りも激しかった。

 それでいて、剣術の稽古のときなどは幼児とはとても思えないほどの覇気を発するといった苛烈な一面も持っていた。


 そんな性格であるから、同年代の男の親友と呼べるような友達はいなかった。


 その一方、彼の行く先々でお兄ちゃん子の妹のアンネローゼがひっついてくる。

 自然と妹のアンネローゼやその友達たちの面倒を見ることが多くなった。


 普段は穏やかで、嫌がらずに女の子たちと行動を共にしてくれるダリウスを、彼女たちは憧れの目で見ていた。


 ある時。

 アンネローゼが近所の悪ガキたちに(いじ)められ、泣きながら帰ってきた。

 転ばされて擦りむいたらしく、彼女の(すね)にはうっすらと血が滲んでいる。


 それを見てダリウスは静かに言った。


「誰にやられた?」


 その静かだが有無を言わさぬダリウスの物言いに、アンネローゼは少し怖くなった。


「サムエルたちに虐められたの……」


 それを聞くなり、ダリウスは無言で家を飛び出して行ったが、しばらくすると素知らぬ顔で戻ってきた。


 夕刻になって、サムエルの親がサムエルを連れてやって来た。

 サムエルの左顔面は腫れ上がり、右目には青痣ができており、唇が切れて血が滲んでいる。


 フェオドラが対応したが、サムエルの親は苦情を(まく)し立てている。要は慰謝料をせしめたい腹積もりのようだった。

 フェオドラは通り一遍の謝罪の言葉を述べると、幾ばくかの慰謝料を払ったようだった。


「まったく……子供の喧嘩に口を出してくるなんて、しょうもない親ね……」


 ダリウスは、このような結果になることも考えず、サムエルたち悪ガキ5人組をたった一人で完膚なきまでに叩きのめしたのだった。

 ダリウスは、母に迷惑をかけてしまったと後悔した。


「お母さん。ごめんなさい」

「いいのよ。もとはと言えばサムエルたちがアンネを虐めたのでしょう。

 それよりダリウス。お父さんに禁じられていたのに、素人相手に格闘術を使ったわね」


 ダリウスは、剣術とセットで格闘術も父から習っており、剣術同様に相当な腕前なのだった。


「申し訳ありません。もう使いません」

「ならいいのよ。お父さんには黙っておいてあげる」

お読みいただきありがとうございます。


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